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41、イーシア湖 〜 ライトの告白

 ぷちぷち、ぷちぷち、ぷちぷち…。はぁ〜


 僕は、あれからまた、薬草を摘み始めていた。


 アトラ様と、ハデナ火山の話をしていたら突然アトラ様が固まってしまったのだ。たぶん、どこかと念話でお話し中なんだと思う。


 邪魔してはいけないと、近くの薬草を摘み始めたんだけど、ずっと壊れた人形のように動かないアトラ様のことが少し心配になってきた。


 ぷちぷち、ぷちぷち、ぷちぷち…。チラッ


(長いよね…お話……)


 ぷちぷち、ぷちぷち、ぷちぷち…。うーん


(ナタリーさんも、遅いよね…)


 ぷちぷち、ぷちぷち、ぷちぷち…。はぁぁ〜


(ちょっと眠くなってきた…)


 僕は、いつの間にか、草原に転がってウトウトし始めた。赤い太陽は真上に昇り、暖かいというより少し暑い…。


 でも眠るのにはちょうどよくて、僕は薬草を摘む夢を見ながら、すっかり眠り込んでしまった。





 僕は草原の上で、寝返りをうった。すると…


(ん?なんか当たった? あったかい)


 寝返りをうった先には、なんだかあたたかいものがあって、僕は寝ぼけたまま吸い寄せられるように、くっついていった。


(う、うぅん)


 なんだか落ち着く……スゥ〜スゥ〜

 再び、僕は眠りに落ちそうになり…でも…スゥ〜スゥ〜


(んんっ?なに?寝息?)


 そして、僕は目を開けて、びっくりした!

 目の前に、アトラ様が居た!しかも…スゥ〜スゥ〜


(な、な、なんで? 添い寝?お昼寝?えっわっ、あ!)


 僕がわたわたしていたら、アトラ様が目を覚ました。


 ぼんやりと、僕の方を見ている。まだ寝ぼけているような顔……。やばい、かわいい。


「あれー? 寝ちゃったぁ?」


 転がったまま、目をこすり、まだふわぁ〜っとしているアトラ様は、かわいすぎて…僕は…


 アトラ様のおでこに、そっとキスをした。


 そして僕は、ずっと言いたかった言葉を口にした。


「好き、です」


「えっ、ちょっとライト、何言ってるのー」


 だけど、今日の僕は、めげなかった!


「僕、あなたのこと、好きです」


「えっと…」


「だからどうこうってことじゃなくて、ただ、知っておいて欲しかったんです」


「あの……えっと…」


 アトラ様は驚いていた。でも、僕が本気で言ってるのだということは、伝わったみたいだ。

 だんだん、アトラ様の顔が赤くなってきた。


(ちょっ!そんな顔は、反則だよ…そんな顔されたら僕は…)


 僕は、もう一度アトラ様に顔を近づけた。そして、彼女の唇に、僕の唇をそっと重ねた。


 彼女は、真っ赤になったまま、僕の顔をじーっと見つめていた。


「こういうときは、目を閉じて…」


「えっ、あ、うん…」


 僕は、彼女が目を閉じてくれたことに驚いていた。そして自分が意外にも冷静でいることにも驚いていた。


 そして、僕は、再び、彼女に近づこうとした、そのとき、彼女の耳がピクッと動いた。


「ライトく〜ん! お待たせ〜」


(な、ナタリーさん…)



 僕は、まさかのタイミングに、心の中で、大きな大きな大きなため息をついた。


 声がした方を見ると、ナタリーさんが湖の上から湖岸に降り立ち、僕の方へと歩いてくるところだった。


 それを見て、寝転がっていたアトラ様は、上半身を起こした。

 すると、ナタリーさんが一瞬、ギクッと動きを止めた。

 でも、すぐに普段の表情に戻り、こちらへと歩いてきた。


「いやん、ごめんなさいー。お邪魔しちゃったのかしら〜」


「え、あ、いえ…」


 僕は、心の中では、思いっきりお邪魔されましたと叫んでいたが、まさか、そんなことを言うわけにもいかない。


「まさか、ライトくんが、ワンちゃんを押し倒してるだなんて思わなかったんだものー」


「い、いや、押し倒してませんよっ」


「ふふっ。でもぉ〜、アトラちゃん、顔赤いわよー」


「えっ、あ、いえ、ちょ、ちょっとお昼寝をしてただけだから、ね、ライト」


「は、はい」


「あら、仲良くお昼寝してたのねぇ。ふふっ」


「ライトをここに連れて来たのは、女神様だったのですね」


「ん?女神様?」


 僕はアトラ様の方を見た。目が合うと一瞬、照れた顔をされた…。くぅ〜やっぱ、かわいい!


「あらぁ?やっぱり、ふたりのまわりだけ空気が甘いわよー。ふふっ」


「ナタリーさんっ!」


「ふふっ。お姉さん、楽しくなってきちゃったわー」


 はぁ…ナタリーさんには絶対、勝てる気しない…。

 


「アトラ様、ナタリーさんが女神様なのですか?」


「へ?あ、うん。イロハカルティア様の代行者だからね」


「代行者?」


「うふふっ。いろはちゃんってば、あんな調子でしょ?地上に降りるといろいろやらかしそうだから、私が代わりを務めているのよー」


「あぁ、なるほど〜」


 僕は妙に納得してしまった。でも、なんだか、ナタリーさんがアトラ様に目配せをしていた?


(あれ?何か、他に理由があるのかな?)


 なんだか、僕は少し違和感を感じた。ま、いっか…



「ところであの、女神様、あの…ケトラのことなのですが…」


「うん?なぁに?」


「この間のお話なのですが…あの…少し事情が変わってきたみたいというか、えっと…」


「あー、あれは大丈夫じゃないかしら〜?」


「えっ、いいんですか? 今のままでも」


「ふふっ。おねえちゃんには負けない宣言をしていたらしいわよ〜」


「えっ…」


「あ、ケトラ様なら大丈夫ですよ。おそらく休憩施設を今よりもっと過ごしやすくしてくれそうです。やっと、守護獣としてのやる気に目覚めた感じでしたよ」


「えーと、そうなんだ…」


「はい」




 ザザッ!


 突然、湖の真ん中に水しぶきが上がった。そして、白く強い光が、キラキラと、誘うように輝いていた。


「いや〜ねぇ、ほんと、せっかちねー」


「下で何か異変が?」


「アトラちゃん、大したことじゃないわ。ただ、しばらくは、この湖から離れないでもらえるかしら?」


「はい、かしこまりました」


「出入りしようとするバカがいたら、手加減はいらないわ」


「はい、必ず!」


(あれ?なんだか物騒な感じ?)



「えっと…ナタリーさん、あの…」


「ふふっ、ライトくん、出番よー。ただ、ちょっと注意しておいてもらいたいことがあるのー」


「はい?」


「やっぱりね、お姉さんには厳しいことになっちゃってたから、ライトくんにお願いすることになるんだけど〜」


「えっ…ライト、戦え…ないよね?」


「ふふっ、アトラちゃん、心配しないで大丈夫よー。ライトくんは、これでも神族だからー」


「え! でもまだ子犬じゃ?」


「確かに子犬なんだけどねー、ちょっと特殊なの。だから、両方のお仕事してるのよぉ〜」


「…えっと、僕、両方って? 『落とし物』係では?」


「ふふっ。いろはちゃんの番犬でもあるのよぉ〜」


「ギルド、まだランクGなんですけど…」


「大丈夫よー。『落とし物』10個達成の最短記録更新したから、特例よー」


(なに?それ…聞いてないんだけど…)


「ライト、すごいね!」


「えっ、あ、はい」


(アトラ様がそう言ってくれるなら…ま、いっか)



「ふふっ。そうそう、ライトくん、下の世界では、人族だと思われないように注意してね。人族だと邪魔くさいことになるのよー」


「えっと、魔族の国だからですか?」


「うんうん。自分とは違う種類だとそれだけで警戒したり敵対したりするでしょ?だから、その国の種族だと思わせるのがポイントよー」


「そんなことできるのですか?」


「ふふっ。元々、お姉さん、魔族なのー」


「えっ!」


「いやん。怖がらないでねー。でもいま、人族の世界では、人族として振舞ってるでしょ?こういうことよー」


「ええっと…ん?」


「魔族ってねぇ、脳筋が多いのよねー。チカラこそが全てなり!なーんてのがねー」


「はぁ」


「だから、ビビっちゃダメよ。彼らは自分より下だと思ったら、とことん、つけ上がるからねー」


「…はぁ」


「逆に、自分より上だと思ったら、絶対服従するわ〜。人族のように隙を見て騙そうなんてタイプは少ないの。いないとは言わないけど、ねー」


「は、はい…でも僕…チカラ弱いですよ」


「でも、ある意味最強でしょ?ふふっ」


「ライト、無理しちゃダメだよー」


「はい、大丈夫です」


「うふっ。アトラちゃんに言われると、大丈夫なのねー」


「いや、そういうわけでは…」


「ふふっ。じゃあ、そろそろ行きましょうか。早く来いってうるさくて仕方ないわー」


「…はい」






 そして、湖のほとりまで歩いて行った。

 ナタリーさんはそのまま、水の上を歩いていくけど、僕にそんな真似はできない。


「ナタリーさん!ちょ、僕、水の上、歩けないですってば」


「ん?歩かなくたって大丈夫でしょ?ライトくんなら」


「大丈夫じゃないですっ、沈みます…」


「ええーっ?綿菓子は沈まないわよぉ〜」


(あ、霊体化、ね…)


「なぜ、綿菓子って…」


「ん?ジャックくんが、ライトくんが綿菓子になったら美味しそうだって教えてくれたわよ〜」


「あはは……なるほど…」


 アトラ様が心配そうに見ている…。そんな顔しないで欲しい。でも、心配そうな顔も…かわいい!


「じゃあ、もしかして、ずっと綿菓子してればいいんですか?」


「うんうん、あ、ずっとじゃなくてもいいけどね。アンデッドの前では、特に綿菓子の方がいいんじゃないかしら〜?」


「アンデッド…居るんですね。そりゃそうですよね」


「ふふっ。でも、戦闘にはならないと思うわ」


「ん?あ、はい」


(僕は、アンデッドを倒す要員じゃないのかな)


「さ、行くわよー」


「あ、はい」


 僕は、あわてて霊体化!そして、湖の上をナタリーさんの元へと向かった。


「アトラちゃん、片付いたら合図するからそれまではここが見える範囲にいてね。帰りはここから帰るかはわからないんだけど〜」


「承知しました」


「アトラ様、いってきます」


「うん、気をつけるんだよー」


「はい!アトラ様も」






 そして、ナタリーさんに連れられ、湖の底のさらに底、地底と呼ばれる魔族の国へと到着した。


 地底の側には、門番のような人がいた。

 魔族というより、鬼という方が合いそうな和風な印象を受けた。


「女神様、なかなか戻られないから心配しましたよ」


「私が何かヘマをするとでも?」


「いえ、そんなことは…。申し訳ありません」


(あ、あれ?ナタリーさんのキャラが違う!)


「早く、通しなさい」


「はっ!」


 門番さん達が道を開ける。僕はふわふわとナタリーさんについていった。


 後ろではコソコソと僕のことを言っている。


 ナタリーさんを見ると、コソコソ話に何か反論しようとしていたが、僕がそれに気づいたのがわかると、うなずかれた。


 これは、僕に、何か言えということ…だよね?

 もしくは、威嚇しろとか?とにかく門番にナメられるわけにはいかないんだよね…。


(ど、どうしよう……困った…何が正解なのか、さっぱりわからない)

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