表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

233/286

233、ホップ村 〜 奇妙な決着

「神殺しだと? なめやがって!」


 そう言いつつも、赤の神レムンは、僕から少し距離をおいた。ジッと……僕のサーチをしているのか。その表情は、だんだんと険しくなっていった。


 だが、僕が、覚醒時の戦闘力を見せたことで、意外なことが起こった。



「おまえは、ライトといったか。どうやら、ダーラ様が探しているガキのようだな」


「僕は、青の神ダーラに仕える気はありませんよ」


「あの暴れているバケモノは、おまえの配下か?」


「まぁ、配下というか相棒ですね」


「この場の、思念阻害をしている奴も相棒か?」


「彼は、僕の配下ですね」


「そうか……わかった。今から我々は、おまえにつく」


 そう言うと、赤の神レムンは、僕の前で膝を立てて、なにかの仕草をした。


「それは、何のつもりですか」


「おまえに……いや、ライト様に、誓いを立てた。この襲撃を許し、我々を生かしてもらえるなら、我は何でもする」


(は?)



 そして、村を襲撃していた他の奴らも、攻撃をやめ、その場でひざまずいている。

 リュックくんは、奴らがひざまずいたことで、剣をおさめた。



 ちょっと、僕は混乱していた。なんだか、とある時代劇のあのシーンのようにも思えてきた。

 僕が覚醒時の戦闘力を見せると、印籠効果があるってこと?



「僕は、神ではありませんよ」


「女神の番犬ということは、神族だろう? しかも、その中でも戦闘力の高い武闘系だ。我は、赤の星系の神だ。魔導系より武闘系に仕えたい」


「意味がわかりません。貴方達は、次から次へと仕える主人を乗り換えているのですか」


「生きるためだ。我が星は、青の神ダーラに消し去られた。生き残った民は僅かだが、彼らを守るのが我の神としての務めだ」



 彼らは、弱肉強食の世界の敗者ということか。


 赤の星系も、青の星系も、激しい勢力争いをしている。当然、上位で争う者がいるということは、早々に破れた者もいるんだ。

 生きるためとはいえ、次々と主人を乗り換えていくなんてことは、弱小神にとって簡単なことではないだろう。

 神であるというプライドも何も捨てなければ、こんな行動はできない。




「おまえら、裏切る気か?」


 青の神ポセリーは、怒りに震えているようだった。そりゃ当たり前だ。

 組んだ赤の神が、敵の村の中で、敵に寝返るという行為は、自分達を危険にさらすことにもなる。


「我は、より強き者に従う。いま、この場で彼に付かなければ、我々は滅びる。もはや星を持たぬ神は、殺されると消滅するしかない」


「消滅しても、実体がなくなるだけで、存在そのものは消えないであろう。脳筋には理解できぬか?」


「我が消えれば、我が民を守る手段がなくなる。思念の中だけで生きていても、神としての実体がなければ、思念体では守れない」



 なんだか、僕は弱い者イジメをしているような気になってきた。スゥハァと深呼吸し、僕は覚醒状態を解除した。


 手に握っている剣には、まだ深き闇は吸収されたままだったが、目に映る景色は、普通の色を取り戻してきた。




「ここの襲撃は、3勢力だと言っていたな? 幻術士」


 大魔王様が、どこにいるかわからないカースに話しかけていた。すると、カースは、僕の近くに姿を現した。


「あぁ、そうだ。ここに2勢力、あとひとつは、もう潰したも同然だ」


「あの呪詛神だな? 他に伏兵は?」


「あちこちで大量に魔族が操られているが、星の結界があるから、この地には来れない。結界の外からでも、操る能力は半端ないがな」


「では、いまこの村にいるのが全員か。3勢力で70人ちょっとというところか」


「そうだな。まだ、各地に潜んでいるのは、これの数倍はいるけどな」



 大魔王様は、青の神ポセリーとそのまわりの魔導系の奴らを冷ややかな目で見ていた。


「残るは5人か…」


「クッ! ならば、裏切り者レムン、ここで消えろ」


 青の神ポセリーが、雷撃のようなものを放った。


 バリバリバリバリッ!

 シューッ、パーン!


 だがそれを狙って、風の刃が飛んできて、雷撃に当たり空中で、すごい音を立てて爆発した。


 その爆風で、僕はあやうく吹き飛ばされそうになった。覚醒を解除したのは失敗だったかな。


 その風の刃を放ったのは、妖狐に化けた女神様だった。けっこう強い攻撃魔法を使うんだ。



「ほう、猫のくせに、そんなものも飛ばせるのか。やはり、あの噂は事実か…」


(ん? 何の噂?)


「メトロギウス、この程度で何をほざいておるのじゃ? 意味がわからぬ。その辺のチビっ子でもできるじゃろ」


「ふっ、青の神ポセリーの魔撃を撃ち落とすなど、俺にもできぬわ。猫だけあって、すばしっこい奴だ」


「ふんっ、おぬしがトロいのじゃ」


「はぁ、バカ猫と話すとハラワタが煮えくりかえる。ライト、おまえ、よくこんなバカ猫の世話をしているな」


(えっ、こっちにきた)


「えーっと、それより、さっきの噂というのは何のことですか」


「ライトは、しょぼいのじゃ!」


「へ?」


「その問いに答えると、今度は俺が狙われそうだからやめておこうか。クックッ」


(何? 意味がわからない)



 一方で、魔撃という雷撃のようなものを簡単に撃ち落とされた青の神ポセリーは、その顔色が悪くなっていた。たぶん、血の気が引いているのだろう。


 もしくは、妖狐に逆らわれたということがショックなのかもしれない。自分にバリアを張って、ジッとしている。



「ライト、配下が増えたのか?」


「まさか、僕はそんな器じゃありません」


 そう言うと、僕に何かを誓ったという赤の神レムンが、今度は顔をひきつらせていた。許されると思っていたのか、もしくは拒絶されたことに驚いたのか。


「ライト、様、それは、我らを滅ぼすということか」


 僕が目を向けると、赤の神レムンは緊張した顔をしていた。神のくせに、なぜ僕にそんな顔をするんだろう。そこまで、追い詰められているのか…。


(どう返事すればいいのかわからない)



「赤の神レムン、おぬしが守る民はどれくらいの数がおるのじゃ?」


「ここに転がっている者達の命を助けてもらえたら、80人ほどだったと思うが。なぜ、そのようなことを? おまえ、そもそも何者だ?」


「妾はティアじゃ。女神の城と、新しい島の湖上の街に、妾の家があるのじゃ」


「やはり神族か、いや、猫だと言っていたな? 世話がどうとか……ペットか何かか?」


「妾は、謎の猫、じゃなかった……謎の美少女で通しておるのじゃ」


「ふぅん」


(あれ、きっと呆れてるよね)


「80人ぐらいなら、湖上の街に来ればよいのじゃ。まだ新しい島の新しい街じゃ。移民は大歓迎しているはずじゃ」


「えっ? そうなのか! だが、新しい島ということは、魔族の街か? いや、あそこには他の星の神々も大量に拠点を構えているが…」


 そう言うと、赤の神レムンは、何かを思い出したのか嫌そうな顔をした。



「湖上の街ワタガシは、神族の街じゃ」


「えっ? 神族が地上に降りたのか」


「もともと、地上のあちこちに神族やその子孫は、大量に散らばっておる。新しい島ができたから、その際に、女神が湖上に神族の街を作ったのじゃ」


「そんな神族の街に…」


「住む者は、神族だけではない。魔族も人族も、街には家を持っておる。街づくりに協力せぬ者には居心地が悪いかもしれぬ。じゃが、働く気がある者には、自由に楽しめる街じゃ」


「我々でも、受け入れてもらえるのか? 条件や審査があるのか?」


「さぁ? 知らぬ。街長に聞けばよい。街長はそこにおるライトじゃ」


「えっ? ライト、様が、神族の街の長?」


「最適な人選じゃろ? ライトは基本甘いのじゃ。だから街では何をしていても自由じゃ。じゃが、街を侵略したり破壊するようなことをすれば、ライトに殺されるのじゃ」


「うっ……なるほど。彼が街長であることが、抑止力になっていると…」


(ちょっと、また、そんな…)


「街には学校もあるのじゃ。治癒の足湯もあるのじゃ。珍しい建物も店もあるのじゃ。草木や花で街を飾ってあるのじゃ。この世界で他にはない楽しい街なのじゃ」



 女神様のセールストークにすっかり魅了された赤の神レムンは、僕に街での受け入れ条件をきいてきた。


 青の神ポセリーも、耳を傾けているようだ。


「条件をつけるなら、街を見てそこに住みたいと思うこと、でしょうかね。街を気に入ってくれたら、害することもないでしょうから」


「えっ? それだけ? なのか」


「ええ。ですが重要なことだと思います。仕事は、街にはギルドもできますから、武闘系の貴方達なら冒険者として、富を築くこともできるんじゃないでしょうか」


「そうなのか!」


「街の中の宿泊施設や店の多くは、とりあえずは神族が経営していますが、まだまだ空きはありますから、商売をするのもいいかもしれませんね」


「そうか!」


 女神様のセールストークもあり、赤の神レムンは、すっかり移住する気になったようだ。



「その街には、私達でも受け入れられるのか?」


 青の神ポセリーが、そうたずねてきた。


「青の神ダーラの拠点にと考えられるなら、排除することもあります。乗っ取りを未然に防ぐために、僕の城兵が警備を担当していますし」


「拠点にするわけでなければ、ダーラ様の配下であっても、構わないのか?」


「街を害する目的がなければ、別に拒む理由はありません。街の住人以外にも、街を利用する人達は、これから増えてくるでしょうから、誰の配下かなど全て調べるわけにもいきませんし」


「まぁ、確かに……そうか。あのマナの濃い島の街か…」



 彼らは、自分達が襲撃者であることを忘れたかのように、街への移住に心を掴まれているようだった。


 女神様は、彼らをあの街に受け入れたかったようだ。満足そうにニタニタしていらっしゃる…。



「ライト、転がっておる奴らを回復するのじゃ。さっさと、地底から出て、新しい島へ向かわせるのじゃ」


「あー、はい、そうですね」


 僕は、リュックくんが瀕死状態で転がしている襲撃者達を、次々と回復してまわった。



「湖上の街に着いたら、入り口に案内の者がいるのじゃ。移住希望だと言えば、手続きを教えてくれるはずじゃ。先に街の中を見たいなら、勝手に入って見ればよいのじゃ」


「そうか、わかった。大魔王メトロギウス、次に会うときは敵でないことを祈る」


 そう言うと、赤の神レムンは、武闘系の数十人を連れて、石山から出て行った。僕に深々と頭を下げて…。




「おまえ達は、どうするんだ? 今なら見逃してやってもいいが?」


(えっ? 見逃すの?)


 大魔王様がそう言うと、青の神ポセリーは、大魔王様をキッと睨んだ後、5人ともその場からスッと消えた。



「ようやく、お客が帰ったのじゃ。ライト、ここにバリアを張っておくのじゃ。大魔王のバリアでは、しょぼいのじゃ」


「大魔王様、見逃してよかったのですか?」


「他の星の神々などは、どうでもよい。神族の仕事を押し付けるな」


「さて、本番はこれからじゃ」


「えっ? はぁ…」



 僕は、とりあえず、右手を上に上げ、石山に魔防物防バリアを張った。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ