表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

257/286

257、湖上の街ワタガシ 〜 島の名が決まった

「ダーラ様、引きましょう。我々がここにいることは、マイナスにしかなりません」


「わかっておる。だが、このままでは俺のプライドが…」


「配下に従って、さっさと逃げ帰るがよい。 これ以上、妾の星を害するなら、殺して強制的に追い返すぞ。そうなれば、青の勢力争いからは脱落することになるじゃろうな」


「なぜ、俺が逃げねばならぬ?」


「本当に、おぬしはアホじゃの。妾の神族は、ライトだけが闇持ちだと思っておるのか? 数人でおぬしを殺すことができる能力を持つ者は、この星でどれくらいの数がおるのか知らぬのか?」


「なんだと!?」


「ふむ。知らぬだろうな。知っておれば、ズル賢いおぬしのことだ。妙な言いがかりをつけて、この星を爆破しただろうからな」


「なっ…」


「だが、もう遅いのじゃ。これから爆破しようとすれば、中立の星への侵略行為、おぬしの神としての格も地位も、地に堕ちるからの」


「くっ……う、嘘だ!」


「は? 何がじゃ? 信じられぬなら試すがよい。妾は何も困らぬ。もし、妾がうっかり邪神を殺してしまっても、回復魔法力の高い者もおるから安心じゃ」


「ふざけるな! おまえが俺を殺すだと? 」


「は? 妾はうっかり邪神を殺してしまっても……と言うたのじゃ。おぬしは、自分のことを邪神だと思っておるのか」


「な、なんだと?」


「ダーラ様、引きましょう。女神は、第三の太陽系の創造神です。言い争うだけでも、侵略行為だとみなされかねません。いま、この時点では、女神の格は第三の星系の中で最も高いのです。退去指示には、従わねばなりません」


「わかっておる。だが、こんなガキんちょが…」


「ダーラ様、他の太陽系の創造神への暴言は…」


「うるさい! わかっておる」



 青の神ダーラは、何か言いたげな、憎々しげな鋭い目つきで、女神様を睨んでいた。


 一方、女神様は涼しい顔をしている。彼女のその表情が、より一層、怒りをかき立てているようだ。



 そして、女神様が操る、気持ち悪いツタに脅されるようにして、集められた者達は、草原の門から出ていった。


 青の神ダーラも、率いてきた軍隊とともに、門の中へと消えていった。



(やっと終わった〜)



 侵略者達は、この星から出て行った。僕は、張りつめていた緊張の糸がぷつんと切れたような気がした。


 僕は、そのまま、スーっと眠りに落ちていった。







 ドカッ! ぽすぽす


「あたちのだよーっ!」


「ぼくも食べてもいいって言ったもんっ!」


 僕は、バタバタと駆けまわる足音と、大きな物音で目が覚めた。


(あれ? 僕はどうしてたんだっけ?)


 僕がそろりと上体を起こすと、小さな猫耳のチビっ子が、ピタっとその場に静止した。


(ん? 何?)


 僕は状況を判断しようと、まわりを見回した。見覚えのない部屋だ。かなり大きな部屋というか、木造の小屋にいるようだった。


 僕が使っているのと同じようなベッドが、窓ぎわにぽつんぽつんと置かれている。


 小屋の真ん中には大きなテーブルが置いてあり、イスはない。ただの物置用のテーブルなのかな。テーブルの上には無造作にいろいろな物が置かれていた。



 そんな僕の様子を、じーっと見ているような視線をいくつも感じた。

 小屋の中には、たくさんの虎がいた。あれ? 狼もいる。それにチビっ子のように猫耳もいれば、犬耳もいる。


(守護獣? でも、どういうこと?)


 守護獣なら、この国を守護する狼と、あちらの国を守護する虎は、バチバチのライバル関係にある。ライバルというより、仲が悪いと言う方が正解だ。


 それが、同じ大きな小屋の中に居るなんて…。ここはいったい、どこなんだろう。


 僕は、すぐそばで、静止しているチビっ子ふたりに目を移した。

 女の子が綿菓子の棒を持っている。男の子は、そこからちぎったような綿菓子を、素手で持っている。


(チビっ子ふたりに聞いてみようか)


 ふたりは、僕を見たまま、じーっとしている。なぜフリーズしているんだろう?


「あの、ここはどこですか?」


「わわ〜っ! しゃべったーっ」


「ちょ、そんな言い方、叱られるよーっ」


 僕が話しかけると、チビっ子ふたりは動き始めたが、なんだか大騒ぎだ。うーん。僕みたいな種族が珍しいのかな?



 すると、ジッと見ていた虎が近くに寄ってきた。


「ライト様、お目覚めですか。身体の調子はいかがですか」


「あー、はい。えっと、大丈夫です。あの、僕はなぜここにいるのかわからないのですが…」


「ライト様は、神戦争でチカラを使いすぎて、眠りにつかれました。それを女神様の指示で、守護獣がここに運び、目覚めのときをお待ちしておりました」


「神戦争? えっと、どれくらい眠っていたのでしょうか」


「青の神ダーラと、黄の神イロハカルティア様との戦争なので、神戦争と呼ばれています。あれから、そろそろふた月になります」


「ふた月? 二ヶ月も眠っていたんですか…」


「はい、左様でございます」


(暴走で倒れたときよりはマシか…)


「女神様は、黄の神と呼ばれるようになったんですね」


「この星に来る者達が、そう呼んでいます」


「へぇ、あの、ここは?」


「湖上の街ワタガシに作られた守護獣の小屋です。この付近には、獣系の移民の住居が多く建てられています。獣ストリートと呼ばれる大通り沿いにあります」


「そうなんですね。あの、貴方は?」


「ハッ! ご挨拶が遅れ、申し訳ありません。このハロイ島を担当する守護獣のひとり、ペルルクと申します」


「ペルルクさんですね。えっ? 名もなき新しい島には、ハロイ島という名前がついたのですね」


「はい、ひと月ほど前に、戦後処理が片付いた際に、女神様がそう名付けられました」


「もしかして、イロハを逆から読んで、ハロイですかね?」


「さぁ…? 名前の由来は知らされておりませんので…」


 僕の質問に答えられなくて申し訳なさそうに、うなだれた大きな虎に、僕は少し慌てた。この人、めちゃくちゃ生真面目な人だ。



「あの、ここには虎も狼もいるのですね」


「はい。この小屋は雑居になっています。女神様がこの島に出入りする守護獣はまずは、この小屋で共同生活をせよと命じられました。上の階は個室になっているのですが、1階はこの居間も食堂もすべて雑居です」


「仲が悪いのに、大丈夫なんですか?」


「はい、まぁ正直なところ、つらいときもありますが…。ライト様は、狼の里の次期里長ですし、我ら虎の里長はライト様の下に付くと言っていますので、歩み寄りが必要なことは理解しています」


「そうですか。でも、僕は虎の里長様を配下にするつもりも、下に見るつもりもありませんよ」


「えっ? それは、ライト様が狼の里長になっても、虎を下僕にしないということですか」


「当たり前ですよ。守護獣は、狼も虎も、対等だと思っています。精霊を守る大切な役目を負う者に、優劣はないです。等しく立派だと思っています」


「そ、そうなのですね。まさか、本当だったとは…」


「ん? 本当とは?」


「赤い狼が、ライト様は里長になったとしても、虎をむげに扱ったりしないと言っていて…。あの小娘は病んで療養中だとかで言動も矛盾だらけだし、すぐに暴れるから、頭がおかしいのだと思っていたのですが」


「えっ? その赤い狼はどこに?」


「昨日草原で暴れたので、地下牢にいます」


「地下牢?」


「はい、この街には、ならず者を閉じ込めて反省をうながす、地下牢が作られています。あの小娘は、地下牢の常連になっていますよ」


「そうですか」


「あ! そうか、あの娘は、ライト様が婚姻関係を結んでいる青き大狼の血縁者ですね。現里長の娘だ」


「はい。そうです」


「あんなおかしな娘、さっさと始末してしまう方が良いと、ほとんどの虎は考えています。里長の娘だから生かされているのですよ。まぁ戦闘力が高いですから、利用価値はなくはないですが」


「そうですか、そんな風に思われているのですね…」


「あ、いえ、あの……申し訳ありません」


「いえ、正直に教えていただいてありがたいです。彼女は悪い噂が多いですから…。改めさせねばなりません」


「誰の言うことも聞かないようですが…」


「ふぅ、まぁ、反抗期なのかもしれませんね」



 僕がペルルクさんと話をしていると、小屋にアトラ様が駆け込んできた。なぜか、大量の生首達も一緒だった。


「ライト! やっと起きたー」


「アトラ様、またまた眠ってしまいました」


「ふふっ、そうだねー。ふた月くらいになるよ」


「はい、いま、ペルルクさんに教えてもらっていました」


「そう。ありがとねー」


 アトラ様は、ペルルクさんの方をチラッと見て、すぐに目をそらした。やはり、狼と虎は、めちゃくちゃ仲が悪そうだ。


「ライト様、彼女のことを様呼びされているのですか」


 ペルルクさんは驚いた顔で、そうたずねてきた。


「はい、出会った頃からの習慣でして」


「へぇ、そういえば、精霊のことも様呼びされるのですね」


「あー、そうですね」


「貴方は神族、しかも女神様の番犬であり、神戦争で星の消滅を防いだ最大の功労者です。さらにこの街の長でもある。そんな地位の高い貴方が…」


「僕はもともと、こんな感じなんです。立場が変わったからといって、態度まで変えるなんて器用な真似はできませんよ」


「へぇ……驚いた…」


「ペルルク、ライトにそんな敬語もいらない。普通に話せばいいから」


「えっ?」


「その方が、ライトは居心地いいんだよ。敬語を使われると、距離を感じるらしいよ」


「そ、そうなのか」


「ふふっ、ペルルクさん、僕に対しては気遣い無用です。他の人達にも、そのようにお伝えください」


「ライト、行こう! 街を見るでしょ? ごはんも食べるでしょ」


「そうですね。ちょっと散策してみようかな。ペルルクさん、行ってきますねー」


「え? あ、はぁ、いってらっしゃいませ」


 ペルルクさんは、言葉遣いに困っているようだった。ほんと、生真面目なんだな。




 僕は、小屋から出て驚いた。街が、すっかり変わっていたんだ。そして、かなり暑い。


 空を見上げると、黄色い太陽が真上に輝いていた。これまでの太陽に比べて、倍ぐらい大きく見えるが、これは距離が近いためなんだろうな。


「あ、太陽が大きくて驚いたでしょ」


「はい。距離が近いからですね。だからこんなに暑い」


「えっ? なんで知ってるのー」


「ん? えーっと、そうかなーと思って…」


「ライトって、前世の知識が非常識だから、あたし達が知らないことをたくさん知ってるんだよね」


「へ? 非常識かな?」


「うん、ティアちゃんが言ってたの。だから、この街はすっごく不思議なんだってー」


「あー、女神様ね…」


「ダメだよー。星の上ではティアちゃんだから。ティアちゃんが女神様だと知らない人の方が圧倒的に多いの」


「また、隠してるんですね。了解です。ということは、この街に出没するんですね…」


「ふふっ、街にはティアちゃんの家もあるもの」


「あ、確かに…」


(ばったり遭遇しないことを祈ろう…)



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ