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【一年後】クラインからの報告

 クラインだよー。みんな元気ー?


 うーん、この一年って、俺は何も変わったことはなかったかな。あ、7歳になったんだったー。ルーシーとも相変わらず仲良しだよ。


 そういえば、神戦争の後は、魔族の国もけっこう戦乱が続いてるみたい。大きな争いがあるときは、ルーシーと一緒に、地上にある俺とルーシーの家に行くんだよ。ハロイ島の草原の、お菓子の家だよ。


 でも今日はねー、草原がなんだか騒がしいから、石山に居なさいって言われてるんだー。




「じゃ、ちょっと行ってくるねー」


「クライン、石山に居なさいって言われたでしょ?」


「うん、でも、爺ちゃんのとこに、ライトのポーションを届けてあげなきゃ。もう魔ポーションがないって言ってたからな」


「じゃあ、あたしも行くーっ」


「ルーシーはだめだよ」


「どうしてよー」


「戦乱中だから、石山に居なきゃだめだよ」


「クラインも居なきゃだめじゃない」


「俺はいいんだよ。配下がいるからな」



 俺は、あれから配下の数が増えたんだよー。悪魔族がほとんどだけど、親しくなった奴は種族関係なく、配下になりたいって言ったら配下にしてあげるんだ。


 もう、10人よりいっぱいいるんだ。俺、10までしか数え方わからないから、何人かはわかんないんだけど…。今度、ライトに数えてもらおうと思ってるんだー。


 爺ちゃんは、ザコばかり集めてるって呆れ顔だから、爺ちゃんには聞けないんだ。

 でも、みんな、俺に忠誠を誓うって言ったから、俺が守ってやらないといけないんだ。

 ルーシーは、俺が配下を守るんじゃなくて、配下が俺を守るんだって言ってる。うーん、まぁ、どっちでもいっかー。



「クラインさま、お供します」


「うん、サゲンがいると心強いよ〜」


「おまえらも来るだろ」


 サゲンは、俺より10歳くらい年上の悪魔族なんだけど、ちょっと訳ありなんだって。でも、めちゃくちゃ強いんだ。10人よりいっぱいの手下がいるんだけど、その手下もみんな俺の配下になったんだ。


 でも、爺ちゃんは、サゲンは配下だけど、その手下は配下じゃなくて、ただのコマだって言うんだ。よくわかんないけど、確かにサゲンの手下は、名前知らないから、俺の配下じゃないのかなぁ。年齢もバラバラで、けっこうオジさんもいるんだよねー。


(難しくて、わかんないな)



 俺達は石山を出て、爺ちゃんのいる塔に向かったんだ。歩いて行くと、ちょっと遠いんだよねー。


「クラインさま、塔の付近はいま襲撃されているようです」


「そうだね。ちょっとこの平原で待とうか」


「平原は危ないので、あちらの岩陰に隠れて待ちましょう」


「うん、そうだね」


 俺は空を見た。月明かりがかなり強いなー。こんな昼間は、平原も月明かりに照らされて、けっこう明るいんだ。


 子供は襲われないけど、巻き添えをくらうことがあるから、気をつけなきゃいけないんだって。

 サゲンは成人じゃないけど見た目は大人だし、サゲンの手下にはオジさんもいるからね。



 ヒュン! ドカドカドカ!


(えっ?)


「クラインさま!」


 俺は呼ばれた方を振り返ると、サゲンの手下が襲撃を受けていたんだ、俺は、剣を抜いて、駆け寄った。


「何をしているんだ! 俺の供だぞ」


「ほう、だからどうした? 悪魔の魂を喰らうと寿命が延びるんだ。おまえのような子供はいらな……うん? 悪魔族の子供?」


 襲撃者は、5人もいた。翼がある鳥族だ。あれ? おかしいな。なぜ鳥族なのに、コウモリのような翼が生えてるんだろう?


 奴らは、めちゃくちゃ強かった。あっという間に、サゲンの手下が3人喰われたみたいだ…。


 サゲンが応戦している。俺も剣に火をからませた。


「おまえ、もしかして大魔王の孫か?」


「だったら何だ?」


「ふっ、まさか、こんなところをウロついているとはな。運が向いてきたぜ」


「何だよ」


「俺達はな、あの神殺しの弱点を探していたんだよ。アイツの妻も妹も神族の街にいるし、そもそも強いからな、なかなか捕らえられない」


「なっ?」


「やはり一番弱い奴を狙うのが、一番早いからな。おまえを探していたんだ」


(俺がライトの弱点ってこと?)



 俺がショックを受けた瞬間、右腕になんだか衝撃が走ったんだ。熱ッ! 見ると俺は右腕を斬られ、血が吹き出していた。


 サゲンが気づいて、俺を助けに来たがサゲンも一瞬で斬り捨てられた。サゲンの左足が俺の目の前に転がってきた。


(マズイ、強すぎる。助けて! ライト! 爺ちゃん! 誰か助けて!)


 俺は思わず、心の中で叫んでいた。でも、ライトは念話ができない。そうだ、念話の道具が…。ウワッ!


 俺は、右足も斬られ、その場に崩れた。どうしよう。痛くて意識が飛びそうになる。俺を助けようとしたサゲンの配下も、ゴミクズのように斬り捨てられていく。


(父さん…)



 その瞬間、俺は白い光に包まれたんだ。一瞬、死んだのかと思った。でも、違った。目の前には、ライトがいた。バーテンの服を着ている。


「クライン様、遅くなり申し訳ありません」


「えっ? ライト、どうして?」


「僕にも、わかりません。クライン様の声が聞こえたと思ったら、次の瞬間、ここに居たのです」


「俺、呼んだから…。召喚しちゃったか」


 ライトは、優しい顔でニコっとした。俺の傷はいつの間にか完治していた。それからフワンとバリアが張られたのを感じたんだ。


 そして、ライトはジッと様子を確認しているみたいだった。


「あの翼の生えた5人が襲撃者ですね」


「うん、ごめん、俺……えっ?」


 ライトは……ライトの目が青くなってる。覚醒だ。それに、足元には闇が大量にブワッと出てる。


(ライトが、怒っている…)


 その後は、ライトの姿は、俺には見えなくなった。5人の襲撃者が、ライトに俺のことを何か言ってる。ライトは、許さないって怒っている。


 俺は驚いた。ライトが襲撃者達を、次々と簡単に殺していったんだ。しかも、殺した後も、闇撃を使って跡形もなく黒い炎で焼き払っていたんだ。


(すごい……めちゃくちゃ怒ってる)


 ライトは、5人の襲撃者を倒した後、魔ポーションを飲んでいた。かなり魔力が減っちゃったみたいだ。


 そして、俺の方へと歩いてきた。


「ライト、倒れている奴ら、俺の配下なんだ」


「かしこまりました」


 ライトは、さーっと手を広げ、白い光をフワァっと放っていた。俺の近くに転がっていたサゲンの左足も光の方へと転がっていった。


「クライン様、申し訳ありません。魂を喰われた人は…」


「うん、それは無理なのはわかってる。ありがとう」


「いえ、まだ終わっておりません」


 そう言うと、ライトは、サゲンや手下達にもバリアを張ったんだ。そして、また魔ポーションを飲んでいる。まだ、ライトの目は青かった。


 しばらくすると、空に鳥族が現れた。そして空から、ここへ炎の魔法攻撃がドカドカと降ってきたんだ。


 俺は一瞬ヒヤッとしたけど、ライトのバリアがすべて弾いた。サゲン達も無傷みたい。彼らは驚いた顔をしている。チビったんじゃないかなー。


 次の瞬間、ライトからブワァッと、漆黒の闇が吹き出したんだ。そして、空に浮かんでいた奴らはその闇に触れたら動けなくなったみたいだ。

 ライトは、奴らと何か話してたけど、突然、闇撃を放った。空で奴らはまるで爆弾を受けたように爆発したんだ。


 そして、その音が地底全部に響いたみたいで、ピタリと戦乱が止んだんだよー。



 ライトは、俺の方へ歩いてきた。もう目の色は青くない。いつもの色に戻ってるー。


「クライン様、申し訳ありませんでした。僕のせいで、痛く、つらい思いをさせてしまって…」


「ん? ライト、俺……えっ?」


 俺は驚いたんだ。ライトは、俺の前でひざまずいて、頭を下げていた。頭をあげたライトは、泣いていたんだ。

 俺は思わず、ライトの頭をなでてあげたんだ。ライトは驚いた顔をしていたけど、俺をキュッと抱きしめてきた。


(父さんと同じだ…)


 死んだ父さんは、俺が何かに襲われて怪我をすると、俺をキュッと抱きしめて、痛い思いをさせてごめんって、キチンと守ってやれなくてごめんって言って泣いていた。


「クライン様、申し訳ありません。ごめんなさい」


「ライトのせいじゃないよー」


「僕が狙われているんです。そのせいでクライン様にまで、怖い思いをさせてしまいました」


「俺が弱いから狙われるんだよ。さっきの襲撃者が言ってた」


 ライトは、パッと顔を上げた。涙で顔がぐちゃぐちゃになっていた。


「クライン様は、弱くなんてありません!」


(これも、父さんがよく言ってた…)


「ふふふ」


「ん? あの、クライン様?」


「ライト、顔がぐちゃぐちゃになってる」


「あ、申し訳ありません」


 ライトは、シャワー魔法をかけた。髪の毛がサラサラになっている。そして、ハッと気づいた顔をして僕にもシャワー魔法をかけてくれた。うん、服についていた血の匂いが消えたね。


 俺は、ライトの頭をよしよしとなでた。サラサラな茶髪が手ざわりがよくて癖になる。ここは父さんとは違う。父さんは、黒くてゴワゴワした髪だった。


 ライトは、また泣きそうな顔をしている。子供だねー。そっか、ライトは死霊だから、成長しないのかもしれないな。俺が、ずっと、よしよししてあげないといけないのかな。




「まがまがしい闇は、やっぱり、おまえか。派手な爆音で地底が揺れたぞ」


「爺ちゃん…」


「クライン、一体何があった?」


「大魔王様、申し訳ありません。クライン様が他の星からの侵略者に襲撃を受けました。かなりの大怪我をされ、痛くつらい思いをさせてしまいました」


「ほう、おまえがついていながら怪我をさせたか」


「爺ちゃん、違うよ。襲撃されたとき、心の中でライトと爺ちゃん、両方呼んだんだ。ライトはすぐ来てくれたよ。爺ちゃんは遅いよ」


「なっ? 俺も声がしてすぐに来たが…。クラインは、ライトを……配下召喚で呼んだのか」


「そんなの知らないよー」


「召喚かもしれません。クライン様の声が聞こえた瞬間、僕はこの場所に移動していました」


「そうか。もはや、おまえ達の関係は、揺るぎないようだな」


「爺ちゃん、何のこと?」


「ふっ、クライン、いずれわかることだ。大丈夫か? 痛いところはないか」


「ライトが治してくれたよ。サゲンの足もくっつけてくれたー」


「そうか」


「クライン様、次からは襲撃されたら、すぐに呼んでください。斬られる前に…。クライン様にもしものことがあったらと思うと、僕は…」


「ライト、わかったよ。もう泣かないの」


「は、はい。すみません」


 爺ちゃんが何か言いたそうにしていたけど、俺がライトの頭をよしよししていたら、何も言われなかった。


 ライトが死霊になったのは、三年くらい前だっけ? 父さんが死んだのは四年くらい前…。


 ライトは、父さんの生まれ変わりなのかな?






 俺は、こんな感じだよー。一年経っても、あんまり変わってないよ。でも、ライトがあんなに怒って、あんなに泣いたのを見たのは初めてだったなー。

 俺は、もっともっと強くなって、ライトが安心してバーテンをしていられるようにしてあげなきゃ。

 ルーシーも、それがいいって言ってたからねー。



【次回予告】1年後のケトラ

投稿予定……9月16日(月)


この頃には、HJネット小説大賞の二次選考の発表あるかなぁ? ちょっとそわそわしています。

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