254、名もなき島 〜 激突
「ですが、ルー様…」
「あたしは、ここから見てるから。ひゃっ! あのバカ!」
いま、僕達が浮んでいる上空に、草原から火の玉が飛んできて、すぐ横をかすめたんだ。浮んでいると言っても、ルー様はふわふわ浮かんでるけど、僕は生首達のクッションに乗っているが…。
さっき、草原で炎をまとったヲカシノ様が大暴れするのを止めるために、ルー様がヒョウを降らせたんだ。この火の玉の威嚇は、それへの報復のようだ。
(精霊同士でケンカしている場合じゃ…)
「あのバカが、あたしに降りてこいって言ってるよーん。無視よ、無視ーっ」
「あはは……はぁ…」
「あんた、ふわふわしてないで、あのバカを止めてきなさいよ! あのバカは、下手すりゃ守護獣まで巻き込むわよ」
(いやいや……今の、ルー様が降らせたヒョウだって、守護獣まで巻き込んでたんじゃ…)
「えっ、あ、行ってきます」
僕は、草原の門にいたジャックさんの元へと、ワープした。ジャックさんは、どんよりしていた。
「ライトさん、俺、人選を間違えたっす」
「ん?」
「ルーさんじゃなくて、クマさんを呼べばよかったっす」
「ルー様だと、バチバチでケンカしそうですね…」
「いや、あれは、戯れてるっす。あの人達の遊びは非常識なのを忘れてたっす」
「えっ……えっと、さっきのイナズマは、大丈夫でしたか」
「門付近にはバリアがあるから、イナズマは当たらなかったけど、空から降ってきた氷の粒がヤバかったっす。守護獣にも負傷者がいるっす」
「えっ…。僕、とりあえず、ヲカシノさんのとこ行ってきます」
「俺も行くっす」
ヲカシノ様は、ルー様と念話でケンカ中のようで、空を見上げていた。
僕達が生首達のワープで現れると、こちらを向いた。
「ねぇ、なんであのバカが来たわけ?」
「ヲカシノさんが張り切り過ぎないようにと思って呼んだんす。いきなり氷の粒が降ってくるなんて驚いたっす。バリアが破壊されたっす」
(えっ、そんなに強力な氷魔法だったの?)
「まぁ、ボクもカチンときてたから、氷で頭を冷やせってことなんだろうけど、敵も味方も関係なく負傷させてるよー。ボクの結界を壊そうとしたみたいだけど、あの程度じゃ壊れないよー」
「門のバリアは、破壊されたっす…」
「はぁ、ほんと、あいつはバカだからねー」
周りの様子を『見て』みると、侵略者達は、驚き戸惑っているようだった。守護獣まで負傷させたことから、ルー様が、第三の敵に見えているのかもしれない。
守護獣達は、なんとか自分達で治癒できたようだ。それぞれの守護精霊が、治癒にチカラを貸したのかもしれない。
そして、守護獣達も少し戸惑っているようだった。
でも、侵略者達は、これで戦意を失ったようだし、結果的には良かったのかもしれない。
仲介役だという赤の神が、スッと僕達の近くにやってきた。その表情はなんとも言えないような、意外そうな不思議そうな顔をしていた。
「おまえ達は、やはり変わっているな。あれは精霊だろう? なぜ精霊が守護獣を傷つけるんだ?」
「ふん、赤の神には関係ないことだよねー」
「おまえも、精霊か…。なるほど、精霊がケンカか? 今、どういう状況かわかっているのか?」
「アイツがバカなだけだよ。状況はわかっているに決まっている。ボクはこの草原を守る精霊だからね、すべてを知っているよ」
「そうか。まぁ、そろそろだな。その前に面倒な奴が入って来なければいいが…」
そのとき、僕の危機探知リングが赤く染まった。周りを見渡したが、草原の戦闘はおさまっている。
最初に入ってきた赤の神も、イナズマと氷を受けて動けないようだった。武闘系の赤の神は、魔法にはあまり耐性のない人が多いんだな。
(ダーラか…)
『おい、初撃に気をつけるよーに言っとけよ』
(ん? えっと…)
『何のための指輪だ?』
(あ、うん、わかったー)
僕は、指輪に触れてアトラ様を呼んだ。
『どしたの? ライト』
『アトラ様、リュックくんが初撃に気をつけるように言えって』
『ん? 何の?』
『ダーラが来ます。門からみんな離れてください』
『えっ! わかった、すぐ伝える!』
守護獣達が、スッと門から離れていった。
その様子を見て、侵略者達も、危機を察知したのだろう。門から離れようとする者、そわそわする者、戸惑っている者など、まちまちだったが、何かが来ることはわかったようだ。
「ジャックさん、来ますね。初撃に、注意です」
「了解っす」
「なんだ? おまえ達、初撃? いきなり、星に入ってきて攻撃などせぬぞ?」
「そうなんですか?」
「当たり前だ。しかも、神ならなお一層のこと、ありえない。この気配は、ダーラだろ? アイツは青の実質トップだ。そんな非常識なことはせぬ」
「それならいいですが、一応、備えます。危機探知リングが赤いですし…」
「は? 俺の言葉よりも魔道具に従うのか?」
「気を悪くさせたらすみません。念のためです」
「戦い慣れていない中立の星ならではの心配か…。まぁ、よい」
そう言うと、仲介役の赤の神は、門の近くへと戻っていった。その瞬間、僕は、ぞわぞわと背筋が凍るような恐怖を感じた。
(来る!)
僕は、集中した。いまは覚醒中だが、さらに、門のわずかな変化も見逃すまいと、集中力を高めた。
星の入り口の門から、魔導ローブを着た男が入ってきた。そして、ぐるりと辺りを見渡している。
そうして、しばらく何かを探しているようだったが、納得したように頷いた。
「あれは、神を探してるっす。おそらく潜入させている奴が、島にいるんす」
「門が、入り口が開いたままですよね、あれは…」
「門のすぐそばに誰か居るってことっす。入ってこないのは、やはり攻撃しかないっす」
「あ、街に…」
「ん? なんすか? うわ」
大気が揺れた。さっき入って来たはずの魔導ローブを着た奴が消えた。
僕は、本能的にマズイと思った。
僕は、素早く手を上にあげ、街の手前に、カーテン状のわらびもちバリアを張った。そして草原の守護獣達がいる前にも、広範囲のわらびもちバリアを張った。
さらにバリアを強化しようとした瞬間、門から街に向けて灼熱の炎が放たれた。
ジュババババババッ!
ゴウゴウ、ドドドドッ!
ありえないほどの熱量の炎に焼かれ、門付近の草原は一気に燃え上がった。
わらびもちバリアも、ほとんど壊されたが、なんとか街や守護獣達にはその炎は届かなかったようだ。
(ギリギリ耐えた…)
空から雪まじりの強い雨が降り始めた。きっとルー様だ。だが、その雨に濡れても、草原の炎は簡単には消えなかった。
少し火の勢いが弱まってくると、炎の中から、門をくぐって、アイツが現れた。さらに軍隊かと思うほど、何十人もの魔導士が続いている。
すぐ近くのジャックさんも、緊張したのが伝わってきた。
「ほう。神族の街を焼いたつもりだったのだがな。燃えたのは雑草だけか」
辺りを見渡すと、僕が張ったバリアより手前にいた侵略者達は、まだ炎に包まれている。雨ではなかなか消えないようだ。
(人のことも雑草だと言っているの?)
『あぁ、そうだろーな。さっき、アイツが魔導エネルギーに包まれたから、仕返しだろうな』
(えっ?)
『女神が放った太陽を作るためのエネルギー砲に、アイツは直撃したみたいだぜ』
(でも平気そうだけど…)
『配下は火傷したみたいだが、治したらしーな』
(そんなエネルギーに巻き込まれるなんて…)
『女神が狙ったんだろう。古い門から入ろうとする奴らが集まりそうな方角へ撃ったからな』
(えっ? 新しい門しか使えないのに?)
『古い門の閉鎖を遅らせたんだよ。深読みする奴が、新しい門は罠だと感じて古い門から入りたくなるよーに仕組んだんだよ』
(それで、いきなり神族の街を焼こうとしたの?)
『だろーな』
(はぁ……なんとも言えないね)
『あぁ、だが、おまえ、ロックオンされたみてーだぜ』
僕は、門の方を『見て』みると、ダーラがこちらを見ていた。ニヤリと笑っている…。
(どうしよう…)
『来る前に、こちらから行くぞ!』
(えっ…)
『ここまで来られたら、後ろの奴らが巻き添えになる』
(わ、わかった)
「ジャックさん、ここ頼みます」
「えっ? どうするんすか」
「僕、ロックオンされたみたいなんで、来られる前に行きます」
「ライトさん、ひとりで無茶っす」
「ひとりじゃないですよ。相棒が一緒ですから」
「あ、そうっすね。でも気をつけて」
「はい」
僕は、生首達のワープで、青の神ダーラの目の前に移動した。
彼は、草原や街、さらに島のあちこちの様子を見ていたようだった。僕が突然現れたことには、少し驚いた顔をしている。
「まさか、おまえの方から来るとは思わなかったな。ふっ、俺の配下になる決意をしたか」
「ダーラ様、お久しぶりです。まさか、それはありえませんね。僕は、この星が気に入ってるんです」
「それなら問題はない。もうこの星は俺のものも同然だ。おまえに統治させてやってもいいぞ」
「残念ながら、この星は貴方のものにはなりませんよ」
僕がそう言うと、何人かに剣を向けられた。魔導士じゃないわけ?
「ふっふっ、剣を向けられたのが意外か? ローブを着ているが半数は武闘系だ。魔導士は、近接戦になるとどうしても弱いからな」
「なぜ僕なんかに剣を向けるんですか? 僕は黒魔導士じゃないですよ? わざわざ剣など要らないでしょ」
「さっきのバリアはおまえか?」
「そうですよ。バリアは得意なんです」
「それにしては、異常に速かったな。あんな複雑なバリアを…」
「そうでもないですよ。そんなことより、今日は何をしに来られたんですか? 侵略はお断りしますが、観光なら歓迎しますよ」
「は? おまえ、やはり面白いな。くっくっ、やはり一旦殺して持ち帰るとするか」
ダーラは、剣を抜いた。
(青の神なのに剣を使うの?)
僕は、闇を使うか考えていると、目の前にスッと、僕をかばうようにして、リュックくんが現れた。
「背中は頼んだぜ、相棒」
「了解!」
僕は、リュックくんと自分にバリアを、深き闇のバリアを張った。そして、僕も剣を抜いた。
「おまえは、さっきの魔道具か。このガキの持ち物だったのか。ふっふっ」
「オレは、持ち物じゃねーよ。こいつの相棒だ」
そして、リュックくんのショータイムが始まった。
僕も、僕の闇を吸った剣に、火、水、風、土の魔法4属性を纏わせた。
「な、なんだと?」
リュックくんの動きは、ダーラにしか見えていないようだった。目で追うことができないなら、勝負は一方的な展開になる。
僕に襲いかかる武闘系も、僕の目にはスローモーションに見える。スッとかわして、剣を振るうことができる。
僕が剣を振ると、闇撃、雷撃が剣から飛んでいく。剣に触れないように避けても、黒い雷撃は避けられない。
「ちょこまかと、こざかしい!」
ダーラが、剣を捨て、杖を構えた。
みるみるうちに、まがまがしい巨大な炎の玉が浮かび上がった。
わらびもちバリアは、壊されたままだ。
(えっ? 僕が避けると街に直撃する!?)




