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263、湖上の街ワタガシ 〜 ギルドへの依頼

「ライト、それならあたしも手伝えるから、ティアちゃんの庭で栽培しようよ」


「えっ? アトラ様も?」


「そうじゃ、何人かでミッションを受注すればよいのじゃ。湖底の居住区に住むチビっ子達にも最適なミッションじゃ」


「えっと、チビっ子もギルドミッションやるんですか」



 いま、僕は自分の家の1階の店にいる。さっき、精霊の霧で、僕のイメージを具体化した家が建ったばかりなんだ。


 店の空きスペースで、花屋をと考えたことで、ギルドミッションの話になったんだ。



「当たり前じゃ。ひとりで歩けるようになれば登録可能じゃ。どんなに弱い子でも、ミッションを受注して食事代くらいは自力で稼げるようにするのじゃ。それが戦乱をなくす第一歩じゃ」


「女神様は、ギルドを誰でも仕事ができるハローワークと考えているんですね」


「なんじゃ? ハロー?」


「仕事を紹介する場所です」


「ふむ。そうじゃ。ハローなのじゃ。貧困がなくなれば食べ物を盗むための殺しはなくなるのじゃ」


「そんなに厳しいんですね。ロバタージュは豊かなんだ」


「そうじゃ。王国側は豊かじゃ。帝国側や魔族の国は、食料事情も厳しいのじゃ。この街に来て稼いで帰れば、100年後には少しはマシになっているはずじゃ」


「100年後!?」


「いや、もう少しかかるやもしれぬが…。他の星との交流が増えれば、100年くらいでこの星から飢餓がなくなると思うのじゃ」


「あ、同じ星系の…」


「まぁ、赤や青でも、悪さをしなければ構わぬがの」


「へぇ、なんだかすごい」



 女神様は突然、少し斜め上を向いて黙った。あー、念話かな。確か念話相手の数が増えると、固まるんだよね。




 僕は、その隙に、自販機を稼働させた。半玉に触れるとグンっと魔力を吸われた。


(どこから開けるんだろう?)


 自販機には鍵がついていない。あちこちペタペタと触っていると、自販機の横腹あたりが、ゴムのような弾力のあるもので出来ていることに気づいた。


 そこにポーションを1本近づけると、スッと消えた。


(これが補充口か。便利だね)


 僕は、クリアポーションを100本ほど出して、自販機の中に入れた。すると、商品を選ぶボタンのついているショーケースにも、1本スッと現れていた。


 ショーケースはあと2本分のスペースがある。


 僕は、売れ筋3種を並べようと考えた。モヒート風味の10%回復、カシスオレンジ風味の火無効付き1,000回復、そしてパナシェ風味の1,000回復クリアポーションが並んだ。


 まだ入りそうだったので、それぞれ入れていくと、結局、300本くらいずつ入った。


 商品のボタンの上に価格を表示する場所がチカチカ点滅している。値段かぁ。クリアポーションは酔っ払い相手だし病人直売価格でいいよね。


 僕は、クリアポーションは銀貨2枚、他は銀貨1枚を設定した。すると、釣り銭入れのようなものが出てきた。うーん、釣り銭切れは困るから、銀貨しか使えないようにしよう。両替は、店でやればいいよね。


 そう考えると、釣り銭入れはスッと、引っ込んでいった。


(この自販機、かしこい!)


 試しに、銀貨を1枚入れてみると、2種のボタンが光った。もう1枚入れると3種とも光った。クリアポーションのボタンを押すと、ゴトンと下から商品が出てきた。


(わっ! 冷えてる!)


 売り上げ代金は、どうやって取り出すのかと考えていたら、さっきのポーションを投入したゴムのような場所が光った。

 そこに手を触れると、小さな魔法袋が出てきた。その中には銀貨が2枚入っていた。なるほどと感動しつつ、僕は、小さな魔法袋と商品を自販機に戻した。


(確認完了! 完璧だね)



「ふふっ、ライト楽しそう〜」


「はい、完璧なんですよ。楽しいです」


「よかったね、ふふっ。店をするには、お皿やコップとかも必要だねー」


「はい、タオルやお手ふきなどの消耗品も必要ですけど、そういう業者とかはないですよね…。100円ショップもないしなぁ」


「うーん。あたしはずっとイーシアに居たから、街のことはわからないなー」


「あっ! 店の半分を100円ショップにしたら、消耗品を買いに行くの便利ですよね。花も100円で、切り花を売れるし」


「ん? 100円?」


「あ、えっと銅貨1枚ショップ、ワンコインショップですね」


「んん〜?」



「なんじゃ? ワンコショップというのは?」


 いきなり女神様が口を挟んできた。しかも、ワンコショップって…。ペットショップじゃないんだから…。


「ワンコインショップです。銅貨1枚で買える商品だけを売る店です」


「むむ? なんでも銅貨1枚なのか?」


「はい」


「銅貨1枚で買えるものなど、あまりないのじゃ」


「僕の故郷では、大型店もありますよ」


「なんじゃと? なんでも銅貨1枚で買える店など、やっていけるのか?」


「僕はポーションで儲けるので、他の事業は儲けがなくても大丈夫ですから。銅貨1枚ショップがあれば、店の消耗品を調達するのが楽なので、それ狙いです。食材もおけば、店の食材ストックを減らせますし」


「ふむ。イメージがよくわからぬが、何でも銅貨1枚だと、買い物をする方も計算がラクなのじゃ」



 僕は、考えているうちに、ワクワクしてきた。僕は前世では100円ショップが好きだったんだ。いろいろなものがある中で、これも100円かと驚くものを探すのが楽しかったんだ。


(あんなワクワクする店にしたいなぁ)


 ここのスペースは、都会にある小さな100円ショップの3倍はある。かなりの品揃えができそうだ。

 この世界には魔法袋があるから、仕入れた商品のストック棚はほとんど必要ないだろう。

 お会計のレジのスペース以外は、すべて商品を並べることができそうだ。



「ライト、内装をしてくれる者を予約したのじゃ。材料を揃えて来ると言っておる。とりあえず、バーの部分だけは伝えてあるのじゃ」


「わかりました。ありがとうございます」


「うむ。その銅貨1枚の、ワンコショップは入り口を別に作らねばならぬな。ガラス張りの窓に入り口を作るか?」


「あー、いえ、入り口は、この扉でいいです。この店の店内から左側へ進めるようにしておく方が、防犯上もよいと思います。あ、それから、ワンコショップじゃなくて、ワンコインショップですからね」


「ふむ。では、この店と、ワンコショップの間に仕切りが必要じゃな。あいわかった」


(だから、ワンコインショップだってば…)


 女神様は、頑固者なのか、完全にワンコショップと記憶してしまったようだ…。まぁ、いっか。




「じゃあ、次はギルドに行くのじゃ」


「ん?」


「ふふっ、依頼を出しに行くのねー」


「そうじゃ。ライトが依頼を出すと伝えてあるのじゃ。受注したい者が何人か待っているはずじゃ」


(さっきの念話はこれか)


「めちゃくちゃ素早いですね」


「ズルをさせてくれないのじゃ。誰でも受注できる簡単ミッションは、出す前にお知らせしないと、チビっ子達は争奪戦に敗れてしまうのじゃ」


「あ、なるほど。さっきの花の栽培、知らない人が受注するとティア様も嫌ですよね」


「うむ。うるさいオババが受注すると困るのじゃ」




 なんやかんやと騒ぎながらも、気づけば、ギルドのある塔に到着していた。アトラ様は、女神様のことが好きみたいだ。親しげに楽しそうに笑っている。


 女神様は、勝手知ったる感じで、塔の中に入ると階段をタタタと駆け上っていった。2階かと思ったら3階だった…。


(3階なら、エレベーター使おうよ…)



 そして3階に着くと、窓際にズラリと、たくさんの商談用の応接セットが並んでいた。その中のひとつの席では、係の人が待ち構えていた。


「お待ちしておりました。街長のライトさん、どうぞこちらへ。奥様も、どうぞ」


「はい、ありがとうございます」


 あれ? 女神様がいないと思ったら、チビっ子達の集団の中に飛び込んでいた。なるほど、すぐに受注するための作戦会議かな?


 アトラ様を見ると顔が赤い。あ、奥様と言われたからかな? うん、かわいい!



 僕達は、案内された席に座った。


「まずは、登録者カードをお願いします」


「えっ? あ、はい」


 僕はさっき登録したばかりのカードを渡した。


「あ、まだミッションは何も?」


「はい、登録しただけなんです」


「では、初めからご説明します」



 係の人は、コホンと咳をして、マニュアルを見ながら話し始めた。


「当ギルドでは、依頼者も受注者もポイントがつきます。依頼者には仕事の報酬を前金でお支払いいただいております。受注者は成果報酬になりますので、ミッション完了後に受け取ってもらいます」


「依頼してもポイントもらえるんですか」


「はい。ギルドは依頼者と受注者で成り立つものですから、当ギルドでは両方にポイントがつきます。ただ、依頼者のポイントは、難しいミッションでも高くならないのでご了承ください」


「はい、わかりました」


「ご依頼内容は、店舗のあれこれだと伺っていますが、具体的にお話いただいていいですか」


「あ、はい」



 僕は、ざっと概要を説明した。


「かしこまりました。では、花の栽培の件、銅貨1枚ショップの店員の件、二つの店の商品の仕入れ担当の件でよろしいでしょうか」


「はい、それで、お願いします」


「店舗の方の人数は、開店準備中は希望者全員、営業開始後は5人程度くらいでいいですか」


「はい、お任せします」


 係の人は、水晶玉に手を置いているだけで、書きとめたりはしていない。だが、それですべてが完了するようだった。


 突然、チビっ子達の方から、わっと声が上がった。


「あらあら、待ち構えられていたのですね。早くも花の栽培ミッションは受注者満員になりました」


 声の上がった方を見ると、依頼票なのか、紙をひらひらさせて勝ち誇った顔の女神様がいた。


(あはは…)


「待ち構えていたみたいですね…」


「ティアさんの庭を利用されるようですから、ティアさんに選択権をお渡ししようと思ったのですが、その必要はなかったですね」


「ティアちゃん、すごくたくさんミッションこなしてますよねー」


「そうですね。誰かと競っているそうですよ。こちらとしても助かります」



 そして、依頼料の請求額を見て僕は驚いた。明細を見て、少し落ち着いたが…。


「1年分なんですね…」


「はい、店員は毎日変わるかもしれませんが、ギルドと依頼主との契約は、継続契約は、1年ごとの更新をお願いしています」


「わかりました」


 僕は、あれこれギルドの手数料も含めて、金貨159枚と、銀貨8枚を支払った。

 大魔王様に媚薬ポーションを売りつけてなかったら、冷や汗が出る金額だ。


「次の更新分は、いくらになりますか?」


「そのときの相場によりますが、金貨145枚〜150枚くらいかと思います」


「わ、わかりました」


「また、なんでもご依頼ください。あ、もちろん受注も歓迎です」


「はい、よろしくお願いします」



 僕が返却してもらった登録者カードは、ランクが上がっていた。


(イ・5ーー星5ー7かぁ。計算方法は不明だけど、ミッション557回分ってことね)



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