表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

271/286

271、湖上の街ワタガシ 〜 ライトの決断

 僕は、神々の方へと歩いていった。 


 なぜか僕が近づいても、青の神々は赤の神レムンを警戒していて、僕のことは気にしていないようだった。


 フワンと、広場にバリアが張られる感覚を感じた。いや、広場だけではない。僕と彼らを除くすべての人にバリアが張られている。

 その直後、また、何かを感じた。結界まで張られたか。



『女神のバリアは甘いからな。ヲカシノの結界がないと不安だぜ』


 僕の肩に戻ってきていたリュックくんは、話を続けた。


『アレ飲んどけ』


 僕は、目の前に浮かんだダブルポーションを飲んだ。


『カースもサポート体制完了だってよ』


(わかった。二人とも、僕が何をするかわかるんだ)


『当たり前だろ。おまえ、ダダ漏れだからなー』


(でも、神々は気づいてないよ)


『カースが、妨害してるんじゃねーの?』


(ふっ、ほんと、優秀だねー、ふたりとも)


『そーか? ふつーだろ』




 僕が神々に近づいていくのを見て、野次馬達もさらに静かになった。広場にはこんなにたくさんの人がいるのに、異様な静けさだった。


 人がどんどん集まってきていた。人が増えるたびに、女神様は、一人一人にバリアを張っているようだった。


 女神様は、何をさせたいのか…。僕の考えが正しいのか、彼女の求める行動ではないのか、今の僕には判断ができない。


 でも、僕は、この街の長として、毅然とした態度をとるべきだと考えたんだ。

 なめられると侵略者に狙われる。侵略者が多いと、防衛に疲れてくる。そんなマイナスのスパイラルになんて、ハマりたくない。




 僕がかなり近づいたところで、ようやく青の神々は僕の方を向いた。ただ、赤の神レムンを警戒しながらのようで、彼らの意識はほとんど僕の方へは向いていない。



「レムン様、少し離れていただけますか」


 僕がそう言うと、赤の神レムンは、僕の方を驚いた顔をして見た。


「ライト様、どういうことですか。我がそばにいる方が、青の神々は…」


「レムン様がいると、彼らの注意が貴方に向きます。話ができません」


「では、我はライト様のそばで護衛をしましょう」


「護衛など不要です」


「えっ、でも、配下の二人は?」


「彼らは、僕の護衛をしています」


「姿が見えませんが…」


「彼らがいると警戒されるでしょう?」


「なるほど、それで姿を隠していると。でも近くにいるということですな」


「ええ」


「それなら、我も、ライト様の配下として…」


「レムン様、何度もお断りしていますよね。配下はこれ以上増やすつもりはありません」


「な、なぜ…。我は戦闘力でも決して…」


「失礼ですが、レムン様より戦闘力の高い者がいますから」


「さっきの魔人は確かに…。だが、一人だけというのは…」


「僕は、配下の数は多いのです。これ以上は必要ありません」


「えっ? 他にもいるのですか」


「ええ、もう僕にも正確な数はわからないです。1,000万体近くいるんじゃないでしょうか」


「なんと! 凄まじい数の軍隊ではないですか」


「軍隊、という感じでもないですが…」



 僕は、少し上をヘラヘラと漂っている生首達を見た。かなりの数がこの上空にいるようだ。


 アイツらにも、わかっているんだね。もし、怪我人がでたら、治癒の息を吐いて治療するつもりなんだろう。

 上空で、アホの子ダンスをしている。もしもに備えて、マナを集めているんだ。




 その数を聞いて赤の神レムンは、むむと唸っていたが、僕の言葉に従って少し離れた。


 レムンが離れると、青の神々は落ち着いたようだ。逃げようとするかと思ったが、なぜかニヤニヤしている。


「ライト、なぜ赤の神を遠ざけた?」


「貴方達と話ができないからです」


「それで、自慢の優秀な配下も遠ざけたのか。たいした自信だな」


「自信というより、貴方達と話すには必要なことですから」


「この距離まで近づいて、しかも先程の能力は使っていない状態なのは失態だったな。やはりガキだ。暴走状態になるまえに、おまえは簡単に殺されるぞ」


「僕を? 誰が殺すんですか? 何のために? 貴方は、状況がわかってますか。すぐそこには女神様もいますよ」


「妖精の能力など、いくら魔力が高くても俺には効かぬ。だからこそ、俺がここに来たのだからな」


「青の神、街長として確認します。貴方がこの街に来た目的は何ですか。観光ですか、指令ですか」


「は? 何をとぼけたことを。おまえは理解力に問題があるんじゃないか? 観光なわけないだろう」


「では、まさかこの街を潰しに来たとでも言うつもりですか? 赤い悪魔に貴方は守られているのですね」


「は? はぁ? おまえ、頭が悪いんだな。赤い悪魔は、そこで震えているではないか。あの女達は、ダーラ様から逃げて来たのだ。戦闘力も皆無だ」


(わっ、本当に、ぺらぺら喋ってる…)



 青の神が見た方向には、さっき旅行者に襲われそうになった赤毛の女性達がいた。

 自分達の正体をバラされ、彼女達は動揺しているようだった。だけど、ダーラから逃げて来たのなら、移住希望者なのかもしれない。


 彼女達のまわりには、僕の城兵がいた。僕と目が合うと、うんと頷いた。女神様には、彼女達の正体がわかっていたということか。



「青の神ダーラから逃げて来たのなら、移住者として認めます。ですが、この星の魔族を統べるのは、今は悪魔族です。共喰いをするなら、貴女達は簡単に滅ぼされますよ。規律を守るなら、この街は暮らしやすい街になるでしょう」


 僕が、彼女達にそう言うと、みな、ものすごい勢いで頷いている。まぁ、さっき僕が助けたことが、効いているのかもしれない。



「赤い悪魔を受け入れるだと? なんと愚かな」


「この街では、種族差別はしません。もちろん性別の差別もしません。規律を守るのであれば、過去は問わない。いまを生きているんですから」


「何を甘っちょろいことを言っているのだ? ガキの理想か?」


「僕の理想でもあり、女神様の理想でもあります。そして、甘いとおっしゃいますが、侵略者は必ず排除しますよ」


「ふっ、俺はダーラ様の直臣だとわかってて言っているのか?」


「青の神ダーラの命令で、この街を潰しに来たのですか? あ、そっか、ダーラが潰せなかった街を潰すことで、成り上がろうとしてるんですね。ダーラへの反逆行為ですね」


「な? 本当におまえはバカだな。俺が反逆行為だと? おまえを捕まえてこの街を潰した者は、ダーラ様の右腕となるのだ!」


(すごっ、ほんと、チョロい)



 僕は、カースの言ったとおりに質問を繰り返していた。青の神はプライドが高いだけでなく、警戒心も強い。どれだけ尋問しても、警戒されれば口を割らないそうだ。



「ダーラの右腕になりたくて、侵略しようと?」


「まだ、わからぬのか? 当たり前だろう。この街を潰し、おまえを捕まえるために来たのだ。おまえは殺しても構わないとおっしゃっていた。おまえのようなバカは、一度死ぬ方がいいかもしれぬな」


(言質を取った)



 僕は、女神様の方を見ると、女神様は珍しく、ほぅと驚いた顔をしていた。あ、僕にこんな話術があると勘違いしてるのかな?

 もしかしたらカースは、誰にも知られないように、僕に入れ知恵していたのかもしれない。



「青の神、侵略目的でこの星に来たと確かに確認を取らせていただきました。侵略者は必ず排除します。直ちにお帰りいただきましょうか」


「何を、生意気な!」


 青の神は、突然、何かの術を唱えた。


 カースが、彼は操る能力が異常に高いと言っていた。自信家のカースが、乗っ取られないようにできるかわからないとまで言っていた。


 僕は、彼の手から黒い光が放たれる直前に、透明化! 霊体化! を念じた。


 青の神は僕を見失ったようだ。


「チッ、ワープか。小賢しい。ならば…」


 青の神は、何かまた術の詠唱を始めた。大がかりな魔法は、詠唱時間がかかるものが多い。すなわち、彼の標的は、この街全体に及ぶのか…。



『ライト、これ、結界も砕くぞ!』


 そう、カースから念話が入った。もう、時間がない。



「青の神、お帰りいただきます」


「な? え? ガキが戻ってきたのか! クソ、詠唱が中断させられたじゃないか」


「僕は動いていませんよ。僕の本来の能力を知らないようですね。さようなら」



 僕は、霊体化を半分解除し、青の神の身体に、スッと手を入れた。そして、彼の心臓を凍らせた。


 青の神は、その場にバタンと崩れるように倒れた。



 僕は、霊体化と透明化を解除した。彼は、まだ生きていた。ただのショック状態にしかなっていない。


 一瞬、迷ったが、僕は目を閉じ、迷いを振り払った。そして、目を開けると見る景色が青く染まっていた。


 僕は、剣を抜いた。僕の深き闇が剣にどんどん吸収されていった。


「ゲホっ、お、おのれ…」



 青の神がふわっと浮かび上がった。その顔は怒りで震えているようだった。威圧感がすごい。


 だが、僕は、不思議と怖くはなかった。


 彼の怒りで、大気が震えている。術ではなく、何かの波動を放っている。



 僕は、彼に向けて剣を振った。剣から放たれた黒い雷撃は、その何かの波動によって勢いを減殺されていく。


「ふん、無駄だぞ、ガキ! おまえを殺すための人選だ。俺に闇は効かぬ」


(えっ…)


『アイツも闇持ちっつーことだよ。アイツこそバカだな』


(リュックくん…)


『アンデッドのラスボスだと思え』


(わ、わかった)



 僕も、闇を薄く放出した。彼の波動にぶつかって、あちこちでパチパチと音を立てている。


 そして、僕は、再び剣を振った。先程ほどは減殺されないが、やはりいつもの雷撃ではない。


「無駄だと言っているだろう。残念だったな」


 青の神は、ぷかぷか浮かびながら、何かの詠唱に入った。


 僕は、大地を蹴って、空へと飛び上がった。彼は僕のスピードを目で追えていない。


 重力魔法を使って、僕は微調整した。


(よし!)


 僕は、闇を纏った剣で斬りつけた。刃先が僅かにかすった程度だったが、十分だった。僕は、蘇生を唱えた。


 その瞬間、僕の深き闇と、青の神の持つ闇が混ざり合い、その属性が反転した。闇の反射だ。


 僕の剣から、白く強い光が、青の神に向かって放たれた。さらに、薄く大気に放った闇も属性が反転していた。あの大気を揺らす波動は、やはり闇属性だったんだ。



 広場全体が、真っ白な強い光に包まれた。だんだん、光がおさまってくると、そこには青の神の姿はなかった。


 彼のいた場所から、上に上がっていく光の粒子が見えた。その一部は、僕に向かってきた。僕は、近寄ってくる光の粒子に向けて闇の雷撃を放った。


(邪神の能力など、いらない!)



 上空にいた生首達は、光の粒子の通り道をあけていた。


 生首達が空をふさいでいたら、あの青の神は、生首達に能力をすべて吸収されて消滅することになるのかもしれない。僕が、吸収を嫌がったから、生首達も避けたのだろう。




 僕は、呆然としている他の神々を見た。


「次はあなた達の番ですね」


「ヒッ、ば、バケモノだ…」


 そう言うと、彼らはその場からスッと消えた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ