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267、湖上の街ワタガシ 〜 騒がしさの理由

「お待たせしました。おはようございます」


「昨夜遅くまで開店準備をされていたのに、朝からすみません。確認させていただきたいことがありまして…」


「えーっと、まだ何もありませんが、中へどうぞ」


「はい、お邪魔します」



 僕達は、昨夜はほとんど眠っていない。昨夜、アトラ様の種族での「結婚」が、やっとできたんだ。僕達は、やっと夫婦になれたんだ。


 まだ、その余韻を楽しみたかったところに、突然、ギルドの人がやってきたのだ。




「お急ぎのようですが、何かありましたか」


「はい。あの、依頼いただいているミッションについて、いくつか変更と確認をお願いしたいのです」


「花の栽培ですか? 開店準備の方ですか?」


「後者の、開店準備および開店後の店員と仕入れ担当についてです」


「えっと、昨夜遅くまで仕事していただいたことがマズかったのでしょうか」


「いえ、それは構いません。あの、人数についてなのですが、開店準備は希望者全員で、開店後は5人程度というお話でしたよね」


「はい、あ、昨夜、開店後も来たいと言ってくれる人がいて…」


「ええ、その件で参りました。冒険者の声だけで決めるわけにいかないので、依頼者のライトさんの元へと訪問させていただきました」


「そんなに急ぐことじゃないと思ってたので、連絡してなくてすみません」


「いえ、普通なら、お預かりしている依頼料がありますので、急ぐことではないのですが……開店準備は人数を決めなかったですよね」


「えっ? あ、はい。数日のことですし、希望してくれる人だけでという話でしたよね」


「私どもとしましても、依頼料も高くないのでそんなに集まらないと思っていたのですが…」


「人数が想定より多いのですか? 作業がはかどってありがたいですけど?」


「あの、少し外を見ていただけますか?」



 僕は、ギルドの人に手招きされて、3階の玄関横の窓から外を見た。

 何かのイベントがあるのか、たくさんの若者が集まっている。そっか、これで外が賑やかだったんだね。



「賑やかですね。何かイベントがあるのですか?」


「え? あの、もしかして、お気づきじゃないのかもしれませんが…」


「ん?」


「集まっているのは、ライトさんの出されたミッションの受注者です。数がさすがに多すぎるのではないかと思いまして…」


「えっ!? なぜこんなに」


「昨日のみの受注者達によるクチコミです。誰も経験したことのない楽しそうな仕事だと…」


「そ、そうですか。でも、彼らに支払われる報酬は低いんですよね?」


「はい、最低料金です」


「じゃあ、なぜ? あ、僕が街長だからですか」


「いえ、権力のある方の平凡な依頼には、あまり集まりません。みな、怖れもあるので、普通の移住者が募集する方が集まるのです」


「うーん…」


「私どもとしましても、予測を超えた事態でして…」


「はぁ…」


「しかも集まってきているのは、言い方は悪いですが、あまり受注できる仕事のない人達なんです」


「えっと、犯罪者とかですか」


「中には罪を犯した者もいるでしょうが…。うーん、戦闘能力が低く、簡単な狩りさえできないような弱い人が多いのですよ」


「あ、そっちですか」


「はい。なぜ、この島にたどり着くことができたのかも不思議なくらいでして…。簡単な採取ミッションも、この島では身を守ることができないので、紹介できない人もいます」


「なるほど…」


「さらに、接客も難しく…」


「街の中でもですか?」


「はい。客に何か言われるとパニックになったりという人もいまして…」


「それは、わかる気がします。無茶な客に絡まれると、戦闘力に自信がないと怖いですもんね」


「そんな問題のあるタイプが大半なのです…」


「そうですか」


「ライトさん、どうしましょうか。人数が多すぎるので、使えない人達は取り消しましょうか?」


「ん? 使えない人達というのは、いま話されていた人達のことですか?」


「ええ、街長であるライトさんの店ですから、それにふさわしい人を選ぶ方がいいですもんね」



 僕は、ギルドの人の意見にちょっと不快感を感じた。もちろん、僕のことを考えてくれた上での発言なのはわかっている。


 でも、まだ失敗したわけでもないのに、能力が低いから取り消すとか、街長にふさわしい人をだとか、なんだかその考え方が不快だった。



「もし、多すぎるからという理由で断るなら、どんな仕事でもできる人を断りますよ。とりあえず、集まってくれた人達には、今日のところは仕事をお願いします」


「えっ? ですが、100人以上いますよ?」


「それだけいれば、今日中に開店準備が整いそうですね。助かります」


「あの、ライトさん、言いにくいのですが、依頼料なのですが…」


「すぐに足りなくなりそうですね」


「はい、さすがに開店後もこの人数というわけにはいかないでしょうが、お預かりしている分では…」


「ギルドも、商売ですもんね…。いま、少しお渡ししましょうか?」


「えっ? あ、依頼料の受け渡しは、ギルド内にてという決まりになっていまして…」


「わかりました。後で、伺います」


「はい、じゃあ、彼らはこのままでも?」


「ええ、すぐ説明に行きます。ギルドの職員さんも、ご一緒いただけますか?」


「もちろんです」



 アトラ様の方を見ると、どうしようかと悩んでいるようだった。アトラ様にも居てもらう方がいいかな。


「アトラ様も、いいですか? このあと、何か予定ありますか?」


「あたしは、大丈夫だよー。えっと…」


 そう言うと彼女は、おなかを触っていた。あ、朝食食べてないよね。


「アトラ様、この人数が入れるようなカフェかレストランはないでしょうか?」


「ええ〜!? 大きな店はあるけど、この人数分の空きはないと思うよー」


(だよね、どうしようかな…)


「あ、じゃあ、ギルドの3階の会議室を使ってください。大きな合同ミッションの説明に使う部屋があります」


「わかりました。じゃあ、そちらに広場の皆さんの誘導をお願いできますか? 僕もすぐに向かいます」


「かしこまりました」


「あの、会議室では、飲食禁止じゃないですよね?」


「あ、はい。大丈夫ですが?」


「起きたばかりなので、軽食を食べながら説明会をしたいのですが」


「なるほど、そうですね。集まっている人達も大半は生活が厳しいようですから、朝は食べてないと思います」


「上の階から出前できますか?」


「へ? 出前? というのは…?」


「宅配サービスのようなものです」


「あー、配達ですか。うーん…」


「ライト、バーガー屋なら配達してくれるよ。守護獣がやってるのー」


「人族が食べる味もありますか?」


「うん、大丈夫だよー」


「じゃあ、注文は……アトラ様、念話で注文できますか?」


「できるよー。バーガー何個?」


「100個以上は必要そうですねー。あと、飲み物も」


「わかったー。ギルドの3階ね?」


「はい」



 アトラ様は、少し上を向いている。念話できると便利だよね。僕はまだ受信したものへの返信しかできない。アトラ様とは、指輪を使って念話できるけど…。



 ギルドの人は、よろしくと言って、帰っていった。


 広場に集まっている人達は、少しずつ塔へと移動し始めている。



「アトラ様、僕達も行きましょうか」


「うん。ふふっ、なんだかお祭りみたいな騒ぎだねー」


「そうですねー。朝から邪魔された気分…」


「ん?」


「あ、いえ、何でもありませんよ」


「ふふっ、そっかー」




 僕達が、ギルドへ到着すると、数人の係の人が僕達を見つけて駆け寄ってきた。


「ライトさん、おはようございます。あの、また希望者が増えてきているのですが…」


「えっと……いま虹色ガス灯、何色でしたっけ」


「いまギリギリ赤ですね。もうすぐオレンジ色になるかと…。オレンジ色が、上の役所の始業時間なので、始まりを知らせるベルが鳴りますが、今日はまだ鳴っていないので」


「では、そのベルが鳴るまでで締め切ります」


「かしこまりました」



 そう言うと、係の人はバタバタと、伝達に戻っていった。念話できない人もいるのかと少し驚いたけど、そういえば僕もできない。仲間だね〜。


「ん? ライトどうしたの?」


「あ、いえ、念話できない人もいるんだなって安心したというか…」


「念話って、できる人の方が少ないよ? 神族は、女神様が念話能力を付与しているみたいだけど」


「あ、そっか」


 付与されたはずなのに使えない僕みたいな劣等生いるけど…。



 階段を2階まで上ってくると、朝、家に来た職員さんが待っていた。


「ライトさん、いま、移動中なのでもう少しお待ちください。あの、この隙に依頼料の件で…」


「あ、お支払いですね。大丈夫ですよ」



 僕は、事務所の中に手招きされ、アトラ様と共に中へと入った。

 応接室のような部屋に案内されると、そこには、地下牢で会ったこの塔を担当する神族のシロワさんがいた。



「ライトさん、朝から大変ですな」


「シロワさんこそ、お疲れ様です」


「ありがとう。まだギルド長が来てないので、俺が呼び出されましたよ。奥さんも、おはよう」


「お、おはようございますっ」


 奥さんと言われて、アトラ様は、また赤くなっている。ふふっ、いつになったら慣れるのかな、かわいい。



「さて、一応、ギルドからの請求額ですが、とりあえずの分だけでもいいので、入金お願いできますかな」


「えーっと……そんなにすごい額になりますか」


「すごい額だから、俺が呼び出されたんですよ」


「あ、そっか…」


「ギルドとしては、だいたい30〜40%をギルドの手数料としていただいてるんですが、今回はそこが決められなくてですな…」


「お支払い額の60〜70%が受注者に支払われるのですね。半分くらいはギルドが取るのかと思ってましたよ」


「おっと、さすがに計算が速い。まぁ、科学の国の出身者は、魔法が下手な反面、教養は高いですな」


「魔法のない世界でしたからね」


「念話も習得には数年かかりますよ。タイガなんて、10年かかってましたし」


「そ、そうなんですね。安心しました」


「イロハさんがね、妾のせいにされては困るから説明しておけとうるさくて…」


「なるほど、あはは」


「さて、本題ですが、今後のライトさんの状況も考えますと、店を任せるリーダー的な人も複数必要になるでしょうね」


「そうですね。何かあると、僕はまた1〜2ヶ月眠ってしまうかもしれませんしね」


「イロハさんの無茶ぶりも心配ですね」


「はい…」


「それにライトさんは、仕事の能力の低い人も、来た人は受け入れるスタンスだ。ということも考慮すると、すごい金額になりました」


「は、はい」


「キチンとした金額は、今は確定しませんから、今後毎月、支払い報告をしますが、ざっくりした金額ですが…」


「はい…」


「1年分として、ギルドとしては、金貨1,500枚ほど、追加請求させてもらいたいのですが…。いま、一部でもお願いできますか?」


「えっ!? 10倍?」


(日本円でいくら? 金貨1枚が100万円だから、えーっと…)



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