33、ロバタージュ 〜 警備隊レンフォード
ブックマーク、評価ありがとうこざいます! めちゃ嬉しいです。体調悪いと特にほんと励ましていただいてます。
これで年内、最終投稿になります。ここまで読んでくださって本当にありがとうございました。
今年も残すところ僅かとなりました。
皆様、よいお年をお迎えください。
来年も、どうぞよろしくお願いします。
ロバタージュの朝。
朝とは言ってもこの世界には太陽が二つあるのだから、真っ暗な夜はない。
だが、青い太陽から赤い太陽へ変わると、空気感が変わる。
赤い太陽は暖かく、真上にあるときは少し暑い。
人族にとっては、活動しやすいことから、赤い太陽の出ているときが昼間、と決められていた。
そして、ロバタージュの街は、この国でも最も賑やかと言っても過言でないくらい栄えている、商売の街、そして眠らない街だ。
太陽の色が変わると、街の様子も、開いている店の様子も変わるが、常にたくさんの人で溢れている街なのだ。
「ライトさん、やっぱダメです。隊長起きません」
「疲れがたまってるんですよね、きっと」
「そうですね。今回のような、ここまで本気で死を覚悟した仕事は…俺は初めてでしたから」
「警備隊って、大変なお仕事ですよね…」
「まぁ、でも好きでやってるんですけどね〜。隊長は放っておいて、朝メシ行きましょう!」
「ですね!」
僕は、やはり思ったとおり起きてこないレオンさんを少し心配しつつ、新人っぽい隊員さんと朝ごはんを食べに出かけた。
「あの、今さらなんですが、お名前、教えてもらってもいいですか?」
「あははは。確かに名乗ってませんでしたね。仕事中は、なるべく名前を呼ばないようにしているから…」
「名前を呼ばないように?ですか?」
「はい。下手に冒険者さん達に覚えられると、いろいろとトラブルの元になることがあるそうで…。勝手に自分のフリをされたりとか、よくあるようなんです」
「なるほどー」
「あ、俺は、レンフォードです。名前長いので、みんなからは、レンって呼ばれてます」
「レンフォードさん、あ、レンさんでしたね。改めましてよろしくお願いします」
「あははっ。こちらこそ、って、ライトさん、堅苦しいですよ〜」
「す、すみません。なんとなく…はははっ」
そして、レンさんに連れられて、パン屋っぽい店に入った。
中は、ほぼ満席で、店員さんに案内され、カウンター席に横並びで座った。
「ライトさんも、モーニングセットでいいですか?」
「はい」
一番オススメだというモーニングセットを頼んで、すぐにスープがきた。
「早っ!」
「でしょ?混んでるときは、これ以外はかなり待たされるんですよ〜」
と言ってる間に、パンと卵のプレートと、紅茶が出てきた。ほんとに早い!
「じゃあ、食べましょう〜。パン屋だから、パンは他の店より美味いですよ。他は期待しないでくださいね、あはは」
「はい。ってか、お店の人に聞こえますよー」
僕は、少しオロオロしていたが、店員さんは忙しく動き回っていて、客の話に何の関心もなさそうだった。
「みんな好き勝手に言ってますから、いいんですよ〜」
「あはは…」
僕は、スープを少し飲んでみた。野菜スープかな?優しい味…いや、正確に言えば、野菜と塩の味…だった。
パンは焼き立てなのか、まだ温かく表面は少し香ばしくて美味しい。
バターが欲しいところだが、この世界では、パンはスープにつけて食べるものなのか、バターもジャムもなかった。
卵は、スクランブルエッグのようだがあまり味がしない。
どう食べようかとレンさんを見ると、スープの中に投入していた。なるほどー
食べている途中で、集金の人が来た。
銅貨5枚と言われ、僕達はそれぞれ支払いを済ませた。
支払いをすると、おかわり用のティーポットを置いて行かれた。なるほど、こういう仕組みの店もあるんだ。
「この店もですけど、混んでる時間は釣り銭を嫌う店が多いので、銅貨はそれなりに持っておかないと困ることがあるんですよ」
「へぇ、そうなんですね。持っててよかった〜」
「ひどい店なんて、釣り銭ないとか言うとこもあるから…。気をつけてくださいね。もしそんなことで、銀貨を取られたら、必ず警備隊に連絡してください」
「あ、はい。頼りにしてます!」
「はい。頼りにされます!はははっ」
「あははっ」
そして、食事を終え、おかわりの紅茶を飲んでいると、レンさんが何かを思い出したという顔をした。で、僕に話しかけようとして、止めた。
(ん?なんだか?何?)
何か言いたいことがあるけど、言いにくいのかな?それなら、こちらから聞くべき?
どうやら、僕達は似た者同士のようだった。頼みごとをするのは苦手…。頼まれごとを断るのも苦手…。
「あの…」
「はい、なんですか?ライトさん」
「勘違いならごめんなさいなのですが、何か僕にお話があるのではないですか?」
「えっ!あはは、バレちゃいましたか〜」
「なんとなくですけど…」
「えーっと、言いにくいのですが…、僕に個人的にあのポーション売って欲しいなと思ってて…」
「どれですか?数あるものなら大丈夫ですよ」
「ほんとですか!俺、火装備がないので、火山いつも辛いんですよ。でもあのポーション飲んだ後は、身体がすごくラクだったから」
「固定値のやつですよね。あれなら大丈夫です。ただまだ価格査定受けてないから…」
そして、僕は魔法袋から、固定値回復のポーションを5本出した。
魔法袋って、イメージしたものが手の中に飛び出してくるから、ほんと便利!
レンさんに、どうぞと渡した。
「え!こんなにいいんですか?」
「はい。大丈夫です。お代は価格が決まってからでいいので…。あ、ちゃんとお友達価格にしますから安心してください」
「わぁ、助かります。俺、冒険者もかなりやってるんで、支払いは大丈夫ですからね」
「そうなんですね! 僕も冒険者デビュー早くしたいです。登録だけだとなんだか落ち着かなくて。と言っても、受注できそうなものがあるか不安ですけど…」
「え!回復役なら、いくらでも仕事ありますよ?」
「ただ、転移が、アレなので…」
「あはは。すぐに慣れますよ。それに、転移酔いを気にして組まないという冒険者がいるとすれば、下位冒険者です。中堅以上なら、気にしませんよ」
「それならいいんですけど…」
それから少しして、僕達は店を出た。
レンさんは、レオンさんを起こしに行ってから仕事に行くという。
僕は、レンさんと宿の入り口で別れ、宿のチェックアウトを済ませた。連泊も考えたが、宿ではなく、部屋を借りる方がいいかと思ったためだ。
(さて…とりあえずギルドかな)
僕は、うろ覚えだったが なんとかギルドの場所を見つけ、中へと入っていった。
(うん、誰にもジロジロ見られない。この服の人、ちらほらいるから目立たないよね。よかった)
初めて来たときは、レオンさんと一緒だったのもあるかもしれないけど、何より僕は汚れた死装束だったから、やたらとジロジロ見られた。
あの時の視線や、ヒソヒソ話が、僕にはちょっとトラウマになっているようだ。
僕は、買取カウンターの列に並んで、まわりを見渡してみた。
朝のこの時間は、買取カウンターよりも、受注カウンターが混んでいた。それ以上に、報告カウンターの方がスゴイ人だった。
(前日の報告を、翌朝にする人が多いんだな〜)
そして、僕の番がきた。
僕は、買取担当の職員さんに、ポーション2種類を1本ずつ渡した。
「買取2本で…えっ!あの!これをどこで? あ、えっと、登録者カードをお持ちですか?」
「はい、まだ受注してなくて登録のみですが…」
僕が、冒険者の登録者カードを見せると、名前を確認した途端、職員さんから奥の事務所に回って欲しいと言われる。
なんだか嫌な予感しかしないので、僕は、頑張って、丁重にお断りした。
「今日は、やることが多くて、ゆっくりしている余裕がないので、ここでお願いしたいのですが…」
「ライトさん、あの、価格はすぐには…」
「どれくらいかかりますか?」
「1本は、すぐにできますが、こちらはちょっと…」
(火無効つきのは大丈夫で、魔ポーションは時間かかる?あ、魔ポーション自体が珍しいんだっけ…)
「じゃあ、これはまた日を改めます」
と言って、僕は、魔ポーションを引き取ろうとしたが……職員さんが握りしめていて離してくれない。
「それは、困ります。いや、困らないですが、見てしまったので…」
(意味がわからない…)
なんだか、妙なにらみ合いになってしまっていると、突然、他の冒険者が話に入ってきた。ん?見たことある?どこで会ったっけ?
「珍しい物だからって、それはないんじゃないかしら?」
「あの、リリィ様、ですが…」
「お兄さん、確か、ライトだっけ?」
「あ、は、はい。えーっと…?」
「1時間なら大丈夫?査定時間」
「預けておいて、1時間後に聞きに来るなら大丈夫です。今日いろいろやることが多くて…」
「そう。じゃあ 1時間ね。それで査定価格が決まらないなら、他のギルドに買取してもらえばいいわ」
「はい、じゃあ、それでお願いします」
「えっえっ!1時間ですか?そんな無茶な…」
「別に、ここが無理なら他に行けばいいだけだから、無理しなくてもいいわよ」
「いえ、頑張らせていただきます…」
「ふふん。なら最初からそう言いなさいよ」
買取担当の職員さんは、奥から人を呼んで、急にバタバタし始めていた。
「あ、あの…」
「なぁに?」
「お顔、なんとなく見覚えはあるんですが…どちら様でしたっけ?あ、リリィさん?リリィ様?」
「名前なんて名乗ってなかったけど、冒険者同士で、堅苦しい呼び方は不要よ。リリィでいいわ、ライト」
「あ、じゃあ、リリィさん。えっと…あ!野菜摘んでたときの人だ!」
「ん?あー…そういえば…イケメンくんの彼女?」
「いやいや、僕は男なんですけど…」
「あはっ。それで拗ねてたのねー」
「いえ…僕、何か摘み始めると集中してしまって…」
「へぇ、珍しいね。採取とか面倒くさいのにー」
「あはは…。じゃあ、僕はそろそろ」
「次はどこへ行くのかしら?」
「行商人の登録をしたくて…あ! どこに行けばいいんだろう…」
「ギルドでもできるけど、商会の方がいいかもね」
「そうなんですね。じゃあ、商会に登録しに行って、ここに戻って来たら いい時間になるかな」
「登録なんて、すぐ終わるわよ。他の用事もあるなら、それも大丈夫なんじゃない?」
僕は、リリィさんに商会の場所を聞いて、お礼を言って、ギルドを出た。
(できることはサッサと片付けよう。また何かむちゃぶりされたら…いろいろ困ることになりそうだもんな…)
僕はなぜか、妙に焦っていたのだった。




