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69、ロバタージュ 〜 似た者親子?

「お〜い、おまえ、腹いっぱいなくせに、なに寝とんねん」


 僕は、頭をペチペチと、何かで叩かれている派手な音で目を覚ました。うー気持ちわる…。やっぱり転移は無理だ…。


 目を覚ましたのに、まだ頭にペチペチと…。そっか、女神様じゃないから僕が意識を取り戻したか気づかないのか。


 僕が、身体を動かすと、やっとペチペチは止まった。タイガさんの手には……ハリセン? お笑い番組で見たことのあるような紙で作ったハリセンが握られていた。


「ハリセンですか? 派手な音がすると思ったら…」


「あぁ、せやで。おまえが起きへんから、作ったんや」


「へ?」


「さっき、ゴミ回収しとる冒険者が通ったから、新聞紙もらってな。山折り谷折り山折り谷折りしてやな、最後に真ん中を折り曲げて持ち手を作れば完成や。カンタンやで」


「どうしてハリセン? それに作り方まで…」


「はぁ? 俺が素手で殴ったら、おまえ痛いやろが。ハリセンで殴ったらあんま痛くないやろ」


「な、なんで殴ることが、前提なんですかー」


「殴った方が、早く目覚めるやんけ」


「…永遠に目覚めなくなるかもしれないじゃないですか」


「アホか、だから、ハリセンにしたったやろ。人の話ちゃんと聞いとかんかい」


「ってか、新聞紙って…この世界にも、新聞あるんですね」


「商人の街やからな。新聞とは言わんけどな。なんちゃら情報とかいうらしいで。よう知らんけど」


「へぇ…」



 僕達のやり取りを見ていた門番さん達が、なんかコソコソと話している。

 僕が、彼らの方を見たのに気づいたタイガさんが、門番さん達に話しかけた。


「なんや? おまえら」


「い、いえ…」


「何の相談や」


 タイガさんが不機嫌そうに言い放ったことで、ビビったのか、門番さんのひとりがペコペコしている。


「いえ、タイガさんに、反論する若い子なんて、そういないですから…」


(えっ? 僕?)


「もしかしたら、息子さんなのかと思って…」


「はぁ? 俺には、クソやかましい娘しかおらんわ。なんでこんなビビりが、息子さんやねん」


(ビビり…)


「で、ですよね…。あははは」


 門番さん達が、なんだか本気でビビっている。少し気の毒になってきた。



「僕、もう大丈夫ですから、行きましょう」


「転移魔法100本ノックとかしたら治るんちゃうか? 転移酔い」


「やめてください! 死んでしまいます…」


「転移ごときで死ぬか、ボケ!」


 そう言いつつタイガさんは、門をくぐって街に入っていった。僕は、門番さん達に軽く会釈して、タイガさんを追いかけた。




 街をスタスタ歩くタイガさんは、やはり目立つようで、いろいろな人にチラチラ見られる。

 僕は、少し離れた後ろを追いかけているから、タイガさんが注目されているのがよくわかった。


 でも、誰も声はかけないな〜…って思っていたら、タイガさんの目の前に、女性ふたり組が立ちはだかった。

 そのせいで、僕はタイガさんに追いついてしまった…。


(わ! これは追いついちゃいけないところ…)


 女性ふたり組は、追いついた僕をチラッと見た。


「何? 今日は少年連れなわけ?」


「あぁ、なんか用か? コイツのレベル上げの世話せなあかんから忙しいねんけどな」


「ミッション行かれるのですか?」


「あぁ、そうや。おまえら、こんな夜中に何しとんねん。お肌に悪いんちゃうか〜」


「いちいち一言がウザイねんけど」


(あれ? 関西弁? それにタイガさんに似てる?)


「用がないんやったら…」


「ウチから逃げれると思ってんの? ここで用件を大声で話してもええん?」


 すると、タイガさんの顔が曇った。


「ミサ、人がたくさん見てるわよ。それに部外者の少年もいるし…」


「セイラ、そんなん気にせんでええねん、このアホに気遣いは無用やで」


「はぁ…。もう勘弁せーや。よくあることやないけ」


「よくあるのが問題やって言うてんねんけど!」


 なんだか、タイガさんがタジタジになっている…。僕は、プライベートなことには口出ししない方がいいよね。聞かれたくないことみたいだし…。


「あ、じゃあ、僕、先にギルドに行ってます。ポーションの査定も聞かなきゃならないし」


「お、おい、ライト待てや、見捨てる気か」


「へ? いえ、聞かれたくないことかと思ったんですけど…」


「ん? あんた、ライトなん? もしかして変なポーション作る人?」


 ミサと呼ばれた気の強そうな女性が、僕を値踏みするかのようにジロジロと見ていた。ちょっと怖い…。

 一緒にいるセイラと呼ばれた人は、優しそう。


「は、はい。ライトです」


「ふぅん。ウチの母が、シャワー魔法のこと言うてたで。意外に若いねんな、15くらい?」


(やっぱ、タイガさんの娘さんなんだ)


「あ、たぶん17歳です。記憶は、そこからしかないので」


「あー、途中からなんや」


「ねぇ、ミサ、意味がわからないわ」


「ん? この子は転生者やねん。普通は赤ん坊か幼児からやのに、17からやって」


「おい、おまえなー」


「ミサ、全くわけがわからないわ…」


「まぁ、Lランクになったら詳しくわかるで」


「そう? ってそれ無理よー」


「なんで? いまセイラはAランクだから、あと3つ上がるだけやん」


「1つ上がるのも大変じゃない。ミサはSランクだし、もうすぐSSだからすぐかもだけど、私はまだまだだもの」


(ふたりとも、高ランク冒険者…)


「ライト、こいつら無視してギルド行くで」


「え? あ…はい」


「ちょっと!」


「無視や、無視〜」


 タイガさんは、僕の腕を掴んで、ズンズン歩いていった。女性ふたり組は、追いかけては来なかった。



「娘さんですか?」


「あぁ、ほんま、誰に似たんか うるさくてたまらんわ〜」


「怒っておられましたね」


「なんでアイツが怒るんか意味わからんで」


「怒るようなことじゃないんですか?」


「あぁ、嫁も認めとるし、地上に居るときは自由なはずやろ」


「ん? 意味がよく…」


「おまえ、こっちの世界に来たん、27って言うとったよな?」


「はい」


「ほんなら、わかるやろ?」


「ん?何がですか?」


「来るものは拒まず、が俺のポリシーなんや」


「ん?」


「さすがに、こっちからは行かへんけどな」


「えーと…」


「それをミサが、ぶつくさ言いよるんや」


「えっと……女性関係ですか?」


「あぁ」


「なるほど…。娘さんなら、文句言いたくなるんじゃないですか?」


「なんでやねん。アイツだって何人もオトコおるんやで? なんで俺ばっかり言われなあかんねん」


「はぁ」


(似た者親子……なんだな)



 そして、やっとギルドに到着した。タイガさんがギルドに入っていくと、めちゃくちゃ注目されていた。


 査定のカウンターに、様子を聞きたいところだけど、タイガさんが2階に上がって行ったので、僕はそれを追いかけた。


「なんや? 査定カウンターに寄るんちゃうんか?」


「あ、タイガさんが上に上がってったから…」


「金魚のフンみたいについてこんでええ。ミッション探しとくから査定カウンター行ってこいや」


「あ、はい、わかりました」


(金魚のフンって…)



 僕は、階段を降り、査定カウンターの列に並んだ。夜中だけあって、人は少なく、すぐに順番が回ってきた。職員さんは初めて見る人だった。


「あの、ポーションの査定をお願いしていたんですが、価格は決まりましたか?」


「えっと……もしかして、ライトさんですか?」


「はい」


 登録者カードの提示を求められたので、魔法袋から取り出して見せた。


「あの、伝言がいくつかたまっていまして…」


 そう言うと、横の席へと誘導された。しばらくすると、何枚かのメモを持って来られた。


「ポーションの件がわかる者に代わりますので、少しお待ちください」


「はい」



 その間に僕は、伝言メモを見た。


 警備隊が多いな…。隊長のレオンさんが近況報告を求む。


(レオンさん、ご無沙汰してしまってる)


 新人隊員のレンさんがポーション代の支払いの件、連絡求む。


(ん? あ! 火無効ポーション? 忘れてた)


 警備隊中央部管理室?クリアポーションの件、提供可能数を知らせよ。


(誰? 知らないよ、そんなの)


 王宮アレクさんがクリアポーション追加の件、連絡求む。


(アレクさんってフリード王子の執事? 初老の紳士だよね。足りなかったんだ…)


 リリィさんが、パーティ勧誘希望。


(リリィさんって誰? パーティってことは冒険者? あ! コペルの場所を教えてくれた人かな)



 うーむ…。返事、書くべきなのかな? 伝言の仕組みがよくわからない…。



「お待たせしました、ライトさん」


 僕が返事をするか悩んでいると、別の職員さんがやってきた。


「あ、いえ」


「あの、価格の件なのですが……ふたつ付けさせてもらうことになったのです」


「ん? どういうことでしょう?」


「王宮から厳しく言われたようでして…。病人に売る場合と、それ以外で価格を変えることに…」


「はぁ」


「ギルドは、それ以外ということで銀貨50枚、病人に直接売るときは銀貨5枚ということになりました」


「そうですか、わかりました」


「病人へは、警備隊が利益なしで売ることになりまして、警備隊の方から依頼があると思います」


「あ、それって、警備隊中央部管理室?ですか?」


「はい、そうだと思います」


「伝言メモを、さっきもらって…」


「そうでしたか。あの、いま、クリアポーション少しありますか?」


「はい、ありますよ」


「では、ギルドに、3本お願いします」


「あ、はい。わかりました」


 僕は、魔法袋からパナシェ風味のクリアポーションを3本出した。

 お代として、職員さんから始めの1本の分と合わせて、金貨2枚を受け取った。


「あの、伝言への返事はどうすればいいのでしょうか」


「こちらで伝言を承りますが、1件あたり銅貨1枚をいただきますが…」


(有料なんだ……ま、そうだよね)


「じゃあ、お願いできますか?」


「かしこまりました」


 僕は、レオンさんにFランクになったこと、

 レンさんにまた会ったときでいいということ、

 警備隊中央部管理室には100本なら可能ということ、

 アレクさんには受け渡し場所がロバタージュならすぐ可能ということ、

 リリィさんにはタイミング合えばということを伝言依頼し、銅貨5枚を支払った。


 そして、この後、ミッションに行くつもりだということを職員さんに伝えると、王宮や警備隊が、ミッション中に訪問されるかもしれないから、この近くでと言われた。


「心配せんでも、近くにするで」


 突然、タイガさんが背後に立っていて、僕は驚いた。でも僕よりも職員さんの方が驚いていたけど…。


「どちらへ?」


「あ? 玉湯にするわ〜。ちょうど温泉入りたいと思っとったし」


「タイガさんが同行されるのですか?」


「じゃないと、コイツ単独で受注できへんやろ」


「じゃあ、受注カウンターへお願いします」


「あぁ」


 職員さんは、急にバタバタし始めた。


「ライト、適当に選んだで」


「あ、はい」


 そして、タイガさんと受注カウンターの列に並んだ。


(温泉かぁ〜。ちょっと楽しみ)


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