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256、名もなき島 〜 女神の策略

『青の神ダーラ、直ちに立ち去れ! 中立の星系への侵略行為は、著しく神としての格を下げる行為じゃ。全知全能の神がそうおっしゃったのじゃ』


「そんな作り話に騙されるか! おまえのようなチカラなき妖精が、そもそも太陽を生み出すことなどできるわけがないわ。さっきから、俺を愚弄するにも程がある!」


『アホの神ダーラ、これ以上、この星にいてもおぬしの評価が下がるばかりじゃ。この島には、あちこちで侵略行為をしておった者が、集まっていると教えたであろう? アホバカマヌケっぷりを自ら披露せずともよい』


「なんだと? それは、俺を頼って集まってきたのだろうが! 空に妙な映像を浮かべて騙そうだなど、さすがは妖精だな。浅知恵もここまでくると見事だ」




 いま、空に映っている女神様と、星を繋ぐ門がある草原にいる青の神ダーラが、口論をしている。


 ダーラは、太陽の色はそう見せているだけだと思っているらしい。全知全能の神が、第三の黄色い太陽系の誕生を認めたことを知らないようだ。


 もしかすると、女神様は、わざとダーラに聞こえないタイミングで、新たな星系の誕生を知らせたのかもしれない。


 さっきまで、空は曇っていて太陽を隠していた。


 精霊ルー様が、雨を降らせて炎を消そうとしたから太陽が隠れたんだけど、雨が止んだ後もずっと曇っていた。

 これは、もしかすると、太陽を見せないための作戦だったのかもしれない。



 いま、この星の侵略者は、あちこちから追い払われ、この島に集まっているようだ。女神様が、この島の門から自分の星へ帰らせようと集めたらしい。


 おそらく、もともと地上や地底にいた神々は、全知全能の神の言葉を聞いただろう。そして、黄色い太陽の存在にも気づき、第三の星系が誕生したことを知ったはずだ。


 そんな中、そのことに気づかず暴れている青の神ダーラの姿は、神々の目にどう映るだろうか。


 少なくとも、ダーラの姿は、滑稽に見えているだろう。これにより、ダーラに対する信頼や尊敬の念が変わることになるかもしれない。


 青の神のトップ争いをするダーラの失墜……。女神様は、それを狙っているようにも思える。


 そして、黄色い星系へ侵略しようとすると、こんな公開処刑のような、恥をさらすことになる。


 それを女神様は、侵略、潜入していた邪神達への、見せしめのようにダーラを利用しているような気がする。



『だいたい当たってると思うぜ』


(やっぱり?)


『あぁ、もっとひどいことも考えてるよーだがな。いま、頭フル回転させてるみたいだぜ』


(シーンとして、にらみ合ってるように見えるもんね)


『ダーラが確認しよーとしているのを妨害してるんじゃねーか?』


(えっ…)


『どうすれば、ダーラをもう近づかせないようにできるか、考えてんだろーな。時間稼ぎの妨害だぜ』


(そっか……。リュックくん、僕、魔法使うと体調悪化したんだけど、どうなってるかわかる?)


『あぁ。覚醒して溜めていた電池はすべて空っぽになってる。魔力も空っぽになって、生命エネルギーも半分以上、使っちまったみたいだ』


(えっ……そんなにエネルギー使ったんだ)


『あの攻撃を止めるために、それで済んだのは覚醒電池のおかげだぜ? 覚醒してなかったら、おまえ、燃え尽きて消滅してただろーな』


(そ、そっか…)


『オレも、溜めてた魔力をおまえに流したんだぜ。枯渇寸前まで、おまえに流して正解だったな。じゃなきゃ、おまえの生命エネルギー、もっと減っちまうところだった』


(そなんだ、リュックくんに命を守ってもらったんだね。ありがとう)


『おまえが死ぬと、オレも消滅するからな』


(ふふっ、そうだね。でも、そこは素直に、まーな、とか言っておけばいいんだよ?)


『なっ? 別に、そんなんじゃねーよ』


(ふぅん、素直じゃないよね。エッヘンって威張っとけばいいのにさ)


『おい、子供扱いするんじゃねーぞ』


(はいはい。それで、リュックくんの魔力は、さっきの魔ポーションで補充できた?)


『まぁ、必要最低限はな。ほとんど、おまえの闇調整に使っちまったけどな』


(そっか。もう少し飲んどこうか?)


『あぁ、いや、でも、おまえつらそうだから、落ち着いてからでいい』


(リュックくん、優しいとこあるよね)


『なっ? 別に……いや、まぁ、まーな』


(ふふっ、素直なのも変だね)


『はぁ? なんだ、それ』




 ぴゅーっと強い風が吹いた。さらに、荒れた草原を強い風が吹き抜けていった。


(ん?)


 僕は、空を見上げた。女神様は、ジッと黙っている。いや固まっている。あの顔は、複数との念話中だ。


(なぜ放映中に、黙ってるんだろう。放送事故に見えるよね)


『放送事故? その感覚がオレにはわからねーな』


(だよね。この世界にはテレビないし…)



 すると、まだ空に映っているのに、女神様はふだんの12〜13歳の姿に戻った。まだ放映中だとわかってないのかな。


『ライトは、しょぼいのじゃ! 放映中なのはわかっておる。この映像は、草原付近だけにしぼったのじゃ』


(わっ! 頭が痛い……ちょ、大声はやめて…)


『はぁ、女神にそんな配慮ができるわけねーだろーが。反論されて頭痛がひどくなるだけだぜ』


(う……)


『しかし、何の説明にもなってねーな。草原付近にしか放映しないから、ガキになるってのは…』


(あの姿が本来の姿だって言ってたけど)


『あー、なるほど、そーいうことか。悪りぃ、やっぱ魔ポーション飲んどいて』


 リュックくんはそう言うと、もう何本目かわからないダブルポーションを出してきた。


 僕は、それを一気に飲み干した。飲む動作で頭を動かすだけでも、強い頭痛と吐き気がする。


 でも、女神様が何かをたくらんでいるなら、リュックくんは回復させておかなければならない。

 僕は、リュックくんが次々と出してくるポーションを飲んだ。



「ライト、突然、どうしたのー? そんなにポーションを飲み始めて…」


「アトラ様、リュックくんが、僕の命を守るためにほとんどの魔力を使っちゃったから…」


「えっ? そっか、そうだよね。ライトには、あんなエネルギーを放出できるほどの魔力値はないもんね。また生命エネルギーを使ったんだ…」


「あー、うん。でも、リュックくんが守ってくれたから、半分くらいは残ってるみたいです」


「そっかー。じゃあ、よかった。でも、回復にまた時間かかるね。あたしがお世話してあげないとー」


「ふふっ、はい。またよろしくお願いします」


「うんっ!」




 また、ぴゅーっと強い風が吹いた。女神様が念話を終えたらしく、ダーラの方を見るような視線で話し始めた。



『青の神、まだ出て行かぬのか?』



 突然、話しかけられたダーラは、何かの念話をぶった切られたらしく、キッと空の映像を睨んでいた。


 だけど、先程までのような勢いはなかった。このしばらくの沈黙の時間に、状況把握を終えたのだろう。

 状況を知った上で何かをしでかせば、当然、ダーラの神としての格が下がることになるはずだ。



「おまえ、どこまでが偶然だ?」


『はて? 何を言うておるのかわからぬが』


「その姿は何だ? その姿は……もしや…」


『妾は、もともとこの姿じゃ。住人に語るときは大人の姿で話すがの。草原にいるたくさんの邪神には、この姿の方が馴染みがあるじゃろ』


「イロハカルティア、星の再生時に何をした? まさか、おまえ…」


『妾は、なぜか赤ん坊になってしまったのじゃ。ここまで成長するのに時間がかかったのじゃ』


「妙なことを言って、はぐらかす気だろう。星の再生と共に、若返りを図り、そして…」


『うむ。とんでもなく若返ってしまったのじゃ。同じことを何度言わせる気じゃ?』


「まさか、おまえ、禁忌を犯したか」


『なんじゃ? そんなものは知らぬ。それを言うなら、おぬしがこの地で暴れたことの方が、禁忌を犯したことになるじゃろ』


「俺は、勢力の拡大のための戦いしかしておらぬ」


『しらばっくれるでない! 中立の星系として認められた後に、その星の上で妾の番犬を殺そうと放った、まがまがしき炎のことじゃ。あれは、暗黒系の星以外での使用を禁じられている、呪炎弾じゃろ』


「さぁ? まるで見ていたようなことを言うが…」


『妾の星でのことじゃ。見ていたに決まっておるではないか。ライトが止めねば、再生したばかりのこの星は、呪いの炎に焼き尽くされ、おぬしにマナエネルギーを全て抜き盗られるところだったのじゃ。妖精の星に放ってはならぬ、禁忌魔法じゃ!』


(そ、そんな怖ろしい炎だったんだ)



 女神様は、空に映っていた映像から、ポーンと飛び降りる仕草をした。そして、彼女は、そのまま、本当に空の映像から飛び出してきたのだ。



(えっ?)


 これも、何かの演出かもしれないが、僕はめちゃくちゃ驚いた。


『たぶんカースの幻術だぜ。城からただ転移して来ただけだろー』


(そ、そっか。カース、すごいね)



 僕だけじゃなく、この演出は、かなりの効果があったようだ。驚きの後にさらに驚いたことで、強烈な印象を与えた。


 僕にはわからないけど、今の女神様は魔力は満タンなようだ。

 以前の妖精の魔力ではない。あんなにハイペースで成長していたんだから、おそらく魔導系の神の中に入っても遜色ないほどの魔力値だろう。



「おまえ、その魔力は……いったい…」


「太陽を作るときに使った分は、もう回復したのじゃ。たいした数値でもあるまい。妾は、ただの妖精じゃからの」


 そう言うと、少女の姿をした女神様はニタニタと笑っていた。


 女神様が姿を見せたことで、明らかにダーラは動揺していた。ダーラの配下も、完全に警戒マックスの状態だった。


「そんな、バカな…」


「言っておくが、妾は妖精じゃ。大地を操るチカラを持つ。しかも自分の星じゃ。いま、この場でおぬし達を星に吸収させることもできるのじゃ。さっさと立ち去れ!」


 そう言うと、女神様は手をクルクルと動かした。

 


 シュルシュルシュルッ

 


 すると、焼けた地面から突然、ツタのようなものが一気に出てきた。そしてみるみるうちに、あちこちに無造作に伸びていった。


 いや、違った。無造作ではなく、狙っているんだ。


 巨大なツタは、この島を這うように、一気に広がっていった。そして、次々と捕獲したものを草原へと運んできた。


 恐怖に青ざめた者達が、星を繋ぐ門の前に、巨大なツタに投げ飛ばされるようにして、転がされていった。


 彼らは、おそらく、この星への侵略者だ。


 島のどこかに居たところを、こんな巨大なツタに襲われ、いきなりここに連れてこられたんだ。隠れていた者もいただろう。


 彼らの恐怖に青ざめた表情は、ツタに対する恐怖より、女神様が彼らを簡単に捕獲したということに対する怖れからだと思う。



(巨大なウネウネは……気持ち悪いし怖すぎる)



「さっさと立ち去るのじゃ!」



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