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25、ハデナ火山 〜 剣と魔法で作るスープ

 俺は、あまりにもあり得ない光景を見てしまったっす。


 ライトさんが…あのライトさんが、そう、かよわすぎるあのライトさんが、精霊ハデナの守護獣を、一瞬で手懐けたっす!


 あの赤き大狼は、狼系の守護獣の中でもダントツで好戦的なんす。守護獣のくせに、機嫌が悪いと手当たり次第に冒険者を虐殺するんす!


 普通の守護獣なら、その地をけがさなければ冒険者が何をしてても知らんぷりっす。

 でも、アイツは、自分の視界に入っただけで、すぐブチ切れるっす。狂ってるんす。まぁ…守護獣は、主人を失くすと、狂っちまうものかもしれないっす。

 精霊ハデナが復活するには、まだまだ時間がかかるっす。それまでは、誰もアイツに近寄っちゃいけないんす!





「ケトラ様?大丈夫ですか?落ち着きました?」


 僕は、精霊ハデナ様の守護獣、ケトラ様に、キュッとしがみつかれていた。いや、ギューッと、かな。


 さみしがり屋な子供のような守護獣様は、主人の精霊ハデナ様が殺されてしまったことで不安定になっているようだった。

 ひとりぼっちでここを守護するなんて、きっと、僕の想像をはるかに超える大変さがあるんだと思う。


「うん。大丈夫…」


 そう言うと、彼女は、腕の力を緩めた。

 彼女は、アトラ様に似ているけど、背はかなり小さい。背の低い僕の肩くらいまでしかない。それにちょっとやんちゃそうな感じ。やはり子供なんだろうな。


「じゃあ、よかったです。あの…」


 僕がケトラ様に、アトラ様の知り合いなのかと聞こうとしたときに、誰かがこちらに走ってくる気配がした。


 その瞬間、ケトラ様は、僕からパッと離れ戦闘態勢に入ろうとした。が、こちらに走ってきた人が僕の名前を呼んだことで、その動きを止めた。


「お兄さん、またね」


 そう言うと、彼女は、その場からフッと消えた。






「ライトさん!大丈夫ですか!」


 こっちに走ってきたのは、さっき僕と一緒に道の魔物を蹴散らしていた、あの新人っぽい隊員さんだった。


(なんか、あわててる?)


「えっと、はい。野菜も果物もだいたい集まりました」


「え?あ、そうじゃなくて…いま、あの獣人に捕らわれてませんでした?」


(あ、ギューッとされてたのが、そう見えたのかな?)


「あ、あれは、いえ、大丈夫です」


「ぜんっぜん大丈夫じゃないっすよー。俺、生きた心地しなかったっす!」


「ん?どうしてですか?」


「ライトさんは、ご存知ないかもですが、いまここに居たアイツ、赤き大狼って呼ばれる この山の守護獣なんですよ。狼系の守護獣は、どれも危ないんですよ。好戦的なのが多いですし、機嫌を損ねると血の雨が降るんです」


「狼系の守護獣の中でも、ここのハデナの守護獣は、ダントツで危険なんす。しかし…なんていうか…ありえねーっす」


(やっぱり、ケトラ様は過剰防衛してるんだな)


「う、うーん…大丈夫ですよ、普通にしてれば。怖がってこっちから攻撃したりするから、ガツンと反撃されるんじゃないですか?」


「いやいや、アイツは自分の視界に入っただけでも、気にくわないときは襲ってくるんですよ。守護獣は、主人がいないと、ただの獣ですからね」


「あ、ここの精霊ハデナ様は、いったいどうされたのですか?」


「確か、ここの山が初めて噴火したときに、何者かに殺されたらしいです。そもそも、ここは火山ではなかったのに、数百年前に、急に噴火したそうです」


「精霊ハデナが死んだから噴火したんっすかね」


「いえ、噴火の方が先だと伝わっています。精霊は一度死んでしまうと、復活は、千年後だそうですから、まだ500年以上は先ですね」


(500年後…か。でも、復活するんだ!よかった)


「精霊が復活するまでは、アイツに近寄るなと言われてるっす。主人を失った守護獣は、たぶん狂っちまうんす」


「寂しいだけなんじゃないですか?」


「狼系は、寂しがらないと思いますが…」


(あ、そっか、一匹オオカミとか言うもんな、でも…)


「まぁ、とりあえず施設に戻った方がいいっす。野菜を待ってるかもしれないっす」


「そ、そうですね。了解です」


「ライトさん、さっきのあれ、なんだったんすか?特殊能力っすか?」


「え?いえ、別に…お話してて、その流れで…」


「そうだ、ほんとにどうして大丈夫だったのですか?あんなに近寄って……それで生還できるなんて奇跡です」


(どんだけ怖がられてるんだ…ケトラ様は…)


「あはは…」






 施設に戻ると、肉グループはみんな戻ってきていて、狩ってきた肉の血抜きをしたり解体したりしていた。


「あ、すみません。遅くなりました」


「いや、かまわんよ。野菜は、洗って塩かけるだけだろ?こっちは、食えるまでにまだまだ時間かかりそうだ」


「えっと、野菜は、サラダにする感じですか?」


「そんな上品なもん、できねぇよ。野菜の上に焼いた肉を乗せて食うんだよ」


「え…他のメニューは?」


「パンは、ここで売ってるのを買ってくればいいから、あとは、スープがあれば嬉しいがな。誰もそんなもん作れねぇし」


「あ、僕、たぶん、簡単なスープなら作れます。作ってもいいですか?」


「まじか?助かるよ、坊や」


「じゃあ、肉を少しもらっていいですか?ダシ出ると思うので」


「そこの解体したやつ、適当に持って行ってくれ。あ、鍋はあっちで借りれるぞ」


「はい、わかりました」




 僕は、調理器具が無造作に積み上げられているところから、大きめの鍋を取り出した。


 まわりを見渡すと、火は、薪を使っている人達と、魔法を使っている人達がいた。僕は、当然、薪だな。


 水道がないから、鍋は水辺で洗うのかな?いや水辺は飲み水か…うぅ〜仕方ない。

 僕は、水魔法を使う。うん、相変わらず公園の水飲み場…。でも、逆にこれはこれで使いやすいな。


 そして、鍋をかまどっぽいとこに置き、その下に薪を入れて…火を……あれ?火をつける道具がない!…仕方ない。

 僕は、火魔法を使う。うん、相変わらず、ライターだな…。だが、まぁこれで火はついた。


 そして水…また、チョロチョロと鍋の中に水魔法。チョロチョロすぎて、なかなか貯まらない。


 そして、肉を…うーんゴツイな…。僕のナイフは通らなそうだな…

 そこにちょうどジャックさんがやって来た!ナイスタイミング!


「ジャックさん、すみません。あの肉、切り刻みたいんですけど、ゴツいナイフないですか?」


「切り刻むんすか?一口サイズくらいっすか?」


「はい、そんな感じで…へ?わっ!え?えっ?あの…いま何が起こったんですか!?」


「えっと、斬り刻んだっす、レイピアで」


「斬った…?…全く見えなかったです」


(ジャックさんって、もしかしたら物凄い剣豪なのかもしれない)


 僕はあまりにも驚いていた。たぶん、口がポカンと開いていたんだと思う…。すると、ジャックさんがまた…


「ぶふふふっ。なんすか?これくらいのこと誰でもできるっす。ぷぷっ、あははっ。ダメだ、ツボに入ったっす」


 僕のそばに座り込んで、笑い転げている…

 そんなジャックさんを、ジト目で見つつ…あ!鍋!


 水が沸騰してガタガタと鍋が音を立てている。


 僕は、気を取り直し、切り刻んだ…いや、斬り刻んだ肉に、魔法袋から出した塩コショウをふって、ちょっとモミモミ。そして、鍋の中に投入。

 そして、魔法袋から、摘んだ草の中から火を通しても良さそうなのを取り出し、水魔法でチョロチョロ洗って、適当にちぎって鍋に投入。

 ついでに、サラダ用かなと思ってたトマトっぽいやつも、ナイフで適当に切って投入。

 

「ライトさん、料理できるんすか?」


「僕、バーテン見習いやってたんですよ、前に。だから、調理補助とか、あと、まかない飯作ったりしてたんです。簡単なものしか作れないですけど…」


「いや、充分すごいっす。俺、食べる専門家っす」


「あははっ」


 そして、僕は、味見をしてみる。ちょこっとスプーンですくって、ふーふーと冷まして、味見。


(うん、まぁまぁかな。コンソメの素を入れたいとこだけど…まぁ、仕方ない)


 再び、塩コショウを少し投入して、味を調えた。よし、完成!




 そして僕は、2品目を考えた。


(やっぱ、肉が大量にあったから、サラダ欲しいよね)


 僕は、さっき取った、キンカンみたいな果実と、プラムみたいなデカいやつを取り出した。

 酢と油があればドレッシングできるんだけどなぁ…と思いつつ、果物2種をタネを取り除いて、器でつぶした。

 そこにスープの上に浮いている脂をちょこっと投入。果実も脂もドロドロしてるから水魔法でチョロチョロと、薄める。で、味見。


(あ!意外に悪くないな。プラムみたいなやつの酸味がフルーツ酢っぽいような気がする)


 ちょっと甘いかな?と思って、塩コショウを多めにいれて味を調える。うん、ま、こんなもんかな。


 魔法袋から、ぷちぷちと大量に摘んだ草を取り出す。ほうれん草みたいな形だけど、味はあまりない。みんなこの草で肉を巻いて食べるらしい。

 適当にちぎって、サラダっぽくしてみた。果物2種もカットしておいた。まぁ、こんなもんかな。




 そして、じーっと見ていたジャックさんに手伝ってもらって、みんなの元へ持っていく。僕は、当然、体力ないので…重いスープはジャックさんが持ってくれた。

 僕は、サラダとドレッシングとフルーツを持って行った。



「まじか!ほんとにスープ作れたんだ」


「ライト、それ、我慢せんでも食えるんかぁ?」


(タイガさん、毒舌…)


「一応、味見しましたから、たぶん大丈夫ですよ。食べれるものしか入れてないですし」


「当たり前やんけ、食べれんもんいれてどないすんねん」


(タイガさん、毒舌…)


「肉も焼けたし、さて、食うかー」


「おー」


 そして、みんな、それぞれ食べたいものを手に取り、自由に食事を始める。


 僕も、おなかへった。


「いただきます」


 みんな、とりあえず、肉、肉、肉!

 僕も、レオンさんがオススメという肉を食べた。


 こんな骨付きのデッカイ肉にかぶりつくのは、はじめての経験だった。ちょっと生臭いし焦げ臭いけど、美味しかった。


 そして、パンと一緒にスープを食べた。パンは予想どおりパサパサだったけど、逆にスープをよく吸っていい感じだった。

 サラダもドレッシング、まぁ悪くない。このドレッシング、肉につけてもいいかもしれない。


(あれ?スープ食べはじめた人、みんな静かだ…ヤバい、口に合わないんだ…あわわ)


 すると、タイガさんが口を開いた。


「ライト!これ、なんや?」


「えーっと…適当にぶち込みました。すみません」


「いや、悪くないで。赤い実が、ええ仕事しとるわ」


(タイガさん、毒舌……じゃない!?えっ?)


 みんな、スープもサラダもしっかり食べてくれた。


(よかった〜)


 僕は、ホッとしたのだった。

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