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278、ロバタージュ 〜 行商人の証

「女神様、学校にどんな問題が起こったのですか?」


「うむ、予想以上におバカなのじゃ」


「は? おバカ?」


「魔族は特に、個体差がひどいのじゃ」


「はぁ」


「数を全く数えられぬ奴もいるのじゃ」


「そういう文化がなかったのかもしれませんね」


「うむ。金で物を買うことから教えねばならぬ。強奪するのが常識だと思っている野蛮な奴らが多いのじゃ」


「なるほど…」



 女神様は、またチラチラとリュックくんを見ている。リュックくんはそれに気づいているはずなのに、知らんぷりしている。


(こういうとこ、ほんと似てるよね)


 バーの片付けが終わったらしく、マスターと二人の店員さんは、また夕方に来ますと言って帰って行った。


 ミサさんはシャルに寄りかかって眠っているようだ。タイガさんは、ルー様、ヲカシノ様と何か話をしていた。

 ケトラ様は相変わらずマーシュ様を睨んでいる。マーシュ様は、何も気にしていないようで、やわらかな笑みを浮かべてルー様の近くに立っていた。


 そして、ソファ席ではアトラ様が眠っている。そういえば魔力切れって言ってたっけ? 僕はゲージサーチをしてみた。体力は青、魔力は赤、うん、魔力切れだな。


 基本的にアトラ様は夜に弱い気がする。朝型タイプなのかもしれない。でも、ケトラ様は夜でも明け方でも平気なようだ。種族の特徴ってわけでもなさそうだ。



「そこでじゃ、ライトに算術の教師をと言っておったが、算術どころではないのじゃ。まず、この街で暮らすためのルールを身につけさせねばならぬ」


「そうですね。全くの異文化ですもんね」


「タイガが、学年を作ればよいと言うておるのじゃ。学校は学びたい者が学びたい物を学ぶ場にするつもりじゃったが、そういうわけにもいかぬという事態なのじゃ」


「一般教養は必要ですよね」


「うむ。そこでじゃ。開校したばかりじゃから、今年はすべての学生は一年生なのじゃ。半年ほどしてから、二年生を作るのじゃ。一般教養を既に身につけた者にまで、一年間わかりきったことを学ばせるわけにもいかぬ」


「なるほど、優秀者は半分の期間で学ばせるのですね」


「うむ。算術は二年生から教えるのじゃ」


「わかりました。僕は半年は学校の手伝いは不要ということですね」


「そうじゃ。ただ、その間、ライトの配下を借りたいのじゃ。野蛮な奴らには、チカラを示さねば秩序の維持が難しいのじゃ」


「えーっと、リュックくんですか?」


「カースもじゃ」


「うーん、それは本人に聞いてください。僕は勝手に決められません」


「は? ライトは、しょぼいのじゃ! 主人なら命じればよいだけじゃ」


「僕は、そういうのは嫌なので…。二人がやるというならどうぞ。女神様が説得してください」


「ということは、二人がやると言えば、教師をさせてもよいのじゃな?」


「ちゃんと、給料出してあげてくださいよ」


「ギルドミッションにするから、そこは問題ないのじゃ」



 女神様は、カースを呼びつけ、リュックくんもむんずと捕まえて、ぎゃんぎゃんと話し始めた。


 二人はうんざりした顔をしていたので、嫌なら断ればいいからと、言っておいた。


(話が長くなりそうだな…)


 アトラ様は、ソファの縁をがっつり握って眠っている。彼女は、このままでいいかな?



 僕は、ちょっと出かけようと思っていた。



 僕はこの街の長になり、さらにこの街に店を持った。店に設置した二台の自販機は、めちゃくちゃ稼いでくれるし、リュックくんが、商品補充の仕事をしてくれることになった。


 だから、僕はもう、ポーションの行商人をする必要はない。3種だけじゃなく、他の種類も、バーのお客さんに売ればいい。それに、ポーションの数も余裕がないだろう。この店と自販機の分をまかなう数が確保できるかも不安なくらいだ。



 僕は、行商人を辞める。



 コペル大商会の登録カードと旗を、返しに行かなきゃだよね。店を開店したこの機に、ロバタージュに行ってこよう。ケジメはきちんとつけておきたい。



「リュックくん、コペルの旗は?」


「は? あー、ちょっと待って」


 リュックくんは、僕の左肩にスッと戻ってきた。


 僕はリュックを肩から下ろして、横に突きさしていた二本の旗を抜いた。ひとつはポーションの絵のタオルだ。もう一つが、コペルの旗。僕は魔法袋に二本の旗をいれて、再びリュックを背負った。


 僕が背負うとリュックくんは、肩ベルトを残して、僕の左肩から消えた。


「行商人、ほんとに辞めるんだな」


「うん、最近は行商してなかったけどね。店も開いたことだから、キチンとケジメをつけようと思って」


「ふぅん、まぁ、その方がいいかもしれねーな。いつまでも登録カードを持ってたら、あの商会の世話しなきゃならねーかもしれねーしな」


「もちろん、お世話になった借りがあるから、困ったときには相談に乗るけど…」


「そうか、じゃあ、オレも行く」


「待つのじゃ! リュックはまだ、話が終わっておらぬのじゃ」


「商会に行くのに、リュックを背負ってねーと、おかしいだろーが」


「話を中断して席を外すのなら、承諾だとみなすのじゃ」


 カースも、僕についてこようとしたようだが、今の女神様の言葉で、イスに座りなおした。断る気マンタンだね。


「好きにしろ。ライト行くぞ」


「うん。じゃあ、皆さん行ってきます。ついでにイーシアで薬草を摘んできます。夕方までには戻ります。後はよろしくお願いします」


 僕は、店にいる人達に、そう挨拶して、店を出た。



 虹色ガス灯は赤色からオレンジ色に変わろうとしていた。広場には、たくさんの人がいた。銅貨1枚ショップの入店待ちの列がすごい。


「ちょっと、ポーション補充するから待て」


 リュックくんが、手からスルスルと紐を出し、自販機にプスリと刺した。そしてしばらくすると、売り切れのマークが消えた。


「すごっ、めちゃくちゃ補充するの早いね」


「魔道具だからな。あ、売り上げ金、回収しとけー。入りきらなくなるぞ」


「わかった」


 僕は自販機から売り上げ金を回収し、魔法袋に入れた。もう、麻袋が足りないんだ。麻袋も買わなきゃね。数えていないけど、銀貨31,800枚あるはずだ。


 自販機の補充が終わると、見ていた人達がワラワラと集まってきた。これ、またすぐに売り切れるんじゃ…。



 リュックくんは、僕の左肩にスッと戻ってきた。


「ん? どーしたの?」


「ロバタージュに行くんだろ? オレが歩いてると目立つからな…」


「ん? まぁ、どこにいても目立つんじゃないの」


「余計な騒ぎは、うぜーんだよ。この街なら、もうオレのことを見慣れた奴らも多いけど、ロバタージュは見られる」


「あ、そっか。前にめちゃくちゃ見られたからね」


「あぁ、オレちょっと寝るわ〜」


「ふふっ、わかった」



 僕は、生首達を呼び、ロバタージュへと移動した。




 ロバタージュのコペル大商会前にワープすると、突然現れた僕に、積み下ろしの作業をしていた人達が驚いた顔をしていた。


「あ、おはようございます」


「わっ! おはようさんです。もしかして、ライト様ですか」


(なぜ、様呼び…)


「はい、ライトです。もう事務所は開いてますか?」


「は、はい。2階は開いてるはずです」


「ありがとう。お邪魔します」


「えっ、あ、はぁ」


 僕は、なんだか怖れられているようで、違和感を感じた。別に今は暴走も覚醒もしていないのにな。



 1階の倉庫のような通路を抜け、階段を使って2階に上がった。うん、成金趣味なゴテゴテした雰囲気は、いつもどおりだった。


 僕が受付に近寄ると、面倒くさそうな顔で僕を値踏みするように見る女性がいた。これも、ちょっと嫌な感じだ。


「いらっしゃいませ。どのようなご用件ですか」


「おはようございます。行商人の手続きの件で来たんですけど」


「失礼ですが、どなたかの紹介ですか? 当商会の基準は厳しいので、そうそう行商人の許可は出ないと思いますけど」


「あ、いえ、申請じゃなくて、返納です。行商人を辞めることにしたので、登録カードと旗を返しに来ました」


 すると、コロッと女性の態度が変わった。


「あら、当商会の行商人の方でしたか。私、配置換えになったばかりで申し訳ないです。もしかして、他の商会への引き抜きですか」


「いえ、店を出したので、もう行商人は廃業しようと思いまして」


 僕は、受付の女性に、簡易応接セットに案内された。担当者を呼ぶので少し待つようにと言われた。



 少し待っていると、若い女性が怒っている声が聞こえた。


(あれ? この声って…)


 僕は、立ち上がって様子を見ると、その女性とバチっと目が合った。やっぱり、コペルの孫娘のリリィさんだ。


 リリィさんは、怒鳴るのをやめ、驚いた顔をして僕の方へと、ツカツカと歩いてきた。


「ちょっと、ライト、何してるの?」


「いま担当の人を待ってます」


「は? 何の用事?」


「昨夜、僕の店を開店したので、行商人は廃業しようと思って。登録カードと旗を返しに来ました」


「えっ? なぜこんなとこで待ってるの。上に来なさいよ」


「いやでも、ここで登録したから、返納もここかなと…」



 リリィさんに怒鳴られていた人が、近寄ってきた。僕に頭をぺこりと下げ、何か指示待ちをしているようだ。


「お爺様をすぐに呼んできて!」


「えっ? あ、はい」


 その発言に、他の人達も驚いたようだ。会長を呼んで来いってことだもんね。


「お待たせしております。あの……リリィさん、こちらの方はお知り合いですか」


「はぁ? 何言ってるの? ライトのことを知らないの? 頭おかしいんじゃないの!?」


「リリィさん、僕は目立ちたくないです」


「あなた、相変わらずなのね。まぁ、そういうところは嫌いじゃないけど…。そんなことで街長なんて、やっていけるのか心配だわ」


「あはは、まぁ、なんとか」


「えっ、街長? あ、登録カードの返納でしたね」


「はい、お願いします」


 僕は、登録カードと旗を大小あわせて4本返納した。担当の人は確かに、と受け取った後、登録カードを見て、驚いた顔をしていた。


「もしかして、幻のポーション屋のライトさん?」


「だから、そうだって言ってるじゃないの! ほんと、社員教育できてないわよね」


「そ、それは失礼しました。ライトさんがこんな少年だとは…」


「ライトは、イーシアの子だから、これでも17歳なのよ」


「リリィさん、僕18歳です」


「あら、そうだったかしら? しかし、お爺様、遅いわね」


「会長なら、昨日からハロイ島へ行かれていますよ。商会の全体会合ですよ」


「なんだ…。ライト、入れ違いね。店は、ハロイ島に作ったんでしょ?」


「はい、僕の街に作りました」


「近いうちに私も遊びに行くわ」


「城壁の内側にあります。お待ちしてますね」



 リリィさんは、小さい旗を1本、僕に渡した。


「これ、コペルの行商人だったという証に、持っておいてよ」


「いいんですか?」


「持っておいてもらう方が、私達もうれしいわ」


「ふふっ、ありがとうございます。じゃあ、僕はそろそろ失礼します」



 僕は、リリィさんに見送られて、コペル大商会を後にした。そして生首達のワープで、次の目的地に向かった。



皆さま、いつも読んでいただき、ありがとうございます。


以前、活動報告にて、8月末頃から次作を投稿するとご案内しておりましたが、す、すみません…。9月になってしまいました。


予定では、明後日の火曜日から、新作を投稿するつもりです。

この作品の50年後の世界で、全く別の主人公、別のジャンルで書いております。メイン舞台となるのは、湖上の街ワタガシです。この作品の登場人物も、脇役ですが登場します。あ、そのうち一人は準主役級の扱いになりそうですが…。


もし、よかったら、新作も読んでいただけると嬉しいです。9月3日、火曜日から投稿開始予定です。よろしくお願いします。

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