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38、ロバタージュ 〜 隠居者が営む店

「うーん、解放感! さっさと服屋を探しに行こう」


 僕は、なんだか焦っていた。


 自由な時間はたくさんあるはずなんだけど、今朝からなんだか嫌な予感が消えないのだ。


 ギルドでちょっとびっくりな騒ぎがあったし、何よりポーションの価格査定がかなり長引いてしまった。

 そのため今日やりたかったことが、結局、この査定と、非常食の購入と、行商人の登録くらいしかできていない。あ、ポーションは売れたけど…。


 とにかく服を買いたいし、ミッションを受注して、ついでにイーシアに薬草と水を補給しに行きたい。


 でも、太陽はもう青っぽい、つまりもう夜なのだ。


(あー、晩ごはんも食べなきゃ。それに宿探しもしなきゃ)


 今日は、服を買って、あとは宿探しをするか。


 先にイーシアに薬草と水を補給しに行くべきだったんじゃないかと後悔しながら、僕は、街をうろうろしていた。





「お兄さん、いまヒマかしら〜?」


 突然、後ろから色っぽい声をかけられて、僕は、ギョッとした。でも、あれ?この声って…


 パッと後ろを振り返ると、思ってた顔があった!


「ナタリーさん! どうして?」


「いやーん。帰れとか言わないでね〜、ライトくん」


「言わないですよ、そんなこと。どうしたんですか?」


「ふふっ、よかった。あのねー、ちょっと用事があってねー。その前にライトくんを拾っていこうと思ってー」


(嫌な予感は、もしかしてこれ?)


「えっと…」


「もう、警戒しないでよー。お姉さん悲しいわー」

 

「あの、僕、今日は服を買いたくて。あと宿探しもしなきゃいけないのですが…」


「うんうん。大丈夫よ〜。宿探しはいらないわ」


「あの…とっても嫌な予感がするんですけど」


「ふふっ。そんなことより、服、買いに行くのお付き合いするわよ〜」


「えっ? 店、どこにあるとか、ご存知なんですか?」


「うん、ご存知なのよー。行きましょう」




 そして、ナタリーさんに、なぜか腕を組まれて、今まで僕が行ったことのない道を進んでいった。


(ちょ、ちょっと…胸が当たるんですが!…とは言えない…)


 僕が、なるべく僕の腕が当たらないようにと気を遣って頑張っているのに、ナタリーさんは全く気にしてないみたいだった。

 気にしていないというより、僕の反応を見て遊んでいるような……そんな気もする。



 そして、しばらく歩くと、ブティックのショーウィンドウがたくさん並ぶ通りがあった。


「こんなところに、こんなにたくさん!」


「この街はねぇ、表の街道に近いところは、いろいろな店があるんだけど、専門店は、街の奥にあるのよー」


「そうなんですね」


「うんうん。じゃあ、お店に入るわよー。とりあえず適当でいいわよね〜」


「は、はい」


 そうは言いつつ、ナタリーさんにはお目当ての店があったようで、さらに数軒先の店に連れて行かれた。

 


 その店は、かなりカジュアルな品揃えで、値段もお手頃だった。


 ナタリーさんは、店に入ると突然なにかのスイッチが入ったようで、店員さん顔負けな感じで、あれこれと僕に服をあてて、悩んでいらっしゃる。


 そして、僕は、ナタリーさんに勧められるまま、シャツ2枚と、ゆったりめのジーンズのようなパンツ1枚を買った。


「じゃあ、次行くわよ〜」


「あ、はい」



 店を出ると、そのすぐ斜め向かいの店に入った。ここは、インナーの店だった。


 さすがに下着は…と思った僕が甘かった。

 ナタリーさんは何も気にせず、僕の下着もあれこれ探し、そして靴下までしっかりセレクトされた。


 そして、ここでは下着5枚とアンダーシャツにもアウターでも使えそうなTシャツ2枚と靴下5足を買った。


「じゃあ、次ねぇ〜」


「え、あ、はい」



 今度は、さらに奥に少し歩いて行って、オシャレな店に入った。靴屋のようだが、カバンも置いてあった。


 ここでは、街歩き用の靴と、冒険用のブーツを買った。

 いま僕が履いていたショートブーツは、かなり傷んでいたらしく、底の一部に穴が開きそうになっていた。

 これは店で処分してもらうことにして、いま買ったばかりの街歩き用の靴に履き替えた。


 それと、あと、腰のベルトに装着するタイプの小さめのカバンも、ナタリーさんがすすめるので買った。

 魔法袋があるから不要だとも思ったけど、普通のカバンがある方が絶対に便利だと主張された。


 確かに、小銭とか入れておくと便利かもしれない。もしくは、釣り銭専用とか…うん、確かに便利かも。


(結構買ったなー。結局、ちょうど銀貨7枚。7万円の買い物…。うん、けっこう買った買った)



「とりあえずこんなもんかしら〜」


「はい、ありがとうございました。僕だとこの10倍、時間かかりそうです」


「ふふっ、お役に立てて嬉しいわ〜」



 じゃあ、次はねぇ〜と言いながら、ナタリーさんは僕をぐいぐいと引っ張って、今度は通りを横道にそれて歩き始めた。


「えっと…」


「あー、うん。ちょっとご飯を食べに行きましょう」


「あ、はい!」




 そして連れて来られたのが、レストランがたくさん並ぶ通りにある、こじんまりした店だった。


 店に入ると、カウンター席だけの隠れ家的な感じで、レストランというより、バーという雰囲気だった。



「いらっしゃい。あ!ナタリー、久しぶりだな」


「ふふっ。そうだったかしら〜。この街に来るのがわりと久しぶりなのよね〜」


 席に案内されるまでもなく、ナタリーさんは、奥へと入っていった。そして入り口とは反対側の一番奥の席に座った。


「ライトくん、こっちでいいかしら?」


「はい」


 僕は奥から2つ目の席に座った。


「好き嫌いはないかしら〜?」


「はい、たぶん大丈夫です」


「じゃあ、マスター、適当によろしくねー」


「はいよ」


 なんだか、凄く常連って感じだなぁと思いつつ、店内を見渡した。僕達の他には 3組 5人のお客さんがいた。

 食事をしている人や、お酒っぽいものを飲んでいる人、ひたすら喋ってる人…という感じだった。



「ライトくん、荷物整理しちゃっていいわよ〜。好きに広げてー」


「あ、はい。でも大丈夫です、あ!財布の整理しようかな…財布3つになって、とりあえず突っ込んであるから」


「ふふっ。どうぞ〜。悪い人に取られないように、お姉さん見張ってるわ〜」


「悪い人って、オレか?」


「さぁ、どうかしら〜」


「悪いこと、したっけかな?」


「やーだー、そーんなこと言って〜」


(なんだか、マスターも…ふたりとも色っぽいというか…オトナな会話に聞こえてしまう…)


 僕は、ちょっとドギマギしつつ、財布の整理をした。


 金貨全部と銀貨200枚を入れた皮袋は、うでわに入れた。盗まれないうでわは銀行扱いだな、うん。

 今日ギルドで買った財布は前にもらった物よりも随分たくさん入る。


 あと、銅貨だけを全部入れた皮袋は、さっき買ったばかりのカバンに入れた。とりあえずごはん用だな〜

 残りの銀貨はもうひとつの今日買った皮袋に入れて、魔法袋にっと。よし!これでちょっと安心。



「ライトくん、結構、売れてるのね〜」


「えっ、あ、はい。おかげさまで…」


「ふふっ。誰かさんみたいに奢れとは言わないから心配しなくて大丈夫よぉ〜」


「あはは、はい」



「はい、お待たせ。適当に味は変えてかまわないからな。好きにやってくれ」


 一緒に、調味料セットのようなのも出てきた。


「あ!あれ?このソースって…。もしかして」


「ふふっ。ここのマスターもね、私達と同じ境遇なのよ〜。スパイスとかは普通のお客さんには出さないみたいだけどー」


「塩コショウは、出してるぞ。これがウチの繁盛の秘訣だからな」


「へぇそうなんですね! 醤油もある!なんか嬉しい」


「じゃあ、いただきましょう」


「はい、いただきます」


 なんか、下町の定食屋さんのような味だった。メニューも食材もこの世界のものだから未知の味なはずが、とてもホッとする。


「お口に合うかしら〜?」


「はい、とても美味しいです!」


「ふふっ。よかったわ〜。タイガが気に入ってるから、ライトくんにも合うんじゃないかと思ったのー」


「ありがとうございます」


「うんうん、ご贔屓にしてあげてねぇ〜。と言っても、ここ場所わかりにくいのよねー」


「マッピングの魔道具にウチの店の場所、登録しておいてくれよ」


「マッピング?地図みたいなものですか?」


「ライトくんはまだ冒険者登録したばかりだから、魔道具あまり持ってないわよねー」


「あ、はい。持ってないです」


「じゃあ不便だろ? 冒険者じゃなきゃ何やって稼いでるんだ?」


「僕、ポーション屋してます」


「へ?ポーション?行商か?」


「はい」


 僕は、リュックから、ポーション2種を出して、マスターに渡した。


「おっと、リュック持ちか!」


「はい」


「そんなしげしげ見つめてないで飲んでみたらぁ?ただしお代は払いなさいよー」


「高いのか?」


「どちらも、銀貨1枚です」


「ほう。ってことは飲みやすい上質なタイプだな?」


「はい」


 マスターは、蓋を開け、そのまま固まっていた。近くにいたお客さんも、その香りに気づきマスターとこちらをチラチラ見ていた。


「な、なんだ?これ…ミントか?」


「はい。モヒートというカクテルをご存知ですか?」


「いや、初めて聞いた名だよ」


「そっか。そのモヒート風味なんです。アルコールは入ってませんけど」


 次の瞬間、マスターは、一気に飲んでいた。


「これ、銀貨1枚って、安すぎるんじゃないのか?」


「ギルドの価格査定で、銀貨1枚だったので、その価格でいこうと思いまして。高すぎると必要な人に買ってもらえないかもしれないんで」


「なるほどな、こっちの固定値は?」


「カシスオレンジ風味です」


「あ、それならわかるぞ。火無効つきか、使い勝手がいいな、これ」


「ライトくん、私、それ味見させてもらってないわ〜」


(そう言われると思ってた…)


「ナタリーさん、どうぞ」


「うふっ、ありがとう」


 ナタリーさんは受け取るとすぐに蓋を開けた。オレンジの香りがふわっと広がる。


「室内だと、結構、香りが広がっちゃいますね」


「そうね。ふふっ。私はこの味の方が好きだわ〜」


 この様子を見ていた近くの席のお客さんから、1本欲しいと言われた。僕は、え?っと思ったが、よく考えたら、行商人だった…。あはは、忘れてたー。


「はい、どちらにしましょう?」


「1本ずつ、もらえるかな?」


「はい、ありがとうございます。2本で銀貨2枚になります」


 僕は、初めて、見ず知らずの人に売れて、ちょっと緊張というか、ドキドキしていた。

 お客さんからお代を受け取り、席に戻った。


 すると、マスターも、忘れないうちにと、銀貨2枚を渡してくれた。


「ありがとうございます」


「数に余裕ができたら、ウチの店にも置かせてくれよ。特に固定値1,000は、ありがたいからな」


「はい」


「マスターったら銀貨1枚で仕入れて、銀貨2枚で売る気でしょ?」


「あははは、なんでわかった? がははっ」


「もうっ。古い付き合いだもの、あなたが考えそうなことくらいわかるのよ〜」


(や、やっぱ、あやしい…このふたり…)


 僕は、なんだか…。いや、うん、オトナの世界に口を出しちゃいけないよな、うん。


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