70、ロバタージュ 〜 無茶苦茶な受注
僕はいま、タイガさんとギルドの受注カウンターの列に並んでいた。
突然だけど、僕のギルドランク上げというか、残念すぎる体力レベル上げに付き合ってくれることになったのだ。
実は、僕がこの世界に転生してきた日から、女神様の番犬となることが決まっていたらしく、タイガさんはその教育係なのだそうだ。
だから僕が、その番犬としての…女神様の側近としての役割を果たすことができるように、タイガさんは僕に足りない部分を教育しなきゃならないみたいなのだ。
「次の方〜」
僕の番がきた。すると眠そうにしていた職員さんが急にハッと、シャキッとされた。
「た、タイガさん、どうされました?」
「はぁ? 受注カウンターで受注以外にやることあるんか? 何寝ぼけとんねん」
「あ、いえ、その、あの、すみ…すみません!」
(うわぁ〜なんかかわいそう…)
「これ、コイツの付き添いするから」
そう言うと、タイガさんは受注カードをポンとカウンターに投げた。え? 3枚も?
「えーっと、付き添いしてもらう貴方、登録者カードの提示を…」
「あ、はい、お願いします」
「えっと…え? Fランクですか…あの、タイガさん、湯の花の採取は Dランク以上の指定なんで…」
「はぁ? 1つ上のランクなら受注できるやろが」
「2つ上になるので…」
「何言うとんねん、行く道で周辺討伐して、玉湯の雑草魔物狩りしたら、Eランクになるやろが」
「ええっと…まぁギリギリ上がるかどうかですね」
「そのあとに、湯の花の採取に行けばええんやろ」
「いえ、でも受注のときのランクでですね…」
「細かいことごちゃごちゃ言うなや、ええやんけ別に」
「ですが、冒険者の安全を考えて…」
「おまえなー、俺が付き添いするって言うてんのに、どんだけ危険があるんや?」
「ですが…」
職員さんは困り果ててしまっていた。僕もよくわからず、困っていた…。
「タイガさん、湯の花?は、やめておきましょうよ」
「はぁ? 湯の花ならおまえ一人で取ってこれるやないけ。俺は温泉でゆっくりしたいんや」
「え? 上級者が付き添われないミッションの受注は、認められませんよ? ライトさんはまだFランクですから」
「あのなー、コイツの能力見て言うてんのか? 逃げ隠れする能力は俺より上やで」
「そんなスキルは、登録者カードには表示されませんから……え?」
そう言いつつ、僕のカードに魔力を流してステイタスを表示された職員さんが固まった。
あれこれ残念すぎて驚いたのか、回復が高くて驚いたのかはわからない…。
そのとき、別の職員さんが受注カードを手に、こちらへとやってきた。
「タイガさん、ついでにコレお願いできませんかね? 受けてくれる冒険者がいなくて…期限がきてるんで困ってるんですよ」
「あぁ? それ、コイツとのパーティ受注でええんか?」
「ええっと…ランクは?」
「僕は、Fランクです…」
「それはさすがに…Aランク以上の指定なんで…」
「そーか。じゃあ、やらへん。俺はコイツのレベル上げせなあかんねや」
「ちょ、ちょっと、そんな…」
すると奥から、また別の職員さんがやってきて、なにかを耳打ちされた。
「おい、コソコソ話すんなや」
「あ、申し訳ありません。あの…同行されるライトさんって、あの、珍しいポーション屋のライトさんですか?」
「はい、ポーション屋ですけど…」
また、なんかコソコソと職員さん達が相談している。固まっていた職員さんが、僕のカードを他のふたりに見せている。
(何の相談してるんだろ)
僕の後ろに並んでいた人は、横に別カウンターが作られて、そちらで受注作業が始まった。
「さっきの頼まれたのって、何だったんですか?」
「ん? あぁ、なんか源泉の方で、レアモンスターが出たらしいで」
「温泉の源泉ですか?」
「あぁ、玉湯からちょっと離れとるし、玉湯の方には来ないんちゃうか」
「じゃあ、放置しても平気な?」
「ん〜、わからん。もし変なとこで暴れよったら、休火山やけど…噴火を誘発しよるかもしれんな」
「え? 火山なんですか?」
「は? 温泉っていえば、ふつう火山のマグマ熱やろが」
「あ、そっか。火山の近くには温泉地がたくさんありますもんね。そうじゃない温泉地もあるけど」
「あっちの世界とは違うしな、こっちは火山のそばにしか温泉はあらへんで」
「そうなんだ。あ、温泉のことは玉湯って言うんですよね」
「ん?温泉って言うとこもあるで。玉湯は、デカイ温泉地のことちゃうか?」
「へぇ、そうなんだ」
あれこれと相談していた職員さん達だったが、やっと結論が出たようで、こちらを見て会話が途切れるのを待っているようだった。
(なんかすごく気を遣ってるんだな、タイガさん怖いもんね)
「ん? なんや? 結論出たんか?」
「あ、はい。あの、ひとつ確認させていただきたいのですが…」
「なんや?」
「もし、このミッションで、ライトさんが大怪我をされたり最悪お亡くなりになったとしても、ギルドとしては一切の責任は…」
「あー、そんなこと気にせんでええ。自己責任や」
それを聞いて、職員さん達は、ホッとした顔をされた。
「では、ライトさんの湯の花の採取の受注を許可します」
「ほな、さっさと手続きしてくれや」
「あの、あと、先程のレアモンスターですが、期限切れということで、ランク指定を外し、フリー受注にします。ついでにお願いできませんか?」
「あぁ? 邪魔くさいな…。ライトどないする?」
「そんな、僕に聞かれても判断できないですよ」
「あ、そいつの属性、水か?」
「え? あ、はい、おそらく。ただ、弱点耐性はそれなりにあると思います。Sランク5人パーティが数日前に失敗しましたし…」
(え? めちゃくちゃ強いモンスターじゃ…)
「ふぅん、まぁええわ」
「じゃ、じゃあ? お願いできますか?」
「あぁ」
「ありがとうございます! 助かりました。すぐ手続きを済ませます」
「ライト、おまえ何、他人事なフリしてんねん? おまえが討伐するねんぞ?」
「ええ?」「えっ?」「はぃい?」
僕も驚いたけど、職員さん達も驚いている。
「ちょっと…それ無茶苦茶ですよ」
「おまえ、雷撃きっついの撃てるやろが」
「僕、雷なんて使えませんよ」
「何言うとんねん、ドス黒い雷撃ぶちかましてたやんけ」
(あ、剣を買うときのアレ?)
「え、でも…」
「厳しかったら、サポートは したるわ」
「はぁ…」
(スパルタどころじゃないような気がする…)
そして手続きが完了して、職員さんからアレコレと渡された。湯の花は壊れやすいからと保護用の透明な魔法袋も渡された。
僕が戸惑っていると、邪魔くさそうにタイガさんが全部引き取ってくれた。
(意外と面倒見がいいんだよね)
ギルドの出入り口で、タイガさんがまた職員さんに何か言われて引き止められた。僕は、その隙に、魔法袋から、コペルの小さい方の旗と、ポーション印のタオルを出した。
リュックを下ろして、横のポケットに、旗の棒にタオルを巻きつけて差してみた。うん、コペルのマークと、ポーション印が両方見えるね。
(リュックくん、旗とタオル、落とさないように気をつけてね)
『えー』
(失くしたら困るんだよ〜)
『チッ』
(うぷぷっ。舌打ちもできるんだ、すごいね)
『まぁな』
(落とさないようにするのは難しい?)
『簡単』
(おお〜! さすが頼りになるね〜)
『まぁな』
(よろしくね〜)
『あぁ』
僕は、瓶を前ポケットに入れようかと思ったけど、空き瓶の方がいいかなと考え直した。ポケットだと劣化するかもしれないもんね。
「ライト、待たせたな、行くで」
「あ、はい」
タイガさんは、ギルドの出入り口から出て、すぐに立ち止まった。
「今度は、おまえに客や…。ギルドから出さへん気か」
「いえいえ、そんな、街の門まで歩きながらで構いませんよ」
誰かと思ったら、城の居住区のロバートさんだった。ポーションを、一番最初から仕入れてくれている商人だ。
「ロバートさん、こんばんは」
「はい、こんばんは。ライトさん、ひどいじゃないですか〜。居住区に来たら立ち寄ってくれるはずでは?」
「あー、すみません。あまり滞在時間は長くなかったもので…」
「ここまで押しかけて来たのですから、アレもお願いしますよ」
「アレ?ってどれでしたっけ? 魔ポーションはダメですよ」
「えー! くすん…。じゃあ、新作はないですか?」
「ありますよ」
僕は、パナシェ風味のクリアポーションを渡した。
「うっわ〜! こ、これ、すごいですね! 高いですか?」
「ギルドの査定では、銀貨50枚、病人に売るときは銀貨5枚ということでしたよ」
「欲しいです! 何本なら大丈夫ですか?」
「風邪薬としてですか? 販売目的ですか?」
「基本販売はしませんよ。個人的にこれは常時、手元に置いておきたい。高品質な常備薬ですね」
「じゃあ、20本でいいですか?」
「はい、いくらお支払いすれば?」
「1本銀貨5枚ということで、20本で金貨1枚で」
「はいはいはい! ありがとうございます」
「もし販売するなら、利益なしにしてくださいね、病人価格ですから」
「もちろんです。あと、10%ポーションを100本お願いできますか?」
「はい、大丈夫です」
そして僕は、パナシェ風味を20本、モヒート風味を100本、魔法袋から出して渡し、お代として合計で金貨2枚を受け取った。
「お二人は、どちらに行かれるのですか?」
「あぁ? 玉湯や。道中もやな…。ミッション4つや」
「じゃあ、飲み物とか携帯食は大丈夫ですか?」
「なんや? 商売っ気、丸出しやで」
「僕、前にロバタージュで飲み物買ったし…あ!あれ?」
「なんや?」
「ちょ、ちょっと確認していいですか?」
「はぁ、またこの門の前でゴタゴタするんかいな」
「すみません…」
と言いつつ、僕は、魔法袋に、水、紅茶、携帯食、出てこいと念じた。
どちゃっ!
「あ、出てきた。またイーシアで失くしたかと思った」
「ん?どうされました?」
ロバートさんが不思議そうにされている。
「あ、いえ、以前、魔法袋の中身全部出てこいと念じて、イーシアの草原でとっちらかしてしまって…。そのときに飲み物を拾った記憶がないから失くしたかなって」
「おまえ、アホか。なんで携帯食や飲み物が一緒に出てくるんや」
「え?だって全部…」
「ライトさん、食品や飲み物は、指定しないと出てこないようになっています。アイテム整理に邪魔になりますから…」
「え? でも砂糖や野菜は出てきましたよ?」
「それは、アイテムや素材として認識されているのでしょう」
「えっと、塩コショウや、ナイフは?」
「調理に使われました?」
「あ、はい」
「なら、調理器具や調味料ですから、やはり食品枠ですね。砂糖は調理に使われていないのでは?」
「確かに…ひとつはリュックに素材としていれましたけど……あ! 素材だからか」
「おまえ、そんなんも知らんと魔法袋、使ってたんかいな」
「はぁ、でも失くしてなくてよかったです」
「ふふふっ、ですね。では、私はこれにて。またよろしくお願いします」
そう言うと、ロバートさんはスッと消えた。
「おい、散らかってるこれ、どないすんねん」
「あ、片付けます」
僕は、飲み物と携帯食を魔法袋に入れた。
「ほな、行くで」
「はい!」
僕達は、ロバタージュの街を後にした。




