表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

281/286

【一年後】ライトからの報告

 ライトです。あれから一年、いろいろなことがありました。まだ神戦争は、完全に終結したとは言えない感じです。


 神族の街長、つまり僕を殺せばなんとかなるという噂があるそうで、やたらと襲撃を受けるんです。その度に、リュックくんやカースが頑張ってくれています。



 変わったことといえば、僕が、学校の算術の教師を半年前から始めたことです。神立ハロイ高等魔法学園という、女神様が学園長を務める学校です。


 学生数は、今では500人を超えたようです。学生の年齢は5歳から入学可能で、上はアトラ様よりうんと年上の人までいるそうです。多すぎるかと思っていた学生寮も、足りなくなりそうな状態なんです。



 店は順調です。学校の教師を始めた後に、バーは24時間営業に変わりました。と言ってもバータイムは、今までどおり、虹色ガス灯が青色と紫色のときだけです。他の時間は、主に学生用にカフェとして営業しています。


 僕は、基本的には、バータイムしか店にはいません。他の時間は、ギルドミッションを受注した人がやってくれています。


 銅貨1枚ショップは、かなり拡張しました。製品を作る3つの作業所は大きくなりました。それから、お客さんが多すぎて入店待ちの長い行列ができるので、2号店、3号店を出店しました。


 2号店は、観光客の多い演劇場の近くに出店しました。この演劇場は、タイガさんがやっています。

 お笑い文化がないから戦乱が続くんや、と言って、強引に建てられた劇場です。コントのようなお笑いから、シリアスな舞台までやっているそうです。


 3号店は、学校の中に出店しました。こちらは、学校の購買部のような役割です。授業で使う消耗品を銅貨1枚で買えるように少量パックで売っています。あと、パンや飲み物も置いています。

 ここでの意外なヒット商品が、「塩だれ」なんです。アトラ様のように、塩からいものを好む種族には、必須アイテムになっているみたいです。





「皆さん、席についてください。今日から新たに、掛け算を勉強します」


 僕は、暴れまくる学生を集めたクラスを担当している。このクラスは、ついこないだ二年生になったばかりで、クラス内の権力争いが激しいんだ。


 優しく声をかけても、ほとんど聞いてない。仕方ない、今日も、やるか…。


「座らないなら殺すよ。僕、蘇生は得意だからね」


 そう言って、一気に闇を放出した。最近、僕はターゲッティングができるようになったんだ。狙った人だけを拘束することができる。


 暴れていた学生達を一気に拘束した。どんなにあがいても、僕の深き闇から逃れることはできない。

 そして僕は覚醒し、覚醒時の戦闘力を見せる。


「せ、先生、座る、座るから闇を消してくれ」


「ご、ごめんなさい。コイツらが騒いでいて、始業のベルが聞こえなかったから」


「まじやべえから、怒らないで。やめて〜」


 暴れていた学生達は、必死に謝った。僕は、覚醒状態を解除し、闇を回収した。


 僕が彼らをジッと睨むと、ごめんなさいの仕草をしている。はぁ、もう、毎回これって疲れるよね。


「次からは始業のベルが鳴ったら、席についてください。わかりましたね?」


「はいっ!」


「では、授業を始めます…」



 僕は、半年前に担当していたクラスで学んだんだ。言葉で説明しても、彼らのほとんどは教室を一歩出ると、勉強したことを跡形もなく忘れてしまう。だから、あらゆるものを利用して記憶に残るようにしなければならない。


 僕は、魔法袋から小道具を出して、重力魔法を使って、空中に浮かべた。学生の視線は、浮かんだパンに釘付けになっている。


「今日は、掛け算を勉強します。いま、浮かんでいるパンは何個ありますか」


「2個!」


 学生達は、ほぼ同時に答えた。彼らは負けず嫌いだ。なんでも一番になりたがる。


「じゃあ、これではどうでしょう」


 僕は、もうひとつ2個入パンの袋を浮かべた。


 みんな、イチニサンシと数えている。


「4個!」


 これも、ほぼ同時だった。僕はさらに、パンの袋を浮かべた。空中には、2個入パンが5袋浮かんでいる。イチニサンシと数えるのを邪魔するために、風魔法で、パンを漂わせた。


「先生、動かさないでよ、ズルイ!」


「ずるくないですよ。掛け算を知っていれば、すぐに数がわかります。5袋浮かんでいますよ」


「動くから、わからない」


「一番最初に正解した人には、パンを1袋差し上げますよ」


 僕がそう言うと、とたんに真剣になる。パンが欲しいからではない。みんな一番になりたいのだ。


 正解者にパンを渡し、さらに、漂う数を変えて勝負をさせた。動体視力の高い種族ばかりがパンをゲットした。


「ずるい〜」


「ずるくないですよ。では、掛け算の勉強を始めましょうか。掛け算を覚えると、すぐに計算で数がわかりますよ」



 そして、僕は学生に、九九を教えた。2の段を何度も声に出して覚えさせた。


「じゃあ、パン争奪戦、もう一度やりますよ〜」


 僕は、パンの袋を空中に浮かべた。今度は魔導系の学生が速かった。記憶力のいい学生ばかりがパンをゲットした。


「な、なんだよ、おまえらめちゃくちゃ速いじゃねぇか」


「あんた、いちいち数えてるから遅いんだよ」


「なんだと? てめえ!」


(競争させると、すぐこれだ…)


「授業中ですよ。ケンカ売ってるなら、僕が買うよ?」


「せ、先生、ケンカなんてしてねぇから」


「そうだよ、してないよ」


「それなら、いいんです。じゃあ、今日の授業はここまで。忘れないように復習しておいてください。次回は、3の段を勉強します」


「先生、次もパン?」


「おれ、肉がいい」


「じゃあ、次はミートボールにしましょうか。作ってきます」


「うぉ〜! 肉だ!」


「その次は、ケーキボールがいい!」


「わかりました。その次はケーキボールですね。では、皆さん、さようなら」


 終業のベルが鳴ると、一斉に学生達は教室から飛び出して行った。


(さて、さっさと帰って開店準備をするか〜)


 僕は、職員室にちょっと立ち寄って挨拶をすると、学校を後にした。



 店に戻ると、入り口の自販機で、リュックくんがポーションを入れていた。


「おぅ、お疲れ〜。もう来てるぞー」


「やっぱり?」


「今日は、なんか、いっぱい連れてきてるー」


「わかった」


 店に入ると、リュックくんが言っていた常連さんが待ち構えていた。確かに連れの人数が多い……というか、学生もいるじゃん。



「いらっしゃいませ」


「いらっしゃってるのじゃ。いつものを頼むのじゃ」


「かしこまりました。今日はお連れが多いんですね、ティア様。悪ガキ達とも、お友達ですか」


「うむ。この子達はいま来たところじゃ。初めましての子もいるのじゃ」


 僕は、バーのカウンター内に入った。この時間は、まだカフェタイムだ。カフェタイムの店員さん達がいた。


「皆さん、お疲れ様です」


「お疲れ様です、マスター。彼女達には、ミックスジュースだけ、お出ししてます」


「わかりました、ありがとう。紅茶をお願いします」


「はい」


「妾は、冷たい紅茶がよいのじゃ」


「あたしは温かいのがいい」


「おれは冷たいのにして〜」


 店員さんが、それぞれ確認して、紅茶の用意を始めてくれた。



 ティア様は、自分が女神だということは、隠しているらしい。ただの謎の美少女だという設定なのだそうだ。

 いつもながら上から目線だし、僕達の反応から、みんなは女神様のペットだと思っているらしい。


 最近は、彼女は変身ポーションを使わず、ふわふわの金髪に、猫耳のカチューシャをつけている。このカチューシャにはカースが幻術をかけているそうで、本物の猫耳が生えているように見えるんだ。



 僕は、ふちが波状になったガラス製の金魚鉢に、コーンフレークを流し込んだ。そして、適当にアイス、ゼリー、フルーツ、スポンジケーキを交互に器のふちまでいれた。

 その上に、小さなケーキや、フルーツ、生クリーム、ソフトクリーム、チョコクリームを飾りつけて完成。


 店員さんに、女神様達のテーブル席に運んでもらった。僕は、人数分の取り分け用の器とスプーンを持って後に続いた。


「お待たせしました。金魚鉢パフェです」


「うぉ〜! いつもより大きいのじゃ!」


「人数が多いですからね、少し大きめにしました」


 悪ガキ達も、目をキラキラさせ、みんなでいっせいの〜で食べ始めた。うん、食べ始めるとおとなしいね。



 そして、虹色ガス灯は水色から青色に変わった。カフェタイムは終わり、バータイムになった。僕は、店内の照明を一段階暗くした。


「先生、おれ達、帰ります〜」


「はーい、気をつけてね」


 そう言って、悪ガキ達は帰って行った。ティア様が連れてきた子達も、一緒に出て行った。


 店員さんが、エプロンを黒に付け替えて、テーブルの片付けをしていた。この時間帯は、バーの店員を兼ねる人もいるんだ。

 区切りの意味で、バータイムは黒いエプロン、カフェタイムは白いエプロンをつけてもらっている。



「今日は、ケトラは休みなのか?」


「うーん、どうでしょうね。学校が長引いているかもしれませんね」


「ふむ。じゃあ、妾は城に戻るのじゃ」


「はい、お会計そろそろお願いしますね。こないだの貸し切りの分もまだですし、だいぶツケが溜まっていますよ」


「ライトはしょぼいのじゃ! そのうち払うのじゃ」


 そう言いつつ、銀貨を1枚テーブルに置いて、女神様は手をひらひらさせながら帰っていった。


「マスター、今日も銀貨1枚でしたね」


「何かやらかして当分の間は、おこづかい制にされたようですからねー。毎日銀貨1枚なんじゃないかな?」


「何をやらかしたのかな? 俺、ティアちゃんがこないだ、女神様に叱られている現場を見ましたよ〜」


「ん? 女神様? あ、ナタリーさんね」


「はい、めちゃくちゃ必死に言いわけしてたみたいっすよ〜」


「あはは、そうなんだ」


「ティアちゃん、はちゃめちゃだもんね。飼い主の女神様も大変ねー」


(そっか、彼らも、女神様だと知らないんだっけ)


「でも、子供達はすぐ仲良くなるよね。移住してきた子も、ティアちゃんのおかげで、すぐに街に馴染めるんだと思うよ」


「ふふっ、ティア様でも役に立つんですねー」


「みんなティアちゃんのこと好きだもんね。でもティアちゃんって、たまに神々しいときがあるよね。猫なのにねー」


「あはは、そうですね。あ、アトラ様、おかえりなさい」



 カランコロンと、扉を開けて、アトラ様が店に入ってきた。彼女は、週に1〜2日、学校で歴史学の教師をしている。


「ただいまー。はぁ、疲れたぁ」


「お疲れ様でした。すぐご飯作りますね」


「うん、今日は肉多めがいいなー」


「はーい、かしこまりました」


 アトラ様は、いつも、学校が終わると店で晩ごはんを食べるんだ。そして、少し仮眠をとった後は、銅貨1枚ショップの手伝いをしている。僕の店が終わると、一緒に3階の僕達の部屋に帰るんだ。



「今日はケトラは来てないのね」


「そうなんですよ。まだ学校にいるのかもしれませんね」


「はぁ、またケンカしてなきゃいいけど…」


「そういえば、魔王の息子がどうとか言ってましたねー。デートかもしれませんね。はい、お待たせしました」


「ありがとう。はぁ、あの子、いったい何人彼氏がいるのかな」


「さぁ? どうなんでしょうね。青春ですね〜。お姉さんとしては心配ですか?」


「まぁいいんだけどー」


 そう言いつつ、心配そうにするアトラ様もかわいい!


 いつもカウンター席の一番奥に座って、僕が作ったご飯を食べながら、彼女は僕にいろいろなことを愚痴るんだ。それをうんうんと聞きながら、僕は幸せだなって思う。



「ごちそうさまー。じゃあ、上でちょっと寝てくるね」


「はーい、おやすみなさい」


「うん、みんな、おやすみ〜」




 僕の毎日は、だいたいこんな感じです。襲撃されたりすると、ガラリと変わってしまうんですが…。


 ん? 子供はまだか、ですか? はい、まだですね…。授かりものですからなんとも言えないですが、いつかアトラ様みたいな、かわいい娘が欲しいなと思っています。



【次回予告】1年後のリュック

投稿予定……9月9日(月)



【21.7.15追記、7.18改】

本日より、続編をはじめました。


この物語から、100年後の世界。ライトが青の神ダーラと激突。そして、両者が消滅!? 

始まりの地で目覚めたライトは、転生後のすべての記憶を失った赤ん坊だった。リュックも初期化? 

序盤は、ティアちゃんが活躍します。



【22.8.27 追記】

一昨日から、続々編始めました。

「カクテル風味のポーションを 〜魔道具『リュック』を背負って、ちょっと遠くまで行商に行く〜」

よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ