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238、カリン峠 〜 防衛協定

 いま、僕はちょっと緊張している。すぐ横にいるクライン様も緊張しているようだ。


 その一方で、大魔王メトロギウス様は、厳しい表情をしている。一瞬たりとも油断できない、そんな感じの、僕達とは違った緊張感でピリピリしているように見える。


 そして、妖狐に化けた女神様は、あちこちうろちょろしていた。新たにやってきた人に、タタタっと駆け寄り、なんだかんだと話をしている。なんだか楽しそうに見える。


 


「さて、これで主要な魔王は集まりましたわね。ふふっ、やはり皆さん、慌てていらっしゃいましたね」


 ドラゴン族の魔王マーテルは、この場に集まった十数人の魔王を見渡して、にこやかに話し始めた。


 彼女に見惚れている魔王もいるが、逆に半端なく警戒しているような者もいた。


「そりゃ、ドラゴン族の魔王から、緊急招集の連絡が来るなんて、慌てて当たり前だ」


「さっき、この付近で、強い聖魔法が使われただろう? まだ星に保護結界があるのに、なぜそのような襲撃者が現れたのか、状況を確認しにきたのだ」


「ダークドラゴンへの襲撃だったのか? 闇竜が滅ぼされたら、地底の戦力には大きなダメージだ。外からの侵略者をどう撃退すべきか」


「まさかとは思うが、ドラゴン族の魔王、おぬし、外からの侵略者に操られているのではあるまいな?」


「さっきから、ちょろちょろしている少女は何なんだ? 妖狐にしては、子供の割に魔力が高すぎるようだが…」



 女神様は、何をうろちょろしているんだろう? 話し声が耳に入ってこない。念話ではなく、もっと原始的に……コソコソ話をしているようだ。



 自分のことが話題になったことに気づいた彼女は、マーテル様の近くへと、タタタと駆け寄った。


「ふふっ、ティアさんは、ほんと、可愛らしいわね」


「まぁ、謎の美少女じゃからな。ふむ、カースはおるか? ライト、カースを呼ぶのじゃ」


「えっと、何をさせるんですか?」


「呪詛神デルガンダが、覗き見せぬようにするのじゃ」


「洗脳されている人がいるんですか」


「うむ、魔王はどれも大丈夫じゃったが、配下は、結構まずいのじゃ。あ、アレでもよいが…」


「媚薬の副作用がありますよ…」


「こんな場所でそれはダメじゃ。ライトには荷が重いのじゃ」


 女神様は、ちらっとマーテル様を見た。


 確かに、この場で媚薬効果のせいで、うっかりマーテル様に近寄ってしまったら、血の雨が降りそうだ。

 マーテル様は、魔族最強のドラゴン族の魔王だ。脳筋ではないにしても、絶対めちゃくちゃ強いはず…。



「あら、何か面白いことを考えているのかしら?」


「ライトは、ポーション屋なのじゃ。変な呪い付きのが多いが、美味なのじゃ」


「えっ、ポーションって、人族の薬ですわね? 一度、魔ポーションを飲んで……耐えきれずに、吐いてしまいましたわ」


 すると、女神様は、またアゴをくいくいと…。ポーションを渡せはわかるけど、何を渡すの? あまり知られたくないものもあるんだよね…。


「マーテルは、魔力は5万くらいはあるのか?」


「魔力ですか? さぁ? どうでしょうねー。サーチされたのではないのですか?」


「そんなめんどくさいことは、しないのじゃ。聞く方が早いのじゃ」


「ふふっ、私は夢幻竜の変異種、魔導系かもしれませんわよ?」


「質問を変えるのじゃ。いま、魔力は5万くらい減っておるか?」


「そうですね。ここは戦乱が激化していましたから、多少は減っていますわ」


 すると、女神様は、またアゴをくいくいと…。えっ? 新作を出せって? でも、あれは…。


「ライト、あの青紫色の新作を出すのじゃ」


「でも、あれは呪いつきです…」


「構わぬ。おそらく、マーテルなら、クリアポーションで解除できるのじゃ。カースはまだなのか?」


「えっ? あー、うーん」



 すると、目の前にカースが現れた。


「ティアちゃん、俺、ずっとここに居るけど?」


「ふむ。じゃあ、ピカピカベールを張るのじゃ」


「ピカピカベールねぇ…。俺、ティアちゃんの配下じゃないぜ?」


「そんなもの、わかっておるのじゃ。ライトには役不足なのじゃ。それを放置するのか?」


「放置も面白いかもしれねぇな」


「泣くぞ? 妾は泣くぞ。よいのか?」


(えっ? 何? それ…)


「ちょ、ちょっと待てよ。俺は女を泣かせるような外道じゃねぇよ」


(え……?)


 カースは、はぁと深いため息をついて、術をかけていた。


 この広い部屋全体が、淡い光のベールに覆われた。あ、足元まで、やわらかく光っている。球体の光のベールの中に入ったような感じだ。


 カースが突然現れたことに、さらに不思議な光のベールに入れられたことに、何人かの魔王は警戒していた。あ、そっか。カースは以前、地底で、いろいろ工作員してたんだっけ?


 この光の中にいると、なんだか気分が落ち着いてきた。女神様の妙に得意げな表情も、かわいらしく見えてきた。



「ライト、はよ、新作を出すのじゃ。はよはよ」


(いや、やっぱ、かわいくない)


 はぁ、ここで断ると、きっと僕には、ケンカを買うぞとか何とか面倒なことを言われるだろうな…。


 僕は、仕方なく、ブルームーン風味のダブルポーションを出して、マーテル様に渡した。



「あの、ポーションは、私、ちょっと…」


 そう言いながらも、ラベルを読んで、マーテル様は妙な顔をしていた。二度見しているようだ。


「呪い耐性があるのじゃろ? だが、それは強い呪いじゃ。呪いの内容は、意味のないものじゃが…」


「これは、ライトさんが服従させるために使う呪薬なのですか? 体力も魔力もこんなに回復して…。まさに飴とムチですわね」


「弱い呪いなら解除するポーションもあるのじゃ」


「へぇ、ですが私は…」


「ライトの居ないところで、こっそり飲めば、ライトは気づかぬのじゃ。この呪いは意味のないものじゃ」


 女神様がそう言うと、マーテル様は、ハッとした顔をしていた。そして再びラベルを見ている。


 なるほど、だから女神様は、さっき急いでアイテムボックスに入れたんだ。僕の知らないところで飲むつもりなんだね…。


「数はあるのですか?」


「まだ、そんなに数はないのじゃ、新作じゃからな」


 そう言うと、女神様はニヤリと笑った。なぜ、そこで笑う? というか、そもそも、なぜいきなりポーションを出せと言ってきたんだろう?



「これが、もしや、対価ということですか?」


「うむ。悪くない条件じゃろ? 体力ならまだしも、魔力を5万も回復するには、普通なら何日かかるかの?」


「こんな薬、ありえないですわ。しかも氷も炎も無効だなんて」


「じゃが、ライトが作ったのじゃ。魔人にまで進化した魔道具でな」


「魔人!? そ、そうですか」


「さぁて、そろそろ本題に入るのじゃ」




 女神様は、尻尾をぶんぶん振り回している。それで注目を集めようとしているのかな?

 でもなんとなく、みんなが妖狐の尻尾を見ている。まぁ、動くものは、目で追ってしまうよね。


 そして、彼女は、魔王達に向き合った。


「おぬし達、さっきの聖魔法の光を見たか?」


 すると急に、静かになった。


 ポーションのことで少しざわざわしていた魔王達だったが、そもそも、この聖魔法のことを調べに来た人もいたっけ。


「あの、聖魔法は、前大魔王との戦いで使われたのじゃ。それによって、前大魔王は殺されて魔石になったのじゃ」


 広場はシーンとさらに静まり返った。ゴクリと、誰かが唾を飲む音が響くほどだった。そして、皆、厳しい表情で話の続きを待っている。


「じゃが、聖魔法を撃った術者が彼を蘇生したから、今では完璧に、消え去った身体は復元されているのじゃ」


 ふぅ〜と、大きく息をはく者もいた。前大魔王が、蘇生されたことは、大きな安心になったようだ。

 一方で、さらに一層、表情を厳しくした魔王もいた。


「その聖魔法を撃って前大魔王を殺し、そして蘇生した男は、地上に新しくできた島に街を造っておる。もしも、その男が地底に攻め込んできたら、どうするのじゃ?」


(え? なんでそんなこと言うの?)


 すると、一気に魔王達は、騒がしくなった。だが、その中から聞こえてきた言葉を繋ぎ合わせると、絶望的な意見が多いようだ。


 それほどまでに、前大魔王の戦闘力は圧倒的な威力があるのだとわかった。



「おぬし達、防衛協定を結ばぬか? 勢力争いは好きにすればよい。じゃが、理不尽な侵略には、互いに協力することで、地底の防衛力は何倍にも上がるのじゃ」


(な、何? 僕から地底を守るってこと?)


 ガヤガヤと、さらに騒がしくなってきた。でも、今度は、共通の敵がいて、力を合わせて撃退するということに、魅力を感じる魔王もいるようだ。


「地底の防衛協定を結ぶなら、その責任者は、ドラゴン族の魔王を推薦するのじゃ」


「ちょっと待て、バカ猫! 大魔王が統べるべきだろう」


「大魔王メトロギウスは、いつも狙われておるのじゃ。自分の防衛と、地底全体の防衛の区別がつかないのじゃ」


「クッ……だが、なぜマーテルなんだ?」


「次期大魔王になりそうな器だからじゃ」


「なんだと!」


「というのは冗談じゃ。ドラゴン族が大魔王を務めることが圧倒的に多いではないか。その実績じゃ。大魔王経験者の多い種族の方が、何かと根回しも上手いじゃろ?」


「確かに、私達、ドラゴン族には、いま、大魔王経験者は8名ほどいますが……根回しが上手いかどうかは…」


(確かに根回しより、力で強引にいきそう)


「では、他に最適な種族はあるか?」



 魔王達は、自分がと言いたいようだけど、やはりドラゴン族が一番強いのだろう。誰も何も言えないようだった。


「だが、ドラゴン族が大魔王を務めることになったらどうするのだ?」


「そのときは、また、皆で話し合えばよいではないか。防衛協定を結ばねば、ドラゴン族以外の一族は、簡単に滅んでしまうやもしれぬ。いま決めても、そのときには、その種族が絶滅しているかもしれぬからな」


 また、シーンと静まり返った。どの一族のことを言っているのかと、怒るところだと思うけど、シーンとしている。


 さらに、女神様は不安を煽る。


「あんな聖魔法を撃ち、魔石化した闇竜を簡単に復元するようなバケモノに、太刀打ちできるのか? どれだけの魔力を持つかわからぬのじゃ」



「俺は、俺たち悪鬼一族は、防衛協定に参加するぞ」


「わしも、黒魔道の一族も参加する」


 一人が参加を言いだすと、次々と参加する一族が増えていった。様子をうかがっていた魔王も、過半数を超えたあたりから、前向きに検討するようになったようだ。


 その様子に、呆れ顔の大魔王様と、興味深そうなマーテル様…。ふたりは、これが誰のことかわかってるんだもんね。


 なんだかんだで、ここに集まった全魔王が、防衛協定に参加することを約束した。


 バケモノ扱いされている僕は、なんだか面白くなかった。一方で、女神様は、ニヤニヤ、ニタニタしている。


(ほんと、ちょー策士……腹黒すぎる)



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