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63、ロバタージュ 〜 居心地の悪い応接室

 僕はいま、とっても困っている。


 目の前には、ニヤニヤしたギルマスのノームさん、その横には王宮の初老の紳士アレクさん、その前…つまり僕の横には王宮の魔導士カールさんがいる。


「王宮としても、フリード王子の意見には概ね賛成なのです。ですが、あまりにも人手が足りないのが現状なのですよ」


「アレクさん、人手がということについては、私からひとつ提案があるのですがね」



 ギルマスは、ここぞとばかりに目をギラつかせている。ほんとにわかりやすい人だ…。


 この国のギルドの立場を今よりさらに高めることで、長である自分の地位を確実なものにしたいのだろう。


 警備隊は国の組織だが、ギルドは民間団体だった。これを機に、ギルド自体の地位を高めたいという思いも強そうだ。



「はい、どのような提案でしょう?」


「王宮で、お抱えの方々のみで調査及び治療をされているのでは、さすがに間に合わないでしょう。また、誰かを指名してというのも時間がかかる」


「確かに、現状は厳しいですね」


「それに指名しようとした者と、なかなか連絡がつかないこともあるでしょう」


 そう言うと、ギルマスは僕の方をチラッと見た。


(…そんなこと言われても)


「そうですね、ライトさんの行方がわからなかったのは、こちらも予想していませんでしたね。ギルドだけでなくコペル大商会にも問い合わせましたが…」


「すみません、急に遠出することになりまして。すぐ戻る予定だったのですが…」


「どこへ、行かれてたのですか?」


「えっと……イーシアの森に薬草を集めに…」


「あーなるほど。いま、イーシアの森も騒ぎが絶えないですから、いろいろ巻き込まれましたか」


「はい。特に蟻には振り回されました。砂糖を盗まれましたし…」


 アレクさんは、そうでしたかと、うんうんと頷きながら僕の話を聞いてくれた。


「ライトさん、ずっとイーシアの森に居たのですか? 冒険者達にギルドから貴方の捜索も依頼したんですがね」


 だがギルマスは、なんだか腑に落ちないという顔をしていた。


「ずっと…というか…」


「イーシアの森と行き来する馬車もすべて確認したのですがね」


「あ、イーシアへは、風使いの妖精さんに運んでもらいました」


「なんですと? その手があったか…。イーシアへは転移魔法陣がないから、馬車だと思いこんでましたな」


「風使い? 高いだろ! おまえそんなに稼いでるのかよ」


 ステイタスを見て以来、ずっとおとなしかった魔導士カールさんが急に話に入ってきた。


「僕が払ったんじゃなくて、同行者が予約してたみたいで…」


「へぇ、そんな金持ちの知り合いがいるんですね〜。どこぞの貴族ですか?」


「うーん、プライベートなことはあまり…」


 カールさんは自分が貴族だからか、貴族同士のいろいろな事情があるのか、風使いの予約を取れる人物の特定をしたいらしい…。


(やっぱ、プライド高そう…)



「コホン。話がそれてしまいましたな。戻しても構いませんかな?」


「おー、そうですね。私がライトさんがどこに居たのかを聞いたせいで、話がそれてしまいましたね。すみません、続けてください」


「では、人手が足りないということについてですがね」


「ギルドに依頼しろってことなんでしょ? 」


「はははっ、カールさん、さすがに鋭いですな」


(いや、誰でもわかると思う)


「ギルマスの顔を見ていればわかりますよ、ギラギラしてますからね」


「ふっふっ、かなりの大口の依頼になるかと考えると、少しがっついてしまいましたかね」


「そのことについては、王宮としても検討を始めております。その架け橋としても、ライトさんにはお手伝いしていただきたいのですよ」


「えっと……僕にそんな重責は…」


「確かに荷が重いですよね、ライトさん。もう少し戦えるかと思ってたんだけど、あのステイタスでは、回復以外は何もできないですもんね」


「え、あ、はい…」


「カール! またそのような言い方をして…」


「だって、そうじゃないですか。これでどうやってイーシアの森でこんな何日も生きていられたのか、不思議すぎるでしょ」


「ライトさんは、補助魔法力も高いから、バリアを張って攻撃を逃れていたんでしょう」


「はい、バリアはいつも完備していました」


「そうだとしても、蟻に囲まれたら逃げれない。いくらバリアを張っても、時間の問題だ。同行者がよほどの手練れだったんだろう?」


 カールさんは、なぜか僕に対抗心というか、僕を敵視されているような…。彼としてはプライドを傷つけられたと思っているのだろうか。


「うーん…」


 僕は、どう答えるべきか悩んでしまった。カールさんは、僕をジッと睨んでいるかのようで…。


(はぁ、ヤダな…もう)



「カール、いい加減にしなさい! ライトさん、すみません。これは、カールが貴方を認めたということなんですよ。負けを認めたくないから、貴方の欠点をより大きく目立たせるような言い方をするんですよ」


「は、はぁ」


「アレク様、私がこんな子供に負けるなど…」


「余裕で負けているじゃないですか。貴方に呪詛が消せるのですか?」


「消せますよ! 蘇生魔法をぶち込めば呪詛なんてカンタンに消せる」


「フリード王子が受けた呪詛返しを破るほどの呪詛でも?」


「そ、それは……私には…」


「ライトさん、ほらね。貴族の子息は、プライドの塊ですからね…。受け入れるのには時間がかかるようです」


「いえ、別に…」


 アレクさんに言い負かされたカールさんは、またおとなしくなった。なんだか、わかりやすい人だなと思った。カールさんは自分に素直なんだろうな。



 コンコン!


「お話し中、失礼します。お客様がお見えになりました」


「ん? 来客予定はないはずだが? それに王宮からの使者が来られているのに、なぜ断らないのだ?」


「あの…断れませんよ…」


「どこぞの貴族ですか?」


(カールさんは、貴族にこだわるなぁ)


「いえ…」



「もう入るで! なにごちゃごちゃ言うてんねん」


(あ……タイガさん?)


 案内してきた職員さんが戸惑う中、その人は入ってきた。


「と、突然、どうされました? 」


「あ? ギルマスには 用はない」


 すると突然、カールさんが立ち上がり、目をキラキラさせて話し始めた。


「タイガさん! お久しぶりです。カールです、今はおかげさまで王宮勤めをしております」


「ん? カール? だれや?」


「あの、雷神のダンジョンで同行させていただいた魔導士です。チャラ坊主って呼ばれてて…」


「あー! あのフリード王子の連れか。相変わらず、チャラチャラしとんな〜」


「はい! 覚えていてくださって感激です! あの、またミッションご一緒したいです。もうすぐSランクに上がるんですよ」


(なんだか、素直な青年になっている…)


「はぁ、そうか…。ん〜ミッションなぁ」


「カール、控えなさい」


「えっ、だって、タイガさんとお会いできる機会なんて、滅多にないですから…」


「タイガさんが来られた用件も うかがわずにですか?」


「はっ! 申し訳ありません、タイガさん」


「いや、まぁええで。たいした用事ちゃうしな」


「私にご用でしょうか」


「あー、アレクにも用はあるんやけどな、今日は別件や」


(…まさか、僕?)


「まさか、ライトさんに用事ですか!」


 なぜか泣きそうになっているカール…。


「あぁ、そうや」


「…ッ! あの、お知り合いなんですか?ライトさんと」


「知り合いっちゅうか、まぁ遠い親戚みたいなもんやな。俺と同郷やしな、保護者みたいなもんや」


「な!なんですって?…そんな親しい関係…」


 なぜか打ちひしがれているカール…。


「タイガさん、あの……何でしょう? 僕、何かしましたっけ?」


「おまえなー、ババアに嘘つきだなんだと言うたんかいな? ライトをすぐ連れて来いってうるさいんや」


「ん? 最近は話してないと思うんですけど……あ!」


(リュックくんが成長しないことかな?)


「なんや、やっぱり心当たりあるんやないけ」


「あはは…」


「とりあえず、すぐ行けるか?」


「えっと…」



 僕は、アレクさんとギルマスを見た。二人とも、タイガさんが出てきたことで反論はできないようだった。


 まだポーションの価格査定も終わってないし、彼らとの話も途中だった。


 僕としては、アレクさんが考えるような重責を担うのは、無理だと思う。

 でも、だからといって、僕の発言から調査が必要になっているのを無視することもできない。


(どうしようかな……あ!そうだ)


「あの、アレクさん、魔法袋は、お持ちですか?」


「ん? はい、ありますが?」


「じゃあ、これを…」


 僕は、いま価格査定中の、パナシェ風味のクリアポーションをリュックから机に出していった。とりあえず100本でいいかな。


(かなり重かったんだよね)


「えっ? これは?」


「僕、ポーション屋なんですよ。毒、細菌、呪いに効果があります。ただし弱いもの限定ですが、これで治る伝染病もあると思います」


「えっ! こんなポーションがあるのですか! あ、ライトさんが作られたのですね。このために遠出を?」


「ええ、まぁ」


 遠出の場所は少し違うけど、魔族の国に行ったから このポーションが出来たんだから、嘘じゃないよね、うん。


「こんなポーションを作ってくださるなんて、本当に助かります。これは買い取らせていただいて構いませんか?」


「はい、ご自由にお使いください。ポーション屋としては買っていただけると嬉しいですが、いま、価格査定中でして…」


「弱い呪いを消す効果があるのですから、呪術士の最低料金以上の価格ですよね。金貨1枚くらいでしょう」


「病気を治す薬として考えると、僕としてはその価格では売れません。銀貨数枚が適正な価格だと思っています」


「なんですと? ライトさん、それを早く言ってくだされば、価格査定も…」


「おい、ノーム! おまえ、ライトから銀貨数枚で買い取って、ギルドで金貨1枚で売ろうとか考えてへんやろな?」


「えっ…いや、そんな、そこまでは…」


「ライトさん、では このポーションはギルドへは流さず、王宮へ売ってくださいませんか? 病人へは無償で提供しますから」


「わかりました。ただ、僕も行商人ですから、生産量すべてを王宮へ渡すわけにもいかないですが…」


「それは、もちろんです。ライトさん自身が出会った方々に直接販売されるのは当然のことです。生産量はどれくらいでしょうか?」


「今のところは、素材があるので、1日に数十本は作れると思います」


「なるほど、けっこう貴重ですね。わかりました、大切に使わせてもらいます」



「ライトは、とりあえず俺が連れて行って構わへんか? 話はまだまとまらんやろ?」


「ポーションをたくさん提供していただいたので、呪術士の不足分は、これでうまく補います」


「じゃあ、僕は?」


「直接ライトさんに来ていただきたい所が確定したら、またギルドに連絡しますので。あのポーションのお代ですが…」


「お代は今回は結構です。僕を探してもらった迷惑料ということで…」


「あはは、では、次からは査定価格で購入させてもらいますね。ギルドが価格をつけれないなら、こちらで査定しますから」


「はい、よろしくお願いします」


「ほな、そういうことで。ライト、行くで」


「…はい」


(はぁ、居心地悪かった……)

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