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28、ハデナ火山 〜 悪霊の強襲

「そろそろ出発しますよ〜、ライトさん」


「あ、はい。あ、あの……ちょっとヤバイ情報があるのですが…」


「ん? なんだ? 坊や、何かあったのか?」




 ガタガタガタ! ヒュー、ドッカーン!!


 突然、地面が大きく揺れる。そして、何かが降り注いでこの地を破壊しようとしているかのような音に、休憩施設にいたみんなが凍りつく。


(えっ、地震?って何! 災害級? ちょっと…待って!)


 僕は、いや、そこにいた全員が、建物の外を見て言葉を失った。

 昨日散策して果物を見つけた、背の低い木々が生い茂った場所あたりが、ゴォゴォとすごい勢いで燃えていた。


「いったい、なんだ? ケトラの乱心か?」


「いくら、アイツでも、ここまでやらないだろ。この近くには精霊ハデナが眠る社があるはずだ」


「じゃあ、なんだよ? う、うわぁ〜〜! 悪霊か」


 その木々が燃えている場所に、ふわりと黒い霧状のものが降り立った。

 そして、火で焼かれて倒れた人達を…


「アイツ、人間を……人間の魂を喰らっている…」


「もしかして、アイツは…俺達はエサか?」


「冗談じゃねぇ! こんなとこで死霊のエサにされてたまるか!」


「おまえ、アンデッド狩りでCランクになったんだろ? なんとかしろよ」


「バカ言え! あんな異常な魔力を持つ悪霊なんて、Lランクだろ。超レアモンスターじゃねぇか、ありえねー」


「どうすんだよ! あ! あんたら、警備隊だろ? なんとかしてくれよ」


 休憩施設の中にいた人達は、パニックになっている。そして、武勇自慢をしていた冒険者達は、互いに、おまえがなんとかしろと押し付け合っている。



「これ…は…」


 警備隊のリーダー、レオンも、言葉を失っていた。

 こんなことなら、さっさと下山するんだったと隊員達は、心底、後悔していた。


「防御バリアを張れるヤツ、この建物に、魔防バリアと除霊バリアを張ってくれ! ひとりじゃ無理だろう、みんなで協力するんだ!」


 レオンは、ここを砦として守ることを決めた。

 外に出ると、ヤツの餌食になる。なら、ヤツをこの建物に入れさせないようにするしかない。


 他力本願だが、ここの状況に気づいて、救援が来るまで、耐えるしかない。


「バリアなら張れるが、建物全体となると…」


「私達は、魔導士だから、魔防バリア張るわ! でも魔力が切れたら終わりよ」


「ケンカしている場合じゃないぞ! 落ち着け!」


「警備隊なら、なんとかしろよ! さっさと倒してこいよ!」


「散々自慢していた高ランク冒険者が聞いて呆れるぞ。なんだ? そのビビリっぷりは?」




 そして、ヤツは、こちらの建物の中を見た。


 どこに顔があるかわからないような姿だが、はっきりとわかるのは、その赤い口だった。

 こちらの様子を見て、ニターッと笑い、ふわりとこちらに近づいてくる。


 さらに、建物の中はパニックになる。


 そして、魔導士達が、魔防バリアと、除霊バリアを張る。


 パリン!


 だが、ヤツが起こした一陣の風により、バリアは呆気なく消し去られてしまった。



「なっ、どうして?そんな、うそ! ありえないわ」


 そして、ヤツは、中の人間達が恐怖に震えるのを楽しむかのように、建物のまわりをふわふわと巡回し始めた。


 それによって、さらにみんなの緊張は高まる。

 ヤツは、ふわりと近づいたり少し離れたりして、ニタニタしている。


「アイツ、完全に面白がっているな…」


「恐怖で逃げ出した人間から喰うつもりなんだろ」


 レオンは、必死に頭を働かせていた。だが、どう考えても、大量の犠牲者が出る。


「これは……詰んだ、か…」



 レオンは、タイガとの約束を果たせないことに、そしてせっかく助かった隊員の命をここで失うかもしれないことに、そして、この絶望的な状況で何もできない無力感と自分への怒りとで押し潰されそうになっていた。


 はぁ…。レオンは覚悟を決めた。


「坊や、悪い……約束をまた破っちまう。来世で会えたらそのときにな」


 そう言って、レオンは、ドアに向かって歩き出す。


「俺がスタン砲をぶち込んだら、みんな一斉に逃げろ。一気に下山するんだ。しばらくヤツは麻痺して飛べなくなるはずだ」


「ちょっと、隊長! そんな、自爆じゃないですか」


「他に手はない。あとは頼む」

 


(僕は……うじうじしている場合ではない!)



「レオンさん!」


「坊や、頑張って走れよ」


「ちょっと、待ってください。僕が行きますから!」


「何を言ってるんだ。こういうのはオッサンの仕事だ、ありがとな」


「いやいや、違いますってば! 僕は、アンデッドには強いんです!」


「へ? あははは。悪い、笑っちまうぞ、そんなこと」


「本当ですから! みなさんは建物から出ないでおとなしくしててください。僕はまだ、うまくチカラが使えないので」



 そして僕は、その場で透明化! そして霊体化! を念じた。

 みんなが何か騒いでいるのを無視して、そのまま建物の壁を通り抜けて、外に出た。




 ヤツは、僕に気づかない。


 建物を巡回し、ニタニタしている。

 そして、ヤツが建物の中を覗きながら、僕の方に向かって、だんだん近づいてきた。


 僕は、『眼』に力を込めた。

 すると、ヤツの中にキラキラと光るものを見つけた。


(あれが、クリスタルかな)


 ヤツが、僕をすり抜ける。そのとき、僕は、ヤツの中のクリスタルを掴んだ。


(熱っ!)


 僕がクリスタルを掴んだことに、ヤツは気づいたようだ。巡回をやめ、その場に止まり、しきりに身体をねじっている。

 何かに引っかかったとでも思っているんたろうか。


 僕は、掴んだクリスタルを取り出すために、クリスタルに霊体化!をかけた。すると、すっと、ヤツの身体から、クリスタルは外れた。


(よし、回収完了!)


 僕は、そのまま建物に戻ろうとした、が…。


 クリスタルは、漏れ出すエネルギーが強すぎて透明化できなかったため、ヤツからこれを隠せなかった。

 透明化と霊体化を組み合わせないと、気配は消せないんだ。


 ヤツは、クリスタルを取られたことに気づいた。


 すると、クリスタルのエネルギー反応を目掛けて、ヤツは火の玉を放ってきた。

 霊体化している僕には、その攻撃は効かない。スルッと通り抜けていく。


 それでもヤツは、クリスタルをずっと追いかけてくる。


 ならばと、僕は、ヤツを建物から引き離すことにした。僕が移動すると、ヤツはついてくる。ときどき火の玉を打ってくるが、当然僕には当たらない。


 すると、ヤツは、妙な風を自分のまわりに纏った。竜巻のような、でもピリピリっと雷を帯びているような…


 そして、僕の方へ、そのピリピリ風を投げつけてきた。まぁこれも通り抜ける……と思ってたら…


(げっ! 当たったじゃん)


 僕は、ピリピリ風で、ダメージは全く受けなかったが、透明化、霊体化が、一気に解除されてしまった。


「痛っ!」


 それなりの高さから落下した僕は、お尻を強打し、一瞬、目から星が出た。


 だがすぐに、回復! そして、立ち上がった僕の目の前に、ヤツがいた!

 さっきのニタニタした感じではなく、明らかに怒っている。


(えーっと……マズイかもしれない…)




 ヤツは、もう火の玉を放ってこない。僕には効かないと思ってるんだろう。

 そして、ジーッと僕を観察している。


『オマエハ 、ナニモノダ?』


(念話? にしては……大声で叫んでるんじゃ?)


「なぜ、ここを破壊するのですか?」

 

『ナニモノダ? ト、キイテイル』


「さぁ? 僕は、少し前までの記憶がなくて、わからないです」


『アカ、デハナイ ノカ?』


「意味がわかりません」


『ナラバ、シネ!』



 突然、ヤツは、右側にさっきとは比べ物にならないくらい大きな火の玉を作った。


 僕は、霊体化! 透明化! を念じた。

 次の瞬間、ヤツは左側に妙なピリピリ風を作り出し、こちらに投げつけて僕の能力を解除する。

 そして、解除と同時に火の玉を放ってきた!


(げっ!)


 僕は、焦って、バリアを張る。

 火の玉の威力を防ぎきれず、バリアは砕け散る。

 その際の衝撃で、僕は吹き飛ばされた。

 霊体化! 透明化! を念じ、地面に落ちる衝撃を消す。

 だが、ヤツは、すぐさま、ピリピリ風をこちらに投げつけてきた。

 再び、僕は、解除され、地面に転がった。


(っつー、うざいな、こいつ)


 僕は回復! して、立ち上がった瞬間、ヤツはまた火の玉を放ってきた。


(わっ! あ……え?)



 僕が、すぐさま霊体化して回避しようとした瞬間、僕の目の前に、赤い影が現れた。

 そして、その赤い影は、火の玉を身体に受けて平然としている。


「お兄さん、平気?」


「ケトラ様?」


「うん、ケトラ」


 現れたのは、赤い大きな狼だった。日の光を浴びてキラキラと輝いている。


「ありがとう、大丈夫です」


「よかった」


 ケトラ様の登場に驚いた僕だったが、ヤツも驚いていた。


『オマエハ、ナニモノダ?』


「自分から名乗るのが礼儀なんじゃないの? ま、興味ないけど」


 ヤツは、竜巻のような風を投げつけてきた。

 僕はとっさにバリアを唱えた。僕とケトラ様をバリアが覆う。風が当たるとバリアは砕け散るが、ダメージは受けない。


(竜巻ならバリアで、相殺できるな)


「お兄さん、白魔導士?」


「うーん……まだよくわからないです」


 ヤツは、こちらの動きをジーッと見ている。おそらく僕が握っているクリスタルを、隙をついて奪うつもりのようだ。


「そのクリスタルは、転移魔法陣の?」


「そうだと思います」


「コイツが、喰ったのを取り返したの?」


「はい」


「じゃあ、お兄さん、それ、先に戻そう。じゃないと、あたし動きにくいの」


「えっと、遠いですよね、転移魔法陣って、山のふもとですよね?」


「たいした距離じゃないから。あ、それポケットにでも入れてくれない? あたしが触ると、やけどするの」


「あ、はい。わかりました」



 僕は、熱いクリスタルを氷魔法で少し冷やし、そしてズボンのポケットに入れた。


「じゃ、乗って! 行くよ〜」


 そう言うと、ケトラ様は、僕をふわりと持ち上げ、その背に乗せ、天高く、飛び立った!


「え! えっ? えーっ!」


 ケトラ様は、まるで風になったかのように、空を駆けていく。

 後ろを振り返ると、ヤツが追いかけてきていた。


(僕はいま、空飛んでる! わー、ヤバい、テンション上がってきた!)



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