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73、ヘルシ玉湯 〜 雑草魔物の異常繁殖

 僕はいま、タイガさんと一緒に、ヘルシ玉湯の雑草魔物の討伐ミッション中なのだ。


 透明化、霊体化して、僕はコテージにたどり着いた。ここは閉鎖されているはずなのに、コテージの中にはカップルらしき人達が居る。

 僕は、タイガさんに彼らを守るように言われて、ここまでふわふわ飛んできたんだ。



 コテージの窓から中を覗くと、カップルらしき男女が居て、その男性の足元に草が不自然に生えてる。


(ん? なんで部屋の中に草が生えるの?)


 さらに僕は、中の様子を『見た』


 すると、彼ら以外にも、もう一組のカップルらしき人達が別の部屋に居た。

 だけどその人達は様子がおかしい。様子というか色もおかしい。

 寝室らしき場所で、重なって動いているけど…。



 僕は、もう一度、タイガさんの近くにふわふわと戻って、中の様子を話した。


「タイガさん、カップルは、2組います」


「あ? 気配消して突然しゃべるなや、ビビるやんけ。ベッドの上の奴らは、もう乗っ取られて死んでるわ」


「あ、はい。でも動いてましたよ」


(絶対、ビビってないよね)


「ゾンビ化し始めてるんやろ。それがここのバケモノの本体や」


「え? 人みたいでしたけど」


「元人族やろ。ゲージサーチしたんか?」


「あ、いえ、してません」


「体力黒色…つまり死んどるんや。いまはコイツらの苗床になっとる。それを始末せんと、ここの奴らに攻撃が効かへん」


「苗床?人を?」


「あぁ、こうなると異常繁殖するんや。どんどん人を襲って苗床にしていきよる。集落が全滅させられたこともあるんや」


「そ、そんな……。うわっ」


 僕の近くに、タイガさんを狙って雑草魔物が、ネバっとした気持ち悪いものを飛ばしてきた。

 タイガさんがスッと避けると、地面にネトっと落ち、シューっと地面を溶かした。


(この雑草魔物、動けるんだ…)


 僕は、草は動かないと思ってたけど、奴らは動きは遅いけど移動している。


「これ、結構強いんや。さっきかすっただけで、服、溶けたで…」


「回復、いりますか?」


「いるか、ボケ。服だけや」


「じゃあ、バリアは?」


「……いる」


(あははっ…いるんだ)


 僕はタイガさんに、バリア、フル装備かけた。


「ナタリーより、硬そうやな。助かる」


「いえ、あの…あと、窓際にいる男性の足元に草が生えてて…」


「あー、 ベッドの奴らがもう養分切れか。次のエサやな。もう体内に入っとるかもしれんで」


「え? ちょ、ちょ、行ってきますー」


「はいよ〜」



 僕は、再びコテージへと、ふわふわ飛んで行った。


 雑草魔物は、タイガさんのまわりに集まっていて、コテージのそばには、1体だけしかいなかった。そいつも、タイガさんに気を取られているようだ。


(ガッツリ引きつけてくれてる)


 僕は、コテージの扉の前で、霊体化と透明化を解除して、扉をノックした。

 だけど、中のふたりからは反応がない。中の様子を『見る』と、彼は足元の草を踏んでバタバタしていて、彼女は扉と彼を見ながらオロオロしていた。


(入っても大丈夫かな)


 僕は、念のために、バリアを張り直し、再びノックした。


「あの、すみません! 冒険者ギルドから来ました」


 僕がそう言うと、彼女が扉に駆け寄ってきた。でも扉は、ガタガタと音を立てるだけで開かない。


「扉が開かないよ。冒険者さん、助けて!」


「入ってもいいですか?」


「開かないよー」


「大丈夫です。お邪魔します」


 僕は、半分霊体化し、扉をすり抜けた。この姿ってどう見えるのか不安だったけど、彼女達は特に驚いてはいなかった。僕は霊体化を解除し、完全に実体化した。


「魔導士なの? 透過魔法?」


「はい、そんな感じです。大丈夫ですか?」


「あの、全然大丈夫じゃなくて、あの外の人は?」


「彼と一緒に来たんです」


「そ、そう。あの、とにかく大変なの」


「冒険者? 助けに来てくれたのか? この草が、まとわりついて、魔力を取られるんだよ。なんとかしてくれ」


「ちょっと見てみます。動かないでもらえると助かります」


「わかった、ジッとしてるが…。吸い取られるんだよ」


 僕は、彼を安心させるように、やわらかく微笑んだ。


「大丈夫ですよ」


「お、おう。頼む」


 そして僕は、まず、ふたりのゲージサーチをした。彼は緑と黄色、彼女は黄色と黄色。


 さらにふたりを『見る』と、タイガさんが言ったように、彼は足元から腰あたりまで、植物のツタのようなものが体内にも入っていた。


 彼女の方は、植物は入っていないが、足首あたりに小さな黒い塊がある。これがあるから植物は入ってこないんだな。


「半分くらい取られてますね」


 僕は、とりあえず、パナシェ風味のクリアポーションをふたりに渡した。


「僕が作ったポーションです。少し楽になると思うので、飲んでください」


「えっ! あ、ありがとう」


「助かる」


 ふたりは、すぐさま、ポーションを飲み干した。ふたりとも体力ゲージは青になった。そして彼女の足首の黒い塊は消えた。軽い呪詛だったんだな。


「めちゃくちゃ楽になったよ! これ何? すごい」


「ほんとに! それ、コペルの旗ですよね? これを売っているのですか?」


「はい、ポーション屋なんですよ」


「こんな味のポーションなんて、飲んだことないよ」


「美味しかった、すごく」


「ふふっ、よかったです。さて、あちらの部屋は…」


「ダメですよ! あっちは、寝室で…草のバケモノが、ヤッてるんですよ」


「ん?」


「昨日、ここに忍び込んだら先客がいて、でもバケモノなんです。身体が緑色で、あちこちから草が生えていて、どっちが雄か雌かもわからない」


「怖くてすぐ逃げようとしたけど、身体が重くなって眠っちゃったのよ」


 僕は、となりの部屋を『見た』


 確かに彼らが言うように、緑色の人型がふたり、重なって、キシキシと動いている。

 彼らは人だったときに、愛し合っている最中に、草に乗っ取られてしまったのだろうか…。それとも、これが雑草魔物の繁殖行動なのか…。



「でも、あの部屋から、この草が出てきているみたいなんですよ。あちらをなんとかしないと、貴方に入り込んでる草は、取ってもすぐに入り込んでしまうと思うので…」


 僕がそういうと、彼は自分の足元を見て、泣きそうになっていた。僕は、ナイフを取り出し、彼に言った。


「いったん、取り出してみます。動かないでください」


「えっ、ナイフ? えっえっ」


「大丈夫ですよ」


 ナイフに驚いて彼が床にへたり込んだ横に、彼女が駆け寄った。

 彼女は、僕の顔を見て、信用する気になってくれたようだった。


「自信ありそうだから、大丈夫だよ」


「お、おう、そうだな、頼む」


 僕は、ナイフに火を纏わせ、ナイフを持つ右手を半分霊体化し、彼の足首にスッと入れた。

 そして、草に刃先を刺し、さらに火魔法を唱えた。すると、その部分を焼き切ることができた。

 僕は、左手も半分霊体化して、切った草を掴んで霊体化させ、身体の外へと引っ張り出した。


「うわぁー! こんなのが入っていたのかよ」


 僕は、引っ張り出した長い草を、火魔法で燃やした。草が長すぎて、数回、火魔法を唱えた。


(はぁ、攻撃魔法ダメだな…)


 彼の足首に残っていたツタは、勝手にスッと抜けて寝室の方へと戻っていった。


「おふたりに、バリアを張りますね。もし、草が襲ってきても慌てないで、ジッとしていてください」


「わ、わかった」


「うん、ジッとしてる。気をつけてね」


「はい、気をつけますね」


 僕は彼らにバリアを張り、寝室へと向かった。


(さて、どうするかな…)



 僕が近寄ると、まるで誘うように勝手に寝室の扉が開いた。うっわ! クサッ!


「お兄さん、扉、開けないで! 臭い」


「いや、勝手に開いたんじゃねーか。昨夜も近寄ったら勝手に開いたし」


「こんなに臭くなかったよ!」


「腐ってる?」


「ええ、ゾンビ化してるみたいですね…」


 僕は、剣を抜いた。すると、動いていたふたりの顔が、同時にパッと、こちらを向いた。うわっ!


 奴らは、僕ではなく、僕の後ろのふたりを見ている。顔は、半分ドロリと溶けてしまっていて、男女の区別さえつかない。


 そして、奴らはベッドから床に降りて、ジワジワと にじり寄ってきた。足も、もはや溶けてしまっているようで、腕の力だけで這うことしかできないようだった。



「いや〜!! 来ないでー」


「お、おい、動くなって言われてるだろ」


 彼女は、逃げ出そうとコテージのドアノブに手をかけるが、ガチャガチャ音がするだけで、やはり開かない。彼女はパニックにおちいっていた。彼は逆に怖くて固まって動けないようだった。


「大丈夫ですよ。落ち着いてください」



 僕は、奴らのゲージサーチをした。ゲージが4本ある。ふたりとも、黒、赤、赤、赤。ゾンビ化している途中? もしくはゾンビになると4本になるのかな?


 そして、さらに『見る』と、奴らのひとりの身体の中に、深緑色の塊があった。その塊から、ツタが伸びているようだ。


(あれが、本体か)


 僕は、そう直感した。


 人を苗床にして……生きている人をそのまま、もてあそぶようなことをするなんて…。それに、こんなゾンビ化するほど苦しめて…。この人達は、どんなに辛く怨めしく死んでいったか…。


 いくら弱肉強食の世界とはいえ……やはり許せない。それにこのままでは、このふたりもずっと苦しいままだ。僕は……。


 僕は、ゾンビ化した人達を見た。そしてその中にいる、この雑草魔物の本体を『見た』


(……許さない)


 そう思った瞬間、僕の身体から、漆黒の闇があふれ出した。そして、僕の持つ剣にその一部が吸い込まれていった。


 僕は、剣を持っていない左手を奴らに向けた。左手に漆黒の闇が集まってくる。


 ゾンビ化した人達はジリジリと近づいてきた。奴らの闇に、僕の闇が触れた。その瞬間、ピカッ!!


 目が開けられないほどの白く強い光が僕の左手から放たれた。これは、そう、闇の反射。

 異なる闇がぶつかるとき、蘇生魔法を起爆剤としてぶち込むと属性が反転して、聖魔法、清浄の光に変わる。

 今回はかなり強い光だ。おそらく、ゾンビの闇がかなり深かったのだろう。



「な、何? いまの…」


 光がおさまると、パニックになっていた彼女が状況がわからずポカンとしていた。もちろん、彼も同じく。


「ゾンビを浄化したんですよ」


 ゾンビ化していた人達は、聖魔法によって跡形もなく消えていた。そして、雑草魔物の本体がピクピクした状態で、床に転がっていた。

 僕は、右手で持っていた漆黒の闇をまとった剣を、奴に思いっきり突き立てた。


 オォオォ〜


 低い奇声をあげて、奴は動かなくなった。ゲージサーチをしてみると、赤、青…。


(えっ? 死んでない…。あ、タイガさんのまわりにいるのもコイツと繋がってるのかな?)




 コテージから溢れ出た優しい光が、タイガが焼き払った地に降り注ぐ。


「なんや? もう撃ちよったんかいな」


 引きつけていた雑草魔物が、急に動かなくなった。


「しゃーない。こっちは始末しといたろか〜」


 そう言うと、剣をグルリと回した。


「ただの草刈りやな…」




 僕は、コテージから外を見ると、タイガさんが剣をグルリと振り回したところだった。えっ?

 タイガさんの剣先から、鋭い風の刃のようなものが飛び、囲んでいた雑草魔物を次々と斬り倒していった。


(な、なんで? グルリと回しただけだよね?)


 雑草魔物の本体を確認すると、ゲージは黒、青。


(やっと、完了…)

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