262、湖上の街ワタガシ 〜 ライトの家
皆さま、いつも読んでいただきありがとうございます。ブクマ、評価もありがとうございます。とても励みになっています。
昨日、活動報告にも書きましたが、「HJネット小説大賞2019」の一次選考通過しました♪
私自身、まさかまさかで驚いています。
毎日投稿を続けてこられたのも、筆を折らずに書き続けることができたのも、読んでいただいている皆さまのおかげです。本当にありがとうございます。
物語は終盤ですが、最後までどうぞよろしくお願いします♪
「こんなにたくさんあるのか」
「どーんと出せとおっしゃったので…」
「ふむ。これでは、家の内装代だけではすまぬな」
「じゃあ、回収します」
「なっ? もう、収納してしまったのじゃ」
そう言いながら、女神様は目の前にドンと出したダブルポーション1,000本をコソコソと収納していた。
(いやいや、収納してなかったじゃん…)
僕の心の声は聞こえているはずだが、女神様は知らんぷりをしていらっしゃる。まぁ、いつものことだ。
そんな女神様の様子を見て、アトラ様はケラケラと笑っていた。彼女が笑っていると僕はとても幸せな気分になる。
(アトラ様が楽しそうだから、ま、いっか)
僕の家の建設予定地は、近くで見ると結構広かった。普通にファミレスが建てられそうだ。
両隣は、城壁の高さに合わせているのか、3階建のようだ。
「さて、どのような建物にするか、決まっておるのか?」
「えっと…。1階を店にして、2階を住居にしようと思ったんですが、両隣を見ても3階建の方がいいんですよね」
「うむ。高さは揃える方が良いのじゃ」
「どうしようかな。それにかなり広いから、バーでは、この広さは使いきれないです」
「家は、2階と3階にするのー?」
「アトラ様、うーん……広すぎませんか?」
「じゃあ、3階を家にして、1階と2階が店?」
「うーん…。店は1階だけでも広いのですが…」
「ライトはしょぼいのじゃ! どうせ、そのうち子が生まれるのじゃ。部屋はたくさん必要なのじゃ」
「えっ? あ…」
僕は思わずアトラ様を見てしまった。アトラ様と目が合い、僕達は一気に真っ赤になった。
「はぁ、まだまだずーっと先のことやもしれぬの」
「えーっと、あはは。でも、そんなにたくさん子供部屋はいらないかと」
「ライトは何もわかっておらぬのじゃな。普通、狼は子を一度に6体くらい産むのじゃ」
「えっ! あ、そっか、犬もそうだ…。じゃあ、アトラ様は6つ子とかなんですか? 他の兄弟は?」
「ん? あたしは、たぶん4体だったと思うよ。他の兄弟は、もうとっくに死んじゃったよ」
「えっ…!? あ、すみません、変なことを聞いて…」
「うん? ん〜、別に…」
「ライトは、しょぼいのじゃ! 普通の狼が2,000年も生きられるわけないのじゃ。守護獣の能力を持つ子だけが長寿なのじゃ」
「あ、そっか」
(アトラ様が、2,000歳を超えているのを忘れていた)
「ひとりの母親から守護獣の能力を持つ子は、1体だけしか生まれないの。だから、ケトラは妹だけど、母親が違うんだよ」
「そうなんですね。じゃあ、ケトラ様も一緒に生まれた兄弟はもういないんですね」
「うん、ケトラは700歳くらいだと思うから、もう他の兄弟は死んでるよ。守護獣の能力を持たない子は、だいたい100年くらいしか生きられないから」
(ケトラ様、700歳!?)
「ただ、ごく稀に魔族の血が混ざっておる子は、数千年生きるのもおるのじゃ。守護獣の子の寿命はバラバラじゃ」
「なるほど」
僕は、空き地をもう一度眺めた。両隣は、僕の建設予定地の半分くらいしかない。それでも、十分な広さがある。
(あ、ひらめいた!)
「決まったのか?」
「はい。やはり、3階を家にします。2階は遊びに来た人や、店で寝ちゃった人が泊まれる簡易宿泊施設にしておきます」
「ふむ。子が生まれたら2階は子供部屋にするのじゃな」
「そうですね、6人も生まれるなら、3階だけでは狭いかもしれませんね」
「すると、1階は店か?」
「うーん、この半分いや、もっと狭くていいんですけどねぇ…」
「ふむ。じゃが、学生が来るようになるじゃろ? ずーっと居座る奴もいるやもしれぬぞ?」
「学生? 来ますかねぇ? まぁ、学校はすぐ近くですけど…」
「来るに決まっておるではないか。教師が店をやってるなら、絶対にたまり場になるのじゃ」
「は? たまり場? 教師?」
すると、女神様は一瞬しまったという顔をした。何? どういうこと?
アトラ様の方を見ても、首を傾げてきょとんとしている。うん、今日もかわいい!
「ライトが寝ておるときに決まったのじゃ。寝ていたライトが悪いのじゃ」
「えっと、どういうことですか?」
「学校は、妾が学長を務めるのじゃ。教師が足りぬのじゃ。特に、教養の教師がおらぬから仕方ないのじゃ」
「教養? なんですか? それ」
「ライトは、算術の教師じゃ。商人じゃから、算術は得意なはずじゃ」
「へ? 他の人の方が…」
「算術ができる者で、暇な者はおらぬのじゃ」
「えーっと、それって僕が眠ってなくても、押し付けられたパターンですか」
「さぁ? そんなことはわからぬのじゃ」
(はぁ……)
「でも僕、教師なんてできないですよ。教員免許持ってないし」
「は? 免許ってなんじゃ?」
「あー、いえ、なんでもないです」
「とにかくじゃ。買い物の釣り銭の計算くらいは、全員できるようにさせたいのじゃ」
「あ……そのレベルですか」
「もっと難しいことができるようにしてやっても構わぬぞ」
「難しいこととは?」
「ふむ。例えばじゃ、たくさんのポーションを皆で分けるときに何本ずつか、とかの計算じゃ」
「何本を何人で分けるのですか」
「たくさんを皆でじゃ!」
(もしかして、女神様も割り算ができないの?)
「ポーションは、どうやって、今まで分けていたのですか?」
「1本ずつ渡しておった」
「なるほど…」
「ということで、決まりじゃからの」
「はぁ…」
なぜか無理矢理、僕はこの街にできた学校の算術の教師にされてしまった。まぁ、釣り銭の計算くらいならいいか。
そういえば、10より上の数を知らない人がいるとギルドで言ってたっけ? 釣り銭の計算を習得させる前に、数を数えることから、教えなければならないのかもしれない。
(かなり大変かもしれない…)
「さて、イメージが決まったら空き地に入るのじゃ。なるべく具体的にイメージすると、あとの内装がラクなのじゃ」
「わかりました」
僕が空き地に近づくと、カチッと何か鍵の開くような音がした。そういえば、僕にも家の鍵が配られていたっけ。
でも、ただの空き地なのに、鍵が開くというのも妙な気がするけど。
3階は、城の居住区のアパートをイメージした。あの倍は広いから、部屋を5つにして、リビングも広い方がいいな。狼の姿でもアトラ様がくつろげるように、天井も高い方がいいよね。
2階は、大きめワンルームマンションをイメージした。そうだ、リュックくんの個室を作ろう。リュックくんの部屋は、1LDKくらいかなぁ。
1階は、半分は僕の店だね。カウンター席と、テーブル席が5つくらいかなぁ。
あ、そうだ。店の奥にはポーションの自販機を置きたいな。飲み過ぎた人に、クリアポーションを買ってもらおう。
店を閉めているときもあるから、店の入り口にも自販機を置きたいな。学校の教師なんてことをさせられると、行商に行けなくなりそうだもんね。
1階の残りの半分は、とりあえずフリースペースかな? 誰かに貸してもいいし、物置にしてもいい。
あ、花屋とかがあったらオシャレかもしれない。バーの横に花屋があると、いろいろ便利だよね。売れ残りは、僕の店で買い取って、店内を飾るのもいい。
(うん、いい感じ)
僕のイメージがふくらんでくると、空き地に漂っていた霧が深くなってきた。
そして、軽い地震が起こり、地面からまるで生えるかのように、建物が現れた。
(おー、なんだか、すごくオシャレすぎる)
僕は、渋くてカッコいいバーテンを目指している。まるで、その野望が建物に乗り移ったかのようだ。
外観は、ドキドキと期待値が高まるような、オシャレなれんが造りになっていた。
この扉を開くと、カランコロンと音が鳴って、中にはシックな大人の雰囲気のバーがあるんだと想像できる。
扉の横には、自販機があった。まだ製品を入れていないけど、ジュースの自販機のような感じ。お金を入れる場所近くには、やはり半玉がくっついていた。
(いいね、完璧)
そして、扉を開けると、カランコロンの音はしなかったが、店の右側には、よくあるバーのカウンターが出来上がっていた。
また、食器棚や、酒を並べる飾り棚、冷蔵庫や、蛇口付きの洗い場も、何もかもが僕のイメージどおりに配置されていた。
電化製品にはすべて、半玉がくっついている。結構魔力を吸われるんだろうか。
店の奥には上の階への階段があり、そのデッドスペースに、自販機がすっぽりと収まっていた。こちらの自販機は、入り口のものより小さいサイズだ。
店の左側は、ガランとしていた。かなり広い。やはり、一部は貸店舗にしようかな。
僕は、階段を上がっていった。ワンルームマンションが左右合わせて6部屋並んでいた。
通路の一番奥の突き当たりには広めの部屋があった。入り口の扉には、「R」という表札のようなオシャレな銅板がはめ込まれていた。
(リュックくんのR、リュックくんの部屋だね)
リュックくんの部屋横から上への階段があった。それを上がると、勝手口のような扉があった。開けてみると、3階の僕の家になっていた。
中は、イメージしたとおり、城の居住区と似た感じだった。でも、天井は結構高い。うん、完璧だね。
もう一つの玄関を出ると、1階への外階段がついていた。
僕は、階段を下りて、1階の店に戻った。
「なんじゃ。へんてこりんなものがあるのじゃ」
女神様は、バーカウンターの中をあちこち眺めて、そして自販機の前で首をひねっていた。
「それは、ポーションの自動販売機です。お金を入れて、欲しい商品のボタンを押すと、下から出てくるんです」
「うむ? 入り口にもあったのじゃ」
「はい、入り口にも設置したいとイメージしました。入り口の方は一般向けに、店内の方はクリアポーションをメインに売ろうかと思ってます」
「ふむ…。よくわからんが、わかったのじゃ。こっちは、客席じゃな」
「カウンター近くには、テーブル席を5つほど置きたいんですが、あとは、貸店舗にしようかと思います」
「む? 花がどうとか…。花を売る店か? 花は食べられぬから、売れぬぞ?」
「あ、そっか。そういえば、どこも花を飾ってないですよね。まずは僕の店で、飾り方を見せなきゃならないかな」
「まぁ、人手はすべてギルドにミッションとして依頼すればよいのじゃ。花を売る前に、花を集めてくる必要があるしの」
「確かに、そうですね。もしくは育てるかですよね」
「食べられぬ花を育てるのか?」
「はい。どこか、余ってる土地ってありますか?」
「湖底の神族の居住区なら、空いておるが、太陽の光があまり届かぬ」
「じゃあ、草原の一部を借りようかな」
「ふむ。妾の庭を貸してやってもよいが…」
「でも、僕は世話できないから、ミッションで育ててもらうので冒険者が出入りしますよ?」
「妾が、ミッションを受注するのじゃ」
「へ?」
「妾も、ティアとして冒険者登録をしておるのじゃ。もうすぐランクアップじゃ」
自分の庭で花を育てることを、ギルドミッションとして受注しようということなのか…。
(抜け目ない…)




