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35、ロバタージュ 〜 街を散策してみる

 商業の街ロバタージュには、この国のほとんどの商店が本店または支店をおいていた。


 商店はその規模が大きくなってくると、商会と名乗る会社組織のような店が増えてくる。


 その中でも特に大きな商会は、大商会と名乗ることを許されていた。

 この国には、大商会を名乗る店がいま11店、存在している。


 また、これらの他に裏稼業を専門とする大きな商店が数店あるらしい。

 彼らは、その存在を隠すために普通の商店を装っていることから、国でさえ実態が把握できないでいた。





「遅くなってすみません!」


 僕は、ギルドにポーションの価格査定を依頼したまま、しかも、こちらから時間のむちゃぶりをしたにもかかわらず、予定時間を大幅に遅れて戻って来たのだった。


(さすがに怒ってるよね、やばい)


 ところが、僕が買取カウンターに戻ったのを見て、職員さん達があわてていた。


「もう少しゆっくりでもよかったのですが…」


「そ、そうですか。あわてて走って来たのですが…。お待たせしていないならよかったです」


「あの、ライトさん、他に用事があるなら、先に済ませてきていただいても…」


「えっ?まだ価格決まらないですか」


「ちょっと確認を取らなければならない者が、まだ今日はこちらに来てなくてですね…」


「なるほど…。じゃあ、僕、ちょっと買い物してきます」


「あ、はい!ごゆっくり〜」





 僕は、再び観光気分で街を歩いていた。

 さっき行商人の登録に行ったときに、売れたポーションのお代もあるので、懐に余裕もできた。


(なんか楽しくなってきたなー。のんびり散歩するのもいいな)


 僕は、たまに露店を覗いたりしながら、気ままな散歩を楽しんでいた。


 行商人も、あちこちで旗を掲げて商売をしていた。露店と違って、取り扱っている商品がわからない。


(うーん、僕もそう見えるんだよね…。ポーション屋だとわかる何かが必要だな〜)


 客は、顔なじみなんだろう。行商人を見つけると、簡単な会話だけで商品の受け渡しをしていた。


 僕は、旗を掲げている行商人さん達が何を売っているのか気になりつつも、声をかける勇気はなくて、ぼんやりと様子を眺めていた。



「ポーション屋さん!」


 突然、背後からそう声をかけられて、僕は、ビクッとしてしまった。

 振り返ると…えっと、誰だっけ?


「あ、驚かせちゃいましたね、申し訳ありません」


「いえ、ボーっとしてまして、こちらこそすみません。えっと…もしかして、ロバートさん?」


「あはは。もしかしなくてもロバートでございます。この街でお会いするのは初めてでしたね。新作の噂を聞きつけましてね」


「あ、もしかして、じゃ!じゃ!とうるさい方からですか?」


「はい。そうですよ、くっくっ。今、ありますか?」


 僕は、魔法袋から新作のカシスオレンジ風味のポーションを取り出し、彼に渡した。


「どうぞ。いま、価格査定待ちなんですけどね〜」


「ほう。これは、こないだのポーションと同じ価格でしょうね」


「そうですね、僕もそんな感じだと思います」


 道の往来の邪魔にならない所へ移動し、ロバートさんは、ポーションの蓋を開けた。少し匂いを確かめた後、一気に飲み干してしまわれた。


「喉が渇いて疲れていたので、ちょうど良かった。こちらは、女性が好みそうですね」


「やはり、そうですよね」


「コーヒー牛乳の方は、だめじゃと言われてまして…、ポーション2種、お願いできますか?」


「だめじゃ、ですか。あはは。大丈夫ですよ。数は、どれくらい必要ですか?」


「出来るだけ多くお願いします。500でも1,000でも」


「わわ!それは厳しいです。とりあえず…」


 僕は、どこに商品を置こうかとキョロキョロしていたら、ロバートさんがトレイを持って、待っていた。


(いつのまに…)


 僕は、ロバートさんのトレイの上に、少し重くなってきたリュックからポーションを取り出し、置いていった。

 不思議なトレイで、適当に置いたのに、瓶が勝手に整列していく。


「魔道具ですか?このトレイ」


「ええ、そうなんです。重くならないので便利なんですよ〜。ウチの店で扱っております。今度ぜひお立ち寄りくださいね」


「あ、はい…」


 40本ずつくらい出たところで、これで、というと、支払いのキリが悪いからと、結局合計100本を売ることになった。


 すぐその場で、サッと商品を仕舞われ、そして、お代として金貨1枚を受け取った。


(うわっ、金貨! 100万円!)


 僕が金貨をジッと見ていたから不思議に思ったのか、


「ええっと…銀貨の方がよろしかったでしょうか?」


「あ、いえ、大丈夫です。金貨を見たのがまだ2回目なもので」


「本物ですから大丈夫ですよ、くっくっ」


「そこは疑ってませんよ?」


「信頼いただけてなによりです。あ、そういえば、行商人の登録はされましたか? 一応、ないよりはある方がメリットは大きいかと思いますよ」


「さっき、済ませてきました。ありがとうございます」


「旗を貰いましたか?」


「はい」


 ロバートさんが見たそうにソワソワされるので、魔法袋から、小さな方の旗を出した。


「おや、珍しい。コペルですか」


「えっと…珍しいのですか?」


「ええ、この商会は、貴金属や宝石に力を入れているので、ポーションのような消耗品を扱う行商人には見向きもしないんですがね〜」


「そうなんですね」


「この旗の行商人の商品は、だいたい値段も高いので…。まぁでもポーションとしては最高級品ですから、これはこれで、悪くはないと思います」


「そっか、よかったです」


「態度も悪かったでしょ?ここの人達…。で、ライトさんのポーションを飲んで、手のひらを返した感じでしょうか?」


「まぁそんな感じです。正直、途中で登録をやめようかとも思いましたもん」


「くっくっ。でも、あれでも大商会ですからね、旗はもらって損はないですよ。あ、使用料の請求は されましたか?」


「あー、お話には出ましたが、使用料はなしになりました」


「ふふっ。それは当然でしょうね」


「えっと…当然なのですか?」


「ええ、旗を渡しているということは、ある意味 宣伝でもあるのです。行商人の評判が上がれば、旗を渡している店の評判も上がりますからね」


「なるほど」


「ああーっと、長々とお引き止めして申し訳ない。ついつい、話したくなる性分でして…」


「いえいえ、こちらこそ、いろいろ教えていただけて助かりました」


「では、また。今度は居住区で」


「はい、失礼します」






 僕は、ロバートさんと別れた後、服を買いたかったことを思い出した。

 露店や行商人にばかり目がいってたため、服を売る店には気付かなかった。


 一応、ギルドへ戻りながら、店を探しながら歩いた。


(なかなか ないなぁ〜)


 見つけられないまま、結局ギルド近くまで戻って来てしまった。女性用の衣料品店ばかりで、男性用の店はないのか、もしくは区画で分けられているのか?


(今度、レンさんにでも聞いてみよう)



 ギルド近くになると、冒険者ご用達のような店が増える。


 武器屋や防具屋、アイテム屋、魔道具屋などが並ぶ。そして食料品屋も発見!


(そうそう、数日分の食べ物も買いたかったんだ)


 僕は、食料品屋に入っていった。入り口付近に買い物かごのようなものがあり、みんな、手に持って店内を物色している。僕も、かごを持って、ウロウロし始めた。


 魔法袋はあるけど、やはりコンパクトな方がいいだろうと思い、前に食べたことのある携帯食をとりあえず10食分かごに入れた。

 あとは、瓶入りの水と紅茶を10本ずつ。とりあえずこれで少し安心できる。


 お会計を済ませて、店を出た。支払いは銅貨90枚だったので、銀貨1枚で支払い、お釣りをもらった。


(あ、行商人するなら釣り銭の用意も必要だな…)


 いろいろと気づくことが多いけど、その度に片付けていかないと忘れてしまいそうだ。


(ギルドの買取は、銀貨でもらおう…。あ…心配しなくても、銀貨だな。うん)






 そして、僕は、ギルドに戻った。


(さすがにこれだけ時間を潰せば大丈夫だろうと思っていたけど……まだ決まらないのかな?)


 僕が、買取カウンターへ近づいていくと、職員さん達がまた焦っているようだった。


「あの…。まだ時間かかりそうですか?」


「ライトさん、すみません、もう少しだけお時間いただけませんか?」


「まだ来られないんですか?確認する人…」


「いえ、彼は来てるのですが、ちょっと他がいろいろと…」


「じゃあ、またの機会でいいです」


「ちょ、ちょっと待ってください!あと少しですから…」


「はぁ」


(なぜこんなに必死なんだろう…あ、飲まずに査定しているってことかな?魔ポーション、たぶん高いもんね)



「なぁに?まだ終わらないのかしら?」


「わっ、びっくりした!はい、リリィさん、まだみたいです。価格査定って時間かかるものなんですね」


「かかりすぎでしょ? 私、ミッションひとつ終えてきたわよ?」


「早っ! お疲れ様です」



 リリィさんと一緒にいた人達が、僕の方をチラ見しつつ何かを話していた。そしてリリィさんにもこっそりと耳打ちをしている。


(コソコソされると気になる…)




 僕は、リリィさんに軽く会釈をして、その場から離れ、ギルドの2階へと階段を上っていった。


(イーシアのミッション、何かないかなー?)


 もう少しだけだという職員さんの言葉を信じて、僕は次の予定を考えることにした。


 まだ単独でのミッションの受注は認められていないが、探すくらいなら一人でもできる。

 僕が受注可能な、ランク制限なしのミッションは、ほとんどが採取ミッションだった。


(あった! こっちも! 結構いっぱいある!)


 イーシアの森は、自然が豊かで、精霊の加護もあることから、貴重な植物も多いようだった。


 そしてイーシアの森ほどではないが、たくさんの依頼が出ているのが、玉湯のものだった。

 その内容から、玉湯は、温泉のようなものだと予想できた。様々な効能があるようだ。


(温泉があるなら、行ってみたい気もするな〜)


 他の依頼も、いろいろ見ているだけでもなんだか少し楽しかった。

 ランクが上がると、討伐依頼や、動物や魔物の素材集めが増えていくんだな〜。



 バタバタッ!バタン! きゃーっ!


 突然、下の階から大きな物音と、悲鳴が聞こえた!


(襲撃?いや…違う)


 僕は、『眼』に力を込め、下の階を見た。


 そこには、1つのパーティなのか、5〜6人の人達がいた。全員、瀕死の怪我を負っているように見える。

 まわりの冒険者が回復魔法をかけても効いていないようだった。


(呪詛、かな)


 僕は、あわてて、下の階へと下りていった。


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