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53、ホップ村 〜 悪魔族ハンスが語る

 いま僕は、ホップ村の旧村、石山の真ん中あたりの畑の地下?にいる。


 ここはとても明るい。魔族の国はずっと夜なのに、この場所はまるで昼間のようだった。


 畑の肥料になる木の魔物だけでなく、このフロアには緑が溢れている。野菜もいろいろ栽培されているようだ。でも石山の中なのに、なぜこんなに明るいんだろう?



「う〜ん…ぷしゅー」


(ん?クライン様、完全に爆睡中かぁ。ははっ、寝てると普通にチビっ子だな、かわいい〜)


 僕の将来の主君クラインは、木の魔物を倒した反動で、疲れたのか炎が怖かったのか、いまは思いっきり おやすみ中だった。


 けっこう寝相が悪く、僕に寄りかかってただけだったはずが、ゴロゴロと動き回って、いまは僕の足の間に入って膝枕状態で爆睡していた。


 声をかけても、かるく揺すってみても、ほっぺをツンツンしても…全く起きる気配がない。


(そろそろ上に戻らないと心配されそうだけど…)


 このまま、抱きかかえて霊体化もできるが、そうして彼が眠ったまま上に連れて行ってしまうと、彼のプライドを傷つけてしまいそうな気がして、僕はどうすべきかと悩んでいた。



 ザッザッザッザッ



 遠くから、何者かがこちらに近づいてくる足音が聞こえてきた。

 僕は念のため、ガードを張り直した。そして足音のする方を『見た』


(あ!あれって確か、ハンスさん?)


「どうされました?なかなか戻られないから、ちょっと心配しましたよ」


「あ、すみません…クライン様が寝ちゃって。何をしても起きないんですよねー」


「ん?何があったんですか?」


「クライン様が魔剣を放って、木の根を焼き切ってくださったのですが、その後に木が燃え上がったことに驚かれて…僕が土をかけて消したのですが、そのあとから様子がおかしくて、気がついたら寝ちゃってた…という感じなんです」


「あ〜、なるほど。この子は火を使ったんですね」


「はい。あの…何か?」


「ええ…。その前にひとつ、いいですか?」


「はい」


「ライトさんは、本当にこの子の配下になるつもりですか?」


「えっと…死霊だからマズイのでしょうか」


「いえ、そういう種族のことではないのです。まだ会ったばかりの、しかもこんな子供に仕えるとは…何か裏があるのではと疑ってしまうものでしてな」


「あーなるほど…」


「俺は、もともとあっち側だったんですが、事情があって、子供達の見守りをしているんですわ」


「あっち側とは…あ、あちらの塔の?」


「ええ、俺はこれでも一族では優秀だと言われる方でしてね。我々の種族は長生きな反面、子供が出来にくい。だから子供の教育や成長を見守ることは重要なことなのですわ」


「それで、教育係として、こちらに戻られたということなんですね」


「うーん…まぁ、そうするしかなかったからですけどね」


「はぁ…」


(うん? なんだか…?)



「あ、すみません。ナタリーにもきつく叱られたんですがね、どうしても確認しておきたいわけでして」


「はい…」


「なぜ、クラインを主君にと考えたのですかな?」


「ん〜…流れ、でしょうか?」


「は?」


 ハンスさんは、何かの詠唱をしていた…。探知には自信があるとか言ってたから、僕の心の動きも見えるのだろうか? 悪魔族って…人をたぶらかすって言うもんね…。


「えっと…上手く説明できる気がしないのですが、なんというか、直感でしょうか」


「直感というと? この子は利用できると?」


(あ、やはり…そうくるか)


「利用というのとは少し違いますね…。クライン様は、僕が他の死霊とは違うから配下にしてやるとおっしゃっていました」


「特異な能力を持つから、ですよね?」


「いえ、他の死霊と違うと僕がいじめられるから、配下にしてやると…」


「えっ?いじめられるから、ですか?」


「はい。僕を、他の死霊などから守ってくださるつもりのようです」


「なんと!そんなことを…」


「はい。それに一緒にご飯を食べているときにこの話をしてから、もう既に主君のように、僕を守ってくださっていますから」


「食事時の、子供のたわごとでしょう?」


「僕もそう思っていたのですが、クライン様は本気のようでしたので…」


「それに合わせたというわけですか」


「はい。そのうち大人になって気が変わられたらそれはそれで構いません。でも今は守ってくださるという気持ちがうれしかったので…」


「うーむ…。クラインの方が、あなたを欲しているようですな」


「欲しているというほどではないと思いますが…」


「いえ、ナタリーにも言われましたが…確かにライトさんにはクラインの配下になるメリットはないですね…。クラインの方が圧倒的にメリットがある」


(ん?また、なんだか妙な言い方…?)


「あの…いったい?」


「わかりました、お話しましょう! あなたには知っておいてもらいたい」


 そして、ハンスさんは語り始めた。


「クラインは、3つのときに父親を亡くしています。彼の父親は、私の息子ですわ」


「えっ! では、ハンスさんはお爺様」


「ええ。ですが我々一族は、爺がたくさんいるわけで、紛らわしいのでメトロギウス様以外のことは名前で呼んでいますが」


「そうなんですね」


「息子が子育てを終える前に亡くなりましたから、俺が一応、父親がわりを務めるために、石山に戻ったんですわ」


「それで…なるほど」


「だが、クラインは年の割に大人びていましてな。母親のことも、ルーシーのことも、自分で守る気でいるようで…」


「僕もそれに入れてもらった…という感じですね」


「ははっ。まぁ本人はそのつもりのようですがな、逆でしょう?いや、あなたに父親の面影を重ねているのやもしれませんな」


「えっ?もしかして、似ているのですか?」


「いや、姿かたちは全く似てない。だが、クラインへの接し方がとても似ているんですよ」


「ん?そうなんですか」


「息子は、頼りない奴でしてな。戦いが苦手で…だからクラインには物心つく前から剣を持たせて戦い方を学ばせていたようなんですわ」


「…ちょっと僕に似ておられる気がしてきました」


「そうですか?息子は、低俗な魔物でさえ殺せませんでしたよ?メトロギウス様が厄介者扱いされているライトさんのことは、ここ石山でも皆、知ってますよ」


「あー、門番の件ですか…あれは、ちょっとうっかりして…」


「まぁ、門番が大げさなことを言ったのかもしれませんが…。すみません、話がそれましたな」


「あ、いえ」


「ライトさんは、クラインを頼るフリをして戦いに慣れさせようとされた。それが息子と同じなのです。息子もさすがに3つの子供に頼るほどひどくはありませんでしたがな…そうやって育ててきたんですわ」


(いや、僕は、本当に戦えないんだけど…)


「そうなんですね。あ、あの、クライン様が眠ってしまった理由に心当たりがあるようでしたが?」


「ええ、火を使ったから、でしょうな」


「どういうことですか?」


「クラインは、父親を亡くしてから一切、火は使わなかった。ただ剣を振るうだけの戦い方しか出来なくなってしまったのですわ」


「お父様の死と関係が?」


「ええ、あの子の父親は…俺の息子は、飛竜の吐く炎に焼かれて死んだんですわ、あの子の目の前でね…」


「え…」


「まぁ、飛竜からあの子を守って死んだ…といえば聞こえはいいですが、実際には、逃げる能力がなかったんですよ…」


「そう…なんですか…」


「それ以来、あの子は変わってしまった。泣き虫だったのに一切泣かなくなった。しかし火への恐れは克服出来なかった…。調理の火でさえ近寄れなかったんですわ」


「当然ですよ、トラウマになります…」


「だが、あなたを守るために、火を使ったのですよね。ナタリーが予想したとおりに…」


(え?ナタリーさんの予想?あ!だからあのとき妙にニコニコしてた?)


「これでもう、あの子は火を使える。まぁ完全に克服するにはまだ時間はかかるでしょうけどね」


「それで、いま……呪樹の討伐で疲れて眠ってしまっただけじゃなかったのですね」


「ええ。ですが本当に、クラインはあなたのことを信頼しているんですね。それ、いったいどういう体勢ですか?」


「え?あー、なんか寝相が悪くてゴロゴロと…で、こんなことになってます〜」


「この子が父親以外の男性にくっついている姿は初めて見ましたよ。甘えているんでしょうね」


「ん〜、寝てるから、たまたまじゃないですか」


「俺が添い寝をしようとすると、絶対にすぐ目を覚ますんですわ…まぁ嫌われているだけかもしれんが」


「あはは」




「うーん? ふわぁ?なに?どこ?」


 やっと、クラインが目を覚ました。僕の左足はずっと枕をしていたせいでジンジンしびれていた。


「クライン様、お目覚めですか〜」


「あれ?ライトの上で寝てたのか?俺…」


「はい、ちょっと休憩しましょうって言った瞬間、おやすみになってましたよー」


「…あははは、そうだっけ?」


「魔力切れだったのかもしれませんね。かなりぶっ放してましたもんね」


「あー、うん、そうかもな。ん?なんでハンスがいるわけ?」


「えーっと、あれだ、あの、階段を見に来たんだよ、ふさがってしまったからな」


「そうだよ、そのせいで、俺、ライトに半分死霊にされちゃったじゃないかー」


「あ、あれは、あの時だけですよ? クライン様は、クライン様のままですよ?」


「えっ?そうなの?なーんだ」


「残念そうだな。そんなに面白かったのか?」


「当たり前じゃん! だって、土も通り抜けるんだぞ。ふわふわ浮かぶし、変な感じだった」


「僕の飛び方を体験してもらえてよかったです」


「おうっ!」


(あ!うん、じゃなくて、おう、に戻った。よかった)


「では、上に戻りましょうか」


「そうだな。ホップ畑も見に行かないといけないしな」


「え…あ、はい」


「俺も上に…」


「あれ?ハンスさん、どうやってここまで?」


「このフロアは、ずーっと繋がっているからな。他にいくつも降りる階段はあるんだよ」


「ずーっとですか?」


「ライト、上は家だらけで、ここは畑だらけなんだぞ」


「上と、このフロアは同じくらいの広さがあるんだよ。さらに下には、狩り場があるがな」


「じゃあ、ここの石山の中だけで完全に自給自足できるんですね」


「自給自足どころか、有り余ってるから、あっちの村のレストランの食材も、ここから運んでるんだがな」


「へぇ〜そうなんですね」


「早く上に戻るぞ」


 と、言いつつクライン様は、僕の腕をむんずと掴んだ。これはもしかして…


「クライン様、もしかして、また霊体化したいんですか?他の階段があるなら…」


「他の階段は遠いぞ。またうっかり呪樹の根を踏んだら、邪魔くさいことになるぞ」


「確かに…。じゃあ、ここから上がりましょうか」


「おう!」


「ハンスさんは?」


「ハンスは、階段を直すからここにいるんだろ?」


「え? あ、あー、そうだな」


(ハンスさん、言い訳したのをすっかり忘れてたって顔してるし…)


「じゃあ、行きますよ」


「おうっ!」


 僕は、霊体化!クライン様も霊体化させ、重力魔法を使って、上へと上がっていった。やはり、土に触れるときは、クライン様は息を止めて、うっぷ、とか言ってる…。


(でも、楽しそうだから、ま、いっか)

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