表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

36/286

36、ロバタージュ 〜 第8王子フリード

 ロバタージュのギルドの1階は、騒然としていた。


 突然、帰還の魔道具で現れた6人は、誰もが知る有名人だった。

 1人はこの国の第8王子であり、他の5人は王子の専属護衛であり警備隊のエリートでもある文武に優れた者達だった。


 しかも、6人とも瀕死の大怪我を負っている。


 この場にいた、回復魔法に自信のある魔導士達が必死に回復魔法を唱えた。

 だが、ほとんどの傷は全く癒えず、ドクドクと血を流し続けていた。


 ギルドの職員達は、関係各所への連絡を入れ始めた。


「マズイぞ。呪詛だ。彼らは助からない!」


「呪術師を呼べ!手遅れになるぞ」


「その血に触れるな!呪詛が移るぞ!」



 珍しいポーションの査定のために、たまたまここを訪れていたギルドマスターのノームは、このタイミングの悪さを呪い、そして対処に頭を抱えていた。


「ここは、素早く焼却すべきだが、まだ生きている王子を焼き殺して無事で済むとは思えん。くそっ!」


「王宮との連絡が取れれば、焼却も可能かと」


「しかし、民に人気のあるフリード王子だ…。俺も焼却したくはない!」


「警備隊の方は、焼却許可が下りました!」


「あぁ、王宮の連絡待ちか…呪術師はいないのか!」


「この街に在住する呪術師はおりません。街に別件で来ている者がいるかもしれないので、至急探しております」


「ああ、なんて日だ…」




 僕が、2階から1階へと階段を駆け下りてきたときには、倒れている人達を隔離するかのような結界が張られていた。


(焼却がどうとか言ってる…やはり)


 僕は、倒れている人達の方へと向かっていった。すると、呪詛だから近づくなと怒鳴られた。


 僕は無視して、さらに近づいていった。


「おい! 小僧!聞こえてないのか!近づくとおまえも一緒に焼くことになるぞ」


「どうして、生きている人を焼き殺すんですか!頭おかしいんじゃないですか」


「お、おまえの方がおかしいだろ、おい!」


 僕は、この怒鳴っているオッサンに、カチンときた。

 彼が言うことは、おそらく正論なんだろう。それに偉そうな感じがする。地位の高い人なのかもしれない。


「僕なら、治せるかもしれない。どいてください!」


 そう言っても、彼は一切、譲る気はなさそうだった。


 倒れている人達の出血が続いている。血の海がどんどん広がっていた。もう、猶予はない。


 僕は、半分霊体化し、彼らをすり抜けた。そして、結界もすり抜け、中に入った。


 まわりは、さらに大騒ぎになっている。僕は無視した。そして、倒れている人達のことだけに集中する。



(まずは血の海をなんとかしないと)


 僕は、彼らに、シャワー魔法を使ってみた。そして結界内全体に、シャワー魔法を使う。血の跡は残っているが、だいたいキレイになった。よし!


 僕は一応、バリアを自分にかけようとしたら、頭に読めない文字が浮かんだ。


(いつもとは違う種類のバリアが発動した?)


 そして、『眼』に力を込める。すると、倒れている全員の身体の中を、魚みたいな黒い塊が…泳いでいる。


(まだ、住み着く場所を決めてないのか?)


 僕は、近くに居た人に近づき、右手を霊体化!そして彼の身体に入れた。

 中から回復をかけると出血は一瞬止まるが、すぐにまたあちこちから出血し始める。


(あの魚を捕まえるしかないか)


 僕は、動きを鈍らせるために、彼の身体を少し冷やした。そして、泳いでいた黒い塊を捕まえ、蘇生!パリンという振動とともに黒い塊はバラバラになった。さらに回復! すると、黒い塊はきれいに消え去り出血も止まった。よし!


 僕は、他の人にも同じように、冷やす、捕まえる、蘇生!回復!を繰り返していった。


(今回は、あまり魔力取られないな〜)


 そして、全員の回復を終えた。よし!

 もう一度、僕も含めた全員にシャワー魔法をかけた。これで、完了!


 倒れていた人達は、治療が終わると順にゆっくりと起き上がってきた。彼らは、なんだか呆然としていた。


「身体の中の黒い塊は、全て消しました。出血も止めましたが、まだ無理はしないでください。かなりの出血量でしたから」


「えっと…君が?治してくれたの?」


「はい。うまくいってよかったです。強い呪詛なら厳しかったと思います」


「いや、強い呪詛を食らったんだけど…」


「ん?まだ身体に定着してなかったからかな?すぐ消えてくれました」


「そ、そうなんですね…ありがとう」


「いえいえ」



「私は、第8王子フリードだ。ありがとう、君は命の恩人だ。君が望む物を与えるよう手配する。近いうちに王宮へ足を運んでもらえるか」


(えっ!王子?王宮?むりむりむりー)


「わわっ!いえ、おかまいなく…。そんなつもりで治したわけじゃないので…」


「おもしろい奴だな。遠慮する必要はない」


「遠慮とかじゃなくて、本当に結構ですから…。僕、そういうキチンとした場所は苦手で…」


「そうなのか。じゃあ、この街に届けさせる」


「いえいえ、ほんと困りますから…。僕は、そんな大したことしてませんし」


(下手に何かもらったら、一生むちゃぶりされる予感がする…。女神様のむちゃぶりだけでもいっぱいいっぱいなのに…)



 すると、フリード王子は、僕が本気で断っていることに気づいたようで、不思議そうな顔をしていた。


「おまえ、王子がこうおっしゃっているのを断わるのは、無礼であろう!」


 さっきまで倒れていたうちの一人が、僕に掴みかかりそうな勢いで、怒っていた。


「ひゃっ、で、でも、僕…」


「やめろ! 命を助けてもらった相手に掴みかかる気か?おまえも、彼がいなければ今頃は焼却されていたはずだ」


「はっ!申し訳ございません、殿下」


「謝る相手が違う!」


「…悪かったな、少年」


「い、いえ…」




 そこへ、警備隊の人達が数人、駆け込んできた。


「焼却するなら、我々が……あれ?」


 妙に静まり返っているギルド内の様子に、何があったのかと、一瞬、彼らは思考停止したようだった。


「あ、ライトさん!」


 声がした方へ振り向くと、レンさんが居た。僕は、この状況で知り合いの登場に、とてもホッとした。


「レンさん! お疲れ様です」


「ええっと…これは、いったい…」


「出血すごい人達が突然現れたから、それを治療しただけなんですけど…なんか変な空気になっちゃって…」


「あはは。なるほど! 助かりました」


「いえいえ〜」




「君、レン? この彼の知り合いか?」


 王子から名を呼ばれ、話しかけられたレンさんは、急にカチコチになっていた。それでも話をキチンとできるのは、僕とは違う…。見習わなければいけないな〜


「はい、殿下。私も彼に命を助けられまして、それ以来、親しくさせていただいております」


「そうなのか。彼は若いが、高名な魔導士に師事しているのだろうな。呪詛を消し去る魔力を持つなど、類稀なる逸材だ」


「どうでしょう?彼は記憶を無くしていて、しばらくは魔法も使えなかったようなのです」


「そうか…君も自ら死のふちを彷徨った、というわけか」


「え、あ、はい…」


「冒険者か?」


「え、えっと、まだ登録しただけなんですけど…」


「他に何かしているのか?」


「あ、はい。僕は、ポーションの行商を…」


 そう言って、僕は、小さい方の旗を出した。


「コペルか?ポーションの行商人に旗を出すなど珍しいですね」


 王子の横にいた一人が口を挟んだ。

 

「確かに、コペルの旗を持つ行商人は、だいたい宝石や貴金属を扱っていますよね」


(ロバートさんと同じこと言ってる…)


「珍しいポーションなのか?」


 これは…ポーションを出す流れだよね。しかも、この空気を断わるなんて、僕にはできない…。


 僕は、モヒート風味とカシスオレンジ風味の2種類を出した。


「あ、あの、よかったらどうぞ。かなり出血されたから少しでも回復できると思います」


「殿下、彼のポーションはとても飲みやすいのですよ」


 レンさんも、さりげなくフォローしてくれた。


 うむ。と受け取り、フリード王子はすぐに蓋を開けた。あたりに、ミントの香りが広がる。

 一瞬、驚いた顔をしたものの、一気に飲み干された。


「これは、飲みやすいな」


「ありがとうございます」


 まわりに居た人達も、このミントの香りで、ポーションらしくない味だと容易に想像できたようだった。


 そして、フリード王子は、もう1本のラベルを確認し、蓋を開けた。あたりに、オレンジの香りが広がる。そしてまた一気に飲み干された。


「こちらの方が、甘いのだな」


「はい」


「これはいくらで売っているのだ?」


「始めの方は、銀貨1枚で。後の方は、いままだ価格査定待ちですから、一般の方へは販売しておりません」


 この僕の発言を聞いて、ギルドの奥から、人が飛び出してきた。


(あ!さっきの偉そうなオッサンだ…)


「ギルドマスターのノームでございます。ライトさん、査定を随分とお待たせしてしまって申し訳ない」


「そんなに待たせるほどですか?この2種は、ほぼ同価格でしょう?」


 先程とは別の、王子の側にいた人が口を挟んだ。この人は、わりと紳士っぽい。さっきの気の荒そうな人とは真逆の印象を受けた。


「いえ、査定はもう一つ依頼されましてな。こちらが値段がつけにくいものでして…」


「あー、あれはもう引き取りますから、いいですよ」


「とんでもない! 困ります」



 こんな興味を煽るような言い方は…、嫌な予感しかしない。


「どんなポーションなんだ?」


(やっぱり…そうくるよね…)


 僕は、仕方なく、コーヒー牛乳味…じゃなかったカルーアミルク風味の魔ポーションを魔法袋から出して、フリード王子に渡した。


 すると、フリード王子は、すぐに飲もうとして、蓋に手をかけたまま動きを止める。

 

「な、なんだ? 魔ポーション…だと?」


「はい。こちらは、数があまりないので、通常販売は予定していません。お得意様だけ限定にするつもりです」


「そ、そりゃ、そうだろう。魔ポーションなんて数があるわけがない。しかもこれ、実質、剣士なら全回復じゃないか!」


 フリード王子が大げさなことを言うので、なんだかあちこちでザワザワしている。


 僕は、もう、この空気感に耐えられなくなってきていた。


(誰か、話をぶった切って、僕を解放してくれないかな……)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ