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51、ホップ村 〜 ライトの宣言

 いま僕は、ホップ村の 石山の中の洞窟のような村にいる。ナタリーさんが生まれ育った場所がここなのだそうだ。


 ここが以前に大規模な攻撃を受けたときに、平地へと村ごと引っ越したらしい。新しい村は、高い魔法の塔を中心とした整然としたまちづくりがされている。


 ただ、住み慣れた場所を離れたくない多くの住人は、この石山の村を主に利用していた。ここはホップの生産を始めとするこの村の農業の中心地でもあった。


 そして先程、この石山の村は、空から突然の攻撃魔法を受けて一部が崩れ、多くの怪我人が出ていた。

 その治療がやっと落ち着いたのだった。





「ナタリーさん、下の方に、ビー玉がありそうなんですが、探して来てもいいでしょうか?」


「ん?ここの下?」


「はい、あの畑っぽいとこから数メートルくらい下の方に……あれ?人がいる?」


「え?どこ?」


「収穫用っぽいバケツが転がっている真下あたりです」


 ナタリーさんはビー玉、もとい宝玉の光はもう見えないそうだが『眼』は持っている。透視は僕と同じようにできるのだ。


「あ!見つけたわ…背中から腹に…木の枝が刺さっているみたいね…」


「え?あれ、刺さってるんですか? マズイですよ…僕、ちょっと行ってきますね」


「ライトくん、ちょっと待って!あの木は…」


「どうした?ナタリー」


「ここで農作業していた男の人で居なくなってる人、いない? 畑の下のフロアの木が生えてるとこで、串刺しになってる人がいるのよ」


「なんだと? おい、誰か、ここで農作業してた奴、知らないか?」


「ハンスじゃないか? 下で肥料作ってたんじゃ?」


「ほんとだ!ハンスがいない!」


「ねぇ、この下に生えてる木って…もしかして、肥料の素材の魔物?」


「あぁ、呪樹だ。えっ?まさか、その木に刺さってるのか?肥料を作っていた足場から…落ちたのか?」


「おそらく…でもまだ息はあるわ」


「…あ…ぁ…。なんてことだ…」


「呪樹っていう魔物なんですね?攻撃性は?」


「枝や幹の皮で引っかけて相手に呪いをかけるだけだ。枝を揺らすくらいしか動けないが…引っかかれて傷をつけられたらおしまいだ。土の中の根にも触れるな」


「わかりました。じゃあ、僕、行ってきます」


「ライトくん、無理はしないでね」


「大丈夫です、では!」




 僕は、アレコレとバリアを張り、霊体化!そして念のため透明化!を念じた。

 そして、重力魔法を使って、土の中へと入って行った。


 ビー玉の光が気になったが、まずは人命優先だよね。僕は、串刺しになっている人の元へ行った。


「ハンスさん、ですか?」


「あ…う…」


「すぐ助けますから…手を触りますね」


「見え…な…い…」


「大丈夫ですよ、心配しないで」


 僕は、ハンスさんの手を握り、霊体化!を念じた。ハンスさんは僕が半分霊体化したときのように、壊れたテレビのようになった。


 そして、そうっと引っ張ると、ハンスさんの霊体化した身体は、串刺しになっていた木から抜けた。木の魔物は気づいてないのか、全く動かなかった。


 そして僕は、重力魔法を使って、上に霊体化したハンスさんを連れて上がっていった。




 僕が、ハンスさんを連れて戻ると、ガヤガヤ騒いでいた人達がシーンと静まり返って、少し距離を取った。


(呪いを恐れているのかな……にしてもリュック急にめちゃくちゃ重いんだけど…)


 僕は、霊体化と透明化を解除し、ハンスさんを地面に下ろした。すぐに出血を止めようと回復!したが、一瞬血は止まるが、すぐにまたじわじわとにじんでくる。


(呪詛かな?にしては…黒い塊が見当たらない…)


 僕は、ハンスさんの身体を慎重に『見た』が、黒い塊も、黒い魚のように動き回るものも、何も見つけられなかった。


「ライトくん、台を作ったから、乗せるわね」


「あ、はい」


 ナタリーさんは、ジャックさんの呪詛を取り出したときに使ったような、シンプルな透明の台を作り、ハンスさんをそこにふわっと移動させた。


「彼の血が、地面に流れると呪いが移るからね…」


「あの、呪詛が見当たらないんです…でも回復が効かないから、呪いは受けていると思うのですが…」


「まだ、呪いが弱いのね…。呪樹は、強い呪いを持たないから…」


(どうすればいいんだろう…。あ!そうだ!)


「ナタリーさん、回復魔法は呪いで効かなくても、ポーションなら効きますか?体力回復できますか?」


「ん〜どうかしら…普通のポーションは、やはり呪いのせいで効かないと思うけど…。あ、でもライトくんのは精霊の加護を受けた水を使っているから、いけるかもしれないわ」


「じゃあ、試してみます!」


 僕は、いったん、念のためシャワー魔法をかけてから、重くなっていたリュックを開けた。


(どっちゃり出来てる。ん?あれ?)


 予想どおり、大量のポーションが出来ていたが、見たことのないラベルのものが大半だった。


 僕は『C10』と書いてある新作のラベルを確認した。


『クリアポーション。体力を1,000回復する。

(注)クリア効果は、弱い毒、弱い細菌、弱い呪いをすべて消す。中程度のものには改善が期待できる程度。強程度のものには効果はない』


(これって…呪い、消えるかも?)


 僕は、この新作を、ハンスさんに付いているナタリーさんに渡した。


「これで、もしかしたら呪いを消せませんか?」


「ん?新作ね?すぐ試してみましょう」


 ナタリーさんは、意識もうろうとしているハンスさんに、新作のポーションを飲ませた。

 すると、ハンスさんのお腹の傷口はみるみる塞がり、ハンスさんは意識を取り戻した。


 まだ少し、背中の傷が残っていたので、僕は回復!をかけた。今度はしっかり回復できた。呪いは消えたようだ。よかった!


「呪いが消えたのか?そのポーションで…?」


「はい、消えたようです。回復魔法がしっかり効くようになりましたから」


「貴方はいったい…?」


「回復魔法を使うのに、さっきの姿は…死霊だよな?どういうことだ?」


「えっと…僕はポーション屋です。完全な死霊というわけでもないので…」


「変異種か?だから神族に?」


「もう、いやーねぇ、死霊でもなんでもいいじゃないの〜。ハンスさんは元気になったんだからー」



 僕は、まわりにシャワー魔法をかけて、呪いが残っているかもしれない血を洗い流した。


 もしかしたらハンスさんの弱い呪いは、シャワー魔法をかければ消えたのかもしれない。ただ、体内にシャワー魔法を使うのは…別の弊害がありそうでこわいな…。


「でもさすがね、ライトくん。その新作、すごく使えそうじゃない?」


「はい!よかったです」


「毒消しのポーションはよくあるけど、細菌や呪いに効くポーションなんて聞いたことないわよ」


「細菌ってことは…伝染病にも効果ありますか?」


「そうね、風邪くらいなら治りそうね」


(まじか!すごい!風邪薬!やった〜)




 僕が風邪薬ができて、感動していたときに、数人の人達がバタバタとやってきた。

 なんだか武装していて、怖そうな人達だった。


 その後ろから、チビっ子ふたりもパタパタと走ってきているのが見えた。


「崩落はこの辺りか?被害の状況を教えてくれ!」


 武装した怖そうな人が、ここに集まっていた住人に問いかけた。住人達は、ナタリーさんの方を見て、ナタリーさんがそれにうなずくと、状況報告を始めた。



 爆発でこの辺りが吹き飛ばされ、ガレキの山で向こう側へ行けなくなったこと。そのときに多くの負傷者が出たこと。

 ガレキを崩したら、何人もの瀕死の状態の怪我人がいたこと。

 途方に暮れていたら、ナタリーさんと僕が来て、彼らを治療したこと。

 そして、畑の下のフロアでハンスさんが呪樹に串刺しになっていたこと。

 それを僕が助けに行って、不思議なポーションで呪いを消したこと、などが報告された。



「おまえは…もしかして、門番達が、騒いでいた死霊か?」


「なぜこの村の住人を助けた?何が目的だ?」


(うわっ、この人達、大魔王様みたいだな…こわっ)


「ちょっと、あなた達ね! なんなの?その態度は」


「あぁ?ナタリーか。おまえが連れて来たんだったな」


「自分の同族を助けてもらって、どうしてそんな言い方しか出来ないのかしら?バカ兄貴のバカ菌に感染したのね、かわいそうに」


(ナタリーさん…バカ菌は、言いすぎ…)


「なっ?なんだと?女神の代行者だからって偉そうに!これだから神族は…」


「コイツは、大魔王様が危険視されている死霊だぞ?そもそも死霊を村に招き入れるなど、なんて愚かな」



「ライトをいじめちゃダメだぞ!」


「そーよ、そーよ…はぁはぁ」


 チビっ子ふたりが、駆け込んできて会話に入った。武装した男達は、一瞬、困った顔をしたものの、まともに子供の相手をする気はないようだった。


「君達には関係ないことだ、引っ込んでいなさい。大人の話だ」


「ライトは、俺の配下1号にするんだから、あげないからね」


「そーよ、そーよ」


 クラインが、僕をかばうようにして、僕の前に立った。


「なっ?死霊だぞ?坊っちゃん」


「みんながライトをいじめるから、俺の配下にするんだ! 誰にも文句は言わせないからな」


「そーよ、そーよ、クラインかっこいい」


(うんうん、クラインかっこいい)



「ちょっと…はぁ、まいったな…」


 武装した男達は、互いに顔を見合わせながら、困り果てているようだった。この種族は、子供は大切にするんだろうと思った。

 そう言えば、このふたり以外にチビっ子は見かけていない。子供は少ないのだろうか。



「あなた達の負けよ。ここの住人も、ライトくんには感謝しているわ。彼がいなかったら何人かは死んでいたわよ」


「くっ…。そうか…」


 そして武装した男達は、住人達を見渡した。住人達は少し戸惑いながらも肯定の意を表していた。


「クライン様、かばってくれてありがとうございます」


「おう!」


(この人達、大魔王様の配下だよね。姑息なアンデッドが何かするには目的がないと納得しない、ってことかな)


 そして僕は、武装した男達に話しかけた。


「僕がなぜ助けたのか、理由が必要ですか?」


「アンデッドが無償で何かをするわけがないからな」


(やはり…)


 僕は、クラインとルーシーを見た。ふたりとも、口をキッと結んで、武装した男達を睨んでいる。


(そっか、うん、それでいいよね)


 僕は、武装した男達に向かって、いや、ここにいる全員に向かって言った。


「僕が将来の主君を…主君の住む村の住人を助けるのは、当たり前のことじゃないですか!一体何の理由が必要だと言うんですか!」


「…っ、それは…」


「あらら、ライトくん……宣言しちゃったわ〜」


 あたりはシーンと静まり返ってしまった。


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