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26、ハデナ火山 〜 カシスオレンジ風味のポーション

 ハデナ火山へ遭難した冒険者の救助のために向かった警備隊の隊員達だったが、そこにたどり着いた時には既に、冒険者達は全滅していた。

 さらにバケモノ達に強襲され、警備隊もほとんどが瀕死の状態に追い込まれた。


 そのときに駆けつけたのが、ギルドの守護者、すなわち最高ランクであるLランクの2人だった。

 だが、そこに妙なチカラを持つアンデッドが現れる。帝王と呼ばれるアンデッドは、認識阻害のスキルを使う。

 一気に戦況は暗転する。


 その後、大剣を持つもうひとりが現れた。そのときにはもう、警備隊の隊員達に意識のある者はいなかった。


 このとき、大剣を持つ彼は、この山のふもとの異変に気がついた。


 この山は、中腹の休憩施設あたりで様子がガラリと変わる。山頂に近づくにつれて魔物は増え、冒険者の行く手を阻む。しかしふもとには通常は弱い魔物しかいない。


 だが、このとき、山のふもとに、強烈な魔物の気配があった。おそらく突然変異のレアモンスターだ。


 コレは、放置するとマズイんちゃうか…タイガは呟く。だが、まずは、このいま対峙している奴らを何とかすることが先決だった。







「はぁ〜ひさびさに食った気がするー」


「さすがに、今回は死ぬかと思いました。ギルドの守護者の方々が来てくれなかったら…と思うとゾッとします」


「でも、坊やにも、めちゃくちゃ助けられたよな。ありがとな」


 食事が終わり、みんなホッとした表情を浮かべていた。それに厳しい戦い、さらに死の淵をさまよったことで、精神的にも肉体的にも疲労が限界を超えていた。


「今日は、ここに泊まって、ちょっと寝てから下山することにしないか?」


 隊員のひとりがこんなことを言い出した。すると、他の隊員達からも賛同する声が次々とあがる。


「じゃあ、ちょっと仮眠してから、下山しようか。ギルドの守護者の方々も、それでよろしいですか?」


「あー、悪い。ちょっと俺ら、次の仕事があるからな…先に下山するわ〜」


「ライトさんは、このあと、どうするんすか?」


「えーっと、僕は、ロバタージュのギルドで、魔ポーションの価格査定をしてもらいたくて…」


「警備隊は、ロバタージュに戻るんやんな?」


「はい。戻ります」


「じゃあ、ライトのおもり、頼むわ〜」


「おもりって…僕はチビっ子ですかっ!」


「なに言うてんねん。チビっ子より弱いやんけ」


「……うぅ…っ、くすん」


「うぷぷっ。ライトさん、タイガさんに反論したらダメージ10倍返しくらうっすよ。適当に受け流すのがオススメっす」


「おい、ジャック、おまえ いっちょまえな口、きいとるやないけ〜」


「あははっ。後輩には やっぱ、タイガさんの取り扱い説明書を伝授しないとって、言われたっす」


「チッ! どっちのババアや?」


「えーっと、どっちでしたっけねぇ〜」


「あはは…あの、警備隊のみなさんが引いてますから、そのへんで。次のお仕事、あるんじゃないんですか?」


「元はと言えば、おまえのせいやないけ〜」


「はい、はい、すみませんでしたっ!」


「ったく、どいつもこいつも…」


 警備隊のみなさんが、オロオロされている…。


 僕は、だいぶこんなやり取りに慣れてきていた。

 ここでは、誰もが恐れるタイガさんだけど、女神様やナタリーさんには全く頭が上がらないのを知っている僕は、ちょっと余裕が出てきたようだ。


 それに、タイガさんは、口は悪いが手は出さない。

 女神様が、タイガさんのことを、悪いやつじゃないと言っていたのも少しわかるような気がする。





「じゃ、あと、よろしくっす」


「はい、承知しました。ライトさんは責任を持って、ロバタージュに送り届けますから」



 ここでギルドの守護者、すなわち僕の素性を知る4人とは別れ、僕は警備隊の隊員さん達に守ってもらいつつ、ロバタージュに向かうことになった。


 とりあえず、数時間、仮眠をとろうということになり、疲れ果てたみんなは、すぐに眠りについた。





 そして、数時間後、出発の支度をしながら、僕のポーションの話になった。


「坊やがあの時に渡してくれたポーションだけどな、実はほとんど使ってないんだよ」


「えっ?どういうことですか?」


「どうもこうも…坊やが回復してくれただろ?体力の高すぎる奴以外は、あれで全回復してたんだよ」


「えっ?みんなそんな体力低いんですか?」


「いや、警備隊に入隊するには体力は5,000ないとダメなんだ。だから、みんな最低でもそれ以上ある」


「僕の何倍だろ…すごっ!」


「あはは。それを全回復させる坊やの方が、俺からすると凄いけどな」


「え、あ、たぶん、体内に直接手を入れて回復したから…かな?」


「だろうな。たぶん外から普通に回復するより倍以上の効果はあるはずだ」


「倍、ですか」


「その辺の回復系の魔導士より、よっぽど高い回復力だぜ。自信持っていい」


「はい!ありがとうございます」


「で、だ。このポーションだが、警備隊で買い取らせてもらっていいか?」


「えっ、あ、はい。行商人を始める準備をしている最中なので、助かります」


「そっか、じゃあ、忘れんうちに、お代を渡しておかないとな。おーい、金庫番、よろしくー」


「なんつー呼び方ですか、隊長。まぁいいですけど…。ライトさん、今回は本当にありがとうございます」


「い、いえいえ」


「あの、魔ポーションはまだ価格査定を受けられていないとのことでしたので、勝手に決めさせていただきました。魔ポーション2本、ポーション43本で、金貨1枚でお願いできませんか?」


「えっ!」


「安すぎますかね…」


「い、いえ、大丈夫です」


「では、これで」


 僕は金貨を初めて受け取った。銀貨より小さくてピカピカだ。これ1枚で100万円かと思うと緊張する。


「坊や、悪いな。たぶんもっと出さなきゃならないんだろうけど、経費が厳しくてな」


 レオンさんが申し訳なさそうに言う。でも、まだ魔ポーションの価格わからない状態で、1本銀貨30枚近くということだから、かなりの値段だと思う。


 僕は、もともと、これはお金を取るつもりはなかったから、なんだか逆に申し訳ないような気もした。


「いえ充分です、なんかすみません…」


(なんだか、押し売りみたいになってしまったな)



 そして、ポーションついでに、そうだ!と思いついて、リュックを下ろした。


「ちょっと、リュックの整理していいですか?」


「ああ、まだ出発まで時間があるし、大丈夫だ」


(起きたらだいぶ重かったし、新作混じってるかも)


 僕はリュックから、ポーションを取り出し、魔法袋へ移していく。魔ポーションも少しできていた。そして…


(あった!あった!ん?なんだこれ?)


 僕が、変な顔をして、じーっと新作を見ていたからだろうか。レオンさんが、どうした?と言って覗き込んできた。


「あ、新作が出来てたんですが、意味不明で…。あ、ラベル読んでみます」




  『F10』火無効付きポーション


(あれ?PじゃなくてF?あ!ファイアーのF?わかんないな…。価格査定を受けたら説明あるかな?)


  『体力を1,000回復する。火および炎属性の攻撃を完全無効化する。(注) 火無効の効果は約1日で消える』


(なぜ突然、火無効?あ!もしかしてマグマの中でリュック背負ったままウロウロしたから?)




「火無効付きの体力固定値1,000か。しかも無効時間が長いな。なかなかいいもんができたじゃねぇか」


「そうなんですか?」


「ああ、まぁ、属性無効の装備もあるんだけどな。だが、2属性以上無効な装備はほとんどないんだ。だから、例えば、火と雷を撃ってくるような魔物なんかと戦うときは、無効アイテムをよく使うんだ」


「なるほど〜」


「アイテムで多いのは、無効時間が数時間のものなんだ。厄介な相手と戦うと、下手すりゃすぐ数時間経つからな。1日無効ってのは使えるぞ」


「レオンさんにそう言ってもらうと、すごく嬉しくなります。変なポーションかと思ったから」


「そうか。はははっ。そうだ! さっそく味見してみようぜ。数はあるのか?」


「はい、結構ありますよ。よかったら皆さんもどうですか?と言いつつ、マズかったらごめんなさい〜」


「早く飲んでみようぜ!」


「はい。じゃあ、皆さんもどうぞ」


「ありがとう。起きたばかりで体力減ってないから、少しもったいない気もするがな」


「でも、火無効になったら、下山するの少し楽かもですよ」


「いや、ここから先は、弱い魔物しかいないから」

 

「そうなんですね…でも、僕にはきっと…強敵ですよね」


「かもな。はははっ」

 



 ということで、みなさんと一緒に飲んでみる。


 あれ?イメージと違って、カシスオレンジかな?

 なんとなく、火だから、真っ赤なカンパリソーダとかのイメージだった。



 カシスオレンジというのは、カシスリキュールにオレンジジュースをブレンドして簡単に作れる人気のカクテル。

 飲みやすいからカクテル初心者にもオススメだ。


 カシスリキュールの代わりにカシスシロップを使ったノンアルコールのカクテルもよくある。



 このカシスというのは、クロスグリという黒っぽい実。ブルーベリーにちょっと似ている。

 でもこんな実は、リュックに入れてないんだけど…コーヒーが隠し味にでもなったんだろうか?


(うん、ふつうにノンアルコールのカシスオレンジ風味だな〜。これは、味の完成度が高い!)



 隊員さん達の反応を待っている間、ちょっとドキドキした。みんなこの新作を飲んだ後、無言になってしまった。


(甘すぎたのかな?)


「坊や、これ、あとどれくらいあるんだ?」


「えーっと、数えてないですが、それなりには」


「じゃあ、価格査定受けたら、ウチにも…警備隊にも売ってくれ! 体力1,000回復は、ウチなら需要すごいあるんだよ。しかも火無効つきなんて、火山の遭難者の救援に絶対必要だからな」


「昨日のポーションも美味かったから期待してたけど、こっちの方が俺は好きだな。いつも体力1,000回復薬を使ってるんだが、これを飲んだら…あれは飲めねぇな」


「俺は、昨日のポーションの方が、爽やかで好きだぜ。10%回復だから、あっちの方が俺の場合、回復量多いしな」


「俺は、体力低いからこっちの固定値回復の方が回復量多くなるぞ。俺も、昨日のポーションの方が味は好みだな」


(あれ?みんないつのまにポーション飲んだんだろ?モヒート風味の方が人気なんだ〜)


「じゃあ、ギルドでこれも価格査定受けたら、よろしくお願いします」


「おう!やったぜ」


「いつ飲んだ?って顔してるな、坊や」


「え、あ、はい。あまり使わなかったって言ってたんじゃ?って思ってました」


「残ったポーションを警備隊で買い取る提案したときにな、みんなで少しずつ味見したんだよ」


「そうそう、金庫番のあいつがセコくてな…いつもの安いのでいいじゃないかと言うもんだからよー」


「でも、味見したら、誰もが賛成したんだ!」


「よかったです。ありがとうございます」


「こちらこそ!」「買い占めたいくらいだ!」


「あはは……ありがとうございます」


(買い占めは…うれしいけど、ちょっとね…。売り物ないと、行商人できないもんね)

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