232、ホップ村 〜 彼の出番
皆さま、いつも読んでいただきありがとうございます。評価、ブックマークもありがとうございます。とても励みになります♪
そしてそのおかげで、本日投稿分で100万文字を突破しました。文庫本で10冊分ですよね。ほんとにほんとにありがとうございます。
なお、物語は終盤に差し掛かっていますが、250話は超えてしまいます。300話にはならないと思います。
今後とも、よろしくお願いします。
いま、僕は石山にいる。ここにはたくさんの悪魔族の住人の居住区が広がっている。
そして、この場に、いま襲撃者が攻め込んできたんだ。空き地部分に誘導したようだが、とは言っても石山の居住区の中に侵入されたんだ。
侵入してきた襲撃者は、ほとんどが武闘系のようだ。この狭い場所で、大規模な魔法は使えない。こんな場所では、剣より魔法が得意な悪魔族は、圧倒的に不利だ。それがわかった上で、襲撃してきている。
彼らは本気で、大魔王を潰し、魔族の国を支配しようとしているようだ。
「やはり、ここには大魔王がいたか。バカな邪神が捨て駒を侵入させたことで、自ら村を守りに来たようだな」
「しかも、バリアを張り替えるタイミングを間違えた。おまえの運もここまでだということだ」
「大魔王の地位を、素直に我が主人に譲るというなら、ここは潰さないでおいてやる。さぁ、どうする? メトロギウス」
ざっと見渡したところ、鎧を着た襲撃者は50人前後、あと、魔導ローブを着た奴が5人ほどいる。
魔導ローブを着た奴らが、交渉役のようだ。コイツらは、邪神の配下としての地位が高いようにみえる。鎧を着た襲撃者は、兵というところか。
あれ? リュックくん、魔人化してるのに、誰にも騒がれていない?
「オレも、ようやく落ち着いてきたんだよ。やっと、自分の力を制御できるよーになった」
「そうなんだ。あれ? 普通に話していいの?」
「奴らは、念話ばかりに気を取られてるからな。それに、カースが何か妨害してるから、そっちに意識がいってるよーだな」
「そっか。カースって、優秀なんだね」
「幻術士としては、星々に知れ渡ってるらしーぜ」
「えっ、そんなに?」
「あぁ」
「こんなに話してても、全然気にされないね」
「みんなあちこちで、コソコソ話しているからな。逆に静かにしてる方が目立つんじゃねーか」
「そっか」
「一応、殺さないようにはするが……いや、武闘系の奴らは、殺して蘇生する方がいいのか?」
「たぶん、女神様はどんな状況の奴らでも、共存を望んでいるはず。あれは、そのための島だからね。殺さない方がいいと思うよ」
「わかった。奴らが動いたら、オレが片付ける」
「うん、無理しちゃダメだよ?」
「ふっ、バカか」
(な、なんで、そこでバカって言うかな)
僕が、ちょっとカチンときていたら、リュックくんは楽しそうにニヤニヤしている。はぁ、ほんと、そういうとこって女神様と似てるよね…。
「おまえ達の主人は誰だ? どこの邪神だ? 俺を呼び捨てにするとはいい度胸だな」
「はぁ? 邪神だと? この世界の覇権を握るのは、我々の主人だ。この星も、配下に加えてやることになったのだ。ありがたく思え」
「ははっ、ふざけたことを」
「その邪神は、自分の星でのんびりしておるのか?」
「な? なんだ? 小娘。その姿は妖狐か。ここに遊びに来ていて帰れなくなったのか? 妖狐は、我々の血を引く者も多い。巻き込まれぬようにおとなしくしておれ」
(えっ? 妖狐には甘い?)
もしかして、女神様はこれがわかっていて妖狐に化けてるのかな? だとしたら、本当に事前に、念入りに調査をしていたということか。
「それで、その邪神は、自分の星におるのか?」
「小娘、邪神ではない。ダーラ様は崇高なお方だ。まだ幼いおまえにはわからないことかもしれないがな」
「青の神ダーラが、主人なのじゃな」
「あぁ、そうだよ。おまえは歳のわりに魔力が高い。我ら一族の血が流れているやもしれないな」
「ふむ…」
(やはり、ダーラ…)
妖狐に化けた女神様に甘い顔をしている奴が、襲撃者を率いているように見える。それに、なんだかすごくテカテカした魔導ローブを着ている。完全防御なのかな?
でも、ダーラの名を、簡単に言ってしまうのは、ただのうっかり者なのか、絶対的な自信からなのか…。
もしくは、ダーラの名を出せば、侵略しやすいのかもしれない。
あれ? 武闘系のひとりが、大魔王様に近づいていった。あの人が、武闘系のリーダーかな?
「さて、大魔王メトロギウス、決断の時だ。素直に地位を譲るか、もしくは我々に滅ぼされるか、どちらを選ぶ?」
「ふっ、愚かな侵略者だ。こちらの戦力がわかっていないようだな。滑稽すぎて、片腹痛いわ」
「なんだと? おまえの方こそ、力が違いすぎてわからないようだな。我は、神だぞ? ダーラ様に仕える赤の神レムンだ」
「ここに、わざわざ神が来たのか?」
「我だけではない。その小娘と話している者も神だ」
「ほう、神が二人か」
すると、神だとバラされたテカテカ魔導ローブを着た奴が、女神様の元を離れ、大魔王様に近づいていった。
「勝手に人の素性を明かすとは、さすが脳筋だな」
「ポセリー、おまえは慎重すぎるんだ。だいたい、なんだ? そのローブは。こんな中立の星にそれは必要ないだろう」
「ほう、青の神はポセリーという名か」
「はぁ……赤の神レムンは救いようがない。コホン、それで、大魔王メトロギウス、心は決まったのか?」
「俺は、大魔王の地位を他の星の奴に譲る気はない。おまえ達、慢心がすぎるのではないか?」
「決裂か。大量の悪魔族か…。殺すには惜しいが仕方ないな」
ズサッ!
瞬く間に、武闘系の数十人が、大魔王様達を取り囲んだ。その後ろには魔導系の5人がいる。青の神はいつの間にか、後ろに下がっていた。
魔導系の奴らは、武闘系の襲撃者全員に、バリアや他に補助魔法をかけたようだ。
それと同時に僕は、手を上に上げ、魔力を放った。石山の住人ひとりひとりが、淡い光をまとった。
魔防物防バリアだが、彼らが操られないようにしたいと願った。
「ほう、ライトは精霊魔法も使うのか」
そう言うと、囲まれていたはずの大魔王様は、僕のすぐ目の前にいた。何? それ、ワープ?
「たまに精霊魔法になるようです」
「魔防物防バリアに、邪念、洗脳の絶対防御じゃな。ライトは、即興で妙な魔法を作るのじゃ」
(わっ! びっくりした。女神様もワープ?)
僕は、突然目の前に現れた女神様と、リュックくんそして自分にバリアをフル装備かけた。
その様子から、テカテカ魔導ローブの青の神ポセリーが、僕達に目を移した。
「おまえ達が、小娘の連れか。巻き込まれぬように下がっておれ」
彼らは、悪魔族だけをターゲットにしているようだ。この場にいる呪詛神に操られて侵入した奴らのことも、目に入っていないようだ。
「おい、大魔王は厄介だ。住人を狙え! 死者が増えれば、すぐに折れるだろう」
(ちょ、赤の神……最低だ)
ドドドド!
すごいスピードで住人を狙って十数人の武闘系が襲いかかっていった。
ここの石山の住人達は、ほとんどがホップや畑づくりをしている非戦闘系だ。
武器さえ持っていない者も多い。とっさに奥へと逃げていく者もいたが、奴らは逃げた先にも一瞬でたどり着いた。
キィン!
奴らが切り裂こうとして振り下ろした剣を、バリアが弾いた。
斬りかかられた人は、剣の風圧を受けて倒れていたが、無傷のようだった。
「なんだ? このバリアは…」
「アイツら、殺す気で斬りかかりやがったじゃねーか。オレ、行ってくるぞ」
「うん、なんなら、殺してもいいよ。許せない」
「えっ、おまえ……闇漏らしてんぞ」
「あ、やばっ」
僕の目の前から、ほぼ同時に二人が消えた。
大魔王様は、震えて固まっている若者達の元へ助けに行ったようだ。リュックくんは、大量の武闘系の前に移動していた。
僕も、すぐに動けるようにしておこう。僕は、生首達にここに来れるかとたずねた。
『ライトさま、もうたいきしています』
(あ、族長さん、ありがとう)
『いえ』
女神様は、いつの間にか、クライン様とルーシー様のとこに移動していた。
キィン!
あちこちで、バリアが攻撃を弾く音がする。無抵抗な住人に斬りかかっているんだ。
僕は……ダメだ。暴走する…。
スゥハァと深呼吸した。闇を放出しちゃいけないと心の中で繰り返した。だが、僕の目に映る景色は、青く染まった。
(暴走よりはマシ…)
覚醒しても、誰にも気づかれてはいなかった。見せようとしなければ、やはり覚醒時の戦闘力は見えないんだ。
僕のまわりには、漆黒の闇が溢れていた。
(やばっ)
剣を抜くと、漆黒の闇は、その中にスーッと吸い込まれていった。
「なんだ? アイツ、バケモノか」
叫び声がした方を見ると、武闘系の襲撃者達が次々と倒されていた。
僕が暴走しそうになって深呼吸している間に、リュックくんが、半数以上も倒したの?
リュックくんの戦う姿を、僕は初めて見た。覚醒していなければ、その動きは見えなかっただろう。
襲撃者達は、誰もリュックくんの動きを目で追うことさえできていない。
リュックくんは、まるで踊っているかのようだった。僕は、剣舞をみているような気分になった。
僕がボーッと見ていると、それに気づいたリュックくんは、なんだか変な顔をしていた。
(何?)
『おまえ、オレの動きを見るために覚醒したわけ?』
(へ? あれ? 念話…? あ、そっか、ベルトか)
『念話は傍受されてること、忘れてねーか? オレの送信が聞かれてると思うぞ。妙なこと言わせるんじゃねーぞ』
(あ、忘れてた…。僕の方は聞かれない?)
『あぁ、オレが読み取ってるだけだからな』
(そっか、わかった)
そう話しながらも、リュックくんは次々と襲撃者を倒していった。ゲージサーチをしてみると、倒れているのは赤色かな?
景色が青いフィルム越しのように見えるから、色はよくわからない。でも、殺してはいないようだ。
襲撃者達が、住人を背に戦うリュックくんを避けるようになってきた。
奴らのターゲットが、変わった。いや、分かれたのか。
(やばっ)
赤の神が向かった先には、チビっ子達と女神様がいる。僕は、生首達を呼び、ワープした。
「えっ? ライト…」
「赤の神が来るのじゃ」
「3人とも、いのちだいじに! ですからね」
僕が突然現れたことに少し驚いたようだが、赤の神は気にせず、突っ込んできた。
(闇の放出はダメだ)
僕は再び心の中で繰り返した。スローモーションで走ってくる赤の神に近づいて、こちらから先制攻撃を仕掛けることにした。
剣を握る手に力を込めた。漆黒の闇を吸収していた剣は、さらに火水風土の基本4属性をまとった。
赤の神が立ち止まり、僕に斬りかかってきた。
スローモーションの攻撃は、さっさと避け、そして僕は、奴の腹を横一文字に斬り裂いた。
だが、奴もとっさに反応したために、浅い切り傷になった。
「な、なぜ、傷が…」
「さすがですね、赤の神。その反応が鈍ければ、貴方の胴体は二つに分かれることになっていたでしょうね」
「お、おまえ、そんなカスのような……なぜそんなに速いんだ? 何者だ!」
「僕は、ライト。女神イロハカルティア様の番犬ですよ」
「は? 番犬だと? そのような……えっ?」
僕は、覚醒時の戦闘力を見せた。僕にまとう漆黒の闇が、青くキラキラと輝いている。
「神殺し……とも呼ばれています」




