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42、魔族の国の入り口 〜 ライトうっかり事件

 この星には、3つの国がある。

 2つは地上にあり、残り1つは地底にある。


 この世界では、どの星にも共通する、ある特徴が存在する。

 それは地底に住む種族は戦闘力が高く、または知能が高いこと、すなわちその星の覇者となり得る素質を持つことが多いという点だ。

 そのため、どこかの星を侵略しようとするなら、まず地底を攻め落とすことが近道となる。


 そして、今、女神イロハカルティアが守るこの星は、外から、密かに、様々な攻撃を受け続けている。

 地上はもちろんのこと、外からは干渉しにくい地底にも、いくつもの星の神々が、頻繁に、密かに、配下を送り込んでいたのだった。




 僕は、めちゃくちゃ困っていた。


 地底の魔族の国の入り口で、その門番の鬼のような者達に、失礼な態度をとられていた。

 彼らはヒソヒソと話していただけのことなんだけど、この行為は、僕に対する侮蔑の意が込められているそうだ。


 ナタリーさんは、ここでは女神様と呼ばれる。そう、女神イロハカルティア様の代行者なんだ。


 そんな人が連れてきた僕へのこの態度は、改めさせなければ、ナタリーさんまでがナメられることになるようだ。

 チカラこそが全てだという国、郷に入りては郷に従え…。いま僕は毅然とした態度を取らなければならないのだ。


(さて、どうする……彼らから僕はどう見えるんだろ? 死霊?リッチ?とにかくアンデッド枠、だよね)


 僕は、前世のゲームの知識を必死に思い出していた。アンデッドで怖いと思うモンスター…いたと思うけど、今は思い浮かばない。


 でも、倒すのに時間がかかるとか、状態異常をふりまかれるとか、とにかくダメージを与えにくいのにダメージ食らわされるとか…そういうイヤラシイ奴らが多いよね…。

 うん。それに無口だし見た目がコワイよね…うん。そのあたりかなぁ…。で、だから、何?…うーむ…。



(見た目が、綿菓子なのがナメられるのかな?)


 僕は、霊体化を半分解除した。僕は、ちょっと軽く殴られても簡単に死んでしまう。霊体化を完全に解くわけにはいかない。


「がはは!なんだ子供か?」


(向こうから、ケンカ売ってきた!これでキッカケできたじゃん。あとは、芝居だな、うん)


「僕にケンカを売ってるんですか? 買って差し上げましょうか?」


 僕はなるべく、堂々と、淡々と話した。


「な、なんだと?」


 彼は僕に掴みかかろうとするが、当然、触れられるわけはない。一応、ガードもしておこう。ピキンッ


「な? 通り抜けた?人型のフリはできても実体がないのか?ぐははっ、情けない奴だな」


「ちょっと、あなたね!」


 ナタリーさんが、僕を庇おうとしてくれた。

 でも、それじゃダメだよね、ナタリーさんの立場が悪くなる。チカラこそ全て…なら、チカラを示さなければならない、ということだよね。


「ナタリーさん、僕に任せてもらっていいですか?無茶はしませんから」


「ライトくん…わかったわ」


 門番達が、ニヤニヤしながら取り囲むように寄ってきた。


「なにを見せてくれるんだ? 死霊のガキが?ぐふふっ」


 僕は、さっき、僕に掴みかかろうとした門番の方を向いた。


「実体化くらいできますよ?もう一度聞きますが…僕にケンカを売ってるんですね?」


「はぁ?ケンカも何も、おまえみたいな何も出来ない死霊が、何を言ってるんだ?がははっ」


 そう言って、奴は再び僕に掴みかかろうと見せかけて、何かを放った。

 火の玉が、僕を通り抜けて背後の岩を砕いた。


「チッ!火も駄目か」


 僕は、顔から一切の感情を消した。


(無表情な方が、きっとコワイはず)


「はぁ?いっちょまえに、怒ったのか?がははっ」


(怖がってないじゃん…冷やして動きを止めるか?身体の自由を奪えば、こわがるよね)


 僕は、奴に近づき、スッと身体に左手を入れた。何かの臓器に触れたので氷魔法を使った。


 ドタッ!


 すると突然、奴は倒れた…。奴の右胸にうっすらと氷が張っているが…即死のようだった…


(えっ?なんで死んだの?)


 すると他の門番達は、急に僕を警戒し、距離を取った。


 ナタリーさんを見ると、ちょっと驚いていたが何も言わずそのまま見守ってくれていた。


 僕は、倒れた門番の身体を『見た』…あれ?コイツ…心臓が右にあるんだ! 僕は心臓を凍らせた?

 焦った!でも、ここでいつものように、わたわたするわけにはいかない。ポーカーフェースだ!


「あー、ごめんね。まさか、門番がこれくらいで倒れるなんて思わなかったから」


 他の門番が、怒った!でも、僕がそちらを見ると、同じ目に遭わされると思ったのか、怒りに震えながらも、動かない…じっと睨みながら僕の様子を見ている。


(確か3秒ルールじゃなくて、3時間ルールだったよね)


 僕は、倒れた門番に再び近づき、蘇生魔法を使った。

 すると奴はすぐに目を開けた。


「どこか痛いところない?派手に倒れたよね」


「あ、あぅ…お、おのれ!」


 僕は、門番の右肩に大きな傷があるのを見つけた。

 もともとの傷なのか、さっきの凍死で倒れて出来たのかはわからない。僕は、奴の右肩に左手をスッと入れ、回復魔法を使った。


(よし、治ったね。これでもう文句は言われないだろう)


 僕は、あぅあぅ言っている門番が、それ以上、僕を襲ってくる様子がないので、そこを離れ、ナタリーさんの元へと戻った。


「治しましたから、こんな感じでいいですか?」


「ライトくん、気をつけてね。いくら蘇生するからって、うっかり殺してばかりというのは困るわ」


「はい。すみません」


「行くわよ」


「はい」


 僕は、門番達の方を見た。すると、さっきまであんなに馬鹿にしていたのに、いまは僕と目を合わそうとしない。それどころか、ササっと道をあけ、僕に近寄らないようにしているようだった。


(ん?なんで?怖がってる?門番を殺したときは怒っていたよね?あ、ナタリーさんのハッタリにびびったのかな)




 そして僕は、ナタリーさんを追いかけ、魔族の国に足を踏み入れた。


「えっ? 月が出ている? 夜なんですか?」


「そうよ〜、地底はずっと真っ暗なのよー。夜目が効かない種族もいるから、月はあるのよー」


「そ、そっか…。地底ですもんね」


「ふふっ。タイガも初めてここに来たときは、夜だと騒いでいたわ〜」


「あはは…」


「目的地まで、少し距離があるから、魔法を使うわよー。ちょっと実体化してくれるかしら〜」


「はい、えっと…転移魔法ですか?」


「ふふっ。飛翔魔法よー」


 僕は霊体化を完全に解除した。そして念のためガードはそのままにしておいた。


「じゃあ、行くわよ〜」


 ナタリーさんは、僕の腕を掴むと、僕達を黒っぽい光が包んだ。そして、ナタリーさんが顔を向けている方向へ、まっすぐ黒い光が伸びていった。


(黒い光の道が空中にできた!めちゃ綺麗〜)


 そして、ふわっと浮上したかと思ったら、その光に引っ張られるようにして僕達は動き始めた。


「目的地まで、まっすぐ進むからねー。何かが飛び出してきても当たらないから避けなくて大丈夫よ〜」


「はい。なんだか、すごい!」


(遊園地の園内観覧用の乗り物に乗っているような気分〜)


「ふふっ。でもさっきは少し驚いたわ〜」


「僕もです。まさか、奴の心臓が右にあるなんて…ちょっと冷やすだけのつもりだったのに」


「あら、そうなの? てっきり、蘇生を見せるために一旦殺したのかと思ったわ〜」


「えっ、そんな殺すつもりなんて…」


「偶然?ふふっ、ライトくんって無意識で、ガッツリ怖がらせたのね〜」


「僕が怖がらせたというより、ナタリーさんのハッタリにびびったんだと思います」


「んー?ハッタリなんて言ってないわよー」


「え、でも、うっかり殺してばかりは…って」


「あれは、本心で言ったのよ〜。あまり殺して蘇生してを繰り返すと、死神に叱られるものー」


「あ、そうなんですね、すみません。3時間ルールだから大丈夫だと思ってました」


「ふふっ。あまり何度もやると、睨まれるわ〜」


「はい、気をつけます。ん?蘇生を見せるって?」


「怖がるでしょー?」


「生き返らせたのに、怖がらせてしまうのですか?」


「うんうん」


(なんで?さっぱりわからない…)


「ふふっ、もうすぐ着くわよー。着いたらすぐに綿菓子ねぇ〜」


「はい」







 ライトが去った後、門番達は、ホッと安堵のため息をついていた。


「アイツ、おかしいぞ」


「あぁ、死霊の分際で、なぜ蘇生や回復魔法を使えるのだ?」


「女神が助っ人を連れて来るというから、どんな奴かと思ったら、なんの戦闘力もないガキだから驚いたが…」


「なんの戦闘力もない、と見せかけているだけだったというわけか。アンデッドらしい姑息なやり口だ」


「うっかり殺したとか言ってたな…。蘇生すれば文句はないだろうという傲慢さが、鼻につく」


「おい、やめておけよ? 簡単に殺されるぞ。こっちはアイツに触れることもできない。火魔法も通じない。蘇生や回復を使うということは、それも通じないだろうな」


「アイツ、不死か? 弱点はないのか?」


「だから女神が連れて来たんじゃないのか?」


「あの見た目に騙された。それに能力を低く見せている…あんな詐術を使う姑息な真似をするということは、もしかしたらとんでもなく能力が高いんじゃないか?」


「かもしれんな。他の星から狙われているのかもな…」


「他の星?」


「あぁ、引き抜きだよ。こないだ、あの変異オーガが、赤い神の元へと行っただろ?」


「あー、あの化け物か…。最近見ないと思ったら、他の神に取られたということか」


「チカラのある神に仕える方が賢いからな」


「だけど、さっきのガキと、あの化け物、戦ったらどちらが勝つ?」


「どう考えても……、あの死霊のガキだろうな」


「だよな。引き抜きの話にのせられて、あのガキと敵対することになったら…」


「やめろよ、そんな話。…寒気がするぞ」


「もしかしたら、それを見せに来たのか?女神は…」


「俺達への牽制か…。あり得る話だな」


「もしくは警告、かもな。裏切り、敵対するなら容赦はしないという…」


「かもな…」


「俺達の魔王様へ、報告するのか?」


「いや、大魔王様への報告が必要じゃないか」


「神族が、お怒りかもしれない、と、な」

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