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60、イーシアの森 〜 ビビりですが、なにか?

「ライトさん、なんていうかすごい人だったんですね…。俺達とは住む世界が違うというか」


「へ? 僕がですか? いやいや……僕はアンデッド系しか戦えないですから、普段は何の役にも立たないんですよ」


「でも白魔道士としてもすごいよね」


「え、あ、ありがとうございます。怪我人がいれば、役に立つのですが…」


「そっか、街で普通に暮らしてたら使わない能力ばかりかもね」


「弱い魔物も倒せないから、逃げるだけですし…」


「じゃあ、ギルドのランク上げ、最初のうちは超キツそうじゃん」


「えっ…」


「確かに。白魔道士が活躍するのはCランク以上の討伐系ミッションだろうしな…。そこまで上げるのは雑魚狩りするのが早いけど、戦えないならな」



 僕は、冒険者達とあれこれ話をしながら、警備隊の隊員さん達の後ろを歩いていた。


 イーシアの森は、ほんとに広い。すぐ近くに馬車を停めてあると言われたが、もうかなり歩いている気がする。



「そうだ! イーシアの採取いろいろミッション出てたから、通りすがりに適当に集めておけばいいよ」


「え? ミッション受注してないですけど」


「適当に採取してから、ミッション受注してすぐ報告すればいいんだよ」


「採取ミッションは、見つけるのが大変なものもあるし、受注したものを取り消すとペナルティで経験値ポイント減らされるから、採取してから受注する方が賢いんだよ」


「へぇ! そうなんですね。あ、でもGランクだから…パーティ組まないとどうとか…」


「あの新人規定は、俺達と一緒だから大丈夫だよ。なんなら、ギルドの受注、付き合ってやるよ」


「ほんとですか! ありがとうございます」


「いやいや、ライトさんにはめちゃくちゃ助けられたから、これくらいでは返せない借りがあるから」


「そんな、でも助かります」


 そして、僕は、冒険者達に教わりながら、通りすがりの木の実や薬草などをあれこれと、採取しながら歩いた。


 僕達がそういうことをし始めて、歩くペースが遅くなったのに気づいた隊員のひとりが、こちらにやってきた。


「寄り道しながら歩くと、はぐれますよー」


「あ、すみません」


 だが、冒険者達が、僕のギルドランクを上げるためだと説明してくれた。


「警備隊としても、優秀な白魔道士を低ランクで眠らせておくのはもったいないって思うだろ?」


「ライトさんが、討伐パーティの回復役に出れるようになる方が、警備隊の仕事減るんじゃねーの?」


「ちょちょっと、また、そんな大げさな…」


「ははっ、まぁ警備隊がどうのより、個人的には自分とパーティ組んでもらえたら嬉しいとは思うかな」


「だろ? なら、ちょっと歩くペース、落としてくれよ〜」



 ガサッ!ガサガサッ!



 僕が木の実を取っていたら、突然、木の中から何かが飛び出してきた!


「わわっ!」


 僕は、慌ててバリアを張った。


 だけど、こちらの様子を見ていた冒険者達と隊員さんは、目が点になっていたようだった。


(な、なに? なんでそんな顔してるわけ?)


 木から飛び出して来たのは、ムササビのような魔物だった。フ〜ッとめちゃくちゃ威嚇してくる。


 僕は、剣もないし、魔法もしょぼいのしか使えない。

 そして僕がビビっていると、奴は僕に向かって飛びかかってきた。


 そして僕の張ったバリアにぶつかって、地面にボテッと落ちた。

 だが、それでさらに怒ったようで、フ〜ッとさらに威嚇してくる。


「ちょっと助けてください! 僕には無理です」


 でも、みんなポカンとした顔をしている。


「あの! 僕、剣ないし、まともな攻撃魔法も使えないので」


 すると、警備隊の隊員さんが、僕の前に立って、僕を威嚇していたムササビみたいな魔物を横に蹴った。

 まるでボールを蹴るように…。ポーンと。


 蹴られた魔物は、驚いて、木に登って逃げて行った。


(はぁ、よかった……びっくりした)


「ありがとうございます。助かりました…びっくりした」


「い、いや……本気?ですか?」


「え? 何がですか?」


 隊員さんが、何か困ったような変な顔をしている。


「いまの魔物は臆病なので……人は襲わないんですよ。小さな子供なら襲われて怪我をすることもありますが…」


「うん?」


「きゃははっ! お兄さん、めちゃくちゃ弱いんだ。あの魔物に威嚇されてたし…。びっくりしたよー」


「僕、えっと…」


「こら! またそういうこと言って…。ライトさん、すみません」


「あ、いえ…」


(もしかして、めちゃくちゃ弱い魔物なの?)


 今度は僕が呆然としていたら、隊員さんが一応励ましてくれた。


「初めて見た魔物は、俺も怖かったりしますから。こっちがビビってると、奴らはそれがわかるから襲ってきたりするんですよね」


「は、はぁ。確かにビビってました、僕…」


「あれより、さっきの井戸のゾンビの方が何百倍も恐いじゃん」


「あ、アンデッド系なら、僕は大丈夫なんです」


「要するに慣れだよ、慣れ。魔物に慣れてないんだよ」


「はい……確かに」


「ライトさんのランク上げ、かなり大変そうだね、ぷぷぷっ」


「まぁGランクなんて、みんなこんなもんですよ。すぐに慣れますよ」


(この隊員さん、優しい)


「は、はい。がんばります…」



 僕のさっきのビビりっぷりが面白かったのか、冒険者の女性が、しばらくずっと、この話をしていた。


(ビビりですが、なにか?って言いたい…)


 僕は、とりあえず、剣を買おうと心に決めた。剣があればあそこまでビビらなかったと思う。戦う術がないから怖いんだ。


(ロバタージュに戻ったら、すぐに剣を買おう)




 そして、馬車を停めてある場所までたどり着いた。僕は人数の都合で冒険者達とは別の馬車になった。


 ここから、ロバタージュまでは馬車で半日近くかかる。馬車の中で、隊員さんが携帯食をくれた。

 それをありがたくいただき、僕は少し仮眠をとることにした。


 馬車の御者台に座るふたりの隊員さん以外は、結局みんな寝てしまったようだった。

 僕が目を覚ましたときは、みんな眠っていた。


 御者を交代して、後ろに乗り込んできた隊員さんは、みんな寝ていることに、大きなため息をついていた。


 僕がかろうじて起きていたのがわかると、少し世間話、というか愚痴を聞かされた。

 警備隊は、エリートと、その他大勢の差が激しく、自分達がすごく虐げられているという話を熱弁されていた。


 そして、話が一区切りついたときに、僕は、剣のことをきいてみた。


「ロバタージュで、剣を買おうと思うのですが、値段ってどれくらいからあるんですか?」


「剣を持っていないのか?」


「はい。田舎から出てきてバタバタしてたので、まだ必要なものが全く買えていないんです」


「そうか。剣は、安いものは銀貨5枚くらいからあるが、すぐに欠けたり折れたりするからな…。俺は冒険者をやるときに使っているのは、金貨1枚の剣だが、これも安物だ」


「金貨1枚で、安物なんですか?」


「あぁ、やはり金貨10枚以上のじゃないとな」


(金貨1枚は100万円だから…1,000万円?うわぁ)


「そ、そんな高いんですね」


「自分を守る道具だからな、ケチって戦闘中に折れて死んじまったら、って考えるとやはりそれなりのものじゃないとコワイからな」


「あ、あと防具も高いですか?」


「ん? 鎧系も、やはり剣と同じだ。ただ、剣よりは安いけどな。金貨1枚でとりあえずの上下の鎧は買える」


「そうなんですね、よかった」


「ん? おまえの場合は、鎧は厳しくないか? 体力あまりなさそうだが…」


「は、はい。かなり残念な感じです…」


「なら、魔導ローブだな」


「はい、他の人にもそう言われました」


「はっはっ、だが、闇属性を使って聖魔法を撃ってたよな。闇の反射…」


「はい」


「闇属性持ちだと、それに耐えれる魔導ローブじゃないと、すぐに防御能力がゼロになるぞ」


「えっ!」


「装備の防御能力も破壊しちまう力があるだろ? 反射させるために起爆魔法を使うんだから」


「はぁ…」


「それに耐える魔導ローブとなると、特殊な素材を使っているものじゃなきゃ無理だ」


「高そうですね…」


「あぁ、フェニックス系がまだ安いはずだが、たぶん金貨1,000枚はするだろうな」


「へ? 金貨1,000枚ですか!」


(え?いくら?1枚100万×1,000枚……10億円? えー)


「あぁ、だから、魔導士に仕事を頼むと何でも高いんだよ。みんな、良い魔導ローブが欲しいからな」


「そ、そんなの絶対、買える気がしない…です」


「まぁバリア使えるんだから、防具は余裕ができてからでいいんじゃないか?」


「そうですね、はい」




 剣や防具の話をしていると、寝ていた人達が少しずつ起きてきた。興味のある話だから起きたのかと思ったら、話し声がうるさかったらしい…。


 そうこうするうちに、馬車はロバタージュの街の門をくぐった。


(めちゃくちゃ久しぶりな気がする)


 そして、ギルド近くで、僕達は降ろしてもらった。お世話になったお礼を言うと、クリアポーションの件を念押しされた…。ははっ。



「やっと帰って来れた〜」


「ほんと、絶対死んだと思ったよな。しばらくイーシアにはいかねーぞ」


「僕も、ロバタージュに戻ってきたの久しぶりです」


「よし、じゃあ、報告……の前に、ライトさんのランク上げだな〜。さっさと2階に行くぞ」


 ギルドの中は、すごく混んでいた。いまはちょうど報告が多い時間帯のようだった。


 冒険者達に連れられて2階のミッションが掲示してある所へと向かった。僕がたどり着いたときには、もうミッションのカードを選んでくれていた。


(早っ!)


 イーシアの採取ミッションのカードを3枚持って、素材の数が揃っているかの確認をした。うち、1枚は数が足らず断念。残り2枚を持って、初の受注カウンターに並ぶ。


 1階にも受注カウンターはあるが、混雑防止のためか2階にも受注カウンターが設けられていた。

 そして、冒険者達がCランクで同行するという確認をして、僕は無事、初受注が完了した。


「よし、報告は、一緒にするぞ」


「はい」


 僕達は、1階の混み混みの報告カウンターに並んだ。

 そして、いろいろな冒険話を聞き、もう話のネタがなくなってきたと言われた頃に、やっと順番が回ってきた。


 先に、彼らの報告を済ませ、そのあと僕の採取ミッションの報告をした。

 他の素材も買い取ってくれるというので、イーシアの森で通りすがりに集め、魔法袋に入れていた素材をすべて出した。


 報酬と素材の買取で、銀貨2枚と銅貨30枚を受け取った。


 そしてギルドランクが Fランクに上がることになった!


 普通なら採取3つくらいをこなす必要があるそうだが、珍しい素材を買取に出したことで昇格させてくれるという。


 一緒に付き添ってくれた冒険者達は、知り合いに会ったようで、ここで別れることになった。


「また、タイミング合えば、一緒に行きましょう」


「はい、ぜひ」


「じゃあ、またね〜」


「はーい、また〜」



 そして僕は、ランクアップの登録の列に並んだ。


(はぁ、ひとりになると、なんだか心細いよね)

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