253、名もなき島 〜 開戦
「ライトさん、とりあえず静観でいいっすよね」
「ですね。門で入国審査する体制も整ってませんし、たぶん女神様はフリーゲートにするつもりだと思います」
「入国審査? フリーゲート? ライトさんの故郷の言葉っすか?」
「あ、そっか。えーっと、外から、この星に入ってくる人の取り調べをするかということなんですが…」
「そんな手間のかかることは、しないっすよね」
「じゃあ、見守って……それにしても、数が多いですね。でもみんな侵略目的ですよね、いいのかな? 見逃して…」
「友好目的もいるはずっす。俺達にケンカ売ってこない奴らは、放置するしかないっす。あ、でも、神はすべて話しかけてみるっす」
「了解です〜」
僕はいま、新しい島の草原に作られた新しい門の近くにいるんだ。
ジャックさんとヲカシノ様とで待機していたんだけど、いつの間にかヲカシノ様の姿は消えていた。
門から入ってきた人達は、草原でボーッとしている人もいれば、すぐにスッと姿を消す人もいた。
そして、姿を消してどこかにワープしたようだが、ヲカシノ様の結界に阻まれて、草原から出られない人もいるようだ。逆にすんなりと消えていく人もいる。
「ジャックさん、ワープできる人と結界に阻まれる人がいますね」
『邪気の強い奴は、ボクの結界を通れないよー。結界の外から手引きされると転移できちゃうけどね』
「ヲカシノ様、じゃあ、消えている人は、もともと潜入していた奴の元へ転移しているんですか」
「ヲカシノさん、どこにいるっすか?」
『ふたり同時に話さないでよー。ボク、結界の調整してるからちょっと待ってて。守護獣のみんなも待っててよ』
待てと言われている間に、続々と門をくぐってこの星に入ってくる訪問者が、草原にたまってきた。
ワープできずに焦っている者もいれば、何かを待っている者もいる。
「ライトさん、神、赤の神を見つけたっす」
「あ、じゃあ一緒に行きます」
僕は、ジャックさんと自分にバリアをフル装備かけた。そして、ジャックさんについていった。
「こんにちは、赤の神。イロハカルティア星への訪問の理由を教えてもらいたいっす」
「なんだ? ガキか。おまえらはこの門番か?」
「僕達は、門番というわけでもないです。まだ新しい門ができたばかりなので、とりあえず、神々にはご用件を伺おうかと思いまして」
「ほう? 道案内でもするというのか?」
「ご案内が必要なら、人を呼びますが?」
「その前に、訪問の理由を教えてもらいたいっす」
「ふっ、そんなもの決まっているではないか」
『まーだだよー。まだ始めないでよー』
(えっ? ヲカシノ様…)
僕は、ジャックさんの顔を見ると、お手上げと書いてあるように見えた。うん、僕も…。決まってるではないか、の続きはひとつしかない。でも…。
「あの、赤の神、僕はこの島にできた街の長をしています。宿泊施設もありますよ。観光の拠点にいかがですか?」
「は? ガキが何を寝ぼけたことを言っているのだ? わしは観光に来たわけではない。わしはな…」
「あ、じゃあ、星の再生のお祝いとかですか?」
「はぁ? まぁ、祝いたい気分ではあるな…。我がものと…」
「あ、それなら、あのー」
「なんなんだ? さっきから、わしに喋らせないようにしているつもりか」
(あ、もう無理だな、限界…)
『まぁだだよー』
(ちょ、ちょっと、ヲカシノ様!)
その会話に加わる者が現れた。
「何をしているんだ? この星のガキをスカウトか?」
「チッ、おまえまで来たのか、裏切り者」
(な、何? 時間稼ぎ、助かった? でも…)
「ふっふっ、おまえが取り立てられなかっただけだろう?」
「こんにちは、赤の神。えっとおふたりは仲悪いんすか?」
「はは、こんにちはか。お気楽だな、中立の星らしい挨拶だ。悪くない。ふっ、こいつは嫉妬しているだけだ」
「何かあったんすか?」
「興味津々だな。まぁ、おまえくらいの年頃は、他の星に興味があるのだろう。俺は青の神との仲介役を務めているのだ」
「赤の神が、青の神との仲介役ですか?」
「ほう、そっちのチビも興味津々か? ガハハ」
(えっ? チビって……僕のこと?)
「はい、外の世界のことはあまり知らないんです」
最初に話しかけた赤の神は、完全に戦闘モード、侵略しようというピリピリした威圧感を放っていた。
だが、後から来た赤の神は、どちらかというと豪快な印象を受けたが友好的にも思える。
「外の世界は複雑なんだよ。主に4つに分かれているんだ」
「えっ? 赤と青じゃなくて、4つに?」
「勢力は、チビが言うように赤と青の2つだが、他に、おまえ達のように中立なタイプと、どれにも属さないで仲介役をするタイプがあるんだ」
「もしかして、仲介役というのは、全知全能の神の配下ってことっすか?」
「ん? 全知全能の神?」
(えっ? そんな神がいるの?)
「おまえはよく知ってるな。チビは知らぬようだな、すべてを創造した神の……まぁ、成れの果てだよ」
「へ、へぇ…」
「俺は、勢力争いに疲れたんでな。赤の星系に属するが、仲介役になったんだよ。全知全能の神は非戦の神だ。実体を持たない思念のみの存在だからな」
「実体を持たない神…」
(その方が神様っぽい)
「そうだ。全知全能の神の配下というよりは、使者という感じだが、この世界の破綻に繋がるようなことが起こりそうなときは、その争いの仲介役をするんだよ」
「じゃあ、役人みたいな感じなんですね」
「ガハハ、確かにそうだな」
「では、仲介役の赤の神、この星を守るために来たんすか?」
「守るというより、今、進行していることが完成すれば、それを周知させるのが今回の俺の仕事だ。争いへのチカラ干渉は禁じられている」
「そ、そうなんですか」
「裏切り者、なんだ? その進行していることというのは」
「今の段階では、話せないな」
「クソっ、おまえ、わしの邪魔をするなよ」
「この星を侵略しに来たのか? 愚かな奴だ」
「当たり前だろ。赤が奪わねば、どうするんだよ。この星は大きく勢力争いに影響する」
そう言うと、赤の神は何かの合図をした。すると、一気に草原の人数が増えた。
そして、奴らは何かを放した。魔物、いや、魔獣か? 草原の結界を壊そうと、魔獣達が動き出した。
(ヲカシノ様、まだですか? もう無理ですよ)
『もういいよー。いや、待って、ボク、いまマナをチャージ中』
「ライトさん、待ってられないっす」
「ですね」
仲介役の赤の神は、自身にバリアを張り、傍観者になっていた。ニヤニヤと、楽しそうにしている。
やはり赤の神は、仲介役といっても、戦闘好きなんだな…。
ジャックさんは、守護獣達に合図を送った。隠れていた数百の守護獣達が一気に草原に現れた。
侵略者達は、ギョッとしたようだが、仲介役の赤の神はすべてを知っていたかのように、観戦している。
「ライトさん、俺、門に張り付くっす。ヲカシノさんが何をしでかすかわからないから、ヲカシノさんの監視と戦況報告係をしろってナタリーさんが言ってるっす」
「わかりました。じゃあ、僕は守護獣達のサポートをします」
「えっ? 戦わないんすか?」
「僕が暴れると闇を使うので、いろいろと害が…」
「あ、そっか。そうっすね、了解っす。まぁ、ザコばかりだから、結界が破られる心配もなさそうっす」
「じゃ、行ってきます〜」
草原のあちこちで、虎や狼が、侵略者と激突していた。精霊の加護があるためか、守護獣達はハンパなく強い。
だが、侵略者も負けてはいない。草原は激しい衝突が始まった。強い魔法攻撃で大きく負傷する守護獣もでてきた。
(マズイな)
僕は、目を閉じてスゥハァと深呼吸をした。そして目を開けると景色が青く染まった。うん、覚醒完了。
リュックくんは、静かだった。寝てるのかな?
僕は生首達を呼んだ。
(負傷している守護獣達をまわりたいんだ)
そう言うと、サッと僕はその場から消えた。そして次の瞬間、僕の目の前には、背を大きくえぐられて血を流して倒れている虎がいた。
僕は、彼にスッと手を入れ、回復を唱えた。覚醒しているからか、一瞬で治療ができた。さらに、敵の動きもスローモーションだ。
闇が暴走していたときは、怒りで我を失っていたから回復魔法は使えなかったけど、覚醒状態だと、大丈夫なようだ。
僕が治療したことに驚いた虎に、僕は優しく声をかけた。
「精霊だけじゃない。僕もキミ達を守る」
「あ、あんた…」
僕は、やわらかく微笑んで、次の怪我人の元へとワープした。
そして、生首達は次から次へと僕を怪我人のもとへ運んでくれた。これ、覚醒していなかったら、僕は目が回っていたかもしれない。
次から次へと、頭の中にもどんどん怪我人情報の映像が流れてくる。生首達はこの草原に大量にいるようだ。怪我人を見つけるとすぐに映像を送ってくれる。
僕は大量の生首達からの映像に、必死に対応した。
僕が治療にまわっていることは、敵の目には見えていないんじゃないかと思う。それほど、生首達のワープは速かった。
そして、敵もこの異変に気づき始めたようだ。瀕死の状態に追い込んでも、次の瞬間には完全復活しているんだから。
「この草原はおかしい。獣達は死なないぞ。妙な結界のチカラか?」
(いや、僕が治療してるんだってば)
そのとき、甘い香りの風が吹いた。カカオの香り?
ふわっと、大人の姿のヲカシノ様が草原に降り立った。あれ? なんだか機嫌が悪そう?
「妙な結界って何? ボクの結界にケチをつける気?」
(えー……怒ってる?)
すると、守護獣達がヲカシノ様から距離をとった。僕も、思わず生首達に離れようと言ったんだけど…。
その次の瞬間、草原にイナズマが走った。守護獣達は、地に伏せて回避している。
僕があわあわしていると、生首達がはるか上空に僕をワープさせた。上空には大量すぎるほど大量の生首達がいた。
(よかった、みんな無事?)
草原を見ると、侵略者の大半が倒れていた。かろうじて立っているのは、神や、その直臣に近いような者達だろう。
草原ではヲカシノ様と侵略者が、なんだかんだと騒いでいる。そして今度は、ヲカシノ様が炎をまとった。ヤバイことをしでかしそうな気がする。
すると、突然、僕がいるより少し下あたりから、ザーッと雨……いや、ヒョウが降った。
僕の目の前が、ピンク色に染まった。
(ん? もしかして、ルー様?)
ピンクのツインテール、ショッキングピンクと黒の服装が目に痛い。
「ったく、なんであたしまで呼び出されなきゃならないのよ!」
「ルー様…」
「わっ! 何? 急に後ろに現れないでよ」
「いや、僕はイナズマを避けてここに…」
「なーんだ。ほんと、あのバカをなんとかしなさいよ」
「いや、僕には無理です。ルー様にしか止められないのでは…」
「嫌よ、そんなの!」
「はい?」
「あのバカの周りには、たくさん人がいるじゃない。あんなに、人だらけの場所に行ったら、あたし、頭が痛くなるじゃない」
「あー、なるほど…。それで空に…」
「あんたがなんとかしてきなさいよ!」
「は、はぁ…」




