55、イーシアの森 〜 ライト、再生魔法を試す
「うーん、誰もいなーい」
(とりあえず、リュックからポーション移そうかな)
僕は、魔族の国から地上のイーシアに戻ると、用事があるというナタリーさんに、置き去りにされてしまった。
定期的に行き来している馬車が来れば、ロバタージュに戻れるらしい。ナタリーさんが指差した方角とは少しズレた所に、停留所っぽいものが『見えた』…だが、そこまではかなり距離がありそうだ。
僕は、湖岸で悩んでいても仕方ないので、リュックを軽くするために、中のポーションを移し替えることにした。
魔ポーションが3本できていたのでうでわのアイテムボックスに入れた。
新作のクリアポーションだらけだ…。これはまだうでわに入れてなかったから、とりあえず100本をうでわのアイテムボックスに入れた。
あとの残りは、すべて魔法袋に、で整理完了っと。
(さて、まぁ、水汲みも、ちょっとやっておこうかな)
僕は、リュックの中からペットボトルのような容器を出し、水を汲み、リュックに入れる作業を始めた。
リュックが成長したら中に入ってる素材が確認できるらしいけど、確か女神様は僕の魔力が3,000にならないとどうとか言ってたから…まだまだだよね。
そして、水汲みに疲れた僕は、森に向かって薬草を摘みながら移動することにした。
太陽は赤から青に変わろうとしていた。風も少し冷たくなってきた。
ぷちぷち、ぷちぷち、ぷちぷち……はぁ。
(夕方、かな? そういえば、全然寝てない…)
魔族の国に居たからか、死霊の姿でいる時間が長かったからか、そういえば、僕は全然寝てない。
なんだか、人でなくなったような…ちょっとさみしい気分になった。
ぷちぷち、ぷちぷち、ぷちぷち……ふぅ。
(寝なくても、僕は平気なのかな…やっぱ半分幽霊なのかな…)
魔族の国では、死霊の地位はかなり低いらしい。種族ごとに地位があるというのも、なんだか差別的で感じ悪いけど、まぁそういう国なんだろうな。
そして、人族の国でも、僕は…ぱっとしない。冒険者ランクもまだ登録しただけのGランクだしなぁ…。
ぷちぷち、ぷちぷち、ぷちぷち……あ!
(そうだ!ミッション受注しないと、期限切れになるんだっけ?)
とりあえず、ロバタージュに戻って、ミッション受注かな。あ、その前に、風邪薬…じゃないや、クリアポーションの査定も行かないとね。また時間かかったら嫌だな…。
なんだかんだ考えながら、やっぱり摘み始めるとやめられない僕は、森への入り口までたどり着いた。
ぷちぷち、ぷちぷち、ぷちぷち……ん?
(なんか急に薬草が減ってきたと思ったら…)
森への入り口付近には、果物が実る木があった。ライムかレモンのような香りが漂っている。
あ!この実って、甘いレモンかライムの砂糖漬けのようなやつだ! モヒート風味のポーションの素材だよね。パナシェ風味のにも入ってる気がする。うん、しっかり集めておかなきゃ!
僕は、せっせと果物を収穫した。途中、少しかじってみると、うん、これやっぱ美味しい。甘酸っぱい果物のおかげで、僕は少し元気が出てきた。
このイーシアの森は、とにかく広い。あちこち探せばいろいろな素材が手に入りそうな気がする。
でも、湖から少し離れると魔物がいるんだっけ。前に警備隊の隊員さんから注意をされたことを思い出した。
(そういえば、防具や剣とかも買う方がいいよね)
でも剣を使えるのかというと…自信はない。防具は、体力ないから、鎧じゃなくて魔導ローブだよね…高いのかな? うーん…。
(魔道具も、揃える方がいいよね)
とすると、やはりギルドでミッションを受注してお金を稼ぐ必要がありそうだ。
ポーションを行商するだけでもそれなりに稼げるけど…そもそもの魔道具や魔導ローブの値段もわからないしなー。
アレコレと考えながら、果物を集めていると、少し離れた別の森の入り口あたりから、何か聞こえてきた。
(人の声? 冒険者かな?)
イーシアの森は、様々な素材があるから、ギルドに採取ミッションがたくさん掲示されていたのを思い出した。あのときは湖のミッションはなかったと思うけど…新たに増えたのかな?
僕は、声のする方を『見た』
(げっ?何あれ…化け物がいる…人も3人いや4人?)
そして、その声はだんだん悲鳴に変わっていった。
「誰か、助けてくれー!」
化け物に剣を向けていた人達だが、化け物に攻撃は効かないらしく、なぎ払われ、次々と地面に叩きつけられているようだった。
僕は、戦うチカラはないけど、倒れている人達を回復して逃がすことはできるかもしれない。僕は彼らの方へ向かって走り出した。
僕は、自分にバリアを張り、彼らの近くにたどり着いた。
(うわ…ひどい…)
倒れている人達は4人すべて、腕や足が引きちぎられたようになっていた。いや、喰われた…のかもしれない。
化け物は、人より大きいカブトムシのように見えた。いや、違う……蟻だ!
そして、化け物は僕が来たことに一瞬警戒したものの、剣を持っていないからか、もう腹がふくれたのか、フンっと僕を無視して、森の中に入っていった。
「みなさん、すぐ回復しますから頑張って」
僕は、倒れた4人にスッと手を入れ、回復!していった。止血と体力回復ができた。4人とも意識もはっきりしている、よかった。
全員にシャワー魔法をかけ、血で汚れた地面にもシャワー魔法をかけた。
「あ、ありがとう……絶対死んだと思った…」
「助かったよ、ほんと。キミのこと神様に見えるわ〜」
「あはは、いえ。声が聞こえたから…」
「あー、叫んでよかったよ。もしかしたらこの地の守護獣が助けてくれるかもって思って…」
(アトラ様のことだ)
「いや、守護獣なんてイーシアにはいないだろ?精霊がチカラを失っているんだから」
「しかし、腕1本無くしちまったな……冒険者続けるのは厳しいか」
「俺なんて、両足喰われたぞ…」
「修復すればいいんじゃない。ギルドで呼んでくれるらしいよ、高位の白魔導士」
「そんな金あるかよ!」
「修復という魔法ですか? 高いんですか」
「うーん、よくは知らないが、下手なヤツに修復してもらうと義足みたいな変な仕上がりになっちまうらしいから、高位の白魔導士に頼まないと、元には戻らないみたいなんだ」
「冒険者仲間で、右手が長いヤツいるけど、それ、修復失敗みたいだし」
「そうなんですね…」
「失敗でも、ないよりは全然いいじゃん」
「蘇生魔法が使えるほどの魔導士じゃないと…やはり。失敗した再生は、ずっと痛みが続いたりすることもあるらしいぞ」
「それもつらいねー」
「あの、蘇生魔法を使える魔導士なら、修復というか再生ができるのですか?」
「そりゃそうだろ。蘇生の方が圧倒的に高度な魔法だぞ?」
「なに? お兄さん、白魔導士のくせにそんなこと知らないの?」
「あはは、僕はポーション屋なんですよ。田舎の生まれなのであまり詳しくなくて」
僕は、右腕を失った人の腕を、再生しようとイメージしてみた。頭の中に読めない文字が浮かんだ。うん、いけそうだな。
「ポーション屋?なら、俺達を回復魔法で回復しないでポーションを売ればよかったんじゃ?」
「あはは、確かに。僕も焦ってたので、魔法使っちゃいました」
「死にかけてたときにポーションなんて売りつけられても、飲めないよー。だいたい意識飛んでたし」
「まぁ、そうだな。しかし、この状態でどうやって街に戻るかな…停留所までかなりあるだろ」
「あ、両足か! うーん…。俺は腕だからいいが…」
「あの…僕、もしかしたら再生できるかもしれません。やったことはないのですが、試してみてもいいですか?」
「えっ? できるの? いや、ちょっと待て!いきなり俺で実験してみるとか言うなよな」
「ポーション屋なのに、高度な魔法を使えるってこと?」
「たぶん…。僕、蘇生魔法は使えるので…」
「「えーっ!?」」
「ただ、初めてのことなので、上手くできるかはわからないのですが…」
すると、冒険者達は互いに顔を見合わせた。ただ、他に頼るものがないのも事実だった。両足を喰われた人が、口を開いた。
「じゃあ、俺で試してみていいぞ。失敗しても歩ける程度に足を修復してもらえたら、それで構わないから」
僕は、他の人達の顔を見てみた。みな、うんうんと頷いていた。
「じゃあ、やってみます」
さっき、失敗すると義足のようになると言っていたよね…。キチンと繋がりを意識できないと、そうなるような気がした。
僕は、彼の足を『見た』
止血したものの引きちぎられたことで、砕けた骨が散らばり血管の先に妙な血溜まりがあったり、変な肉の塊ができたりしていた。
それに、もともとの彼の足の形がわからない。
(あ! 彼自身の記憶を使えばいいか)
僕は、彼の頭に右手をスッと入れた。
「えっ! な、なんで?」
「あ、いきなりすみません。僕、透過魔法みたいなのも使えるので…貴方自身の記憶に従って再生してみようかと思って…」
「へっ? ま、まぁなんでも、やってくれい」
(なんか、ヤケクソ?みたい…)
僕は、気を取り直して、再生作業を続けた。
左手を彼の腰あたりにスッと入れた。そして、右手から左手へと魔力が流れるようにイメージをして、再生!を唱えた。
すると、彼の足がするすると伸び、再生が完了したようだ。よし!
「あの…足どうですか? 形とか、動きとか」
彼も、見ていた人達も、ポカンとしていたが、僕の声でハッと我に返ったようだった。
「あ、あぁ、凄い!ほくろまで再現してあるんだな。全く痛みもないよ。すごいな」
「ほくろまで?ですか。ははっ、よかったです」
「ちょ、次、俺の腕、頼むよ!」
「いや、私の腕でしょ、レディーファーストでしょ!」
僕の魔力切れを予測してか、順番争いが始まってしまった。
「大丈夫ですよ、魔力切れにはなりません。ポーション屋ですから魔ポーションも持ってますし」
すると、3人の顔がパッと輝いた。
僕は、順に3人の、腕の再生!を完了した。
「ほんと、助かったよ、ありがとう。命の恩人なだけじゃなく、修復までしてもらって…。お代はどうすればいいんだ?」
「そうだよね、お代、払わなきゃ」
(えー?そんなの…相場もわからない)
「いえ、今回のは実験も兼ねていたから、別にいいですよ」
「いや、でもそういうわけにもいかないだろ」
「あ、じゃあ、僕、ロバタージュに戻りたいのですが、街までの護衛をお願いできますか? 僕は全然戦えないので…」
「おぉ、それなら任せろ! あ、ちょっとその前にギルドのミッションで寄り道してもいいか?」
「わかりました。採取ですか?」
「いや、調査なんだ。伝染病の…」
(えっ! また…集落が焼かれるの? そんな…)




