61、ロバタージュ 〜 ステイタス(F)
僕は今、ロバタージュのギルドに居る。正直なところ、僕はこの場所が苦手だった。居心地が悪いし落ち着かない。いろいろなことに巻き込まれすぎたせいかもしれない。
いま、僕はカウンターの列に並んでいる。冒険者登録をしてからそれなりの時間が経ってしまったが、やっとランクアップできることになったのだ。
「お待たせしました。登録者カードの提示をお願いします」
「はい、お願いします」
僕は、冒険者の登録者カードを職員さんに渡した。カードにはさっき得た経験値が加算されている。職員さんはカード情報を魔法で読み取り、手続きを始めた。
「ライトさん、Fランクへの昇格が可能ですが、ランクアップ手続きをしますか?」
(え? なんでそんなことわざわざ聞くの?)
「あ、はい。あの…ランクアップしないという選択肢もあるのですか?」
「あはは。低ランクの方はまずランクアップされますが、高ランクになってくると、受注できなくなるミッションもありますからね」
「そ、そうなんですね」
「はい、Aランクで止めたい冒険者も多いんですよ」
「なるほど」
「一応、規則ですのでランクアップの意思確認をさせてもらいました」
「あ、はい」
「それから、登録から少し時間が経っていますが、能力検査を希望されますか?」
「え? 選択制なんですか」
「はい。ただ、まぁ少しでも上がっている可能性があるなら、検査することをオススメします。カードに情報を入れますから」
「え、あ、はぁ」
「ピンとこない顔されてますが、パーティを組むときは、低ランクだと必ずカード情報の提示を求める冒険者が多いんですよ。使えるかどうかの判断材料と考えられるようです」
「あ、じゃあ、検査お願いします」
「かしこまりました。では、あちらへお進みください。この登録者カードは検査前に提出してください」
僕は指示に従って、検査場所へと向かった。
冒険者の服は着ていなかったが、何かの魔法でサーっと確認された。リュックを下ろして、丸い円のところに進むように言われた。
(服は着替えなくていいんだ……まぁ防具じゃなくて普通の服だもんね)
そして以前と同じように、何度もピカピカと光を当てられて、終了。あ! 写真撮ったのかな? また目をつぶった気がする…。
「お疲れ様でした。新しいカードの発行は、今日は空いていますので、どこかへ出かけずにギルド内でお待ちください」
「え、あ、はい。わかりました。ギルド内なら他の場所に移動しても構いませんか?」
「はい、アナウンスは2階にも聞こえますので大丈夫ですよ」
「わかりました」
(みんな次のミッションを探すんだろうな)
僕も、ミッションの掲示を見に行きたいところだが、その前にやることがあった。
買取カウンターをチラ見すると、さっきよりは少し人が減ってきていた。
(クリアポーションの査定、しなきゃだよね)
僕は、買取カウンターの列に並んだ。会いたくないギルマスが居ないかキョロキョロ見渡してみた。僕は魔ポーションの価格査定で、ちょっと苦手だなと思っていた。
(よし、居ないね)
まぁ、そうそうギルドマスターに会うことなんてことはないだろうな。余計な心配だったな、と思いつつも、なんだか嫌な予感がしていた。
そして、僕の順番が回ってきた。僕は、価格査定を頼みたいと、クリアポーションを1本出した。
登録者カードの提示を求められたが、いま、発行待ちだと伝えると、名前を聞かれた。
「ライトです」
ちょうど、職員さんがラベル確認をするところだったが、僕の名前を聞いて、ハッとされた。
「えっ、あの、魔ポーションのライトさんですよね?」
「え、あの…ポーション屋ですが」
僕は、一応、コペル商会の登録カードを出した。
「わっわ、ちょっとお待ちください」
そう言うと、職員さんは横に居た人に何かを言って、席を外した。
(あー、なんか、めちゃくちゃ嫌な予感がする)
声をかけられた職員さんが、僕の後ろに並んでいた人の買取対応を始めた。僕は邪魔にならないようにと少し横に避けた。
しばらくすると、奥から男性を連れて、職員さんが戻ってきた。一瞬ギルマスかと身構えたが、別人だった。
「ライトさん、ちょっと奥へお願いできませんか?」
「あの、アナウンスが聞こえないと困るので…」
「あ、カードの発行ですね。それなら問題ありませんから」
(嫌な予感がする…)
「えっ、でも…」
「登録者カードが出来たら、奥へ持って来させますから大丈夫ですよ」
(えー、登録者カードが人質? じゃないや カード質?)
僕が思いっきり嫌そうにしているのに、さぁさぁどうぞどうぞと、なかば強引に奥へと連れて行かれた。
奥には、かなりたくさんの人がいる事務所と、応接室っぽい小部屋が2つあった。
僕は、その小部屋に案内されてしまった…。6人掛けの応接セットのようなものがあり、出窓には花が飾られた明るい雰囲気の部屋だった。
こちらへどうぞと促され、僕は仕方なくソファに腰を下ろした。
壁沿いには、棚がズラリと並んでいた。応接室なのに、倉庫としても使っているのだろうか。
「ライトさん、どこに行ってたのですかな? 随分、探しましたよ」
(うわぁ〜出た!)
「あ、はぁ」
「いやいや、そんな顔しないでください。私と貴方の仲じゃないですか」
(どーいう仲だよー)
「あはは…はぁ」
「まぁ、こうしてお会い出来て良かった。あれからいろいろ大変でしてね」
「はぁ」
僕が思いっきり嫌そうな顔をしているのに、気にせず僕の真ん前に座り、彼は…ギルドマスターのノームさんは話を続けた。
「先程、持ち込まれたポーションですが、価格査定には少しお時間をいただきたい」
(またか…)
「えっと、どれくらいかかりますか?」
「あれの効用も調べないと価格が出せないのでね」
「風邪薬みたいなものですよ」
「イーシアの集落で、あれを使ったんですよね。私は冒険者の報告しかまだ見ていないのですがね」
「あ、はい…」
「一緒にいた警備隊にも確認を取りたい。そして、どの程度のものに効くのかがわからないので、実際に、呪いや病人に使ってみないとな」
「弱いものにしか効かないので、たいした効果はありませんよ。僕は風邪薬だと認識しています」
「なぜ、そう、結論を急ぐのだ? 」
「待たされるのが嫌いなんですよ」
「ほぅ? そうは見えないがな。それにこのポーションは王宮にも報告せねばなるまい」
「えっ?」
「何を呆けているのだ? 貴方がフリード王子をけしかけたくせに」
「けしかけた、だなんて…」
「フリード王子は、貴方が望むように、伝染病が発生しても、すぐ焼き払うという判断をすることを、禁じられたのだ」
「えっ、もう?」
「あぁ、だが、肝心の貴方が行方不明でしたからな、伝染病が発生した地のほとんどが、結局、付近の封鎖をした状態になっている」
「イーシアの集落以外にも、発生した地があるのですか」
「何を当たり前なことを…この国は広いのですぞ? いま、28 の地が封鎖されているのだ」
「そんなに…」
「すぐには焼き払う措置をしないと決めても、これが治せる病か否かの判断は、王宮のお抱え呪術士と白魔道士が派遣されるまでわからない状態でしてな」
「お抱えの…」
「毎日、あちこち休みなく調査と治療に行っているようだが、それよりも伝染病の発生件数の方が圧倒的に多いんですよ」
「うわ…」
「だが、まぁ、王宮のお抱えの彼らも、フリード王子の意見に賛同しているから、なんとか踏ん張っているようだが…。お抱えの呪術士と魔道士の数を数倍にしないと、処理しきれないようですがね」
「そんなに多いのですね…」
「あぁ、だから王宮から、貴方にも調査治療命令が出ているんですよ。なのに、行方不明だったから…どこかで殺されたんじゃないかと噂されていたんですぞ」
「え…」
「遠出してギルドに立ち寄れないときは、冒険者はギルドへの連絡義務があるんだがな」
「そ、そうなんですか……知りませんでした」
「だろうな。ミッションを受注したことないGランクなら、普通そんなもんだ。自覚が出てくるのはCランクの研修を受けてからですからな」
「はぁ」
「だが、フリード王子と約束があるのだから、例えGランクだろうが居場所を明確にしておく義務があるぞ」
「約束ってそんな……すみません」
コンコン!
「お話し中、失礼します。ライトさんの登録者カードが出来ましたので、お持ちしました」
「客人は、まだか?」
「はい、まだお見えになっておりません」
「そうか」
そういうと、カードを持って来てくれた職員さんは、カードをなぜかギルマスに渡し、失礼しますと出て行った。
(ちょっと、なんでそっちに渡すわけ?)
「見せてもらいますよ。登録時のデータはなんだかおかしな気がしてね。事情を聞いたら、あの時は記憶をなくして魔法が使えない状態だったそうですな」
「僕より先にノームさんが見るとか、職権濫用じゃないですか」
「ふっふっ。別にカードを覗かなくても、データはギルドにも保管されているんだがね」
「あ…」
「まぁよい。どうぞ、ご覧になってから私に見せていただけますかな」
(嫌な言い方…)
僕は、登録者カードを受け取り、顔写真のところに魔力を流し、ステイタスを表示した。えっ?
[名前] ライト
[ランク] F
[HP : 体力] 760
[MP : 魔力] 5,850
[物理攻撃力] 50
[物理防御力] 105
[魔法攻撃力] 17
[魔法防御力] 1,020
[回復魔法力] 23,070
[補助魔法力] 3,950
[魔法適正] 火 水 風 土 他
MP魔力が8倍、魔防が2倍、そして回復魔法力と補助魔法力が20倍じゃん! 他はほぼ変わらず…
僕の場合、HPとMPはこの数値だけど、それ以外のは確か約半分に測定されるんだっけ…。
人族のHPの基準値が1,000で、他は100だっけ。HP体力、全然増えてない…いっぱい歩いたのにー。
(あれ?MP魔力3,000超えてるのに…リュックくん成長してないじゃん! 女神様のうそつき〜)
「ほう、なるほどな。やはりこれくらいはあると思っていたが、完全な回復特化だな」
「げっ! いつのまに後ろに…覗き見しなくても、見せますけど」
「何に驚いているのか、気になってな」
「そりゃ、数値が随分上がったものは驚きましたが…」
「しかし、4属性と闇か? もったいないな……攻魔が低すぎる」
「みんなに言われます…」
「ふふん、まぁいい。それより本題に入るとしましょうかね」
「嫌な予感しかしませんけど」
「何を言っている? 王宮に恩を売るチャンスだぞ?」
「それは、ノームさんのチャンスでしょう? 僕には関係ありません」
「ふっふっ。行商人ならチャンスは掴むべきではないのですかな」
(嫌な言い方…)
コンコン!
「お客様がお見えになりました」
「じゃあ、僕は失礼します」
「何を言っている? 貴方の客人ですよ」
「えっ?」
「お通しして」
「かしこまりました」
(ちょ、ちょっと……勘弁してよ〜)




