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252、名もなき島 〜 新しい門

 女神イロハカルティアは、黄色い太陽系を完成させ、全知全能の神から、第三の勢力、中立の星系の誕生を認められた。



 時はそのほんの少し前、まだ、イロハカルティアに協力する中立の星の神々が、恒星を作っている最中に遡る。




 イロハカルティア星から放たれた魔導エネルギー砲に巻き込まれた青の神ダーラ達は、再び、イロハカルティア星付近に舞い戻ってきていた。


 魔導エネルギーが突っ込んだ小惑星群は大爆発を起こし、まだ連鎖的に爆発が続いていた。


「ダーラ様、ご無事ですか。直撃を受けられたようでしたが…」


「魔防バリアには自信がある。あの程度、なんてことはない。おまえ達の状況はどうなっている?」


「はい、巻き込まれたのは20名ほどでしたが、全員無事ワープしてきております。ただ、火傷のひどい者も多く、白魔導士が治療に当たっています」


「そうか。しかし、イロハカルティアもバカだな。あんな魔導エネルギーをぶっ放して、俺達を焼失させる気だったのだろうが…」


「所詮は、中立の星のしかも妖精です。戦い方などわかっていないのでしょう。おそらく全力の魔導砲でしょうから、もう反撃する力は残っていないかと」


「この魔力の使いすぎで生命が尽きかけているやもしれぬな。自業自得だ」


「女神は再び、この星に結界を張って引きこもるのでしょうか」


「それはない。星にはエネルギーが満ちている。星からエネルギーを吸収できるからな」



「治療が終わりました。白魔導士は半数が魔力切れ寸前ですから、同じ規模の治療は難しいそうです」


「ふん、妖精の浅知恵でも、白魔導士を消耗させることくらいはできたか」



 ダーラの配下の軍隊は、散り散りになっていたが、ようやく全員が戻ってきた。

 ダーラは、体制を整え、イロハカルティア星の古い門への侵入口へと移動させた。



 すると、そこには、ふたりの男の姿が浮かんでいた。


 ひとりはダーラも見たことのある男だった。ペンラートの幻術士だ。いずれ、自分の配下に加えようと考えていた有能な男だった。


 もうひとりは見たことのない男だ。ダーラはサーチをしてその表情をくもらせた。その男には、体力魔力のゲージがない。すなわち、人工的に魔力から生み出された存在だとわかる。


 そしてその人工的に作られた存在が、ダーラに向かって話しかけた。


「何? あんたら」


「は? ダーラ様に向かって、なんだその口の利き方は」


「ダーラ? 知らねーな。この星に遊びに来たなら、入り口は向こう側だ。ここは、閉鎖する作業中だ」


「なんだと? 貴様! なんて無礼な!」


 挑発に乗って熱くなる配下を手で制し、ダーラは口を開いた。


「青の神ダーラだ。閉鎖前にその門を使わせてもらう」


「それはできねー相談だな。ここから通すと、うるさい奴にギャーギャー文句を言われそーだからな」


「それは、イロハカルティアのことか?」


「あぁ、神なら知り合いか」


「ふっ、おまえは女神によって作られた存在だな」


「まぁ、そーだな。オレは女神の魔力から生み出されたからな」


「魔人か? あまりにもその戦闘力は低いようだが?」


「ふん、隠してるからな。じゃないと街を歩けねー」


「ほう、街を歩くのか? 魔人が。面白いことになっているのだな、この星は」


「歩いて悪りーかよ」


「いや、クック。おまえは面白いな。俺を怖れぬとは…。サーチ能力を持たないのか」


「いちいちサーチしてどーすんだよ。そんな暇じゃねーんだよ。あんたらは、新しい門へ回ってくれ。見えるだろ? 星に、大量に入りたがるお客でいっぱいだ」


「おまえ、ダーラ様に対して…」



 挑発に乗せられた配下を再び手で制し、ダーラは興味深そうな顔をしていた。


「おまえは、ペンラートの幻術士だな。この魔人と知り合いか」


「そのような意味のない質問に答える義務はありませんよね」


「質問を変えよう。おまえは女神イロハカルティアの配下になったのか?」


「まさか。なぜ俺があんな腹黒い奴に仕えなければならないんですか。俺の主君は別人ですよ」


「じゃあ、ここで何をしている?」


「俺の主君から女神に貸し出されたんですよ。少し手伝ってやらないと、俺の主君が女神にグダグダ言われるんでね」


「ほう。それで、女神の魔人と共に、古い門の閉鎖作業か」


「俺には閉鎖する能力などないですから、まぁ、道案内ですね。新しい門はあちらですと…」



 ダーラは、このふたりの男を交互に見た。ふたりとも自信に満ちた表情をしている。


 この魔人はただの世間知らずか、もしくは高い能力を隠しているのか、ダーラは試したくなった。もし後者なら、奪って自分に仕えさせることも可能だ。


 幻術士が共にいるのは、魔人が他の神に奪われないようにするためなのだろう。そう考えると、ダーラは気分が高揚するのを感じた。



「あー、ダーラ様、妙な気は起こさない方がいいですよ。この魔人には主君がいますからね。主君から引き離すと魔人は消滅しますよ」


「ほう、俺の思考を読むか…」


「俺にはそんな力はありません。顔に書いてありますよ、魔人が欲しいと…」


「ふん、おまえは知らぬのだな。神に仕える魔人は、別の神に託すことができる。イロハカルティアから俺に支配権を移すことなどたやすい」


「オレ、確かに女神の魔力から作り出されたが、女神に仕えているわけじゃねーぞ。どちらかといえば、女神とは仲が悪い」


「なんだと? ということは、おまえは魔道具から進化した魔人か?」


「あぁ、そーだよ。そんなことより、あっちの門に、さっさと移動してくれねーか。邪魔なんだよ」


「ふん、魔道具ならいらぬわ。俺は古い門から入る。おまえこそ邪魔だ、どけ! 退かぬなら壊すまでだ」


「ダーラ様、そんなことをこの魔人に言うのは命取りになりますよ。彼は、道具扱いされることを嫌う」



 そのとき、地上を覆っていた厚く白い霧がスゥ〜っと消えていった。それと同時に、古い門を地上側が閉鎖し、宇宙側の入り口だけがぽつんと漂っていた。


「やっと、閉じたか」


 そう言うと、魔人は手から何かを放ち、宇宙側の門を消し去った。


「じゃあ、カース、戻ろーぜ」


「あぁ」



 青の神ダーラ達を完全に無視したようなこの態度に、ダーラ本人も、怒りを感じたようだ。


「おまえら、ちょっと待て」


「なんですか。星に用事ならもう門は新しい門だけですよ。門以外のところからの侵入はできません。星の生命力が強いですから、防御結界に阻まれますよ」


「カース、相手にしなくていいって。オレ、腹へった」


「あぁ、わかった」


 すると、ふたりはスッとその場から消えた。



「あいつら、舐めたマネを…」


「もうよい。魔道具に腹を立てても仕方ない。奴らは自分の仕事が終わって帰っただけだろう」


「門からしか出入りできないのではないのですか」


「ペンラートの幻術士なら、どこからでも侵入するだろう。あの魔道具もたいした戦闘力ではなかったしな。もうよい。それより、あの門からしか入れぬようになったが…」


「先に群がっていた奴らが、イロハカルティア星に入っていきます」


「考え方を変えれば、まぁこれも悪くはない。この星の連中を疲弊させてから、我々が入れるのだからな」


「そうですね。では、行列になっている後方に位置取りましょうか」


「そうだな、クック。イロハカルティアめ、俺に刃向かったことを後悔、いや絶望させてやる」







 白い霧が完全に晴れると、新しい門から次々と人が入ってきた。みな武装している……侵略者だ。


 門には、特に門番はいない。いや、僕が門番をしなきゃならないんだっけ。


「ライトさん、そろそろお仕事っすよ」

 

「あ、はい、了解です」


 お菓子の家から、ヲカシノ様のスイーツを堪能していたジャックさんが出てきた。

 そういえば、ジャックさんは白い霧に全く動じることなく、たぶん黙々とスイーツを食べていたんだと思う。


(かなりの大物だよね)



 僕は、といえば、草原に座り込んだままだった。なんだかいろいろ驚きすぎて、頭が働かない。


『腹へったんだけど、魔力、吸収してもいーか?』


(え? リュックくん、いつ戻ってきたの?)


『たった今だけど。エネルギー切れギリギリだから、一気に吸収するぞ』


(あ、わかった。魔ポーション飲むよ)


 僕は新作の、と言ってもそれほど新作でもないが、ブルームーン風味のダブルポーションを取り出した。

 すると、肩から一気に魔力が吸われる感覚が…。


『おい、飲んどけよー』


(あー、うん。一気に吸うと気持ち悪いよ)


 僕はダブルポーションを一気に飲み干した。すると、またぐんと魔力を吸われる感覚が…。


(リュックくん、気持ち悪いから、ゆっくりしてよ)


『そんな暇ねーぞ。ダーラもこの門から入ってくるぞ』


(えっ……わ、わかった)


 僕は、またポーションを飲み、リュックくんが一気に吸収する…。結局、ポーションを6本飲んだところでストップ。さらにもう1本飲んで、僕自身の魔力も回復させた。


(リュックくん30万以上吸収したよね。そんなに魔力高いんだ)


『オレの場合、すべての動力はおまえの魔力だからなー』


(あ、そっか)


『丸一日離れて、アレコレやってると枯渇しちまうみたいだな……オレも電池、積みてーよ』


(リュックくんも覚醒できるかなー?)


『もうオレ、最終進化が終わってんだけどな』


(だよねー。あれ? リュックくん、離れていてもベルトから吸収できるんじゃないの?)


『多少の距離なら吸収できるが、オレはまだ魔人になって日が浅いからか、吸えなかったんだよ』


(どこ行ってたの?)


『カースの案内で、あちこちの星を回ってた。新しい太陽系を作るには、コアを惑星となるそれぞれの星に取り込ませないといけねーとかで、神々にデカイ玉を配ってたんだ』


(えっ? 宇宙のあちこち?)


『あぁ、時の神がなかなか捕まらなくて疲れたぜ。星は見えてるのにタイムトラベルしてるから、追いかけ回してよー。あれで魔力ゴッソリやられたな』


(時空を超えてたの!?)


『あぁ…』


(そんなに離れたら、ベルトから吸収なんて無理だね)


『同じ星にいても、おまえが城にいて、オレが地上にいるときでさえ、無理だった…』


(そっか。お疲れ様〜)


『おー、疲れたぜ、ったく』


(カースも一緒に戻ってきたの?)


『あぁ、報告に行くって言ってたぜ。オレが腹へりだったから、一人で行ってくれたみてーだな』


(そっかー。わかった、カースも疲れただろうね)


『あ、カースには弁当渡したからな。そんなに疲れてねーと思うぜ』


(へ? 弁当?)


『あぁ、バーベキューの余りを持って行ってたからな』


(あ、それで店でずっとバーベキュー焼いてたんだ)


『まぁな。オレは食べなくて平気だけど、カースはそうもいかねーだろ』


(ふふっ、リュックくん、気が利くねー)


『おまえに似たのかもな』


(ん?)


『そんなことより、いつまでも座ってていーのかよ?』


(わっ、やばっ)


 僕は、慌ててジャックさんの元へ走った。



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