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72、ヘルシ玉湯 〜 温泉地というよりは…

 ここは、とてもきらびやかな観光地、ヘルシ玉湯。


 この世界では大きな温泉地は、玉湯と呼ばれるそうだ。その理由をタイガさんに聞いてみたけど、そんなん知らんということだった。


 僕は、玉湯と聞いて、温泉たまごを連想していた。火山性の温泉なら、どこぞの温泉地のような、美味しいゆでたまごを売っているんじゃないかと、少し楽しみだった。そう、僕は今、めちゃくちゃお腹が減ってるんだ。



「もうバリア張ってもええで」


「あ、はい」


 僕は、物防バリアを張った。やっぱ、バリアを張っていないと不安で落ち着かない。


 タイガさんは、ヘルシ玉湯の入り口で、ギルドミッションだと告げて何かを渡していた。


 しばらくすると、案内の人がやってきた。


「あの草のバケモノ、狩ってくれるんですよね」


「そういうミッションだが…。バケモノというほどのものか?」


「バケモノになってしまったんですよ…。だから、その付近の湯は閉鎖してるんです」


「タイガさん、僕、バケモノ無理ですよ…。さっきのでヘロヘロですし」


「あ? 運動して腹が減ったか?」


「それもありますけど、そもそもバケモノなんて…」


 僕がグダグダ言っていると、案内の人が、通り道の屋台で軽食を売っていると教えてくれた。


「まぁ、軽く食ってもいいけどな…。ここの屋台はあんまり…」


「ん? 嫌いですか?」


「屋台のある場所は、落ち着かへんからな」


「とりあえず、ご案内します」



 そして、玉湯の入り口を入って、僕は驚いた。確かに入り口も、温泉にしては派手だとは思っていたけど…。

 でも中に入れば、温泉地の和風旅館や風流な小道があるような落ち着いた感じかと思っていた。だが僕の想像は大きくはずれた。


 ここは、まるで……遊園地だ。プールがあって、絶叫マシンのようなアトラクションがあって…。

 たくさんの人がひしめき合って、わーわーキャーキャー言っている。


 さっきの話の屋台は、プールサイドにあって、たくさんの若いカップルや、グループで大騒ぎしている人達で賑わっている。でも水着じゃなくて、みんな服着てる?服に見える水着なのかな?



「まるで遊園地ですね…プールのある…」


「せやろ? ここの屋台、ちょっとオジサンにはツライものがあるやろ?」


「僕にも、ちょっとツライものがあります…」


「ははっ、カップルだらけやからな。俺じゃなくて、あの青いワンコと来たかったとか言うんちゃうやろな」


「いや、別にそういう意味では…。それに彼女は、犬じゃないですからね」


「細かいこと言うなや。ワンコの方が言いやすいやんけ」


「……意味がわからないですけど」


「ババア達が、ワンちゃんって言うとるやんけ」


「はぁ」


(アトラ様、元気かなぁ)



 でも、おなかへった…。


「僕、ちょっと何か買ってきていいですか?」


「じゃあ、俺にもな」


「えーっ!」


「おごったるし」


 と言って、タイガさんは僕に銀貨1枚を放り投げてきた。わわっ、あぶない、ギリギリキャッチ。なんですぐ投げるかなー。


 僕は、タイガさんをジト目で睨んだけど、案内の人と何か話していて、僕の抗議には全く気づいていないようだった。僕は諦めて銀貨を握って屋台に向かった。


 屋台の列に並びながら看板のメニューを見てみると、ハンバーガー屋さんのようだった。ただ、色が…ちょっと強烈なものばかりなんだけど…。


(ん? 何?)


 列に割り込みをした人がいて、なんだかケンカが始まった。

 ややこしそうだから、となりの屋台に並びなおそうと背を向けたとき、突然、背後からの爆風で、僕はまわりの人達と共に、プールに突き落とされた形になった。


(ちょっと勘弁してよー)


 突然、プールに飛び込んでしまった僕は、どうしたものかと、呆然としてしまった。

 でも、他の人達がプール端の手すりから上に登るのを見て、僕も後に続いた。温水プールなんだな。いや、これが温泉かな?



「おまえ、なに遊んどんねん?」


「あ!」


 上がったとこに、ちょうどタイガさんが居た…。


「なんか急に爆風で、突き落とされてしまって」


「はぁ、そうけ」


 めちゃくちゃ呆れてる…。まぁ、仕方ない。僕は、自分にシャワー魔法をかけて、髪や服を乾かした。


「もう一度、屋台に行ってきます」


「金、落としてへんか?」


 僕は、銀貨を握りしめていた左手を広げて見せた。タイガさんは、ふふんと笑っている。なに?なんで?笑うとこ?


「そんな、得意げな顔するか? ガキか」


(え? 僕、そんな顔した?)



 僕は気を取り直して、屋台へと向かった。さっきのケンカで風魔法をぶっ放した人は、係の人に連れて行かれたみたいだった。屋台は無事のようだった。


 ハンバーガー屋さんに再び並ぶと、さっき一緒に突き落とされたらしい人に声をかけられた。


「あのすみません、魔導士なんですか?」


「え? あ、はい」


「俺達も、服、乾かしてくれませんか?」


「あー、いいですよ」


 僕は、二人にシャワー魔法をかけた。


「わぁ〜、すごい。これ、シャワーした後みたいにスッキリしたじゃん」


 彼女?が、彼?に、キャッキャと、いちゃついていた。まぁ、いいんだけど…ね。


「ありがとうございます! 助かりました」


「いえいえ」


「あ、乾かしてもらったお礼にハンバーガーおごります」


「え? いえ、僕も、買って来いのおつかい中なので、大丈夫です。お気になさらず」


「そうなんですか?」


「はい、あ、オススメあれば教えてください」


「あ、じゃあ、あの紫のバーガーがイチオシですよ」


「じゃ、それにしてみます」


 僕は、紫の肉のバーガーを2個と、メロンソーダみたいなものと、甘いのが嫌いなタイガさん用にアイスティーを買った。



 そしてタイガさんの元に戻って、お釣りを渡した。


「やっと、おつかい完了やな」


「子供扱いしないでくださいよねー」


「くっくっ、まぁええわ」


(ええことないですよー)


 そして、バーガーを渡し、アイスティーを渡そうとしたら、メロンソーダっぽい方を取られた。


「えっ? それ、甘いと思いますよ?」


「何言うてんねん。ハンバーガーにはコーラやろ」


「それ、コーラなんですか? メロンソーダみたいなのに」


「はぁ? コーラは、だいたいこの色やろが」


「いや、ふつう黒くないですか?」


「あー…そういえばそうやったな。こっちには黒いコーラはないで。黒い飲み物は苦く見えるからな」


「へぇ」


「チキンバーガーか、まぁまぁやな」


「ん?とり肉なんですか? すんごい紫ですけど」


「食うたらわかるで」


「あ…チキンタツタな感じ? 美味しい」


「せやろ、まぁまぁやな」




 軽食を食べ終え、案内の人に連れられ僕達は、さらに奥へと進んだ。

 道の左側にはあちこちに小さなプールのような温泉があり、右側には店舗や宿泊施設っぽい建物がズラリと並んでいる。

 このあたりはグループ客が多そうだ。子供連れのファミリーもたくさんいた。


「すごく広いですね」


「ええ、よく迷子が出るので、あちこちに案内所を設けているんですよ」


「なるほど。あの、玉湯って、どういう意味なんですか?大きな温泉? ちょっと気になっていて…」


「玉湯は、美容施設を併設している温泉のことです。どこも娯楽施設も併設しているので、確かに大きな温泉地の呼び名ですね」


「美容施設?」


「はい。玉湯という言葉の由来になっています。玉のような美しい肌になれる湯という意味なんですよ」


「なるほど。だから女性客が多いんですね」


「まぁ、女性の集まる所には、男性も集まりますからね」


「商売の基本ってやつやな」


(ん? タイガさんがなぜ商売? あ、コンビニ経営してるんだった…)



 さらに少し進むと、ガラリと雰囲気が変わった。森の中を歩いているような感じで、左右にはポツンポツンとコテージのような小屋がいくつも並んでいる。


 なんだか、空気感も違うような気がする。さっきの遊園地エリアよりも源泉に近いのかな?


「ここらはめちゃくちゃ高いねんで。金持ちのお忍び旅行向きなんや」


「コテージみたいなのは、宿泊施設なんですか?」


「ん?コテージ?ですか? えーっと、はい、宿泊施設です。ひとつの小屋で1組様なので、少人数で利用されると確かにちょっと高いですね」



 そして、森の中のようなところを抜けると、またガラリと変わった。僕の温泉地のイメージとは真逆の、リゾートホテルのようなものがある、ひらけた場所に出た。


「こちらには、美容施設が併設されているんですよ」


「へぇ。とてもきれいな所ですね」


 丸いプールのような小さな温泉が、いくつか並んでいる。水の、いやお湯の色がいろいろ違うようだ。たくさん入浴している人がいる。


 こちらは、年齢層が少し高いようで、たくさん人がいるわりに、とても静かだった。


(やっぱり服のまま入るんだな。水着とかはないのかな?)



 さらに歩いていくと、道が封鎖されていた。その先は、なんだか、背の高い草がたくさん生えているようだった。


「この奥です。お願いします」


 案内の人は、ここで待つと言う。ちょっと足が震えているようだ。


「ほな、行くか。ちょっと多いな、ライト、バリアフル装備しとけ」


「はい」


 少し近づいていくと、背の高い草が不自然に密集している所がいくつもあることがわかった。


「これは、しゃーない。俺もやるか…」


 タイガさんも、剣を抜いた。前に見た大剣ではなく、普通のサイズの剣だった。


「大剣じゃないんですね」


「あ? あー、火山のかいな。アレは本気でやるとき用の剣や」


(いまは本気じゃないってこと?)


 タイガさんは、突然走り出した。そして、その姿が背の高い草で見えなくなった。僕が『見た』瞬間、タイガさんは剣にイナズマを纏わせて、グルンと剣を振り回した。


 ドドドドッ!バリバリ ドドーン!


(わっわっ! 僕まで攻撃対象?)


 タイガさんを中心に放射線状に、草が一気に断ち斬られ、そして電撃の火花によって青く燃え上がった。燃えた?というより感電? なんなんだ?

 さらに青い炎がまわりに一瞬で広がっていった。


 僕の所にも青い炎が迫ってきたけど、バリアでなんとか防ぐことができた。僕は驚き…変な汗がでてきた。怖い…。


(剣をグルンと回しただけだよね?これ)


「おい、ライト、闇、用意しとけ! 無理なら炎な」


「は、はい」


 青い炎がまわりを焼き払うと、背の高い草は消え、僕の背丈くらいの草がいくつか残っていた。


「チッ、やっぱりな、邪魔くさい…。それに、バカップルが邪魔や。ライト、アイツら、なんとかしたれ」



 タイガさんの目線の先には、コテージっぽいところの窓から、不安そうに見ている男女がいた。閉鎖されているところになぜいるんだろう?


「能力、使っていいですか?」


「あぁ、だけど綿菓子の姿は、見せるなよ」


「はい、もちろん」


 僕は、透明化!そして霊体化!した。これで草の魔物に気づかれずに、コテージに近づける。


「行ってきます。他へ移動させればいいですか?」


「いや、おまえがアイツらを守れ。逃がすのは無理や。バリア張りながら、魔剣使えるやろ」


「えっ? や、やってみます」


「こっちの奴らは、しばらく引きつけといたるわ」


「え…?」


「誰のミッションや? おまえが片付けるねんで」


「…はぁ」


 僕は、とりあえず、コテージに向かってふわふわ飛んで行った。


(ほんと、むちゃぶり…)

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