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3、イーシア湖 〜 便利な『眼』と謎すぎるリュック

 僕がこの世界にやってきた はじまりの地は、山奥の名もなき小さな集落だった。


 このときは、僕はまだ何も知らなかった。僕に大きな影響を与える人達に出会うたびに、この世界のことを学んでいったんだ。


 ここは、精霊イーシアがこの辺りを守護していることから、イーシアの森と呼ばれているのだと、大切な人に教えてもらうことになる。


 そして、この世界のあちこちには、その地を守護する精霊や下級神、そしてさらに彼らを守る守護獣やガーディアンがいるらしい。


 戦う力のない人族は、魔物を恐れ、精霊のすみかの近くに小さな集落を作ることが多いそうだ。





「とりあえず、この集落からは離れる方がいいよな」


 僕は、少し怖かった。再びまた、彼らが戻ってくるかもしれない。見つかると、逃げる自信はない。


 この集落を探せば、食べ物が見つかるかもしれない。でもあちこちに、人の焼死体がある。すごく空腹だけど、ここを探そうという気にはなれなかった。


 それに、森の中なら果物や食べれる木の実もあるだろう。水も飲みたい。


 兵士らしき者達が出て行ったのとは別の出入り口から、僕は出ていくことにした。そして、まっすぐ足早に、森の中へと入っていった。




 少し歩くと、梨のような実をつける木を見つけた。僕の背の倍はありそうな、高いその木に登り、そして必死に手を伸ばし、実をもいで かじってみる。


 あまり熟れていないリンゴのような味がした。すっぱいけど、食べられないことはない。3個目を食べ終えると、ようやくお腹も落ちついてきた。


「水、どこかにないかな…」


 口の中に、なんだか渋い味が残ってて、気持ちわるい。コーラでもあればいいのだけど、そこまでの贅沢は言えない。とりあえず、水を飲みたい。


 川か湖でもないかと、木の上から目を凝らしてみる。


「あれ? なんだ?」


 前方に、黄色い一筋の光が、見えた。天に昇るように、いや、天から光が地上に降り注いでいるのかな?


 あの、じゃ! じゃ! と、うるさい女神様が、僕に水の在り処を教えてくれているのかもしれない。


 その光の方へ、僕は歩き始めた。




 この森は、とても静かだった。なんだか神聖な….神社とか、いわゆるパワースポットのような不思議な感じがした。


 歩きつつも、僕は自分の身体を確かめる。


 髪は茶髪かな? 金髪まではいかない、少し色素の薄い感じの茶髪だった。髪は肩のところまで伸びている。


 手足もかなり色白で、やせている。確か、この身体の持ち主は、なにかの病気で死んでしまったらしい。まぁ、色白でやせているのも当然か。


 僕は、前世では髪はいつも短かったから、この首筋に当たる髪に慣れない。


(ん? この髪型、いわゆるボブだよね? まさか、女だったりして?)


 急に不安になって、一応、下を確かめてみる。


(うん、大丈夫! ちゃんとついてる)


 男だとわかり、なぜかホッとする。いや、まぁ、この際、女でもいいんだけど…。ま、名前からして男だよね。


(ライト…か。これが僕の名前。翔太じゃダメなのかな?)


 フランス人に、翔太という名前はないだろう。

 ましてや、ここは剣と魔法の異世界だし。


(うん、ライト。この名前で生きていくか)


 それに、ライトって、僕のことを呼んでくれた人も居たし、他にもこの顔を知っている人がいるかもしれない。


(そういえば、あの人、あれからどうなったんだろう…)


 なんだか、辛くなってきた…。ダメだ、くよくよ考えるのはやめよう。




 しばらく何も考えずに、ただただ光の方へ歩いていくと、ひらけた場所に たどり着いた。


 湖だ! キラキラと澄んだ水が光っている。


 でも光の筋は、湖の対岸のさらに奥の方を指しているように見える。

 目を凝らして、さらによく見てみる。


(え? あれ? 木が透明になった?)


 光の手前の木々が、スッと消えて、光が、大きな木の根元から天に昇っているのが見えた。


 すると、突然、ガンっと目の奥に衝撃が、と同時に強い頭痛におそわれる…。


(うわぁあ、頭痛い……気持ちわる)


 僕は思わず目を閉じ、右手で目頭をグリグリした。


(あ、治った!)


 目を開けると、光の筋は木々の奥に見えるものの、手前の木々は元に戻っていた。


(透明化させたのか? いや、透視か?)


 急に頭が痛くなったのは、知らずに何かの力を使ったからかもしれない。



 そういえば、女神様は『眼』も与えるとか言っていた。光を見る『眼』なんだろうか。あの光の元に、何があるんだろう?


(あ! 女神様の落とし物が光ってるのかな?)


 とりあえず、まずは水を飲もう! 口の中がカラカラだし、まだ少しさっきの渋味が残ってる、さっぱりしたい。




 僕は、キラキラ光る湖へと、近づいていった。


 この水飲めるのかな? 湖面が少し低いな…。コップか何か、水をすくうものがほしいな。


 そして、湖に映る自分の姿を見た。


 顔は、はっきりとは わからないけど、髪型のせいか、見た目は中性的で、男か女かよくわからない感じ。

 この世界の人って、みんなこんな感じなのかな?


 年齢的にも、確か17歳って腕に巻かれた紙に書いてあったけど、もう少し若く見える。


 鏡のようにキラキラ光る湖面に映る自分の姿を、角度を変えつつ、あれこれとチェックしていると、ふと自分が何かを背負っていることに気付いた。


(ん? なんだ? 何も重さは感じなかったけど?)


 肩には、縄のような紐がピタっと貼り付いているように見える。

 リュック? にしては、なんかショボい。


 このリュック?を肩から下ろしてみる。まるで巾着袋のような形をしている。地味な麻袋のような、ちょっと表面がゴワゴワしている素材。


 これ、小学生の頃の体操着入れに似てるかも。巾着袋の底、2ヶ所に紐を通して、背負えるようにしてるやつ。田舎の婆ちゃんが手作りしてくれたんだよな。


(懐かしいな…)


 なんて考えていると、また、辛くなってきた……ダメだ! ポジティブにいこう! うん!



 そうだ! のたれ死にしないようにリュックを渡すとか言ってたから、これ、食べ物が入ってるんじゃ?


 あのときの女神様の言葉を思い出し、そしてちょっとドキドキしつつ、中を開けてみた。


(……なんもないじゃん)


 中は、空っぽ。いや正確に言えば、ペットボトルのような、ガラス容器のような物が入っていた。しかし、中身はない。


(うー、そうくるか…。だよね、軽いもんね)


 まぁでも、ボトルがあると湖の水は汲みやすいし、水を入れて持ち運べるから、ないよりは全然いい。うん、ここはポジティブにいこう! うん、うん。



 僕は気持ちを切り替えて、湖の水をこのボトルで汲み、ほんの少し飲んでみた。


(うわっ! なにこれ! めちゃくちゃ美味しい! 名水100選もびっくりだね)


 そして、一気に飲み干す。前世でも今までに飲んだことがないくらい、湖の水は美味しかった。


 のどが渇いていたせいもあるかもだけど、この場所は、そもそも空気からして違う。

 大自然の恵みだ! と、僕はめちゃくちゃ感動していた。


 もう一度ボトルいっぱいに水を汲み、飲み干す。


(ぷはぁー、生き返る! よし、リュックにも入れておこう)


 さらにもう一度水を汲み、ボトルのフタを閉めてリュックに入れた。そして、リュックを背負うと……ん? 違和感が…。


(あれ? 水が入ってるのに、軽い? 背負ってる感じがしない)


 僕はリュックを下ろして、中を見る。するとボトルが空になっているではないか!


(げっ! こぼれた?)


 それにしては、リュックの底は濡れていない。こぼれるにしても、空っぽになるかな? これ、1リットルは入りそうだけど。


 なんて考えていても仕方ない。もう一度、湖に近づいて、水を汲む。

 今度は、ほんとにしっかりフタをして、逆さにしてもこぼれないことまで確認してから、リュックに入れた。


(よし! 完璧!)


 ところが…。


「なんで、また空っぽになるかな…? もしかしてリュックくん、のどが渇いているとか言う?」


 この世界の常識は、僕にはわからない。


 でも、もしかしたら、このリュックは生き物なのかもしれない。だとしたら、のどが渇いて 水を飲みたくなるのもわかる。


(リュックに、水やりをしなければならないのか)



 僕は また水を汲み、そのままリュックの中に流し込んでみた。チョロチョロ……ん? あれ? 水はリュックの底から、ポタポタと浸み出してきた。


「……リュックくん、もしかして反抗期? いや、直接、水を流し込まれるのが嫌い?」


 いつしか、普通にリュックに話しかけている僕…。はぁ、疲れているな。なんで物に話しかけてんだよ…。


 再びボトルに水を汲み、フタ閉めて、リュックに入れる。すると背負った瞬間、その重さがなくなる。


 またボトルに水を汲み、フタ閉めて、リュックに入れる。やっぱり背負った瞬間、重さが消える。


(こ、これは…。新たな訓練か?)


 僕は、ちょっと意地になって、汲む、入れる、背負う、を繰り返す。


「はぁ、はぁ、はぁっ、腹筋も背筋も痛くなってきた! リュックくんのいじわる! いや、これは、そもそも、あの女神様の…」




「ねぇ、さっきから、何してるの?」


 突然、後ろから、声をかけられた。


「ひゃ!」


 僕は、驚いて湖に落ちそうになる。


「あわわ! おっと、あぶないなぁ、お兄さん。大丈夫? いや、お姉さんかな?」


 声をかけてきた人が、とっさに僕の腕をつかんで、引っ張ってくれた。


「あ、ありがとうございます。大丈夫です、助かりました。えっと、僕、男です」


「男の子だったんだ。たまに、ここに来てるよね? いつもは薬草摘みにだけど…。そこの集落の子?」


「えっ? 僕のことをご存知なんですか?」


「うーん、まぁ、お兄さんに限らず、この辺の集落の人はだいたい覚えてるよ。ふだんは、声はかけないけどね」


「そうなんですか、えっと…」


(目の前の…人? いや、耳が頭の上にある…。もしかして、魔物とか?)


「あー、怖がらないでいいよ。こわい魔物とかじゃないよ? あたしは、この湖に住む精霊イーシア様の守護獣だから」


「えっ! 守護獣! 様? あわあわ」


「うふっ。そうそう、守護獣のアトラ様だよ!」


「アトラ様?」


「うんうん、いいね。様呼びされるとなんだか偉くなった気になるよ。あたし、ちょっと嬉しい」


 そう言うと、目の前の守護獣様は、ポッと顔を赤らめる。僕は なぜか、いつも褒めて褒めてとすり寄ってくる前世の愛犬を思い出した。


 なんていうか、とにかくとても可愛らしい。そんな風に照れられると、キュンとしてしまう。


(頭なでなでしたいなー)


 種族的に獣系なんだろうか。耳が頭の上にある以外は、人と変わらないように見える。


「あ、もしかして、湖の水を汲みすぎて怒ってらっしゃるとか…? ご、ごめんなさい」


「ん? 別にそんなたいした量でもないし気にしなくていいよ。お兄さんよりも、その魔道具が飲みたがってるんでしょ?」


「魔道具? えっと…このリュックのことでしょうか?」


「そう。って、お兄さん、それが魔道具って知らないで使ってたの? 見た感じ、錬金系でしょ?」


「えっ?」


「なんか、振り回されてるからさ。面白そうだなぁって思って、話しかけてみたんだけど」


(え? 魔道具? 錬金系って何? )


 ちょ、女神様! イロハカルティア様! どういうことですか? 教えてください。


『…………』


(あ、あの、聞こえますか? 女神様〜!………また、圏外、ですか…)


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