表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

284/286

【一年後】ケトラからの報告

 あたし、ケトラ。この一年、いろんなことがあったの。


 お兄さんのバーの手伝いは続けてるの。手伝い始めた頃は、ギルドミッションを受けられなかったから、給料代わりに服を買ってもらってたの。


 今はもう、ミッションを受注できるけどミッションじゃなくて、お手伝いして服を買ってもらっうことにしてるの。

 毎月1回、お兄さんとデートできるんだから、これからも、ずっと給料代わりに服を買ってもらうの。



 あと、学校に通ってるの。お姉ちゃんは、週に1〜2回の教師をしているけど、あたしは学生なの。

 なんだかお姉ちゃんに負けてる気がしたんだけど、学校ではお姉ちゃんが知らないことも学べるって、お兄さんが教えてくれたの。


 お姉ちゃんができないことや知らないことを勉強して、お兄さんにすごいって褒めてもらえるように頑張るの。



 精霊ハデナ様の守護獣は、かなりたくさんになったの。ずっとあたし一人だったけど、神戦争後は、ハデナ火山は、エネルギーがすっごく溜まるようになったの。

 だから、いろんな種族が来るから、担当を持ってなかった若い子達が補助についたの。


 あたしは何か困ったことがあったときだけ行けばいいことになってるの。あたしが呼ばれるのは、いつも、他の星からの旅人が暴れているときなの。





「今日は、二年生全員でハデナ火山に遠足に行きますよ」


(えっ? 聞いてないよー)


 あたしが、朝、学校に行くと門のところで、門番の先生が拡声魔法を使って、遠足の案内を叫んでたの。


「二年生は、お弁当を持って闘技場に集合ですよ」


 校舎の横には、武闘魔導の訓練や練習をする闘技場があるの。2つあるんだけど、ひとつは街の住人が使うから、学生は校舎に近い方を使ってるの。


 闘技場前には、テントが出てるの。たぶん、お弁当屋さんだと思うの。あたしは、テントに向かって走って行った。



「お弁当、飲み物、持ってない人はこちらですよ〜。白いケースの中の銅貨1枚ショップの試作品は無料です。棚に並んでるのは、ひとつ銅貨1枚です〜」


 みんな、試作品のケースに群がっていた。透明な袋に、いろんなものが入っていた。


「試作品は、ひとり1袋でお願いします〜」


 売り子は、いつも銅貨1枚ショップにいる副店長と店員達だった。あたしの姿を見つけると驚いた顔をしていたの。


「ケトラちゃんも、二年生なんですか」


「うん、あたし、二年生なの」


「へぇ、すごい。私の兄貴は二年生に進級するテスト不合格で、またあと半年、一年生するんですよ」


「たぶん、年齢の差」


「あ、そっか、ケトラちゃんって700歳とかでしたよね。たくさん知識があるんだ」


「うん、711歳」


「10歳くらいに見えるから、そんな長生きだなんて驚いた〜」


「えっ? 10歳くらいに見える? 16歳くらいに見えない?」


「あー、バーでお手伝いしてるときは12〜13歳くらいに見えるよ。店の方がお姉さんっぽく見えるよね」


「そっか、まだ16歳くらいに見えないのね」


「ケトラちゃんも、持っていく?」


「あたしは、ごはん持ってる」


「試作品は、ライトさんが作ってたけど…」


「持っていく!!」


「ふふっ。ケトラちゃんは、ほんと、お兄ちゃん好きだね」


「うん、大好きっ!」



 あたしは、試作品を1袋もらって、集合場所の闘技場に入った。知り合いを探していると、先生があたしを見つけて近寄ってきたの。


「ケトラさん、今日は、ハデナ火山への遠足なんですが…」


「あたし、知らなかったの」


「あ、すみません。ケトラさんが先週お休みされていたときに、みんなには発表していたんですが…。連絡掲示板、見てなかったですか」


「連絡掲示板……見てないの」


(先週、ハデナに呼び出されてたときか…)


「お休みしたときは、連絡掲示板を見てくださいね」


「うん、忘れてたの」


 先生は、あたしが知らない神族が多くて、この先生も知らない人なの。なぜか、あたしには、丁寧に話してくるの。


「それで、ハデナ火山なんですが、火口近くのマグマ溜まりに行きたいんですが、大丈夫でしょうか」


「ん? 何が?」


「火口近くのマグマ溜まりでは、たくさんの火の魔物が集まっていると聞いています。その中にレアモンスターがいるということで、今回、二年生で視察をしようということになったんです」


「見に行ってどうするの?」


「レアモンスターのウロコを取りたいと…」


「ん〜、どの魔物のことを言ってるかわかんないけど、冒険者が狙ってる魔物なら、下手すると死ぬわよ?」


「ヘビのような魔物なんですが…」


(火口近くにヘビの魔物なんていないわよね……あ!)


「すんごく長い身体の、火をまとう魔物?」


「あ、はい、それだと思います」


「ヘビじゃないわよ。火竜の変異種……凶暴だよ」


「火竜? 翼はないらしいですが」


「うん、翼はないよ。マグマの中を、海ヘビのように泳いでるの」


「マグマの中……引きずりこまれるとマズイですね」


「うん、そうね。バリアの性能が悪いと、跡形もなく燃えちゃうの」


 先生は、ちょっと顔を引きつらせていたけど、結局、遠足は変更にはならなかったの。




 学生達は転移魔法陣を使って、ハデナ火山の火口近くに、次々と移動していったの。


 結局、参加者は50人くらいだった。あと、先生が10人くらいいる。あたしが、魔物は凶暴だと教えたからか、引率の先生の数が増えていたの。


「おい、ケトラ。おまえ、いつもこんな暑いとこにいるのかよ」


「居るだけで、溶けちまう。頭が沸いてくる」


 あたしに絡んできたのは、魔王の息子や孫だっけ? 悪鬼族の息子と、虎系獣人族の孫だったと思うの。


 悪鬼族の魔王の息子は、次期魔王だと言われているらしいの。プライドが高くて、嫌味なことばかり言うところが嫌いなの。

 虎系獣人族の魔王の孫は、虎のくせに根性がないの。ふだん偉そうに威張ってるのに、困ったことが起こると逃げるの。虎のくせに最低なの。


「嫌なら帰ればいいんじゃない?」


 あたしは、プイッと無視をした。



 先生の指示に従って、火竜を探したけど、今日は火口にはいないようだ。

 マグマの中を泳いでるから、火口にこんなたくさんの人がいれば、襲うか逃げるかどちらかだもんね。みんな、気配消してないから、逃げるに決まってる。


「いないようですね〜」


 先生達は、サーチ魔法を使って探しているようだけど、見つけられないみたいなの。

 あたしも、あの変異種はどこにいるかはわからない。奴は、認識阻害を使うから、近くにいないことしかわからないの。


「血の気の多い奴らが、戦闘力を隠さないから逃げたんじゃないのか? こんな人数で来れば、自分の討伐に来たと思って逃げるだろ。なー、ケトラ」


「俺達に恐れをなしたんだぜ。な、ケトラ」


 魔王の息子や孫が、いちいち、あたしに絡んでくる。返事をしなかったら、何度も言うの。しつこいの。


 あたしは、ちらっと睨んでプイッと無視した。


「おい、ケトラ、返事くらいしろよ」


「今日はご機嫌ななめなんじゃ…」


「あんた達、うるさいの!」


「くっくっ、今日もぷりぷりしちゃって、かーわいい〜」


「えっ? 俺そんな騒いでないだろ」


(はぁ、うっとおしいの)



「じゃあ、火口の探索は断念して、外に出ましょう」


 先生の指示で、みんな、火口から外への通路を移動し始めた。外への通路には、たくさんの弱い火の魔物がいる。

 みんな、適当に蹴散らせばいいのに、ここぞとばかり、剣や魔法を使い始めた。


(知らないよー。手に負えない奴が出てきても)


 あたしは、やめさせようかとも思ったけど、先生が注意しないから放っておいた。逆襲されることも、貴重な経験になるかもしれないの。


 倒しやすい魔物狩りに夢中になっているバカ達の横を通り過ぎ、あたしは地上へと出た。そこでは先生達が、転移魔法陣の準備をしていた。


「先生、このまま帰るの?」


「あ、ケトラさん、中腹にある休憩施設でお弁当を食べてから、学校へ戻ろうと思います」


「あそこは、いつも冒険者でいっぱいなの」


「そうですよね。とても素敵な場所ですもんね。水辺の草原でお弁当を食べようかと思います」


「薬草の草原?」


「ええ。精霊ハデナ様の加護がある場所だから、ちょっと火傷した人や、暑さが苦手な人も、あそこなら楽になるでしょうから」


「うん、そうね。まだ見せてないから、あまり踏み荒らさないでほしいけど…」


「えっ?」


「なんでもないの」



 転移魔法陣が完成し、学生達は次々と、火山の中腹の休憩施設へと移動していった。でも、10人くらいがなかなか外に出て来なかったの。


 なんだか先生が慌て始めているの。あたしは、火口の様子をサーチしてみたの。やっぱり、ボスを引っ張り出して戦闘中の学生がいたの。


 先生が、学生達を外へワープさせようと、詠唱を始めた。きちんとターゲッティングができるのかな? もし失敗すると……あー。


 先生は、火口に残っていた学生全員を、外へワープさせた。でも、怒り狂っているボスも一緒だったの…。


「おい、教師、何やってんだよ。あんな奴を外に引っ張り出したら、山登りしてる弱い冒険者が餌食になるじゃねぇか」


 悪鬼族が文句言ってる。で、剣を抜いたの。自分で狩るつもりみたい。虎系獣人族は、ギクッとして静観している。コイツは、ほんと、虎のくせにヘタレなの。


「おまえら、引っ込んでろ」


 悪鬼族の嫌味な奴が、火の魔物の何かのボスに突っ込んでいった。でも、かなり相手は強い。すると、彼は、姿を変えた。人型の3倍はありそうな大きな悪鬼の姿。


 彼は、大きなこん棒を振り回している。


 ドカン! ドカン!


 魔物が避けるたびに、山に大きな穴があく。


(山を破壊するとハデナ様が怒る…)


「ちょっと、あんた、やめなさい! 山を破壊する気なの!?」


「あ? って、おっと…」


(はぁ、もう…)


 あたしは、姿を変えた。学生の前で見られたくなかったけど、仕方ない。山を破壊されてハデナ様が怒る方が、あたしは困るの。


「うわー、ケトラちゃんってもしかして…」


「赤き大狼……ハデナの暴れん坊か」


 なんだか、みんないろいろ言ってるけど、あたしは無視したの。


 そして、悪鬼族の前に立ったの。そして、魔物のボスを睨んだ。怒り狂っているせいか、奴はあたしのことがわかってない。仕方ない。襲いかかってきたから、奴の喉元を爪で切り裂いた。


 ドバッと血が出たけど、それで奴は正気に戻ったみたい。あたしを見て、慌てて火口へと逃げていったの。


(あーあ、ハデナ様、怒るかな)


 奴の血で山肌が焼けた…。なんであの程度で、こんなに深い傷を負うかな。威嚇くらいしかしてないのに。


 あたしは、人型に戻って、シャワー魔法を使った。お兄さんに教えてもらって、最近は完璧にできるようになったの。


 焼けた山肌にもシャワー魔法をかけた。灼熱の血は、シャワー魔法で消えたけど、血がしみこんだこの付近は、しばらくは、岩肌が熱を持つだろうな。



「ケトラ、ありがとな。助けられちまったな」


「別に、あんたを助けたわけじゃないから」


「やっぱ、おまえ、いい女だな。俺の……って、おい!」


 悪鬼がなんか言ってたけど、あたしは無視したの。どうせ、また嫌味なことを言うに決まってる。


 あたしは、先生の指示に従って、転移魔法陣を使って、中腹の休憩施設に移動したの。


「ケトラちゃん、遅かったね。一緒にごはん食べよう」


「うん、お待たせなの」


 いつも一緒にランチをする人族のお姉さんと、水辺に座って、ごはんを食べたの。

 さっきもらった試作品の中には、とっても甘いクッキーが入っていたの。すっごく美味しかったの〜。





 あたしは、こんな感じなの。毎日、とにかく忙しいの。勉強もしなきゃだから、バーが暇な時間には、お兄さんに勉強を教えてもらってるの。

 お兄さんは、偉いねっていっぱい褒めてくれるから、あたし、頑張るの。



【次回予告】1年後のイロハカルティア

投稿予定……9月19日(木)


発表まだみたいです。そわそわ〜♪

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ