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48、ホップ村 〜 将来の主君?

 悪魔族のチビっ子、クラインとルーシーは、的当てゲームの列にワクワクしながら並んでいた。


 ここは、ナタリーの生まれ育ったホップ村で知らない者はいないほど有名なレストラン、バンズ。

 フードコートのような店だが、毎日、的当てゲームをイベントとして開催していることで大人気の店だった。


「クライン、果物を当ててあげなきゃダメよ〜」


「そんなの気にしなくても果物は乗ってるじゃん」


「えー、ライトが果物が食べたいって言ってたじゃない」


「ルーシーは、でっかいケーキの方がいいだろ?」


「うん」


「じゃ、でっかいケーキを当ててやるよ!」


「うんっ」



 そして、ふたりの番が回ってきた。まずルーシーが先に投げた。すると、一番の目玉景品が当たりファンファーレのような派手な音が流れる。


「ヤター! いっちばん!」


「おめでとうございます、お嬢様」


「ルーシーやったな〜」


 ルーシーがキャッキャと喜ぶ顔を見て、クラインもとても嬉しくなっていた。

 そしてクラインの番、短剣を的に向かって投げた。ファンファーレは鳴らず…だが、クラインは有言実行の男だった。ケーキが当たった、もちろん偶然だが。


「わ!ケーキだ! クラインすごい」


「ふふん、やるときはやるんだよ」


 それぞれ、景品引き換え券を受け取り、席に戻った。

 ふたりとも、ニッコニコだった。そしてふたりでコソコソとまた内緒話をしている。


「ふふっ。いいものが当たったみたいだわね〜」


「そうですね。天使のような笑顔ですね」


「ふふっ、そうねー。悪魔族なんだけどね〜」


「あはは、そうでした」



 しばらくすると、料理を乗せたワゴンがあちこちの席を回り始めた。クラインのは、大きなケーキ、そしてルーシーのはクレープのようなものにまるで花畑のような飴細工が散りばめられた大きなプレートだった。


「うわぁ、すごい!」


 チビっ子ふたりだけじゃなく、僕も、その大きなスイーツに歓声を上げてしまった。


「ふふっ。さすがスフィアのスイーツね。ライトくんも思わず叫んじゃったわね〜」


「あはは、驚いてしまいました」


「これは、お持ち帰りになるわねぇ、こんなに食べられないわ〜」


 ナタリーさんと話してる間に、クラインがケーキを切り分けていた。そして、まずルーシーの前に置く。意外にも世話好きな一面を見て、僕は頬が緩んでいた。


 僕達にも切り分けてくれるのかと思っていたが、クラインがお世話をするのはルーシーのことだけのようだった。


「あら?私達には切り分けてくれないのかしら?」


「なっ、自分ですればいいじゃん」


「そーよ、そーよ、ん?そうなの?」


「大人は自分のことは自分でするもんだろ。ルーシーは、俺がやってあげないと失敗するから」


「えー、あたい、失敗しないのにー」


「こないだケーキ倒して、泣いてただろー」


「あ…うん。ぐちゃぐちゃになったから」


「だろー。だから俺がやってあげないといけないんだよ」


「う、うん。ありがとう」


「おうっ」



 僕は、ナタリーさんと顔を見合わせ、ふふっと笑っていた。クライン優しいじゃん。


 ナタリーさんは、あちこち回っていた飲み物販売のワゴンを呼び止め、紅茶を2つと、エールを2つ注文していた。

 そして、紅茶はチビっ子ふたりの前に、エールは僕達の前に置かれた。


「え?スイーツに、ビールですか?」


「ふふっ。これはフルーツエールなのよ〜。デザート用のエールね」


「へぇ〜」


 僕は、フルーツエールを一口飲んでみた。柑橘系の香りがする飲みやすくて軽いビールだった。でも、あれ?


「アルコールは入ってないのですか?」


「入ってるわよ〜。普通のエールと変わらないはずよ〜」


「ん〜?全然、酔う気がしないです」


「あー、そっか。ライトくんには毒が一切効かないから、アルコールも効かないわね〜」


「えっ?うでわのせい?」


「ん〜、うでわも少し影響するけど、そもそもライトくんには毒も呪いも効かないでしょ? だからアルコールもある種の毒だから…」


「えーっ!じゃあ、僕は、ほろ酔い気分にはなれないのですか」


「そうねー、そうなるかしら〜」


(まじか……)


 僕は、まさかの自分の耐性に、めちゃくちゃショックを受けていた。僕は、まだバーテンになる夢を諦めていなかった。

 アルコールの強さがわからないというのはバーテンとして致命的ではないか…? いや、アルコール度数は、まぁ、使うお酒の知識があればわかるか…。味もわかる…いや強い酒ならアルコールの強さもわかるんだろうか…しかし…。うーむ…。



「ライトくん、どうしたの? またストレス貯めそうな顔をしているわ〜」


「えっ、あ、いえ、すみません。僕、バーテンになりたかったから…アルコールの強さがわからないなんて、バーテンになるのは難しいかなぁって…」


「ん?そんなことないんじゃない? それにお酒いくら飲んでも酔わない方が、いろいろ試作品とか作れたりするかもしれないわよ〜」


「あ、はい。そうですね、うん」


「ふふっ。とりあえず、ケーキ少し手伝おうかしら?あの子達、放っておくと食べすぎちゃいそうだから」


「あはは、ですね。じゃあ、僕、切り分けますね」


「ふふっ。催促しちゃったかしら?」


 僕は、チビっ子ふたりの前にあったケーキの方へ移動し、置いてあったカット用のナイフでケーキをすべて切り分けた。

 ナイフが少し切りにくかったので、少し火魔法でナイフを熱し、風魔法を補助的に使いながら、サッとカットした。

 そしてクリームが付いてしまったナイフをいったんシャワー魔法でキレイにし、切り分けたケーキをナイフに乗せお皿に移した。このときもバランスを崩さないように軽い風魔法でケーキが倒れるのを防ぐ。


(うん、魔法って便利〜)


「ナタリーさん、どうぞ」


「ありがとう。ふふっ」


「ちょっと、ライト、いまどうやったんだよ? ナイフが急に新しくなったやつー」


「あ、シャワー魔法ですよ。火水風魔法をゆるく同時に使ってます。クリア魔法みたいな感じです」


「えっ…おまえ、3属性も使えるのか?」


「基本4属性、使えますよ。と言っても弱いのしか使えないですが」


「えーっ?ライト全種持ちなんだ!なんで?死霊は1つしか魔法使えないって言ってたよ〜」


「ルーシー、それは、ただの死霊だぞ。ライトは神族だから、普通とはちょっと違うんだよ」


「でも、ちょっとじゃなくて、いっぱい違うよね?なんで?」


「そ、それは…俺もわかんない…」


「えーっ、クラインがわからないなんて…ライトって、もしかしたら変なの?」


「あはは、変なのかもしれませんね〜」


「じゃあ、やっぱ、俺の配下にしてやるよ! 変だったら、他の死霊にいじめられるからな」


「ん? あはっ、クライン様は優しいですね、ありがとうこざいます」


「おうっ」


「うん、クラインは優しいの」


「お、おうっ」


「あらあらライトくん、主君が出来ちゃったのぉ? いろはちゃんが拗ねるかもしれないわよ〜。ふふっ」


「それも困りますね…女神様が拗ねると…邪魔く…じゃなくて、えーっと、あはは」





「なんか楽しそうだな」


 突然、背後から聞いたことのある声がした。それと同時にナタリーさんが急に不機嫌になった…。


「「爺ちゃん!」」


「ちょっと、なんなのよ? 勝手に近寄って来ないで!」


 突然の大魔王メトロギウスの来店に、店内も騒然としていた。店員が慌ててイスを持って来た。


「うむ」


 そして大魔王様は、ふたりのチビっ子の間に割り込んだ。孫に囲まれたいのだろうか…。


「ちょっと、なに勝手に座ってんのよ」


「ナタリーさん、他のお客さんが驚いてますから…」


「えっ、あ、そうね…」



「爺ちゃん、突然どうしたのー?」


「どうしたのー?」


「いや、なに、デザートが多くて困っておったようだから、助けに来てやったのだ」


「困ってないよー」


「うん、困ってないよー」


「なぬ?…」


 孫に否定されて、大魔王様はおとなしくなってしまわれた。孫には弱いのか…。いや、一族には優しい眼差しを向けている。身内には甘いのかもしれない。


「デザート、召し上がりますか?」


「あぁ」


 僕は、先程、切り分けたケーキを新しい皿に乗せて、大魔王様の前に置いた。フォークをルーシーに手渡され、とても嬉しそうな笑顔を向けていた。


(やはり、孫には弱い…んだよね)


 ふたりのチビっ子に挟まれて、頬を緩ませながら、ケーキを口に運んでいらっしゃる…。


 一方、ナタリーさんは、不機嫌の絶頂のような顔で、大魔王様を睨んでいた。


 だが、なぜ突然、やって来たのか? 店内の騒然とした雰囲気を見ても、普段よくある行動というわけでもなさそうだ。


 皿のケーキを食べ終わると、大魔王様は、チラッとナタリーさんの様子を見てから、僕の方を向いた。


「おい、ライト!」


「はい」


「あれは、まだあるのか?」


「ポーションですか?」


「あぁ」


「大魔王様にお渡ししたものは、数はあまりありません」


「ん?ポーション?俺も、もらった」


「あたいも、もらった」


「なんだ?どういうことだ?」


「この国の出入り口で、おふたりが待ちくたびれてたみたいだったので…商品の整理をしていたら興味を持たれたので差し上げました」


「クライン、見せてみろ」


「えーっ、俺のだよ? あげないよ?」


「くっくっ、わかっておる。すぐに返す」


 そして、大魔王様は2種のラベルを確認し、クラインへ返した。


「これは、数はあるのか?」


「はい、それなりには」


「あれと同じ味か?」


「いえ、あそこまで甘くはありません」


「ふむ。ライト、俺と取引をするか?」


「とても嫌な予感しかしないのですけど…」


「ふんっ。おまえ、行商をしたいんだろ? この国でも」


「えーっと、とりあえずは人族の国で、と考えていますが」


「塔の1階にアイテムショップがある。そこに納品させてやってもよい」


「条件は?」


「くっくっ。俺に逆らわぬこと、だ」


「何言ってんのよ、バカ兄貴!」


「ナタリー、おまえは黙っておれ、話がややこしくなる」


(なにそれ?行商したければ絶対服従しろってこと?)


「大魔王様に逆らうなということは、配下にでもなれということですか?それとも奴隷的な?」


「ふっふっ、配下にしてやってもいいが、神族なんぞ、配下の中では地位は最も低いと思え」


「せっかくですが、お断りします。貴方にばかり有利な条件で、僕には何のメリットもない。こんなの取引とは言えません。それに、逆らうなと言われても、僕はこの世界のおかしな風習を押し付けられるのは嫌なんです」


「なっ?またナメた口を…」


「爺ちゃん! ライトは俺の配下にするから、ダメだよ。爺ちゃんにはあげない」


(わっ、クラインがかばってくれた?)


「なんだと? ライト、子供達をたぶらかしたか!」


「俺は、もう子供じゃないよ!」


「そーよ、そーよ。クラインは子供じゃないもの」


「あー、そうだな、悪かった」


(大魔王様も…チビっ子パワーには勝てないんだ)


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