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268、湖上の街ワタガシ 〜 なんだか大規模に…

「わ、わかりました。全額お支払いします」


 僕は、ギルドの依頼料、追加請求額の金貨1,500枚を支払った。ほんと、大魔王様に媚薬ポーションを売りつけてよかった。


「ええ〜っ!? ライトさん、こんなに払ってしまって大丈夫ですか。まだ、店の運転資金とか必要ですよ?」


「大丈夫です。神戦争前に地底に行ったときに、優良顧客にポーションを大量に売ったんですよ」


「そ、そうでしたか。やはりリュック持ちは、違いますね。イロハさんは、ライトさんのことを貧乏だと言ってましたけど…」


「ははは、いや確かに、あれを売ってなかったら、今頃ほとんど持ち金がなくなっていましたよ」


「やはりそうですよね。じゃあ、クマがおかしいだけですね。アイツ、ほんとに金の価値がおかしい…」


「ベアトスさんは、貴重な鉱石や金属を錬金するから別格ですよ」


「そう思います。ギルドの登録者カードは、全面的にクマが作ったんですけど、報酬はいらないって言うんですよ。ゴミの処分をしただけだとか…。レアな貴金属をゴミ呼ばわりしてましたよ」


「あはは、持っていると狙われそうな高価な物は持ちたくないって前に言ってましたし…」


「ですよね。ほんと、アイツ、金貨が嫌いで、銅貨が好きみたいですし…」


「銅貨なら、たくさん持っていても、狙われないからじゃないですか」


「そうなんですよ。ほんと、頑固で変わり者です。まぁ、いい奴ですけどねー」


「あはは、そうですね」




 そろそろ皆が集まったということで、僕達は3階の会議室に移動した。

 アトラ様はもちろんだけど、シロワさんまで付いてきた。まぁ、かなりの人数だから、気になるんだろうな。



 会議室は、たくさんの人が椅子に座っていた。昨夜手伝ってくれた人達がほとんどいる。眠そうに目をこすっていた。


 そして、扉近くに立っていた人が、アトラ様に話しかけた。黒髪でワイルド系のイケメンだ。集まった女性達が、チラチラと彼の姿を盗み見ている。


「アトラ、バーガー、どこに置けばいいんだ?」


「ん〜、ライト、どうする?」


「えっ? バーガー屋さん?」


「あぁ、はじめましてだな。俺はリガフだ。名前は聞いているだろう? 悪名高い黒狼だからな」


「あー! リガフ様、めちゃくちゃ有名人じゃないですか! なるほど、噂どおりのイケメンですね。うらやましい」


「は? おまえ、何? なぜ、下から目線なんだ? 次期里長だろう?」


「僕は、こういう話し方なので…」


「まさか、アトラにも様呼びしてるんじゃ…」


「ちょっと、リガフ! ライトに絡まないでよね。言っておくけど、あんたよりライトの方が強いからね」


「そんなこと言われなくてもわかってる。ケトラが素直に言うことをきくなんて、よっぽどだろ? 怖い怖い」


(えーっと…)


「あ、とりあえず、バーガー代をお支払いしないと」


「ライト、そんなのいいよー」


「よくねぇよ。バーガー300個、紅茶100本で、銀貨10枚だ」


「へぇ、バーガーが1個、銅貨3枚かな?」


「な? なんでわかるんだよ」


「飲み物は、銅貨1枚だろうなと思って…」


 僕は、銀貨10枚を支払った。なぜか、リガフ様はおとなしくなっている。


「えーっと、あの…」


「ん? あぁ、確かに銀貨10枚だな」


「ライト、リガフは計算できないのー。リガフ、学校行きなよ。ライトが算術の教師するんだよー」


「えっ!? なんだ、教師だからそんなに計算ができるのか」


「計算ができるから、教師をするんじゃないのー?」


「は? アトラ、話をややこしくするんじゃねぇぞ」


(あはは…)


 たぶん、学生ってみんなこんな感じなんだろうな。やはり、数を数える練習から必要だよね。でも、彼らは覚える気になるんだろうか。


 僕は、学校で算術を教えなければならないのは、かなり大変なことだという予感がしている。でも、女神様は強引に決めていたから、僕には断るという選択肢は与えられていなかった。



 バーガーは、アトラ様が配ってくれることになった。配達が終わったリガフ様は、毎度〜と手のひらをヒラヒラさせて、出て行った。



「皆さん、朝早くからありがとうございます。僕が、店の店主のライトです。僕も寝起きで朝ごはん食べてないので、軽食を食べながら、話を聞いてもらおうと思います」


「ライト、飲み物、人数分ないよー」


「えっ……じゃあ、飲み物は…」


「ライトさん、飲み物は魔法袋に持っている人が多いと思います」


 パッと立ち上がって意見を言ってくれたのは、昨夜、商会の娘だと言っていた人だ。


「じゃあ、持ってない人は、もらってください」



 そして、説明会を始めた。主に100円ショップ……じゃなかった銅貨1枚ショップの話をした。

 ほとんど、昨夜手伝ってくれた人に話したことを繰り返しただけだったが…。


 でも、集まったほとんどの人は、目を輝かせていた。興味津々なんだ。さすが100円ショップだね。


 ミッションの報酬は最低料金になることも話したが、事前にわかっていたためか、それによってやめようと考える人はいないようだった。



「今日は開店準備ということで、集まってもらいました。今日はここにいる全員に仕事をお願いします」


 僕がそう言うと、安堵の声があちこちから聞こえた。帰らされると思っていたのだろう。



「開店後も、そのまま働きたいと考えている人は、どれくらいいるか知りたいので、手をあげてもらえますか? あ、まだ確定じゃなくて、予定でいいんですけど」


 僕がそう聞くと、昨夜手伝ってくれた人達はサッと手をあげた。それをキッカケにぽろぽろと手をあげる人が増えていった。

 でも、互いの目を気にしているのか、キョロキョロしているだけの人や、手をあげようとしてすぐに引っ込める人もいた。


「ライトさん、どうやら、ほぼ全員が開店後も働きたいようですね。人見知りをする人や、自分に自信のない人は挙手できませんから」


「シロワさん、なるほど、そうですか…」


「どうされるんですか。約200人いますよ」


「小さな店で、200人もの店員は不要ですね…」


 僕がそう言うと、集まった人達は、ほとんどが諦めた表情をしている。たぶん、他に仕事のない人達なんだろう。


(どうしよう…)



 交代制にしても、あの店にこんな人数は入らない。店の店員はやはり5人もいれば十分だ。


 でも、どんな人でもギルドに行けば、食事代くらいは稼げる仕事があるようにしたいと女神様は言っていた。


 僕は、ポーションを売れば人件費を稼げる。それに、街長だ。雇用を生み出す義務がある、とも言える。


 とすれば、銅貨1枚ショップの店に並べる売り物を、生産することで、たくさんの人に働いてもらうことができる。


(問題なのは、その製造する場所だよね…)



「あの、作業ができる場所って、借りることができますか」


 僕は、シロワさんにたずねると、不思議そうな顔をされた。あ、まぁ、僕が街長なんだけど。


「街の通り沿いは、ほぼ整備が終わっていますが、それ以外の場所は、まだまだ空き地があります。必要なら建てればどうですか? 建築屋もいますよ」


「そっか、もう精霊の霧はないから、建築しなきゃならないんですね」


「ええ、建築屋や家具屋は、森側に多く集まっています。調達した木材で仕事するには森に近い方が便利ですからね。武器屋や防具屋は、クマの倉庫というかゴミ置場近くに集まっています」


「なるほど。それぞれ、特徴のあるエリアになってきているんですね」


「はい、あと、レストランやカフェなどの飲食店に野菜や肉を配達する便利屋もできてますね。これは、ギルドの近くにあります。そのスーパーから買って配達しているようですよ」


「なるほど…。じゃあ、3ヶ所に作業所を建てます。銅貨1枚ショップには、木工品も、金属くずを利用したアクセサリーも、軽食も置きたい。それらは店オリジナルで作る方がいいですからね」


「ということは、この全員が働けると解釈してもよろしいですか」


「はい、大丈夫です。人件費は、ポーション売って稼ぎますから」


「ライトさん、店の運転資金でまかなえるように頑張りますよ」


 声をかけてきたのは、また、商会の娘だ。彼女はめちゃくちゃヤル気だね。

 僕が彼女の方に目を移すと、なんだか握りこぶしだった。それに、昨夜手伝ってくれた人達も、うんうんと頷いている。


「ふふっ、ありがとうございます。頼りにしています。あ、でも、儲け目的ではなく、あくまでも…」


「わかってます! だから楽しいんじゃないですか。損も得もしないギリギリラインを狙うなんて、今までの常識を覆す新しい商売ですから!」


「無理なく楽しくですよ?」


「はい! お任せください」


 なぜか、彼女はまるで店長のようだ。まぁ、いっか。




 そして、説明会は解散し、みな、それぞれの仕事についた。彼女がすっかり仕切っていて、テキパキと指示をとばしている。


 僕はアトラ様と一緒に、建築屋さんに出向き、作業所の建築を依頼した。驚くことに、一瞬で出来上がったんだ。魔法って便利だね。

 作業台なども、家具屋さんが揃えてくれた。


 結局、僕は、3ヶ所の作業所の代金として、建築屋さんに銀貨30枚、家具屋さんに金貨3枚を支払った。


(家を建てる方が安いんだ!)



 作業所が完成すると、すぐに誰かが知らせに行ったようで、店長っぽい彼女がすっ飛んできた。


「ライトさん、森の近くは木工品、武器屋の近くはアクセサリー、スーパーの近くは軽食を作る作業所ですね」


「はい、それでお願いします。えっと材料費は…」


「昨夜に預かっている銀貨500枚で大丈夫です。あとは、売上から、材料費に回していきます」


「完璧ですね。よろしくお願いします。でも、無理はしないでくださいね」


「はい!」


 彼女は、ペコリと頭を下げると、来た道を全力疾走で戻っていった。

 銅貨1枚ショップは、もう完全に任せておいて大丈夫なようだ。逆に下手に関わると、みんなやりにくいかもしれない。



 僕は、バーの準備に専念することにした。エールなどを買って来なきゃね。おつまみ用の買い物も必要だ。


 ふと見ると、アトラ様がななめ上を向いて固まっている。念話かな。そういえば、ずっと一緒にいるけど、アトラ様にも予定があったんじゃないのかな。


「ライト…」


「アトラ様、用事あったんじゃないですか」


「ん? それは大丈夫なんだけど…」


「どうしました?」


「ケトラのことなんだけど…」


「はい」


「また、ケンカしてる」


「えっ? 地下牢を出たんですか」


「うん、出てすぐ、広場でケンカしてる。あの子は、やっぱりダメだよ…」


「理由があるはずです。行きましょう」



 僕は、生首達を呼んだ。すぐにケトラ様の元へと指示し、アトラ様とともに広場へとワープした。


 そこには、赤い狼がいた。彼女は、何人もの剣を持つ人に囲まれていた。


「ケトラ様!」


 僕は、バリアをフル装備して、彼女の目の前に、生首達のワープで移動した。


「お兄さん…」



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