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251、名もなき島 〜 黄色い太陽

「予想どおり、出てきよったで」


「ふむ。場所は、予想どおり荒野の古い門から入ろうとしておるか?」


「あぁ、守護獣が大量に待ち構えている新しい門から入るわけないやろ。そこにさらに、餌としてライトを配置してるんやから、罠だとしか思えへんで」


「しかも、守護獣たちを隠れさせてるんだもの。ライトくんは門の近くのお菓子の家の中だけど、草原にはあちこち結界が張ってあることも、注意深い神々なら察知するわよ」


「ヲカシノが張り切ったのじゃな。暴れるなら星を壊さぬようにとしか言っておらぬが…」


「そんなこと言われたら、あの戦闘狂が嬉々として準備するに決まっとるやんけ。精霊まで騙すとか、どんだけ腹黒いんや」


「別に騙してはおらぬ。古い門を閉じるタイミングが少し遅れてしまっただけじゃ」


「はぁ、ザコは新しい門に入るつもりやろな」


「そのための誘導じゃ。ザコは下手すりゃ死ぬからの。妾が弱い者いじめをしたと思われてしまうのじゃ」


「星の外からだと、新しい門にはまだ何の警備もされてないようにみえるわね。古い門は、閉じる手続きで魔導士がウヨウヨしているもの」


「結界が弱まったら、すぐに開始するのじゃ」


「でも、うまく巻き添えになるかしら?」


「別にそれはどちらでもよいのじゃ」



 女神イロハカルティアは、そのタイミングをはかっていた。そして、その時はきた。この星の結界に亀裂が入ったのだ。



「どどーんと開始じゃ!」



 そう言うと、彼女は、女神の城からイロハカルティア星へ向けて白い霧を噴射した。その霧は、結界内に広がり、瞬く間に星を厚く覆った。

 これから起こることから、星にいるすべての生き物を守るための、保護バリアとなる霧だ。



『時の神、準備はよいか?』


 彼女は、協力者となる神々へ作戦開始を告げた。



 ドドドドドドドドッ!



 彼女は、城から星の外へ向かって、強烈な魔導エネルギーを放出した。

 その魔導エネルギーは、宇宙空間を光速を超えるスピードで、はるか彼方の目標となる、生命反応のない小惑星群に突っ込んだ。



 ドババババーーン!

 バーン!

 バーン!



 連鎖的に大爆発を起こし、小惑星群は塵と化し、ガス雲ができた。あたりには、暴風が吹き荒れ、爆破されなかった岩やら小惑星を引き込み、さらにまた爆発が起こっていた。


 その爆風、暴風が吹き荒れる宇宙空間へ、どこからか魔法が放たれた。魔法の光は、いくつも、あちこちから降り注いだ。


 やがて、その暴風のブラックホールと化した原型の中に、周辺を漂う岩や星屑が吸い寄せられていった。


 さらに、あちこちから魔法の光が降り注ぐ。


 そう、女神イロハカルティアに協力している中立の星の神々だ。彼らには戦うチカラはなくても、別のチカラがある。


 ある者は太陽を作るために小惑星を集め、またある者は核爆発、核融合を促進させ、またある者は時を操り、またある者はその恒星の引力を調整した。


 そうして、神々は、本来なら膨大な時間がかかる恒星を、わずかな時間で作り上げたのだ。



 ここに黄色く輝く新たな太陽が誕生した。



 さらに、新しくできた黄色い太陽のまわりには、協力者となった中立の星が集まってきた。黄色の太陽系の誕生である。



「ふむ。意外に早くできたのじゃ」




 女神イロハカルティアは、すべての神々に向けて、新たな第三の勢力、黄色い太陽系の誕生を知らせた。


 黄色い太陽系は、中立の星の星系にするということ、勢力争いを始めた星は黄色い太陽系から追放するということ、また、新たに入りたい星は中立を守るのであれば受け入れると発表した。


 また、赤い星系や青い星系が、黄色い星系に属する中立の星に対して侵略行為をしようとするなら、イロハカルティア星がそれに対して、防衛に介入することもあると表明した。



『黄色い星系の誕生、おめでとうございます。全神を代表して、お祝いを申し上げます。これより、黄色い星系に属する星は中立の星と認め、黄色い星系への侵略は、神としての格を著しく下げる行為といたします』


『全知全能の神、ありがとうございます。素早い判断に感謝いたします』


『事前にいくつかの星の神々から申請を受けておりましたからね。しかし、無茶なことをされましたね、イロハカルティア。せっかく星の再生により若返りができたのに、これほどの魔導エネルギーを使うとは……まさか、もう生命が尽きるのではありませんか』


『星の再生時に放出されたエネルギーを吸収した宝玉を使いましたから、その心配はありません』


『なるほど、星の再生前からの計画でしたか。弱き神々が潰されることが気がかりでした。この度の勇気ある行動に敬意を表します』


『もったいないお言葉です』


『互いに、より良き世界となるよう努力いたしましょう』






 僕は、何が起こったのか一瞬わからなかった。空が真っ白になり、その白いものがどんどん厚くなり太陽の光がさえぎり始めたのだ。

 曇ってきたどころではない。濃霧だった。こんな自然現象は今までにも経験したことはなかった。


 ヲカシノ様のお菓子の家から、外に出てみると、僕の頭スレスレくらいの高さまでの厚い濃霧が降りてきていた。

 太陽はすっかりさえぎられて、あたりは薄暗く幻想的な景色になっていた。


 霧が白いからまだかろうじて視界は保たれていたが、守護獣たちは、かなり動揺しているようだ。


 目が少し慣れてきた頃、ドドドドドと、すごい振動を感じた。地震ではない。大気が揺れているのだ。その直後、ブワッと身体を持っていかれるような重力を感じ、僕は草原に倒れた。


(な、何? 気持ち悪い…)


 僕は、立ち上がることができなかった。草原に座った状態であたりを見渡したが、特に侵略者らしき姿もない。


 濃霧のせいで誰もがその場から動かなかった。何かされたわけではないが、本能的に動くのはマズイと感じたんだ。


「ライトさん、これ、女神様の霧バリアだね」


「あ、星を守るための?」


「うん、恒星はすんごいエネルギーを発するからね」


「ということは、いま、太陽が作られているんですね。あれ? 太陽って何億年もかかるんじゃ?」


「神々が協力しているよ。この霧が晴れないと、誰も門を通れないよねー」


「そうなんですね、本当に太陽なんて作れるのかな」


「ふふ、作ってるじゃない。ライトさん、たまに変だよね」


「あー、はぁ…」



 そして、しばらくするとスゥーっと霧が薄くなり、青空が戻ってきた。空を見上げて僕は驚いた。


(赤い太陽が、黄色に変わってる)


「どうやら、うまくいったみたいだね。黄色い太陽なんて、変な感じー」


「僕は、逆に太陽は黄色い方がしっくりきます」


「へぇ、やっぱり、ライトさん変だよね」


「ですかねー。太陽が見えたということは、襲撃者が…」


「そろそろ来るね! 楽しみ」






 イロハカルティア星のすぐ近くの宇宙空間には、大勢の軍隊が待機していた。

 ほとんどの者は地上に潜入させた配下からの情報で、新しい島に繋がる新しい門の真上にいた。


「まだ地上の準備はできてないようだな」


「門を開けても結界が完全に消えるまでは攻め込まれないと思っているんだろう。愚かな奴らだ」



 一方で、古い門の真上にいる軍隊もあった。こちらに陣取っているのは、青の神ダーラの配下だった。


「新しい門は、あれは罠だ。何も居ないように見せかけているが、門の近くの小屋には強い精霊の気配がある」


「それに、草原には何百もの獣が隠れている。あれは守護獣だろう」


「小賢しいマネをしているが、星の外からでも我々には見抜く能力があることを知らないようだ」


「古い門には魔導士がいるが、閉門作業に手間取っているようだな。さっさと閉じないのが奴らの命取りになるんだ、くっくっ」


 そこに、青の神ダーラもやってきた。


「ダーラ様、自らお越しにならずとも…」


「おまえ達に任せておいては、また取り逃がすだろう? それに、あのガキ、女神と共に空に映ったそうだな」


「はい、そう聞いています。やはり女神の番犬でしたね」


「こちらの古い門から侵入するつもりか?」


「はい、新しい門の方には先客も多いですし、何よりおかしいんですよ。誰もまだ見張りがいないように見える」


「うん? ほう、なるほどな。俺にケンカを売っているらしい。あのガキを門の近くに待機させて、俺を釣る餌のつもりか」


「草原には何百という守護獣が隠れています」


「ふっ、面白い。新しい門から入り、蹴散らしてくれよう。ん? いや待て、結界か…」


「ええっと、古い門ですか?」


「いや、新しい門だ。草原のいたるところに様々な種類の結界が張り巡らされている」


「新しい門の方は、私には防御結界だけに見えますが、ダーラ様には他にも見えるのですか」


「神にも見えぬ結界か。俺にも何の結界かわからぬものがある。ただの綿菓子のように見える奇妙なものが、蜘蛛の巣のように何ヶ所かに張られている」


「は? 綿菓子ですか? 子供の遊びでは?」


「島の他の地へ繋がる道を封鎖するように張られておる。それに、綿菓子に似せているがあれは強力な結界だろう。島の他の場所への移動を封じるものだ」


「では草原に封じ込める作戦…」


「うむ。古い門から侵入するぞ!」


「はっ! では予定通りに」



 古い門への侵入路にズラリと並び、その時を待っていた。予定より少し遅れて、イロハカルティア星の保護結界に亀裂が入った。


「よし、亀裂が広がれば侵入可能だ。一気に行くぞ!」


 ダーラは、そう号令をかけて星へ目を戻したとき、星の異変に気がついた。


「なんだ? 水蒸気か? 星が真っ白に覆われている」


「保護結界が消えるときには様々な天変地異が起こります。その一つかと…。透視をしてみると、地上も驚き混乱しているようです。我々には好機です」


「ふっ、あの女神が目くらましでもしたのかと思ったが、違ったか」


「ただ、どんどん白い層が厚くなっています。門の入り口も白い層に覆われています」


「水蒸気なら、結界の亀裂が広がれば、宇宙空間に放出されるだろう。侵入が少し遅れ……な、なんだ!?」


 イロハカルティア星全体が強く輝き、そして魔導エネルギーが迫ってくるのをダーラは感じた。


「何か来る! 退避!」


 そう叫んだ直後、ダーラは光の中にいた。イロハカルティア星から放たれた強烈な魔導エネルギーに飲み込まれ、光速を超える速さで、星から離されていくのがわかった。


 配下もかなりの数が巻き込まれている。宇宙空間を漂う岩に触れると爆発し、さらにエネルギーを増しながら、その光は進み続けた。


 ダーラは、必死にそのエネルギー砲から逃れた。配下もそれぞれ必死に、エネルギーの波から離れた。


『魔導エネルギーの進む先には小惑星群がある! 全員ワープだ! 大爆発に巻き込まれると死ぬぞ』


 そう念話を飛ばし、配下がワープで消えるのを確認したのち、ダーラもワープ体制に入った。

 彼がその場から離れた直後に、魔導エネルギーは小惑星群に突っ込んでいった。



『イロハカルティア星の古い門への侵入口に、集合せよ。こんな攻撃では我々を撃退できぬことを思い知らせてやる!』



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