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65、女神の城 〜 ライト、剣を買う

 いま僕は、女神様の城の居住区 商業エリアにいる。


 ここの住人のチビっ子御用達の店だという冒険者ショップのような店で、店主さんがタイガさんが出した条件に合う剣を用意してくれるのを待っていた。


 入り口付近では、女神様とナタリーさんがチビっ子達に囲まれている。店の奥にまでチビっ子達のにぎやかな声が聞こえていた。


「女神様って、チビっ子にめちゃくちゃ人気あるんですね」


「あぁ? まぁいくらババアでも、子供には無茶は言わんしな。何より精神年齢が近いから、親しみやすいんちゃうか?」


「そんな毒舌…。わ! 女神様が睨んでますよ」


「そんなもん放っといたらええんや。俺はほんまのことしか言うてへん」



「お待たせしました。この2種くらいですかねぇ」


 店主さんが剣を2本持って、戻ってきた。

 タイガさんがそれを受け取り、鞘から出して剣をながめて、スッと振っている。


「おう、まぁこんなもんやろな。ライト持ってみ〜」


 わ、わ! タイガさんが剣を鞘から出した状態で僕に向けてきた。


「おまえ、なにビビっとんねん。剣、何度か触ったことあるやろ」


「刃先を向けられると、ヒヤッとしますって」


「はぁ、もう邪魔くさいなー」


 タイガさんは、剣を鞘に戻して、今度は僕に放り投げてきた。げっ! ギリギリ、キャッチ。


「ちょ、投げないでくださいよ」


「さっさと抜いて、振ってみ〜」


 僕は、剣を抜いた。チビっ子用だというが、けっこう重さもある。軽く振ってみたけど、だから何なのかはわからない。


「なんか、纏わしてみ〜」


「は?」


「水はアカンで。他は何でもええわ」


「えっと、まとわせるって?」


「おまえ、ジャックの腹にナイフ刺すとき火を纏わせとったやないけ」


「そ、そんな言い方されると、僕が殺人鬼のようじゃないですか」


「はぁ?サスペンスドラマの見すぎや、それ」



「ちょっと店内で魔剣はやめてくれ。表に出てやって」


「え、あ、はい。いや魔剣って…使えないですよ、僕」


「入り口、チビっ子だらけやな。まぁ、しゃーない、表に出るで」


「え…あ、はい」


「ちょっと、おまえら邪魔や。どいとれ」


 タイガさんが怒鳴ると、チビっ子達は、ひっ!と泣きそうになっていた。


「タイガ、声がデカイのじゃ、野蛮なのじゃ!」


「うるさいわ、剣の確認できへんやないけ」


 女神様は、僕が剣を持っているのを見て、状況を察したらしい。タイガさんも、もう1本の剣を持っていた。


「ふむ。どっちにするか悩んでるのじゃな」


「ライトは、魔剣を覚えさせんと何も使えんからな、剣と魔法との相性を見なアカンやろ」


「みな、ライトが初めての剣を選ぶのじゃ。おとなしく見学するのじゃ」


(いや、見学しないで…)


 チビっ子達は、女神様の指示に従い、話をやめ、いっせいに僕の方を見た。


(ちょ、そんな見ないで〜)


「ここなら、何でもええわ。使えるもん、全部使ってみ〜」


 なんだか、通行人も立ち止まる人がでてきた。やばい…。早くしないと、目立ってしまう…。


 僕は、いつもナイフに使ってたように、火を纏わせた。刃が長いから剣だとかなりの火の大きさになってしまった。大きなろうそくの火みたい…。


「火が大きすぎて暴れとるだけや。刃の中で火が燃えるようイメージするんや」


(ん?刃の中に火を押し込めるってこと?)


 僕は、刃の中に火を押し込めるイメージをした。すると、火は消えてしまった?いや、たまに刃からちょろっと火の粉が飛び出てる。


「そのまま、こっちに向けて振ってみ〜。剣道の素振りや」


「あ、はい」


 僕は、剣を両手で持って、上から下へと振り下ろした。ボゥオッ!


(え?)


 刃先から、火の玉がタイガさんに向かって飛んでいった! 魔族の国でクライン様が使った魔剣のようだった。


「わっ!」


 タイガさんに火の玉が直撃すると、驚いたが、彼は持っていた剣で、火の玉を斬って消し去った。


「まぁ、初めてにしては悪くないな。しょぼいけどな。次、他の属性!」


「へ? あ、はい」


 次に、僕は水をイメージした。剣から水が出てきて剣に纏わりついた。さらに中に入るようにイメージすると水は消えた。


「振ってみー」


「はい」


 僕は、タイガさんに向けて、先程と同じように剣を振り下ろした。水のボールが飛んでいった。タイガさんは、剣を使わず素手で止めていた。


「次〜」


 僕は、氷をイメージした。剣を氷が覆う。それを中に入るようにイメージすると、氷は消え、ドライアイスの煙みたいなのが出てきた。


「どーぞー」


「はい」


 僕はタイガさんに向けて、剣を振り下ろした。うわっ! たくさんのヒョウみたいな粒が飛んでいった。

 タイガさんは、火のバリアを張った。たくさんのヒョウは、バリアに吸い込まれるように消えていった。


「次〜」


 僕は、風をイメージした。剣を風がクルクルと纏った。それを刃の中に入るようイメージすると風は消えた。


「風か?」


「はい」


 僕はタイガさんに向けて剣を振り下ろした。わっ! かなり強い風が地面の砂を巻き込んで砂煙と共に飛んでいった。タイガさんは、剣で風を打ち消していた。


「次〜」


 僕は、土をイメージした。だが刃に土はつかず、ほこりみたいなのを纏っていた。中に入るイメージをしても特に変わらなかった。


「なんや?それ」


「たぶん、土です」


 僕はタイガさんに向けて剣を振り下ろした。さっきの風のときのような砂煙が飛んでいった。タイガさんは剣で打ち消していた。


「次〜」


「え?もうあとは…」


「闇あるやろ」


「でも、魔法じゃないかも…」


「かまわへん」


 僕は、僕の持つ闇を意識した。怒ったときに勝手に出てくるやつ…。でも出てこない…。怒らないと出てこないのかな?


「使えんか?」


「えっ…ちょっと待ってください。怒らないと闇は使えないみたいで」


 僕は、僕の集落が焼き払われたことを思い出していた。そして、大魔王メトロギウス様にクライン様の第1配下にはさせないと言われたこと、種族差別のこと、二クレア池でやり切れない気分になったこと…。


 すると、僕の右手、いや全身から黒い霧のようなものが出てきた。僕は、剣に黒い霧を纏わせた。黒い霧は勝手に剣の中に吸い込まれていく。


「ちょっと、待て! ナタリー、バリアくれ」


(ん?)


「タイガ、受ける気? ちょっとキツそうじゃない?」


「だから、バリアくれって言うとんねん」


「はいはーい」


 ナタリーさんがタイガさんにバリアを張った。女神様も、なんか唱えてらっしゃる…?


「ええで。振ってみー」


 僕は、タイガさんに向けて剣を振り下ろした。すると、大きな黒い雷撃のようなものが狂ったように、タイガさんに向かって飛んでいった。


(えっ?うそ!)


 タイガさんは、剣にイナズマを纏わせて、黒い雷撃を叩き斬った。


 ドドガーン!!


 大きな爆発音と、爆風で、近くの建物が揺れた。女神様が街と住人をガードをしていなければ、巻き添えで怪我人が出そうな状態だった。


「わわっ、すみません…」


「かまわへん。剣の確認や」



 周りを見渡して怪我人がいないか確認した。うん、大丈夫そうだ。よかった。


 しかし、どうしよう…。めちゃくちゃ騒ぎになってしまうんじゃ? って思ってたのに、通行人も、チビっ子まで、平気な顔をしている…。


「あ、あの、女神様もすみません…」


「は? 何がじゃ?」


「バリア張ってもらって…。ナタリーさんも」


「ふむ。……ライト、妾はめちゃくちゃ疲れてしまったのじゃ。 うっ…だから…」


「ライトくん、もし余ってたらでいいんだけど、いろはちゃんにコーヒー牛乳あげてね。じゃないと お芝居が続くかもしれないわ〜」


「はい。あ、女神様には、火山でのヤケド芝居の分もお渡ししなきゃならなかったですね」


「なっ? なんじゃと? あれは、本当にやけどしたのじゃ! マグマの温度、わかっておるのか? 熱いのじゃ!」



「ねーねー、お兄さんって、ライト?」


 僕が女神様の芝居に振り回されそうになっている間に、いつの間にか、チビっ子に囲まれていた。


「あ、うん。ライトですよ」


「ポーションの人だ! うちのパパが、ライトのポーション欲しいのに品切れで買えないって言ってた」


「そうなんだ」


「うん、ここにも置いて欲しいのに、おじちゃんが無理って言うのー」


「オレも、飲んでみたい〜」


 ええっと…これは、どうすればいいんだろ? ナタリーさんに助けてと言おうとしたら、タイガさんの方に行ってしまった。

 仕方なく女神様を見ると、知らんぷりをされてしまった…。いや、さっきの芝居ネタで機嫌が悪いのか。うーむ。


「ごめんね。あまり数は作れないんだ」


「そうなの? リュック持ちなのに」


「リュックはまだ、成長してないんですよ」


「あ! もしかして、ライトは新人?」


「ジャックを治した新人って、ライトなんだ!」


「え、あ、うん。そうですよ」



 そこに、店主が出てきた。


「闇は、なかなか使えそうですね。しかし、ほんとに全種使えるんですね。ちょっと驚きました」


「使えてたのでしょうか?」


「ええ、途中から重力魔法を取り入れてましたよね。いくつか重ねて発動できるなら、双剣でも良さそうですね」


「双剣は、コイツにはまだまだ早いで。腕の力がなさすぎるから、片手で剣は使えんやろ」


 わ! 突然、背後からタイガさんが会話に入ってきた。びっくりした。


「じゃあ、どちらの剣にしますか?」


「ライトが使ってた方でええやろ。もうひとつの方は重いからな」


「じゃあ、中へお願いします」


「あ、はい」


 僕は、店内に入っていった。タイガさんも一緒に店内へ。僕にまとわりついていたチビっ子は、入り口で女神様達が惹きつけてくれていた。


「こちらは、銀貨50枚になりますが、1本でよろしいですか?」


「あ、はい」


「いやいや、ライト、アホか。おまえ、戦闘中に剣が折れたらどないすんねん?」


「あ、じゃあ、2本で」


「いや、最低でも3本やろ。特におまえの場合、体力ないんやから使える剣の種類も少ないからな」


「あの、普通、何本買うものなんですか?」


 僕は、店主さんに聞いてみた。タイガさんを疑うわけではないけど…3本って。


 店主さんは、チラッとタイガさんの方を見てから、僕の質問に答えてくれた。


「剣を全く持っていない状態でしたら、剣の扱いが上手くなるまでは、折ってしまうこともよくあるのです。魔剣を使うと折れやすいですから…」


「じゃあ、3本?」


「冒険者をする子が初めて剣を買うときは、3本以上をオススメしていますが、ライトさんは闇を使われるので、闇に耐性の高い剣は少ないですから、個人的には在庫すべて買っていただいてもいいくらいかと」


「えっ?」


「おい、コイツ、貧乏やで」


「じゃあ、あの…お代の不足分は、ポーションでもかまわないですが」


「それが狙いかいな」


「あはは……じゃあ、5本でお願いします。お代の一部は、ポーションにしましょうか」


「ええ、ぜひ!」


 僕は、剣を5本買った。金貨2枚と、モヒート風味のポーション50本で、支払いを済ませた。


 剣5本は、魔法袋のスペースを取ってしまうからと、上機嫌な店主は、剣用の魔法袋をサービスで付けてくれた。普通の剣なら20本程度は収納できるらしい。


「毎度! またお願いします」


(あれ? 魔法袋を買いに来たんじゃなかったっけ?)

貧乏ライトの所持金残高


金貨…3枚 (300万円)

銀貨…249枚 (249万円)

銅貨…135枚 (13,500円)


作者より、圧倒的に金持ち…

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