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265、湖上の街ワタガシ 〜 目立つふたり

「あ、このテーブル、同じもの2人分追加でー」


「はいよー」


 いま、僕はちょっと困っていた。アトラ様オススメの店に晩ごはんを食べに来たら、リュックくんが偶然合流してきたんだ。

 そこまでは、まぁいいんだけど、リュックくんはドラゴン族の魔王マーテル様と一緒だったんだ。

 なんだか、二人はヤラシイ雰囲気がぷんぷんしている。僕が眠っていた間に何があったんだろう?



「あの、僕、今朝までずっと眠っていたんですけど、マーテル様はいつこの街に?」


「ライトさん、もう大丈夫なのかしら? 眠っておられたのは存じていますわ。防衛協定の報酬が遅れると、女神様から連絡がありましたもの」


「はい、おかげさまで、もう大丈夫です。防衛協定の報酬は、女神様に渡しましたから、受け取ってください」


「わかりましたわ。はぁ、じゃあ、この街に滞在する理由がなくなってしまいましたわね。残念だわ」


「あの、長く滞在されているのですか?」


「神戦争の後始末が終わったあとだから、そろそろひと月かしら? と言っても、行ったり来たりなんですけどね」


「そうでしたか。長くお待たせしてすみません」


「いいのよ。この街を堪能できたわ。まだ未完成な街なのでしょうけど、とても面白いわ」


「おまえが面白いのは闘技場だろーが」


 なんだか、マーテル様は、リュックくんをジッとまっすぐに見るんだよね。


(おまえとか言ってるし……ヤラシイ関係?)



「えっと、闘技場があるんですね」


「あら、街長よりも私の方が詳しいのかしら。ふふふっ」


「学校の施設のひとつで、闘技大会を不定期開催してるんだよ。オレも出場させられた」


「へぇ、そうなんだ」


「あ、おまえは無理だぜ。補助魔法なら使えるが、それ以外の攻撃系のは魔法も特技もすべて禁止だ。闇は使えねーから覚醒できねーぞ」


「別に、出場するなんて言ってないよ」


「アトラも無理だな。魔導系だもんな」


「うん、そうだねー。あ、ケトラならいけるね」


「ハデナの暴れん坊か? あいつ、すぐに火を吐くからな」


「あ、そっか、すぐに失格になるねー」


「でも、そのギリギリのところで戦っているのが面白いですわ。観ていると血がたぎってきますもの」


「おまえなー、それは脳筋のセリフだろーが。色気ねーな」


「もうっ! リュックさんってば、すぐそうやって私を子供扱いするんだからー」


(やっぱり怪しいよね…)


 だからと言って、こんな場所で聞くわけにもいかない。僕は、複雑な気分になっていた。



 一方で、アトラ様は運ばれてきた料理にがっついていた。やはり肉料理が好きなんだな。


「お会計を先にお願いします。ご一緒でいいですかー」


「はい、いいですよ」


 僕は4人分のお会計を済ませた。4人で銀貨3枚、3万円って……まぁ、ディナーだし、そんなもんかな。



 この店は手づかみで食べるスタイルのようだ。アトラ様は、なぜかソースをおでこにつけて食べていた。


(なぜ、おでこに付くんだろう?)


 ふと見ると、リュックくんもおでこにソースが付いていた。なんだか、子供っぽいところが似てるよね。


 そのおでこに付いたソースを、マーテル様が拭いてあげている。やはり、そういう関係なのか。


 僕も、アトラ様のおでこをそっと拭いた。彼女は、なぜ僕がおでこにおしぼりを当てたかわからなかったらしく、きょとんとしていた。ふふっ、かわいい!



「あ、リュックくん、家を建てたよ。2階の奥にリュックくんの部屋があるからねー」


「おぅ、さんきゅ。これで行動範囲が広がるな」


「僕が寝てる間、どうしてたの?」


「あー、おまえのバランスが不安定な間は、ずっと肩に居たぜ。安定してからは、ランク上げだな」


「ん? ランク上げ?」


「あぁ、ギルドランクだよ。女神がケンカ売ってきやがったんだ。誰が一番速く1回転終わるかの勝負なんだよ」


「1回転?」


「ギルドランクは、いま汚いアルミっぽいカードだろ? 1回転終わると、カードの色が変わって、また、イから始まるんだよ」


「あれ、いろはにほへとだよね? 五十音あるよね? それを最後のンまでいくと、イに戻るの?」


「ん? 48じゃねーの? カードランクアップだって言ってたぜ。2枚目のカードになったら、いろいろな優遇措置が用意されてるらしーぞ」


「へぇ。リュックくんと女神様で対決してるの?」


「私も参加してますわ。こういう争いってある意味、頭脳戦ですから、楽しいですわ」


「えっ? マーテル様もですか?」


「地底の主要な魔王は全員巻き込まれてるぞ。それから、血の気の多い精霊や、帝国側の国王もほとんど参加している」


「そんなに…」


「誰がこの星の覇者となるか、知恵比べじゃ! なんて、おっしゃるものだから、引くに引けないわよ」


「へぇ…」


「女神様は、この星の力を知るために、主要な者の能力検査をしたいだけなのだと思いますわ。ですが、ここまで様々な種族が参加するとなると話は別です。負けられませんわ」


「完全に女神に乗せられてんぞ」


「でもこんなに楽しい日々は、生まれて初めてですわよ。リュックさんのおかげもあるかもしれないけど」


(やっぱり……怪しい関係だ)


 僕がチラ見しても、リュックくんは否定しない。なるほど、認めたってことだね。チャラ男、決定。


「あのなー、そんなことくらいで、チャラ男だとか言ってんじゃねーぞ。逆におまえ、どーなんだよ? ちゃんとやることヤッてんの?」


「ちょ、リュックくん!」


「あら、うふふ、かわいいわね。二人して真っ赤な顔しちゃって〜」


「マーテル様!」


「ふふふっ、いいわね〜。楽しいわ〜」


 僕は、諦めた。ダメだ、この二人には絶対にかなわない。話を変えよう。




「リュックくん、僕から離れてて大丈夫なんだね」


「あぁ、この街の中なら問題ねーな。ミッションで地底に行ったときは、やっぱ、2日は持たなかったな」


「そっか」


「まぁ、そうじゃねーと、オレなんか危なっかしいんだろーぜ。オレが出歩いてて平気なのは、おまえだけだからな」


「そうなの?」


「あぁ、街の中なら互いに治安維持のミッションを受けてるから騒ぎは起こさねーが、街から出ると、急に態度を変える奴も多いんだぜ」


「そっか」


「だから、オレもやたらと警戒されるんだよな」


「でも、もう少し離れていても大丈夫にならないと、ミッション受けるにしても、不便だよね」


「まぁ、オレはもう最終進化が終わってるからな、仕方ねーよ」


「うーん…」



 リュックくんと話していると、アトラ様が静かになっていた。あれ? と思って、アトラ様の顔を覗くと、またおでこにソースをつけて、ウトウトしていた。もう真夜中だ。


「あらあら、奥さんは、おねむかしら? 獣人ってかわいいわね」


「ふふっ、おねむのようですね」


 そう話してると、彼女は、ふわぁっ? と言いながら、起きているアピールをしていた。アトラ様、バレてますよ。



 僕達は、店を出た。とりあえずアトラ様が眠れる場所に連れて行かないと。


「オレも見に行くわー」


「ん?」


「2階と3階にも家具を入れたって言ってる。オレの部屋の鍵と、1階の鍵が送られてきたし」


「そうなんだ。じゃあ、家に戻ろうか」




 僕達は家に戻ってきた。なぜかマーテル様も付いてきた。リュックくんが何も言わないから、僕がついてくるなとも言えない。


 アトラ様は、歩いたことで目が覚めたようだ。おでこのソースは、さっきそっと拭いたんだけど、匂いがするのか、おでこを気にしているようだった。


 リュックくんが一緒だからか、マーテル様がいるためか、やたらと見られる。


「ねぇライト、ふたりって恋人なの?」


「さぁ、わからないんです」


「そっかー。でも、怪しいふたりだよね」

 


 アトラ様と、コソコソ話をしている間に、ふたりは消えた。あれ? リュックくんは肩に戻ってきてないし、どこに行ったんだろう。


「ライト、あのふたりはポーションの機械のとこだよ」


「あ、ほんとだ。一瞬、消えたかと思った」


「あたしも、一瞬、見失った。さすが魔王だね。有名な魔王だから、めちゃくちゃ見られるよね」


「マーテル様が見られてるんだ」


「リュックくんも、見られるみたい」


「なるほど…」



 僕達は店の入り口へと近づいた。確かにふたりは、めちゃくちゃ見られている。店内で仕事をしてくれてる人達も、作業をやめて、ジッと警戒しているようだ。


「自販機が珍しいですか」


「ライト、これ、どーすればポーションが出てくるんだ? 銀貨を入れても返却されるんだけど」


「ん? 不具合かな? えっ? 嘘…」


「どーしたんだ?」


「全部、売り切れてるよ。まじで? アトラ様!」


「機械は高いから売れないんじゃないのー?」


 僕は、自販機の横から、商品を補充した。うん、やっぱり600本ずつ入るよね。そして売上金の入った魔法袋が出てきた。中身を手持ちの麻袋へ移し替えた。


「リュックくん、この中身って銀貨31,800枚かな?」


「はぁ、ちょっと待ってろ」


 リュックくんは、手からシュルッと紐を出して麻袋にプスリと刺した。


「あぁ、あってる。おまえ、魔法袋は?」


「ん? ないよ」


「買っとくんじゃなかったのかよ」


「まだ、買ってなかった」


「はぁ? 異空間ストック代、取るぞ」


「えっ、あ、ごめん」


「今日のところは、晩飯おごってもらったからいいけど」


 ゴトンと音がしたので振り返ると、マーテル様がポーションを買っていた。またゴトンと…。


「おいおい、せっかく補充したのに、何やってんだよ」


「だって、10%回復薬が銀貨2枚だなんて、驚いたんだもの。地底では、これ、金貨1枚なのよ」


「えっ? 価格設定、間違えた…」


「人族なら、10%回復薬が銀貨2枚だなんて、高いんじゃねーか?」


「そっか、そうだよね」




 店に入ると、バーの食器棚には、グラス類がズラリと並べられていた。開店準備のミッションの人達が、グラスを洗って収納してくれていた。


「お疲れ様。すごい、仕事が早いね。この食器はどうしたの?」


「これは、ティアさんが持って来られました。あと、この魔法袋の中身もです」


 魔法袋から中身をカウンターへ出すと、ズラリといろいろな種類のお酒が並んだ。


(うわっ!)


 これ、ほとんどが日本で売っているアルコール類だ。ウイスキー、ウォッカ、ジン、テキーラ、リキュール、ワイン、日本酒などが数種類ずつ出てきた。


 シェーカーやマドラー、計量カップなどまでいろいろ完璧に揃っている。


「タイガさんが買って来てくれたんだ。すごい!」


「見たことないものばかり。字も読めないねー」


「僕の故郷の酒ですからね」


「そっかー。ふふっ、ライト嬉しそう」


「はい、めちゃくちゃ嬉しいです」


(すごい! 完璧すぎる!)



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