【一年後】イロハカルティアからの報告
(注)今回は少し下品です。お食事中の方はご注意ください。
妾じゃ。謎の美少女じゃ。この一年の出来事と言われても、ちょっと困るのじゃ。
なっ? ボケたわけでもアホになったわけでもないのじゃ。妾は、あちこち次元や時を超えておるから、時間の感覚がイマイチわからぬ。神戦争後のことでよいのか?
神戦争後は、妾は黄色い太陽系を巡回しておった。はじめは、黄色い星系は、11の中立の星が属しておったが、参加希望の星がどんどん増えていったのじゃ。その度に、妾があれこれと世話をせねばならなかったのじゃ。
ほとんどは、カースとリュックにお使いを頼んでおったがの。今では80を超えておるのじゃ。
それが面白くないと感じたのじゃろうが、赤い星系や青い星系からの攻撃が続いておる。ほとんどが、星系を抜けて、妾の星系へ来た神への嫌がらせじゃ。
特に青い星系は、しつこいのじゃ。陰湿なのじゃ。
あと、妾の城は、オババに仕切ってもらっておるのじゃ。妾の代行者16人は、そのまま任務続行中なのじゃ。妾は、あちこちに行かねばならぬから、やはり代行者は必要なのじゃ。
妾は、イロハカルティア星すべての住人に、仲良くしてもらいたいのじゃ。戦乱ばかりが続いておったが、その戦乱の理由をひとつずつ取り除いていきたいのじゃ。
知能が高いのに、貧しく、生きる為に争奪戦争をする種族が多いのじゃ。彼らは、言葉はわかるが、言葉が通じぬ。教育が必要なのじゃ。
ハロイ島の神族の街ワタガシに、学費無料の魔法学園を作ったのじゃ。この街に来れば、飢え死にすることはないと宣伝したのじゃ。
すると、文化レベルの低い種族が大量に押し寄せてきたのじゃ。妾の予想以上に反響があったのじゃ。
この街で学び、略奪ではなく労働の対価として給料を得る仕組みを、自分達の国でも実践してくれたら、完璧なのじゃ。
じゃが、大量にやってきた者達に、まず、略奪しないように教えることだけでも大変なようじゃ。街に馴染めぬ者は去っていく。別に強制するわけにもいかぬから、好きにすればよい。
ただ、そんな大人達に振り回される子供達が心配なのじゃ。大人と違って子供は素直なのじゃ。逆に言えば、残酷でもあるのじゃ。
環境の変化のストレスを、自分より弱い者へぶつけるのじゃ。しかも、知能が高い者は陰湿じゃ。大人にばれぬように、こっそりといじめるのじゃ。そのせいで、弱い子供が命を落としてしまうことが頻発しておるのじゃ。
だから妾は、謎の美少女ティアとして、日々そんな子供をひとりでも多く救いたいと願っておるのじゃ。
「もう、いろはちゃん、いつまで代行者をさせるつもりなの?」
「平和になるまでじゃ」
「なんだか、私が女神だと勘違いしてる人が多いわよー」
「ナタリーの方が妾より女神っぽいのじゃ。だから適材適所なのじゃ」
「理由になってないわよぉ〜」
「妾は、チビっ子達と待ち合わせがあるから、ワタガシに行ってくるのじゃ。あとはよろしくなのじゃ」
「ちょっとぉ〜」
「おまえ、この城を守る方が圧倒的に楽やで。ババアがやろうとしてることには、ババア自身が動くのが一番効果あるんや」
「そりゃそうかもしれないけど〜。タイガはいいわよね、あちこち行き来できて」
「せやな、まぁ、適材適所ってやつちゃうか〜。ババアも妖精としての力を発揮できて楽しいんやろ。逆に、おまえに、大量の病んだガキの世話できるんか?」
「一時的に操ることならできるわよ」
「あほか、何の解決にもならへんやないけ」
「はぁ、早く落ち着いて、のんびりしたいわねぇ」
「今でも、のんびりしとるやんけ」
妾がいま一番気にかけておるのは、湖上の街ワタガシに来る子供達の心じゃ。
少し前に、ヲカシノから報告をもらったのじゃ。移民の子供の死が多いそうじゃ。あの島はマナが濃いため、強い魔物も多いのじゃ。だから、その被害に遭っておるのかと思っておった。
じゃが、街の中を駆け巡って、それが原因ではないとわかったのじゃ。子供達同士のイジメが悲劇を生んでおったのじゃ。
妾は、ギルドのミッションを子供にも受注させるように働きかけた。さらに、学校の入学年齢も5歳に引き下げたのじゃ。
警戒心の強い子は、他種族の大人には心を開かぬ。子供にみえる若い守護獣にも手伝ってもらって、子供だけの世界も作り上げておる。意外にこれが当たりじゃった。
チビっ子達は、どんな種族も子供だけの秘密基地が好きなようじゃ。
「ティアちゃん、遅いよー」
「ふむ。遅くなったのじゃ」
「花畑の端に、おれ達の秘密基地を作ってるんだよー」
「銅貨1枚ショップの花畑か?」
「そうそう。踏み荒さなければ、端っこは花を植えないから好きにしていいって、隣の店のマスターが言ってた〜」
「あの銅貨1枚ショップも、横のバーも、あのマスターの店じゃぞ?」
「そうなのー?」
「うむ。そうじゃ! いいことを思いついたのじゃ」
「なになに〜?」
「そこは、ただの秘密基地じゃなくて、何かの隠れ家にするのはどうじゃ?」
「隠れ家? 悪い人みたいー」
「なっ? なぜじゃ。隠れ家というと、ワクワクしないのか? こっそりじゃぞ? 大人には見つけられぬ場所じゃぞ?」
「こっそり? 大人には見つけられない?」
「うむ。草原の精霊に頼めば、きっと結界を張ってくれるのじゃ。こっそりハウスじゃ」
子供達は、目をキラキラと輝かせていた。ウズウズ、ワクワクし始めた者もおる。
「じゃが、変な隠れ家じゃと、結界は張ってくれぬだろうな。何をする隠れ家がいいかのぅ?」
すると、子供達はうんうんと考えながら、いろいろな意見が飛び出してきたのじゃ。妾は、妥当な意見が出るのを待った。
「じゃあ、探偵事務所は? 困りごとの相談とかをこっそり聞いてあげるの」
「探偵事務所なら、街のあちこちにあるのじゃ」
「あれは、大人の探偵だから。子供の探偵事務所を作るの」
「ふぅむ。子供の探偵事務所か。どんな仕事をするのじゃ? 大人のマネはつまらぬぞ?」
妾は、少し否定的な意見を言った。すると子供達は、妾を論破しようと、さらにいろいろな意見を出してきたのじゃ。
「迷い子になってる子の道案内とか〜」
「腹減ってる子がいたら、試食ツアーもいいよね。スーパーとか新製品の試食してるー」
「いじめられてる子を助けてあげるのもいいかも。最近、移民の子がよくいじめられてるのを見るよ」
「そうじゃな。子供のことは、子供にしか解決できないこともあるかもしれぬ」
「でしょー? 探偵事務所がいいよー」
「探偵事務所って名前は、ダサくない?」
「じゃあ、どんな名前がカッコいいのじゃ?」
子供達は、またうんうんと考え、いろいろな意見が飛び出した。そして、なぜか妙な名前に落ち着いたようじゃ。
「うんこランドに決定〜! 合言葉は、うん、こー、だよ」
「うん、こー、なのか?」
「ティアちゃん、違うよー。うん、と言われたら、こーって言うんだよ」
「うん」
「こー!」
「妙な名前じゃが、まぁよい。うんこランド結成式をやるのじゃ」
「どこで?」
「あのマスターの店で、うんこパフェを作ってもらうのじゃ」
「きゃー! うんこ食べちゃうの〜、ギャハハ」
「チョコだと、めちゃくちゃうんこだよ〜、ブハハハ」
「そうと決まれば、結成式じゃ。参加する子供達を集めるのじゃ。妾は、あの店を貸し切りにしてもらってくるから、先に行って待っておるぞ。うん!」
「こー!!」
さっそく決まった合言葉を使うと、子供達は、キャッキャと楽しそうに連呼しながら、あちこちへ散って行った。
妾は、ライトの店へと移動した。
「あー、マスターは来ておらぬのか?」
「マスターは夕方からですねー」
「ふむ。すぐに呼んでほしいのじゃ。子供達がたくさん来るのじゃ。貸し切り希望なのじゃ」
「えっ? ティアちゃん、急にそれは…」
「おぬし、うんこパフェは作れるのか?」
「へ? うんこパフェですか……いや、それは…」
「じゃあ、やはりマスターを呼ぶか」
妾は、ライトに念話で話を伝えた。イーシアに薬草を摘みに行っていたらしい。妾が強制転移するとおどすと、すぐに店に戻ってきたのじゃ。まだ、転移は苦手なようじゃ。
「ティア様、急に困りますよ〜」
「いま、急に決まったのじゃ。仕方ないのじゃ。それより、はよ準備をするのじゃ」
「はぁ、もう…。ナタリーさんに告げ口しますよ?」
「オババに言われても、ちっともこわくないのじゃ。子供達が来てしまうのじゃ」
「何人来るんですか?」
「そんなもの知らぬ」
「は? 何人と遊んでたんですか」
「十数人いたが、結成式じゃから、参加希望者を誘いに行ったのじゃ。貸し切りにしてほしいのじゃ」
「今いるお客さんを追い出すわけにはいかないですよ?」
「これから大人が来ないようにするのじゃ」
「もう、営業妨害じゃないですかー。貸し切り料金請求しますからね」
「ライトはしょぼいのじゃ! それくらい言われなくても払うのじゃ」
「はぁ……わかりました」
「よいか? うんこランドという名前にふさわしいパフェじゃぞ?」
「ソフトクリームでいいですね」
「フルーツもケーキもじゃ」
「はいはい、かしこまりました」
しばらくすると、子供達が続々とやってきたのじゃ。店にいた客は気を利かせて、早々に切り上げて帰ってくれたのじゃ。
「お待たせいたしました。金魚鉢パフェ、うんこ盛り盛りです。何人かで分けて食べてくださいね」
きゃははは! わぁい! スッゲー
店員が、各テーブルに金魚鉢を置いていった。子供達からは、わっと歓声が上がっておる。ライトの作るパフェは完璧じゃった。名前も、子供心をがっつりつかんだようじゃ。うんこ盛り盛り〜っと子供達は連呼しておる。
人数が不明だから、分け合うタイプにしたようじゃ。
隣の銅貨1枚ショップから、金魚鉢をたくさん抱えてきたときは何をするかと思っておったが、あれが器になるとはの。
ソフトクリームでうんこ盛り盛りにして、溶けぬように氷魔法で凍らせてあったから、子供でも取り分けやすかったのじゃ。
チョコのソフトクリームと、普通のソフトクリームを、絶妙なバランスで、盛り盛りしてあったのじゃ。
「ティア様、一体、何の結成式なんですか?」
「大人には秘密の組織じゃ」
「うん!」
「こー!!」
「合言葉ですか…」
「そうじゃ。完璧じゃ」
「あはは、そうですね…」
ライトは困った顔をしておったが、それ以上は質問してこなかったのじゃ。諦めの早いやつじゃ。
「みんな、今後も、仕事が片付いたら、ここのうんこパフェで、おつかれさま会をするのじゃ。うん!」
「こー!!」
こうして、金魚鉢パフェを、うんこ盛り盛りで作ってもらうときには、ライトを呼ぶことになったのじゃ。
じゃがこれを、誰かがオババに告げ口したのじゃ。オババは、妾に説教をしに、わざわざこの店まで来たのじゃ。
たぶん、告げ口をしたのは、リュックじゃ。ライトは、しばらく城には来ていないから告げ口されないと思っておったのに…。
妾は、まぁこんな感じじゃ。少しずつ、子供達には他種族とも楽しく遊ぶことを教えていくつもりじゃ。
学園の方は、教師の力の差が出ておる。なめられると、もはや授業にはならぬ。みな、それなりに工夫して、脅しながら授業をしておるようじゃ。
妾は、入学式や卒業式の挨拶だけはしておる。それ以上は、関わる時間が取れぬのじゃ。
そうじゃ、忘れるところであった。
ライトが巡った地名には法則があったことに気づいた者はおるか? すでに気づいていたなら、おぬしは天才じゃ!
そのことについて、これから種あかしをするのじゃ。
【次回予告】エピローグ
投稿予定……9月26日(木)
*次回で最終回です。少し長め予定ですので、1週間後になります。ごめんなさい。
*その間、ヒマなんだけど? という方は、よかったら『闇夜の虹色花束は怪盗を呼ぶシグナル〜副題省略』を読んでみてください。まだ来てくれる人が少なくてPVも寂しいですが、ハロイ島が舞台のラブコメです。この話の外伝っぽい仕上がりになりそうです。
*それから「HJネット小説大賞2019」は、二次選考通過ならず…。たくさん応援いただいてありがとうございました。少し読みやすく文章を整えて、別の賞にもチャレンジしてみたいと思ってます。




