261、湖上の街ワタガシ 〜 この島のギルド登録
僕はアトラ様と一緒に、最上階のレストランでランチプレートを食べ、1階へと降りてきた。
来たときの混雑が嘘のように、1階ギルドは人が減っていた。
「すごいガラガラになりましたね」
「そうだねー。あ、ライトも冒険者登録しておけば?」
「ん? あー、そうですね」
そんな話をしていると、案内らしき人が駆け寄ってきた。
「ギルドの登録でしたら、こちらへどうぞ。いま、ちょうど空いてますから」
この案内も、ギルドミッションなのかと思いつつ、アトラ様がうんうんと頷くので、僕は登録することにした。僕は、手続きの順番待ちの列に並んだ。
「アトラ様は?」
「あたしは登録終わってるよー。まだあまりランク上がってないんだけど…」
「そうなんですね」
「この島独自のギルドだから、登録キャンペーンをやってるみたい。他の国にも、この島のギルド登録しませんかってお知らせ流してるみたいだよ」
「へぇ」
「神族って、いろいろな知識ある人がたくさんいるから、なんだか不思議なギルドなのー」
「ん? 何かあるんですか?」
「ミッションが変わったものが多いの。それから、ギルド登録者だけが参加できる祭りを、今月から毎月開催するとか言ってたよ」
「へぇ」
「祭りの日は、登録者しか街に入れないんだってー。だから、街に住む人はみんな登録したの」
「なんだか、無理矢理ですねぇ…」
「でも、祭りの日は屋台がすべて無料だって言ってたよー」
僕の順番が回ってきた。アトラ様は付き添いだからと、ギルドの登録者カードを見せていた。
「必要事項の書類を作成します。手をこの玉の上において目を閉じてください」
「え? あ、はい」
僕は、指示に従って、占い師が使う水晶玉のような透明な玉に手をのせて目を閉じた。
頭の中に、直接たくさんの声が聞こえてきた。返事すべきか戸惑っているうちに、はい終わりましたと言われた。
そして、少しそのまま待っていると、登録者カードを渡された。
(え? 僕の名前、言ってないのに書いてある)
「能力の表示方法は、他のギルドと同じです。他のギルド登録はされていますか?」
「あ、はい。わかります。えっと、能力検査は?」
「いま、すべて完了しましたよ。えーっと、えっ!? ライトさん? 街長じゃないですかーっ!」
「は、はい。そうですが…」
「あ、いまデータの登録画面を見てしまいました。個人情報なのにすみません。えっと、種族補正はできないので、他のギルドと同じ数値になっています。神族のライトさんは、低く表示されますがご了承ください」
「はい、わかりました」
「ランクについては、あちらに表が貼ってあります。10個ミッションをこなせば、星が1つもらえます。星が10個たまれば、ランクアップです」
「100回ミッションをやればということですね」
「えっ? えーっと、たぶん…。あの、私、計算がよくわからなくて…」
すると、近くにいた別の人が、こちらにヘルプに来た。ニコニコと営業スマイルを浮かべている。
「ライトさん、こんにちは。彼女は普通の教育しか受けていないので、計算はあまりできないんですよ」
「あ、すみません。そうでしたか」
「10まではみんな数えられるので、ランクは10を10回集めてという仕組みにしています。100というとわからない人も多いのです」
「なるほど…」
僕は、営業スマイルの男性に軽く会釈をして、アトラ様と共に、その場を離れ、ランク表の貼ってある方へと移動した。
登録者カードには顔写真はなく、名前とランクが大きく記載されていた。僕は、名前に触れてみた。すると、つらつらと能力が出てきた。
(えっ!? 何これ)
[名前]ライト
[ランク]イ・0--星0-0
[HP:体力] 1,020
[MP:魔力] 68,250
[物理攻撃力] 60
[物理防御力] 300
[魔法攻撃力] 30
[魔法防御力] 11,070
[回復魔法力] 168,100
[補助魔法力] 85,400
[魔法適性]火 水 風 土 他
[隠匿能力] 高、危険
魔力は2倍、回復魔法力は1.5倍超、補助魔法力は3倍弱になってる。でも、他はほとんど変わってないな。
それより、一番下のやつ、何? こんなの前はなかったよね。隠匿能力って……暴走のことかな。危険人物指定されている…。
ランクはアルファベットじゃなくて、イロハニホヘトのようだ。
イ・0というランクか…。もしかすると、いや、もしかしなくても、イ・0から、100ミッションで、イ・1なんだね。ロ・0になるには、1,000ミッションか。
僕は壁に貼ってあるランク表を見て、確認した。うん、合ってるね。
10ずつ上がるから、成果が見えていいのかもしれない。経験値というより、数なんだなぁ。
計算してしまうと、1,000ミッションやらないとイからロに上がれないなんて、うんざりしてくる。
まぁ、僕は、冒険者じゃなくて、バーのマスターやるんだから、別に気にしないでおこう。
(このカードが、この街の住民票みたいなものかな)
「アトラ様は、ランク上げしているんですか?」
「あたしはねー、いま、イ・3ランクなんだよ」
「結構上がってますね」
「ふふっ、この街にいるだけでも、守護獣としての警備でミッションになるからね」
「へぇ、じゃあミッションは、こなしやすいんですね」
「うん、簡単なミッションがたくさんあって、難しいものはミッション10個分とかだよー」
「あ、なるほど。単純な受注数じゃなくて、やはり普通のギルドと同じく、経験値で上がっていくんだ」
「ん? ん〜、他のギルドは知らないから、わかんないよ」
「あ、いえ、独り言です、はい」
「ふふっ、独り言、聞こえちゃったよー」
「あはは…」
「ミッションを見に行く? 2階にたくさん貼ってあるよー」
「それはまたにします。僕は、とりあえず家を建てなきゃ、女神様に文句言われそうな気がして落ち着かないです」
「ふふっ、確かにティアちゃん、文句言いそうだね」
僕達は、塔を出て、城壁内の空き地へと向かった。塔からすぐの場所だが、足湯が大きいので、ぐるりと回らなければならなかった。
その途中で、こいのぼりが、掲げられている屋台を見つけた。足湯のすぐ近くでなぜ、こいのぼり?
足湯に目を移すと、年寄りだけでなくいろいろな種族が座っていて、足湯を楽しんでいる。
そして、足湯の真ん中あたりでは、パシャパシャと水しぶきが上がり、キャッキャと楽しそうな笑い声で賑やかだった。
その遊泳中の子供達の何人かが、尾ひれをつけていた。いや、人魚に化けているのか? 尾ひれのついた子供達は泳ぐスピードが速い。
「ん? ライト、マーメイドスーツが気になる?」
「あの尾ひれ、マーメイドスーツっていうのですか」
「うん、あ、男性用は、マーマンスーツだって」
「へぇ…。着ると泳ぐのが速くなるスーツ?」
「うん。泳げない人も泳げるし、水中で呼吸できるから、冒険者に売れてるみたいだよー」
「へぇ」
(神族の誰かが作ったんだろうな〜)
すると、パシャパシャと泳いでいた子供達の輪から、ひとりのチビっ子が、近寄ってきた。
足湯から出て、ぴょんぴょんと飛び跳ねてくる。彼女は、マーメイドスーツを着ていて、足の部分が魚になっていた。
「あら、ティアちゃんに見つかっちゃったねー」
「えっ? 6〜7歳に見えますよ?」
飛び跳ねるのが辛かったのか、近くでスーツを脱いでいた。リアルな魚がパッカリと割れるのはちょっと驚いた。なんか、魚から人が生まれたみたい…。
「なんじゃ? マーメイドスーツが欲しいなら買えばよいのじゃ。これは、妾のじゃ!」
「別に欲しいとは言ってないですよ、女神様」
「ちがーう! ティアちゃんじゃ!」
「あー、はいはい。ティア様、なぜそんなチビっ子になってるんですか?」
「ふたつ混ぜて飲むと、こうなるのじゃ。呪いじゃから、妾の能力は探れないからバレないのじゃ」
「ん? ふたつ? ポーションを混ぜてるんですか! 知りませんよー。混ぜるな危険! かもしれませんよ」
「大丈夫じゃ。ライトの呪いはしょぼいのじゃ。じゃが、味があまり甘くなくなるのじゃ」
「何を混ぜて飲んでるんですか?」
「パフェと、赤いやつじゃ」
「赤いのはふたつあるけど、媚薬つきなわけないですよね。化xと化yですか」
「うむ、そうじゃ。互いに打ち消すらしいのじゃ。一瞬男になるが女に戻るのじゃ。年寄りにならずに逆に年齢が半分になるようじゃ」
「へぇ……。なぜ、混ぜて飲んでるんですか? 混ぜなくても、呪いのせいでティア様の能力は、隠れてしまうんですよね?」
「む? なぜ知っておるのじゃ。猫になるやつしか、その話はしておらぬのに…」
「同じシリーズだから、同じ特徴があると思って…」
「チッ、知っていたわけではないのか」
「はい。で、なぜ、混ぜて飲んでるんですか」
「…………」
「ティア様、言えないようなことなんですか?」
「ちがーう! 普通の姿で泳いでおると楽しくないのじゃ」
「は?」
「ライト、ティアちゃんは、ティアちゃんだとバレたくないみたいなの。それに、13歳の姿で泳いでいるときに、誰かに叱られたみたい」
「なるほど…。足湯は、そもそも泳ぐ場所じゃないですからね」
「あ、違うの。13歳の成人がマーメイドスーツを着ていると、湯治に来ている人に刺激が強すぎるからって」
「あー、なるほど…。それで、チビっ子だと大丈夫だからなんですね」
「うむ。爺がうるさいのじゃ」
「ははは…」
僕達は、空き地の前までやって来た。
なぜだか、チビっ子の女神様も付いてきた。そういえば、なぜ足湯から出てきたのか聞いていなかった。
「ティア様、なぜ付いてくるのですか」
「なっ? 妾が邪魔だと申しておるのか。ひどいのじゃ! ライトはしょぼいのじゃ!」
(邪魔をしている自覚があるのね…)
「ティアちゃん、邪魔なわけないよー。ティアちゃんといると楽しいもの」
「ふむ。アトラは良い子なのじゃ。ライトにはもったいないのじゃ」
「ふふっ、ありがとう」
(まぁ、僕にもったいないのは知っている)
「ライトは、どうせ家の建て方がわかっておらぬのじゃ。仕方なく付いてきてやったのじゃ」
そう言うと、女神様は右手を差し出してひらひらさせていた。報酬としてポーションよこせ、ってことね。
僕は、カルーアミルク風味の魔ポーションを3本渡した。
「ふむ。魔族への報酬の、意味のない呪いポーションも出すのじゃ」
「あー、防衛協定の報酬ですね。何本必要ですか」
「うむ。たくさんじゃ。今後のこともあるから、ドラゴン族の魔王マーテルに、どーんと渡しておくのじゃ」
「なるほど…。でも、たくさん渡してしまっては、知らぬフリをされてしまうかもしれませんよ?」
「じゃあ、アダンに渡しておくのじゃ。早く出すのじゃ」
なぜ、僕が報酬を出さないといけないのか、謎すぎる。でもまぁ、そういう約束だったんだから、仕方ない。
僕は、ブルームーン風味のダブルポーションを1,000本、女神様に渡した。女神様は、その量に一瞬驚いていた。
(出しすぎたかな…)




