27、ハデナ火山 〜 転移魔法陣の異変
時は少し遡る。
ライトを警備隊に預けて、ギルドの守護者と呼ばれる4人、すなわち、ギルドLランクの、一部の者達からは女神の番犬と呼ばれる4人は、そのリーダーであるタイガの指示で、山のふもとを目指していた。
「あのとき、サボってたんじゃなかったんすね〜。3人とも絶対サボリだと思ってたっす」
「あのときとは?いつのことだ?」
「ほら、さっきの食材集めのときっすよ〜。他の3人は仕事だとか言ってたって、隊員さんに聞いたっす」
「あぁ、3人で作戦会議、いや、4人か。女神様も加わって、ふもとの変な魔物をどうするか話してたんだ」
「あのババア、なんとかするのじゃ!転移魔法陣が使えないのじゃ!とか言うだけやで、後は丸投げや…」
「あはははっ。タイガさん、あまりいろはさんのモノマネうまくないっすね〜」
「はぁ?ジャック、おまえなー、なに偉そうなこと言うてんねん?」
「だって、俺やライトさんの方が、モノマネうまいっすよ〜。うぷぷぷっ」
「……しょーもなー。それがどないしてん?モノマネ大会でもやるんか?」
「プチモノマネ大会、やってたっすよ〜。なかなか笑えるんすよ」
「あーそーでっか〜」
そして4人は、目的地の山のふもとにたどり着いた。
やはり様子がおかしい。転移魔法陣に魔力を供給しているはずのクリスタルがなくなっていた。
そのまわりには、何かが爆発したような跡がある。
これは、クリスタルを取り込んで体内にエネルギーを充填させたときにできる波動の跡だと、タイガは一瞬で判断した。
「転移魔法陣の動力源が喰われとるで。奴はどこへ消えた?気配が完全に消えとるがな…」
「クリスタルの妖精は?一緒に喰われたんすかね?」
この星のあちこちにある転移魔法陣は、女神の城にある大きなクリスタルのエネルギーを、動力源としている。
そして、大きなクリスタルが放つエネルギーを、各転移魔法陣にあるクリスタルが受け取っている。
このエネルギーを受け取り、転移魔法陣を動かしているのがクリスタルの妖精なのだ。
「いや、そこに転がってないか?羽根が見えるが」
「あー、いたいた!大丈夫っすか?」
「ポーション飲ませようか」
「あ、俺、ライトさんのポーション、あるっす」
ジャックは、倒れていたクリスタルの妖精に、ポーションを飲ませる。
と言っても妖精は小さすぎるのでポーションを器に入れて、そこに妖精を放り込んだ。
クリスタルの妖精が、ポーションのプールにプカプカ浮いている…
「…ぶわっ!っぷ、ちょっとあんた!ひどくない?こんなの野蛮すぎるわ!羽根が濡れたじゃないの!」
「あ、復活したっす。やっぱこれが一番早いっすね〜」
「ストローでもあれば飲ませてやれるんだが…」
「嫌よ!勝手に私の顔に触るなんて、許さないんだから!」
「ぴーぴーうるさいな、ええかげんにしとけよ、羽虫!」
「なんですって!って…あ、あんた、いろはちゃんとこの脳筋じゃない。こんなとこで何してんのよ!」
「はぁ?おまえが転移魔法陣を動かせへんから、様子を見に来てやったんやろーが」
「…ぅう。いったい、どういうことよ」
小さなクリスタルの妖精は、この星が生まれたときからずっと生き続けている。実体はあるが、普通の人や魔物には見えない。
あちこちにいる妖精達は、女神イロハカルティアを長年にわたり支え続けていた。そのため、彼女の城に住む隠居者のことも、ほぼ把握しているようだ。
「クリスタルの妖精、なぜ、そんな場所に転がっていた?」
「わからないわ、ただ突然、何かが空から落ちてきて、竜巻みたいなのが起こって…あとは覚えてないわ」
「妖精さん、竜巻に吹き飛ばされたんすか?」
「空からって…異次元から?赤か青か…」
「何かが落ちてきて、クリスタルを喰ってパワーアップしたってことかいな」
「え?クリスタル?あ、あぁーっ!な、ないわ!あ、でも…クリスタルは吸収されないから、食べた奴の身体の中にあるはずだわ。探してきてちょうだい!」
「おまえ、相変わらず、上から目線やな…」
「…奴を探して、腹をえぐってクリスタルを取り出して来いってことですか?」
「クリスタルを直接触って無事で済む気がしないんだが…」
「大丈夫よ。転移魔法陣から外されたクリスタルは、ほとんど魔力を放たない。触っても黒こげにはならないわよ、やけどはするかもだけど…」
「……クリスタルのやけどは、魔法では治らんやろ…おまえらの呪いやからな」
「やけどしたら、治してもらえるんすか?」
「わ、私に言わないでちょうだい。他を当たりなさい」
「……で?そんな物騒なもんを取り返して来いってか?」
「それがあなた達の仕事でしょ?」
「…はぁ。キャンキャンうるさいな、そんな偉そうなこと言うんやから、奴がどこにおるんか、当然わかってるんやろな?」
クリスタルの妖精は、タイガをキッと睨む。
そして、しばし、目を閉じる…
風があたりをサーッと通り抜ける。
そして、彼女は、空を見上げる。
「上空かなり高いところを飛んでいるわ。風を使って移動して…あ、火山の中腹あたりに降りるわ」
「な?なんだと?そこから下山してきたんだぞ…」
「クリスタルを喰って、空を飛んでるバケモノっていうと…生身じゃないわな? 」
「魔物か何かの…死霊じゃねぇか?」
「マズイな…中腹には、休憩施設あるぞ。大量の人間がいる…」
「大丈夫っすよ、ライトさんもいるっす。死霊が相手なら、俺達より強いっすよ」
「だが、あいつは、まだ戦い方わかってへんやろ」
「そうっすね、確かに…マズイっすね」
「おーい!女神!俺達をあっちに運べ〜!おーい!」
『うるさいのじゃ!脳筋が騒ぐでない』
「いろはさん、転移魔法陣の動力源のクリスタルを喰ったバケモノが、ライトさん達の方に行ったっす」
『そのようじゃな…アレは何じゃ?悪霊か?』
「いろはちゃん、アレは、突然空から降ってきたわ。たぶん、外からわざと転移陣を目掛けて落ちてきたのよ。他の転移陣が壊されたときと同じ手口だわ」
『異次元からの迷い子かの…他の転移魔法陣の破壊と同じ感じなのじゃな?』
「同じだと思うわ。クリスタルに蓄えられたエネルギーが無くなるまで、暴れるわよ、きっと。今はクリスタルへのエネルギー供給は止めてるから、長くは続かないと思うけど…せいぜい1ヶ月ってとこかしら」
『あい、わかったのじゃ。おぬしらは転移魔法陣の復旧作業をしておくのじゃ』
「はぁ?何言うとんねん、ライトがヤバイって気づいとらんのか?あほか」
『タイガは妾にケンカを売っているのじゃな。戻ってきたら買ってやるから、楽しみにしておくのじゃ!』
「そんな話してへんやろ、はよ運べや、ボケ!」
「タイガさん、毒舌すぎっす」
「女神様、中腹の休憩施設には、強い冒険者はいませんでした。ライトさん達には、アレに抗う術がありません。我々を彼らの元へ運んでください。時間がありません」
『おぬしらは何もわかっておらぬ。妾を信用しておらんのか? おぬしらを運ぶ必要があれば、今頃さっさと運んでおる。それより転移魔法陣の修理をするのじゃ!ってことでよろしくなのじゃ』
「な、なんやと?ババア」
『………。』
「あー、通信終了みたいっすね〜」
「……くそっ!」
「あ!中腹には守護獣ケトラがいますよ!ケトラは強烈な炎を使うから、死霊に強いんじゃ?」
「アイツが、人族を守ると思うか? 逆だろ? アイツは、人族が精霊ハデナを殺したと思ってるんだぞ」
「でも、イロハさんが大丈夫って思ってるなら、きっと大丈夫っす。転移魔法陣の復旧ミッションにかかるっすよ〜」
「ジャック、おまえ、ライトと仲良くなったんちゃうんか?」
「仲良しっすよ」
「じゃあ、なぜ助けに行かないんだ?」
「うーん。まぁ、ライトさんなら、死なないっすよ。それに特殊能力持ちっすからね〜」
「特殊能力?霊体化がそんなすごいのか?」
「いや、そっちじゃないっす。なんていうか…うまい言葉が見つからないっすけど、手懐けるんすよ、一瞬で…」
「は?意味がわからないぞ」
「まぁ、実際に目撃しないと理解できないと思うっす。目撃しても信じられないっす」
「なに言うとんねん?俺も意味わからんわ〜」
「とにかく、大丈夫っすよ」
「はぁ…もう、ぐだぐだ言うててもしゃーないから、転移魔法陣、直すぞ」
「了解っす」
「…仕方ないですね。了解です」
『ライト、おぬし、いまヒマじゃな?』
「わ、わっ!」
(び、びっくりした…。突然どうしたんですか?まさか、もう新作を嗅ぎつけて、味見するから持って来いとかですか?)
『ふむ。何味じゃ?甘いのか?』
(カシスオレンジ風味です。甘いですが、カルーアミルク風味の方が甘いと思いますが…)
『なんじゃ、それなら別に急がなくてもよいのじゃ』
(…はぁ…では)
『ちょ、ちょっと待つのじゃ!用事が終わってないのじゃ!』
(え?他に用事があるんですか?)
『な、なんじゃ?その言い方は…。まるで妾が甘い物にしか興味がないかのようではないか』
(えっ!違うんですか?甘い物に興味はなかったので?)
『……こほん。今は、甘い物の話ではないのじゃ』
(は、はぁ…)
『ライト、転移魔法陣の動力源を知っておるか?』
(知らないです…)
『やはりな。魔力を蓄えたクリスタルを使って動かしておるのじゃ』
(へぇ、クリスタル…)
『そうじゃ。さっき、この山の転移魔法陣からクリスタルが奪われたのじゃ!』
(えっ!)
『タイガ達が向かったが、間に合わなかったようじゃ。だから、おぬしが取り返すのじゃ!』
(は?)
『クリスタルを喰った奴は、この場所を狙っておる。もうじき、現れるのじゃ!奴の腹から、クリスタルを取り返すのじゃ』
(えっと…弱い魔物ですか?)
『弱いわけないのじゃ。クリスタルを喰ってパワーアップしておる。ってことでよろしくなのじゃ!』
(えっ、あ、でも、僕…)
『ライトがなんとかしないと、この施設にいる者はすべて奴のエサになるのじゃ!なんとかするのじゃ!』
(いや、あの、そんな無茶な)
『………。』
(まじか…。むちゃぶりしてすぐ圏外って…)




