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57、イーシアの森 〜 精霊の巫女と呼ばれる彼女

「冒険者の方々まで調査に来られたのですな」


「どうせ、川上の集落からの依頼でしょう? 罠なんだよ!」


「ここよりも川上の集落の方が、呪われているはずだぞ! なぜそれがわからないんだ!」


「おまえ達、そんな言い方をするもんじゃない」


(わっ! なんだか険悪な感じ…)



 イーシアの森の名もなき集落に、僕は居た。


 僕はこの冒険者達とロバタージュに一緒に戻るために、同行している。


 僕はギルドミッションを受注していない部外者なんだけど、集落の人達も警備隊の隊員達も、僕もパーティのメンバーだと思っている。


(何か聞かれたら説明すればいいかな)



 この集落の長らしき人が、住人達の暴言をいましめていた。しかし、住人達は、怒りながらも、なんだか落ち着かない様子だった。


 そして、冒険者達が集落の中をキョロキョロ見渡していると、なにかをかばおうと……いや、隠そうとしているかのような、挙動のおかしな人もいた。



 僕は、集落の中の、住人達が何かを隠しているらしき方向を『見た』…ん?人が集まっている住居がある。

 さらによく『見る』と、病人がたくさんいるようだ。発熱しているらしく、頭を布で冷やしているように見えた。


(伝染病か? 隠そうとしているんだな。見つかると集落は焼き払われるから…だよね)



「この井戸の中に、川上の奴らが毒を仕込んだに違いないんだ!」


「毒だけじゃなく……いや、なんでもない」



 怒っている住人達だが、毒を仕込まれたと言うだけで止める様子があまりにも不自然だった。

 

 その様子に、警備隊も気づいているようだった。


「その毒を受けた者達は、どこにいるのですか? 様子を確認させていただきたい」


「いや、もうたいしたことはなかったんだ」


「それなら、なぜそんなに怒っているんだ? 誰か大切な人を失うかのような、ひどい顔をしているぞ」


「家族が毒で死にかけてるんじゃないの?」


 冒険者達も、そう口を挟む。


「いや、それは大丈夫…だ」


(気持ちはわかるけど……大丈夫じゃないじゃん)




「巫女様! 井戸の水は、この毒は消えますか?」


「え?巫女様? どこの巫女なんだよ? 魔導士か?」


 冒険者達が、集落の長らしき人に問いかけた。


「彼女は、精霊イーシア様の声を聞き、我々に伝える役目をされている巫女様なのですぞ」


「へぇ、すごい。聖女様みたいな感じか!」



 巫女様と呼ばれた、アトラ様は、住人達を見渡した。さらに、警備隊と冒険者達と、最後に僕の顔を見た。


「ライト、浄化できる? 人の呪いだよ」


 急に話しかけられて、僕はびっくりした。えっと、アトラ様と呼んではいけないから…


「巫女様、はい、ある程度のものなら可能です」



 すると、冒険者達が、小声で、僕にどういうことかと説明を求めてきた。


「お兄さん、ライトっていうの? 巫女様と知り合いなの?」


「あ、はい。僕はイーシアの生まれなんです。湖の反対側ですけど」


「あー、なるほどね〜。だからイーシアの森で素材集めしてたんだ」


「はい」



 アトラ様…じゃなくて巫女様の言葉と、それに対する僕の返事に、集落の住民が少しザワザワしていた。それ以上に、警備隊の隊員達がザワザワしていた。


「巫女様、呪いだとおっしゃるのは…その…」


「この井戸の水は、ただの毒消し魔法をかけても毒は消えませんでした」


「それは、水の量が多いですし…あの…」


「量は関係ありません。毒の原因が森の生き物の死骸なら多少の呪いを含みます。ただその程度の弱い呪いなら、毒と一緒に浄化できる。ですが、この水は、魔法を弾くのです」


「ということは、呪詛? 伝染病の源ですか!」


 警備隊の隊員達が、井戸から少し距離を取った。


「人の呪いを含む毒でしょう。生贄にされ、強い毒を飲まされ、ここに投げ込まれた人がいるようです」


(えっ? そんな…ひどいことを? 集落の争いでそこまでするの?)


 巫女様の話を聞いて、この場にいた人達は、シーンと静まり返った。


 そして、さっきまで怒っていた人達は、もう隠せないと悟ったのか、力なくヨロヨロとへたり込んだり、頭を抱えたりしていた。



「落ち込む必要はありません。私とライトを、病人の元へ連れて行ってください」


「えっ…いや、病人なんて…」


「すぐに焼き払うとは言わないさ。そうか、ライトか、思い出したぞ。おまえ、ポーション屋だな? フリード様の命を救った英雄だろ?」


「へ? 僕が? えっとポーション屋ですけど…。英雄だなんて初耳です」


「いやいや、レオンが、おまえの話をしていたのが広まったんだ。ライトと出会えなかったら死んでたって奴も何人もいるしな、警備隊では有名な話だ」


「そ、そんなたいしたことは…」


「ハデナのケトラを従えたって聞いたぞ。ケトラがライトを背に乗せて空を駆けたとか、そんなおとぎ話のような話も聞いたぞ」


 それを聞いて、アトラ様…じゃなかった巫女様もちょっとピクッと反応してらっしゃる…。


(やめて、そんな誤解を招くようなこと言わないで!)


「あ、あの、巫女様、話が変な感じに伝わってるだけですから…僕はそんな…従えたりしていませんから」


「ふぅん、そっか」


(えーっ! なんか絶対、誤解してるよね…)



「そ、それより、病人の治療の方を優先する方がいいですよね。いまも苦しんでるんだから」


「えっと、ライトさん、いえ、その病人は…」


 僕は、集落の長らしき人を見た。彼も決断できず、戸惑っているようだった。


(まぁ、そうだよね…認めると焼き払われるかもしれないんだから)



 僕はアトラ様にコッソリと話した。


「場所はわかっていますが、病状は見えません。発熱されているようですが…」


「うん じゃあ、近くに行くしかないね」


「はい」



 するとアトラ様…じゃなくて巫女様は、ここにいる人達に、このままここで待機しているようにと話された。


「えっと、巫女様は、どうされるのですか?」


「私は、ちょっと気分転換にライトと集落の中を散歩します。休憩時間ですから放っておいてください」


「散歩って…あの…」


「ついてこないでくださいね」


 そう言うと、アトラ様は、僕の腕をキュッと掴んだ。

 なんだかデートのお誘いのような気分になり、僕は一瞬ドキッとした。


「ライト、病人どこ? いくよ!」


「あ、はい。こっちです」



 集落の住人達は、巫女様の命令だが、少し離れてついてきた。警備隊の隊員も、二人ついてきた。


 冒険者達はそもそも巫女様のことを知らないわけで…命令を聞く気もないようだった。当然のように4人ともついてきた。


「なんか、ついてくる人の方が多いような…」


「病人がいるのがわかれば、怖がって入ってこないよ、きっと」


「まぁ、そうですね」


(アトラ様と腕を組んで歩いてるよね…いま…)


 僕は、こんなときに意識しちゃダメだとわかっているんだけど、やっぱり少しドキドキしてしまう…。




 そして、病人がたくさんいる住居の前まで来た。すると中から、慌てて人が飛び出してきて、ここには誰もいないと必死に僕達が入るのを止めようとした。


 すると、後ろからついて来ていた集落の長らしき人が近づいてきた。


「もうよい。巫女様は、すべてお見通しだ。隠しきれるものではない」


「ですが…」


「この彼、高位の白魔導士ですから、治せるかもしれませんよ」


「えっ!? 本当ですか!」


「えーっと…高位かどうかはわかりませんが、強くない呪詛なら消し去ることは出来ます」


「な、なんと!」


「巫女様、ライト様、よろしくお願いします」


 やっと、集落の長らしき人の許可が下りた。


(はぁ、なんか治す前に、気疲れ…)


「ライト、大丈夫?」


「はい! 大丈夫です」


(よし! がんばらなきゃ)




 住居の中は、ゴザのようなものが敷き詰められ、たくさんの人が寝かされていた。

 看病している人達も、体調が悪そうだった。おそらく病人が病人を看病しているのだろう。


 僕は、誰から治療すればいいのか、病人の数の多さに圧倒されていた。


「ライト、あの子、まずいよ」


 アトラ様…じゃなくて巫女様が指差した先には、10歳前後の男の子がいた。もう意識も保てない状態のようだった。


 僕は、男の子のそばに行くと、看病していた人達がちょっと動揺していた。


(あ、僕も感染すると思われてるのかな…)


 一応、ゆるくバリアを張った。


 そして、男の子を『見た』…うん、肩に呪詛がいる。


 僕は、男の子の肩にスッと手を入れ、呪詛を掴んだ。何かが伝わってきたが、ジャックさんの中にいた呪詛に比べるとずいぶん弱い。

 僕は掴んだ呪詛に蘇生!を唱えると簡単にパリンと割れた。そして回復! よし!完了。



「巫女様、次はどなたを?」


「えっ? もう終わったの?」


「はい、弱かったんで、大丈夫です」


「えっと、あとは死にかけている人はいないよ」


「わかりました、じゃあ、近くから順に治していきますね」


「うんうん」



 そして、僕は近くの人から順に、呪詛を消していった。ただ、まだ呪詛の塊ができていない人もかなりいる。


(弱い呪いならクリアポーションで大丈夫かな)


 僕は、アトラ様…じゃなくて巫女様に、クリアポーションを20本ほど魔法袋から出して渡した。


「まだ呪詛の塊ができていない弱い呪い状態の人に、飲ませてもらっていいですか?」


「いいよー。ん? これ、新作?」


「はい、クリアポーションです。毒も呪いも弱いものは消せるはずなので」


 その僕の説明を聞いて、看病していたひとりが食いついてきた。


「あ、あの! それ、売ってもらえるのですか?」


「あ、まだ価格査定を受けていないので…病人さんの分はお渡ししますよ」


(あ、この人も病人だよね)


 僕は、話しかけてきた人にも1本渡した。すると、彼はすぐに蓋を開けて飲み干した。

 

「えっ! な、なんですか?この味」


「パナシェというカクテル風味なんですよ。体調はいかがですか?」


「すごい!完全に毒が抜けたようです。それにこれ美味しいですね。果物の香りの甘いエールみたいだ」


「よかったです。あなたも、他の方にポーション飲ませるのを手伝ってもらえますか?」


「はい、もちろん!」


 そして、僕がスルーした人に、巫女様と彼が順にポーションを飲ませていった。

 僕は、呪詛の塊ができている人の呪詛を消し回復していった。


(よし、全員完了かなー)


 僕は、最後にあちこち回って、病人みんなにシャワー魔法をかけた。僕と、アトラ様にも。


「よし! これで完了ですね。 次は井戸かな」


「うん、そだね。ライト、疲れてない? 大丈夫?」


 アトラ様は、シャワー魔法をかけている間、僕の顔をじーっと見ていた。その瞳が少し揺れている。僕のことをとても心配してくれているようだった。


「はい、大丈夫です」


(アトラ様にそんな顔で心配されたら……疲れなんて吹っ飛ぶよね、うん!)



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