表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

254/286

254、名もなき島 〜 激突

「ですが、ルー様…」


「あたしは、ここから見てるから。ひゃっ! あのバカ!」


 いま、僕達が浮んでいる上空に、草原から火の玉が飛んできて、すぐ横をかすめたんだ。浮んでいると言っても、ルー様はふわふわ浮かんでるけど、僕は生首達のクッションに乗っているが…。


 さっき、草原で炎をまとったヲカシノ様が大暴れするのを止めるために、ルー様がヒョウを降らせたんだ。この火の玉の威嚇は、それへの報復のようだ。


(精霊同士でケンカしている場合じゃ…)



「あのバカが、あたしに降りてこいって言ってるよーん。無視よ、無視ーっ」


「あはは……はぁ…」


「あんた、ふわふわしてないで、あのバカを止めてきなさいよ! あのバカは、下手すりゃ守護獣まで巻き込むわよ」


(いやいや……今の、ルー様が降らせたヒョウだって、守護獣まで巻き込んでたんじゃ…)


「えっ、あ、行ってきます」




 僕は、草原の門にいたジャックさんの元へと、ワープした。ジャックさんは、どんよりしていた。


「ライトさん、俺、人選を間違えたっす」


「ん?」


「ルーさんじゃなくて、クマさんを呼べばよかったっす」


「ルー様だと、バチバチでケンカしそうですね…」


「いや、あれは、戯れてるっす。あの人達の遊びは非常識なのを忘れてたっす」


「えっ……えっと、さっきのイナズマは、大丈夫でしたか」


「門付近にはバリアがあるから、イナズマは当たらなかったけど、空から降ってきた氷の粒がヤバかったっす。守護獣にも負傷者がいるっす」


「えっ…。僕、とりあえず、ヲカシノさんのとこ行ってきます」


「俺も行くっす」



 ヲカシノ様は、ルー様と念話でケンカ中のようで、空を見上げていた。


 僕達が生首達のワープで現れると、こちらを向いた。


「ねぇ、なんであのバカが来たわけ?」


「ヲカシノさんが張り切り過ぎないようにと思って呼んだんす。いきなり氷の粒が降ってくるなんて驚いたっす。バリアが破壊されたっす」


(えっ、そんなに強力な氷魔法だったの?)


「まぁ、ボクもカチンときてたから、氷で頭を冷やせってことなんだろうけど、敵も味方も関係なく負傷させてるよー。ボクの結界を壊そうとしたみたいだけど、あの程度じゃ壊れないよー」


「門のバリアは、破壊されたっす…」


「はぁ、ほんと、あいつはバカだからねー」



 周りの様子を『見て』みると、侵略者達は、驚き戸惑っているようだった。守護獣まで負傷させたことから、ルー様が、第三の敵に見えているのかもしれない。


 守護獣達は、なんとか自分達で治癒できたようだ。それぞれの守護精霊が、治癒にチカラを貸したのかもしれない。


 そして、守護獣達も少し戸惑っているようだった。


 でも、侵略者達は、これで戦意を失ったようだし、結果的には良かったのかもしれない。




 仲介役だという赤の神が、スッと僕達の近くにやってきた。その表情はなんとも言えないような、意外そうな不思議そうな顔をしていた。


「おまえ達は、やはり変わっているな。あれは精霊だろう? なぜ精霊が守護獣を傷つけるんだ?」


「ふん、赤の神には関係ないことだよねー」


「おまえも、精霊か…。なるほど、精霊がケンカか? 今、どういう状況かわかっているのか?」


「アイツがバカなだけだよ。状況はわかっているに決まっている。ボクはこの草原を守る精霊だからね、すべてを知っているよ」


「そうか。まぁ、そろそろだな。その前に面倒な奴が入って来なければいいが…」




 そのとき、僕の危機探知リングが赤く染まった。周りを見渡したが、草原の戦闘はおさまっている。


 最初に入ってきた赤の神も、イナズマと氷を受けて動けないようだった。武闘系の赤の神は、魔法にはあまり耐性のない人が多いんだな。


(ダーラか…)


『おい、初撃に気をつけるよーに言っとけよ』


(ん? えっと…)


『何のための指輪だ?』


(あ、うん、わかったー)



 僕は、指輪に触れてアトラ様を呼んだ。


『どしたの? ライト』


『アトラ様、リュックくんが初撃に気をつけるように言えって』


『ん? 何の?』


『ダーラが来ます。門からみんな離れてください』


『えっ! わかった、すぐ伝える!』



 守護獣達が、スッと門から離れていった。


 その様子を見て、侵略者達も、危機を察知したのだろう。門から離れようとする者、そわそわする者、戸惑っている者など、まちまちだったが、何かが来ることはわかったようだ。



「ジャックさん、来ますね。初撃に、注意です」


「了解っす」


「なんだ? おまえ達、初撃? いきなり、星に入ってきて攻撃などせぬぞ?」


「そうなんですか?」


「当たり前だ。しかも、神ならなお一層のこと、ありえない。この気配は、ダーラだろ? アイツは青の実質トップだ。そんな非常識なことはせぬ」


「それならいいですが、一応、備えます。危機探知リングが赤いですし…」


「は? 俺の言葉よりも魔道具に従うのか?」


「気を悪くさせたらすみません。念のためです」


「戦い慣れていない中立の星ならではの心配か…。まぁ、よい」



 そう言うと、仲介役の赤の神は、門の近くへと戻っていった。その瞬間、僕は、ぞわぞわと背筋が凍るような恐怖を感じた。


(来る!)


 僕は、集中した。いまは覚醒中だが、さらに、門のわずかな変化も見逃すまいと、集中力を高めた。




 星の入り口の門から、魔導ローブを着た男が入ってきた。そして、ぐるりと辺りを見渡している。


 そうして、しばらく何かを探しているようだったが、納得したように頷いた。


「あれは、神を探してるっす。おそらく潜入させている奴が、島にいるんす」


「門が、入り口が開いたままですよね、あれは…」


「門のすぐそばに誰か居るってことっす。入ってこないのは、やはり攻撃しかないっす」


「あ、街に…」


「ん? なんすか? うわ」



 大気が揺れた。さっき入って来たはずの魔導ローブを着た奴が消えた。



 僕は、本能的にマズイと思った。



 僕は、素早く手を上にあげ、街の手前に、カーテン状のわらびもちバリアを張った。そして草原の守護獣達がいる前にも、広範囲のわらびもちバリアを張った。


 さらにバリアを強化しようとした瞬間、門から街に向けて灼熱の炎が放たれた。



 ジュババババババッ!

 ゴウゴウ、ドドドドッ!



 ありえないほどの熱量の炎に焼かれ、門付近の草原は一気に燃え上がった。


 わらびもちバリアも、ほとんど壊されたが、なんとか街や守護獣達にはその炎は届かなかったようだ。


(ギリギリ耐えた…)


 空から雪まじりの強い雨が降り始めた。きっとルー様だ。だが、その雨に濡れても、草原の炎は簡単には消えなかった。



 少し火の勢いが弱まってくると、炎の中から、門をくぐって、アイツが現れた。さらに軍隊かと思うほど、何十人もの魔導士が続いている。


 すぐ近くのジャックさんも、緊張したのが伝わってきた。




「ほう。神族の街を焼いたつもりだったのだがな。燃えたのは雑草だけか」


 辺りを見渡すと、僕が張ったバリアより手前にいた侵略者達は、まだ炎に包まれている。雨ではなかなか消えないようだ。


(人のことも雑草だと言っているの?)


『あぁ、そうだろーな。さっき、アイツが魔導エネルギーに包まれたから、仕返しだろうな』


(えっ?)


『女神が放った太陽を作るためのエネルギー砲に、アイツは直撃したみたいだぜ』


(でも平気そうだけど…)


『配下は火傷したみたいだが、治したらしーな』


(そんなエネルギーに巻き込まれるなんて…)


『女神が狙ったんだろう。古い門から入ろうとする奴らが集まりそうな方角へ撃ったからな』


(えっ? 新しい門しか使えないのに?)


『古い門の閉鎖を遅らせたんだよ。深読みする奴が、新しい門は罠だと感じて古い門から入りたくなるよーに仕組んだんだよ』


(それで、いきなり神族の街を焼こうとしたの?)


『だろーな』


(はぁ……なんとも言えないね)


『あぁ、だが、おまえ、ロックオンされたみてーだぜ』


 僕は、門の方を『見て』みると、ダーラがこちらを見ていた。ニヤリと笑っている…。


(どうしよう…)


『来る前に、こちらから行くぞ!』


(えっ…)


『ここまで来られたら、後ろの奴らが巻き添えになる』


(わ、わかった)



「ジャックさん、ここ頼みます」


「えっ? どうするんすか」


「僕、ロックオンされたみたいなんで、来られる前に行きます」


「ライトさん、ひとりで無茶っす」


「ひとりじゃないですよ。相棒が一緒ですから」


「あ、そうっすね。でも気をつけて」


「はい」



 僕は、生首達のワープで、青の神ダーラの目の前に移動した。


 彼は、草原や街、さらに島のあちこちの様子を見ていたようだった。僕が突然現れたことには、少し驚いた顔をしている。



「まさか、おまえの方から来るとは思わなかったな。ふっ、俺の配下になる決意をしたか」


「ダーラ様、お久しぶりです。まさか、それはありえませんね。僕は、この星が気に入ってるんです」


「それなら問題はない。もうこの星は俺のものも同然だ。おまえに統治させてやってもいいぞ」


「残念ながら、この星は貴方のものにはなりませんよ」


 僕がそう言うと、何人かに剣を向けられた。魔導士じゃないわけ?


「ふっふっ、剣を向けられたのが意外か? ローブを着ているが半数は武闘系だ。魔導士は、近接戦になるとどうしても弱いからな」


「なぜ僕なんかに剣を向けるんですか? 僕は黒魔導士じゃないですよ? わざわざ剣など要らないでしょ」


「さっきのバリアはおまえか?」


「そうですよ。バリアは得意なんです」


「それにしては、異常に速かったな。あんな複雑なバリアを…」


「そうでもないですよ。そんなことより、今日は何をしに来られたんですか? 侵略はお断りしますが、観光なら歓迎しますよ」


「は? おまえ、やはり面白いな。くっくっ、やはり一旦殺して持ち帰るとするか」


 ダーラは、剣を抜いた。


(青の神なのに剣を使うの?)



 僕は、闇を使うか考えていると、目の前にスッと、僕をかばうようにして、リュックくんが現れた。


「背中は頼んだぜ、相棒」


「了解!」


 僕は、リュックくんと自分にバリアを、深き闇のバリアを張った。そして、僕も剣を抜いた。



「おまえは、さっきの魔道具か。このガキの持ち物だったのか。ふっふっ」


「オレは、持ち物じゃねーよ。こいつの相棒だ」



 そして、リュックくんのショータイムが始まった。


 僕も、僕の闇を吸った剣に、火、水、風、土の魔法4属性を纏わせた。



「な、なんだと?」



 リュックくんの動きは、ダーラにしか見えていないようだった。目で追うことができないなら、勝負は一方的な展開になる。


 僕に襲いかかる武闘系も、僕の目にはスローモーションに見える。スッとかわして、剣を振るうことができる。


 僕が剣を振ると、闇撃、雷撃が剣から飛んでいく。剣に触れないように避けても、黒い雷撃は避けられない。



「ちょこまかと、こざかしい!」


 ダーラが、剣を捨て、杖を構えた。


 みるみるうちに、まがまがしい巨大な炎の玉が浮かび上がった。


 わらびもちバリアは、壊されたままだ。


(えっ? 僕が避けると街に直撃する!?)



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ