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37、ロバタージュ 〜 ライトの願い

 僕は、いまギルドに居る。


 しかも、困ったことに、まわりをたくさんの人に取り囲まれている。逃げ出したいけど、できない…。

 僕には、この国の王子の前から、どうすれば失礼なく離れることができるのかわからなかった。




「フリード王子! こんなことになるなん…て…? む?これは…一体…」


 そこに、騎士風の3人が、あわてて駆け込んできた。だが、彼らの予想とは大きく異なる光景に、目をパチクリさせていた。


 おそらく血生臭い空気の中で、王子達が瀕死の状態で転がっていると思っていたのだろう。


 それが、ミントやオレンジの香りが微かに残ったふんわりとした空気の中、当の王子もその護衛の者達も、立ち話をしていたのだから…。


「おう、治してくれたのだ、この少年がな」


 騎士風の3人は、僕を見て一瞬驚いたような顔をしたが、すぐに表情を引き締めた。

 そして僕に、敬礼なのか、剣を立ててひざまずく仕草をされた。僕はあわてて、あ、いえ、と頭を下げた。



「しかし一体どうやって…呪詛を?」


 騎士風の中でも一番年配の初老の男性に、たずねられた。


「私も、知りたかった」


 そう、王子も言うので、僕は…もちろん断わる勇気はない。でも早くこのおしゃべりから解放されたい…。

 ギルド中のすべての人が聞き耳を立てているようだった。シーンと静まり返っている。


「あ、あの…。僕は、透視も少し出来るので、呪詛の場所を見つけることができるのです」


「ほう、それで?」


「えっと、それで、黒い塊を探して、捕まえて、蘇生魔法を撃ち込んで、あとは出血を止めるために回復しただけです」


「……え?」


「あ、そうだ、あの、透過魔法みたいなのも使いました。それから、自分にバリアと、あ、あと、シャワー魔法と…」


「ちょ、ちょっと待ってくれ。おい、誰か通訳できる奴はいないか?」


「うぅ…すみません、説明下手くそで…」


「いや、それは大丈夫なんだ。ただ、専門用語が難しくてな…。というか普通じゃないんだ。同時発動できる数が多すぎないか?」


「えっと…僕には、何が普通なのか…すみません」


「いや、いやいや…こちらの勉強不足だ」



 ギルドは、また、あちこちでザワザワしていた。


 僕は、レンさんを探した。

 目が合うと、僕のヘルプ要請に気づいてくれたようで、僕の方へと近づいてきてくれた。


「なんだ?周辺の巡回員が、説明できるのか?」


(なに?僕に掴みかかろうとした王子の側近、やっぱ感じわるっ)


「ライトさんは、人混みに慣れていないので…近くに知り合いがいる方が話しやすいかと」


「レンさん、心強いです」


「ふんっ」


「おまえ、またそのような態度を」


「…申し訳ありません、殿下」


「はぁ。警備隊って、ほんとに おまえ達と、周辺警備隊とは仲悪いんだな…。なんとかしろよ」


「はっ。ですが、同じ名前でも、奴らと我々では…」


「もうよい。話の腰を折ったな、すまぬ、続けよ」


 僕は、この側近の人達が、前にレオンさんが言っていた警備隊のエリートなんだろうと思った。


(プライド高いんだろうな…にしても…感じわるっ)



 それから、僕は、呪詛は蘇生魔法に弱いこと、蘇生してから回復すれば簡単に治療ができることを説明した。

 僕はガードして直接呪詛を触ったが、呪詛に蘇生魔法をぶち込む方法は他にもあるはずだと話した。


「なるほど、確かに呪いに蘇生か…。アンデッドに蘇生魔法をかければ簡単に浄化できる、それを使ったのだな」


「はい」


「しかし、呪詛は魔法防御力がハンパないからな…だが、蘇生なら弾かれずに入るか。攻撃魔法じゃないからな」


 いろいろと、王子をはじめ皆さんはあれこれと考え、冒険者達もあちこちで議論を始めた。

 ギルド内が、少しガヤガヤとにぎやかになってきた。

 そして僕にも、いろいろな人から意見を求められた。


「僕が一番言いたいのは…、治せるものを焼き殺そうなんていう馬鹿な風習こそが、この世界から消えてなくなればいいと思います!」


 突然…シーン…と静まり返ってしまった。


(えっ、ヤバイこと、言っちゃった?)



「もしかしたら、君の家族は、焼き殺された?」


 しばらくシーンとした重苦しい空気を破って、フリード王子が、僕をまっすぐに見て、そう言った。


「はい。僕の生まれ育った集落は、生きている人もすべて、焼き払われました…」


「なるほど…いろいろと理解できた。君が記憶をなくしたのも、そのあたりが原因なのかな」


 僕は、どう返事をすればよいのかわからず、黙り込んでしまった。だが、この沈黙が、肯定だと判断されたようだった。



 フリード王子は、しばらく、ジッと何か考えているようだった。側近も騎士も誰も口を開かない。ギルドにいる冒険者達も、みな黙り込んでいる。


(重苦しい…うぅ〜この空気感、苦手すぎる…)


 そして、再び、王子が口を開いた。


「さっき、私は君に、欲しい物を与えると言ったね」


「えっ、あ、でも、お断りを…」


「ははっ。断られたね、驚いたよ」


「すみません…」


「君が望むものを与える。ただし時間はかかる、そこは承知しておいてくれ」


「えっ?あの…どういう意味…」


「治せるものを焼き殺そうなんていう馬鹿な風習を、この国から消し去る! 私は君にそう誓いを立てるよ」


「え…」


「君に救われた命だ。私は、君のその願いを叶えるために、これからの人生を使うと決めた。悪しき風習を改めることは、我々、王家に生まれた者の責任でもあるからな」


「えっ、あ、はいっ!」


(やばい、かっこいい! 僕が女なら惚れてしまう)



「そうと決まれば、すぐ城に戻ろう。報告書をまとめねばならない。それから、ポーションを少し譲ってもらえないか? 頭の固い連中を動かすには、驚かせるのが一番だからな」


「はい、どれくらい必要でしょうか」


「うーむ、20本ずつ以上は欲しいが、数はあるのか?」


「大丈夫です」


 僕は、モヒート風味とカシスオレンジ風味の2種を30本ずつ出した。

 王子は、騎士風の人に指図をして受け取らせ、そしてお代だとして、金貨3枚を渡された。


「ちょ、ちょっと待ってください!いやいやいや、銀貨60枚ですから」


「ふっふっ。君、やはりおもしろいな、そう焦ることか? 先程の魔ポーションの価格も含めてだ」


「魔ポーションは、そこまで高くはないかと。まだ価格わからないですが」


「ライトさん、妥当な価格のはずですよ。これで、もしも金貨1枚だなんて査定を出すようなら、ギルドマスターを交代させなければなりませんね」


「えっ…そんなにですか」


 初老の騎士風の人は、うんうんと頷き、ギルドの奥の方を見てらっしゃる。


(ギルドマスターに圧力をかけている?)


「では、帰るぞ」


「はっ!」


 フリード王子は、僕に笑顔を見せ、そしてギルドにいた他の人達には手を挙げて挨拶に応じ、その後、サッと消えた! 他の騎士風の人や護衛の人達も同時に消えていた。


「えっ!」


「ライトさん、転移魔法ですよ。初老の騎士が詠唱していましたよ」


「あ、そ、そうなんですね! びっくりしました」





 フリード王子達が、帰って行ったあと、しばらくは妙な雰囲気だったギルドも、受付再開のアナウンスとともに、通常に戻っていった。


「レンさん、なんか、すごく疲れましたね」


「はい、俺も妙に疲れました、ははっ」


「しかし、フリード王子って凄い人ですね、行動力がハンパないというか…」


「剣士としても超一流なんだそうですよ。それに護衛もみな圧倒的に強いはずです。それがあんな目に遭ったなんて…」


「なぜあんな怪我をされたのでしょうか」


「おそらく、新しくできた迷宮の調査をされていたんだと思います」


「えっ!王子がそんな危険なことを?」


「フリード王子は、民が行く前に、自分が行くというスタンスなんだそうです。もちろん詳細調査は、国から冒険者に依頼されるのですが、受注ランクは、フリード王子が決めることが多いそうです」


「そのための下調べのような感じなんですね」


「おそらく」


(すごいな。王子って、もっと大切に守られているのかと思ってた)


「しかし、お腹空きましたね〜、レンさん、お昼ごはんは?」


「昼はだいたい携帯食なんで、さっき軽く食べましたが…」


 と言って、レンさんは僕に携帯食をくれた。


「あ、僕も持ってますから」


「これは支給品なんで、気にせずどうぞ〜。先輩たちから、いらないからと よく貰うんで、カバンこれでいっぱいなんですよー」


「ははっ、じゃあ、ありがたく貰います〜」


「はいどうぞ〜。あ、価格出たかもですね。こっち見てますよ」


「あ、ほんとだ、行ってきますねー」


「はい、あ、俺は仕事に戻るんで…、また!」


「はーい、また〜」





 僕は、見知らぬ人からあれこれと声をかけられながらも、買取カウンターの所までなんとかたどり着いた。


 だいぶ冒険者も入れ替わったが、先程のあれこれを見ていた人がまだ多く、僕はいろいろ声をかけられすぎて、ちょっとクラクラしていた。


「はぁ…」


「急に有名人になってしまわれましたね、ライトさん」


 ハッと顔を上げると…えーっと、確かノームさんだっけ? ギルドマスターが目の前に現れた。


「え、あ、はぁ…そうですね…」


 さっさと価格査定してくれないからじゃないかと言いたいところを、僕はグッと我慢した。


 そして、買取担当の職員さんの横に立って、その様子を見ていらっしゃる…。これ、絶対、職員さん、仕事やりにくいだろうなと少し同情してしまった。


「こほん。えーっと、ライトさん、大変お待たせ致しました。『F10』は銀貨1枚、『MーI 』は金貨2枚、ということでよろしいでしょうか?」


「かなりの高額ですね」


「ええ、金貨1枚か2枚かで、大激論だったのですが、金貨1枚の査定をすると、ギルマスの首が飛ぶようですので…」


「なるほど」


「よろしいでしょうか?」


「はい、それで結構です」


 ちらりとノームさんの方を見ると、なんとも言えない渋い顔をされていた。たぶん担当の人は価格を高く、ノームさんは低く主張してたんだろうなと思った。


「あ、あのすべて銀貨でお願いしたいのですが」


「はい、かしこまりました」


 そして、僕は、銀貨を201枚受け取った。手持ちの財布に入らないので、ギルドで売っている皮袋の財布を買った。

 1つ銅貨50枚と言われたので、2つ買って、いま受け取った中からお代を支払った。


「ありがとうございました」


 僕は、やっと、ギルドから解放された。


(はぁ長かったな…価格査定……あ! F10のFの意味聞くの忘れた。また今度でいっか)

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