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7、イーシア湖 〜ロバタージュの街へ

 僕は、いま、ひたすら薬草を摘んでいる。


 初めはどれが薬草なのか、全くわからなかったけど、隊員レオンさんが、薬草はどれも、葉の裏が秘めた魔力で白っぽくなってるんだと教えてくれたんだ。


 そして、葉の裏が、鮮やかな赤や紫のものは毒草だから気をつけろと言われた。触るだけで手が変色してしまうほど、毒性の強いものもあるという。


(裏が白っぽいのばかりだ)



 イーシア湖のまわりは、精霊イーシアの加護があるのか、ほとんどが薬草だった。少し離れると、裏が緑色の、普通の草も生えている。


(同じ場所ばかりはダメって言われたっけ)


 僕は、あちこち移動しながら、ひたすら薬草を摘んで、リュックに入れていった。



 このリュックは、アトラ様が言うには、食べ物や飲み物などの練金系みたいだけど、その練金のやり方がわからない。


 だから僕は、普通にリュックとして使っていた。


 このリュックは、中に薬草をいっぱい入れても、背負うと重さを感じない。めちゃくちゃ優れものだ。


 もしかしたら、無限に入るのかな? いくら入れても、まだリュックは満タンにならないんだ。



 夢中で薬草を摘みつつ移動していると、かなり湖から離れてしまった。


 いつのまにか、草原から森の中に足を踏み入れていた。森の中に入ると、薬草は見つからなくなった。


 でも、そのかわりに、レモンかライムのような香りの果実を見つけた。


 ひとつ取って、かじってみる。かなり甘い! 美味しい! レモンとライムを混ぜたような味だった。でもレモンほどすっぱくはない。レモンの砂糖漬けって感じだ。


(これも、いっぱい取っておこう! 僕の非常食に。いや、デザートかな?)




「おーい! あんまりそっちに行くと、魔物が出るぞ!」


 湖の外周を調査していた隊員さんに、注意された。


(げっ! 魔物、いるんだ)


「はい、すみません、戻ります」


 もっと、他の果実も探したいと思っていたけど、ここは従う方がいいよね。


 まだ僕は自分の力を知らない。どのくらい戦う力があるのか、いや、それ以前に剣さえ持っていなかった。




 僕は、湖の近くに戻った。


 隊員さん達も、調査を終え、帰り支度をしていた。


「ライト〜、ちゃんと薬草、摘めた?」


 アトラ様が、突然、僕の顔を覗き込む。僕は、顔が熱くなった。これは、たぶん赤くなっている…。


「もうっ! アトラ様! 急に覗き込むの反則ですっ」


「ん? なんで、ぷりぷりしてるのー?」


「そんな近くで覗き込まれたら、困るじゃないですかっ。アトラ様は、自覚がなさすぎます」


「ん? 自覚?」


 アトラ様は、きょとんとして、首をかしげる。


 もう、それ! ハッキリ言って、かわいすぎる。破壊力がハンパない。僕の心臓がもたない!


「な、もう! アトラ様は、自分がどんな顔してるかわかってないんですか? 破壊力ありすぎるんですっ」


「ん? なんか、あたし、壊したっけ?」


 また、きょとんとして、首をかしげる。もうっ!


「それです! ダメですよ、かわいすぎるんです! なぜわかってないんですか!」


 と、叫んで、僕は、ハッとした。


(や、やばい。これ、告ったことになるんじゃ…)


「へ? えーっと、ライト、どういう意味?」


(あ、あれ? わかって……ない?)


「い、いえ、こちらの話です…」


「ふぅん。なんだかわかんないけど、まいっかー」


「ま、いいです…」


 そして、アトラ様は、うつむく僕の頭をぐしゃぐしゃに なでなでして、よしよしとか言っている。


(はぁ……やはり、僕はペット枠か…)



 そんなやりとりを見ていた隊員達は、なんだかニヤニヤしている。

 僕は、彼らをキッと睨んだ、つもりだったが…。


「こっちに助けを求められても、なぁ。こればかりは自分で何とかするしかないだろ」


(別に助けなんて求めてないし…)


「坊やが もう少し大人になれば、伝わるかもな」


(そ、そんなものかな? って17歳だよね、僕。子供じゃないよ)


「まじか? おまえ、彼女が何者かわかってないのか?」


(そんなこと言われても、かわいすぎるんだから仕方ないじゃないか)


 みんな、ひどい。そんなに僕は、子犬っぽいの? というより、なんで、僕の気持ちがみんなにバレてるのに、アトラ様は気づかないんだ? 完全に僕はペット枠なのか…。はぁ。




 そして、隊員達の準備が整い、出立の挨拶をされた。


 すると突然アトラ様が、いいこと思いついた!と、目をキラキラさせて言った。


「ねぇ、あなた達、街に戻るなら、この子も連れて行ってあげてよ」


「ん? 街に?」


「そう。ちょっと事情があって、帰る所もないみたいだからさ、街で暮らせるようにお世話してあげてよ。この子がいなかったら、今頃あなた達は、この世にいないんだからさー」


(なんか、さりげなく脅迫じみたことも言っている…。断らせる気ないんだ…)


「あ、はい、かまいませんよ」


 隊員のリーダーらしきレオンが、そう答える。


「ライトも、それでいいよね? ここにずっといるわけにもいかないし」


「えっ…? はい…」


 僕は、なんだか追い払われるような気がして、悲しくなった。まぁ、確かにここにずっといるわけにもいかない。


 それに、女神様に、小銭を稼いでおけと言われていたから、摘んだ薬草を売りに行かなきゃならない。でも…。


「ちょ、ちょっと、ライト! なに、捨てられた子犬のような顔してるの? ふふっ。大丈夫、また薬草が必要なときは、ここに摘みに来ればいいんだからね」


 僕は、はじかれたように、パッと顔を上げた。


「いいんですか! また来ても?」


「これまでも、たまに来てたじゃない。次に来るときは手ぶらじゃだめだよ? あたしに土産話、持ってくるんだよ?」


「お土産じゃなくて、土産話ですか?」


「うんうん、土産話の方がいいよ。ここにずっといるのって、けっこう退屈だったりするからさー」


「あ、なるほど」


「それに、そのリュックも気になるし…。それをくれた人って、女性でしょ?」


「えっ、あ、はい。あ、でも、そんな関係とかではなくて…」


「ん? そんな関係って?」


「あ、いえ、なんでもないです」


「ふふっ。たまにわけわかんないよね、ライトって」


「…はぁ」


「ま、いっかー。その女性ってさ、とても美人なのに変な喋り方するんじゃない?」


「えっ?」


「語尾に、じゃ! じゃ! って、うるさいくらいにつけて話す、名前が『い』から始まる人でしょ?」


「あ、はい。あの、お知り合いですか?」


「うん、彼女のペットがよく訪ねてくるからね。その時に、お話したり…というか、一方的にケンカふっかけられるんだけど〜」


 そんな物騒な話をしながらも、精霊イーシアの守護獣アトラ様は、楽しそうにしていた。




 そして僕は、アトラ様のいるイーシア湖を離れ、隊員達の馬車に乗せてもらって、彼らが駐屯しているという街に向かった。


 疲れていた僕は、馬車に乗ると、すぐに眠ってしまった。


「もうすぐ着くぞ」


 そう声をかけられ、僕は目が覚めた。


 リュックを背負って座ったまま、変な姿勢で寝ていたから、首が痛い。




 そして、ロバタージュという街に到着した。


 街は、石造りの建物が整然と並んでいた。道も石畳、馬車が通りやすいように道幅が広い。中世ヨーロッパ風? そんな感じの美しい街だった。


 ここは、商業が栄えていて、この国でもダントツで活気のある街なんだと教えてもらった。


 多くの人が集まり、多くの儲け話があるが、その分、荒っぽい事件も起きやすいという。


 そのため、治安を守る警備隊、レオン達とは違うエリート達がたくさん常駐しているらしい。


「常駐してるエリート達には、気をつけろ。奴らは出世のためには白でも黒だと言うんだ。関わると、ロクなことにはならない」


「そうなんですか。き、気をつけます」


「とりあえず、報告があるから、ちょっと待ってろ。後で、ギルドに連れて行ってやるから」


「ギルド?」


「あぁ。薬草、売るんだろ? 行商でもいいが、この街に慣れてないとわかると、買い叩かれるからな。ギルドの方が安心だ」


 そう言うと、レオン達は、馬車を止めた横の建物に入って行った。



 馬車の停留所には、馬の世話をするために残った隊員がひとり居るだけだった。僕は、リュックを背負い、馬車を降りようとした。


(あれ? リュックが重くなってる! なぜ?)


 僕は、リュックの紐をゆるめて、中を見てみた。


 すると、薬草と果実しか入っていないはずなのに、見知らぬ小瓶がいくつも、薬草や果実の中に紛れていた。


(なにこれ?)


 僕は、ひとつ取り出して見て驚いた。

 この小瓶には『 PーI 』と書いたラベルが付いていたんだ。


 僕はラベルに触れてみた。でも、手がもぞもぞするけど何も起こらない。


(あ、魔力をこめるとか言ってたっけ)


 僕は魔力のこめ方なんてわからない。何度も触ってみたけど反応はない。少しイライラし始めると、説明が出てきた。


(イライラすれば、説明が出るの?)


 あ、わたわたせい!って、あの女神様に言われたことあったっけ。わたわたって、イライラのこと?

 


 僕はラベルの説明に、目を移した。


 『ポーション、体力を10%または100回復する。(注) 回復は いずれか量の多い方が適用される』



 パーセント回復と固定値回復の両方に使えるのか。いいとこ取りできるんだ。



「それより、なぜポーションが入ってたんだ? まさか、リュックくんが錬金したの?」


 もちろん、喋りかけても、リュックくんが返事をしないのは知っている。




『なんじゃ。もうリュックを使っておるのか』


(わっ! び、びっくりした…)


『なにを驚いておる? 話すのはもう何度目じゃ?』


(と、突然、話しかけられたら、リュックくんが返事したかと思ったというか、なんというか)


『キミ…、リュックが話すわけないじゃろ? 頭でも打ったのか?』


(あ、いえ、あの……とにかく突然だと驚きますって)


『ふむ。じゃあ、予告してほしいのじゃな?』


(予告? できるのですか?)


『うーむ。夢の中に、踏み込んでやることならできるのじゃ』


(……嫌な予感しかしないので、遠慮します)


『なんじゃ? キミが予告してほしいって言うから考えてやったのに……遠慮などせずともよいのじゃ』


(いえ、そういう意味での遠慮ではなくて…)


『ふむ。なんだかわからぬが、まぁよい。で、小銭は出来たのか?』


(え? あ、まだです。後でギルドに薬草を売りに行くので…)


『ん? なぜ素材を売るのじゃ? ポーションを売ればよいのじゃ。その方が稼げるのじゃ』


(えっ、あ、そうですね。でも、このポーションは、なぜかここに入ってて…)


『は? キミが作ったのじゃろ?』


(い、いえ? 僕は何もしてませんけど…)



『何を寝ぼけておるのじゃ? 素材を揃えてリュックに入れて魔力を注いだのは誰じゃ?』


(あ、あの、リュックに薬草とか摘んで入れましたけど、魔力なんて注いでませんけど…)


『は? リュックを背負ったら、魔力が注がれるに決まっておる。常識じゃ!』


(え? 意味が…わからないんですけど…)


『リュックに、魔力を含んだ水を入れたじゃろ? これでリュックがキミを主人だと認識した。で、キミがずっと触れていたのじゃから、リュックに魔力が流れるのは当たり前じゃ』


(ん?)


『そのリュックは、持ち主の魔力でしか働かぬ。だから、キミが、リュックにポーションを作らせたのじゃ』


(えっと……素材を入れて背負えばいいんですか?)


『そうじゃ。それに完成品はリュックが吐き出したがるから、重くなって知らせてくるのじゃ。ってことで、またね、なのじゃ!』


(えっ? あの、僕に、何か用があったんじゃ?)


『………』


(もしかして、小銭を稼げたかの確認だけ?)



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