23、ハデナ火山 〜 ギルドの守護者
女神イロハカルティアが守護する星から少し離れた異空間に、彼は居た。
青い太陽系の中での権力争いに熱心な彼の主人のために、彼は、この星の破壊を狙っていた。他の神の下僕に先を越されないようにと、常に監視や偵察にも力を入れていた。
「しかし、女神の番犬が4匹とは…あの火山の底の次元の綻びに気づいたのでしょうかね」
「帝王様、彼らは冒険者の遭難の救援のようです」
「うん?あぁ、あの3人の弱い人間ですか」
「偵察の者と遭遇したため排除したようですが、そのあと街の兵士が来たので、それも蹴散らしていたら、奴らが現れたようです」
「はぁ、この星の人間は、ほんと馴れ合いが好きなのですね…。なるほど、冒険者を始末すれば、女神の番犬が出てくるのですね」
「おそらく…。ちっぽけな命を救いに行こうとするのが、奴らの習性か、もしくは女神からの指令か…」
「番犬は、何匹いるんでしょうね? ほんと邪魔くさい」
「おそらく、先程の大剣を持つ者が、リーダー格です。たいした数はいないと思います。ただ、犬は2種類いるようですね」
「番犬以外にも?」
「はい。女神が地上に落とした物を拾いに行く犬が数匹いるようです」
「強いのですか?」
「それなりに腕の立つ者もいるようですが、特に問題はないかと。強い者には女神の城を守る番犬の役目を与えられているようですから」
「ふむ。最初に噛み付いてきた2人はたいしたことありませんでしたし、後から来たあの2人が主戦力なんでしょうね。細い剣の者も、かなり邪魔くさそうでしたし」
「はい。ただ、おそらくですが後の2人は、赤系かと。認識阻害が効きにくかったですから」
「オーラですか?黄色かもしれませんよ。しかし赤系なら、赤の神々に取られると厄介ですね」
「赤なら、我々には関係ないのでは?」
「は?何もわかっていませんね。我が主人が、青い太陽系の覇者となられても、赤い太陽系の方が力を持っていたら、我が主人は、この世界の覇者とはなれませんよ」
「はっ!確かに…」
「赤の神々の下僕の動きも、今まで以上にしっかり探りなさい」
「承知いたしました」
「はぁ、こんな所にいつまでも居ても仕方ありませんね。女神が何か仕掛けてくるかと、待って差し上げているというのに…」
「女神は、自分の城に閉じこもり、地上には一切下りないようですから、自分の星の異変にも気づかぬのでしょう」
「中立を宣言する星の特徴ですね。全く危機感がない。もう、戻りましょうか。来ぬ者を待つほど私は暇ではありませんから」
「はっ!帝王様」
僕は、レオンさんの近くにいる人から順に、回復魔法をかけていった。
もちろん、バケモノに気づかれると困るので、透明化と霊体化したまま移動していた。
(透明化だけの方が移動は楽なんだけどな〜)
霊体化だと横移動にも方向転換にも魔力を使う。透明化なら普通に歩けるんだけど、足音も気配も隠せない。
もしバケモノに気づかれ、こちらに向かって来られると、僕では瀕死の人達を守ることが出来ない。
もしかしたら、それによって、助かるはずの命が踏みにじらるかもしれない。そんなことになると、僕は、間接的な人殺しになってしまう…。
(絶対ダメだ、この人達の命を逆に奪うことになりかねないんだ)
僕は次々と移動し、倒れている生存者の身体に右手をスッと入れ、回復!を繰り返した。
少しずつ、動ける人が増えてきた。
レオンさんが、動ける人に声をかけて回っていた。
(あ、あれ?目がかすむ…やば!魔力切れの前兆だ)
次の瞬間、僕の透明化、霊体化が勝手に解除されてしまう。幸い、地面近くにいたから、転がっただけですんだ。
「いてて…」
「えっ!だ、誰だ!」
突然現れた僕に驚いた目の前の隊員さんが、警戒する。
「ライト、大丈夫か?魔力切れか?」
レオンさんが声をかけてくれたことで、隊員さんの警戒は解ける。
「ちょっとヤバそうなんで、ポーション飲みます」
僕は、女神様と交換した固定値回復のポーションを魔法袋から出し、すぐに開けて飲んだ。身体の中がカッと熱くなる。味は…胃薬みたいな感じだった。ドブ味よりは断然飲みやすい。
(あ、これ、見つかるとヤバイんだっけ?)
僕は、その空瓶を魔法袋に入れ!と念じる。瓶がスッと消えた。そのときラベルを見ようと瓶を取ろうとしたレオンさんの手が空を切る。
「えっ、消えた!」
「あ、魔法袋です」
「そ、そか、驚いた。今のポーションは、さっきのとは違うんじゃないか?それも新作か?」
「いえ、これは、新作のと交換してもらって入手した固定値回復のものです。念のために持っている方がいいと言われて」
「そうか。そんな貴重な物を使わせて悪いな」
「いえ、じゃあ、続きを…」
「透過魔法は使わなくてもいいぞ。もう、みんなおおかた動けるから、坊やにバケモノは近づけさせないさ」
「あ、でも、あっちの人達も…」
「あぁ…冒険者は3人とも死んでる。それより、可能ならギルドの守護者の回復をしてやってもらいたいが、さて、どうやってバケモノから引き剥がすかだな」
「ギルドの守護者?あっちの2人ですか?」
「いや、4人いるよ。向こうにも」
(あ、先に行ったという2人と、タイガさん、ジャックさんの4人か)
僕は、ここにいた他の人達の回復を終えた。
みんな、回復された後に僕がしたことに気づいて驚く。まぁ、僕は直接、身体に手を突っ込んで回復するから…ビビるよね…うん。
「バケモノの数、10体近くいますもんね…」
「だが、今はあの妙なチカラを使う親玉はいないな」
「もうみんな、動けます。隊長、彼らに助太刀しましょう」
「そうだな。行くぞ!」
そして、既に4人によってかなり追いつめられていたバケモノ達は、隊員達が戦線に戻ったことに驚いた。そして、リーダー格の笛のような合図音と同時に、一気に逃げ出した。
「深追いすんな!」
後を追いかけようとした隊員達に、タイガさんが怒鳴る。
その響き渡るドスの効いた声に、みんなその場に固まった。もちろん僕も、思わず、うひぃ〜と変な裏声が出てしまった。
僕が、変な声を出したのがウケたのか、ジャックさんの肩がめちゃ揺れている。
「ぶふははっ!ダメだ!ツボに入ったっす」
そんなジャックさんをジト目で見つつ、僕は、ギルドの守護者と呼ばれた4人のうち、先に行った2人がかなりやられているのを『見た』
「少し回復しますね」
と、僕は、その2人に近づき、右手をスッと彼らの身体に入れていく。ふたりとも一瞬ギョッとするものの、特に何もツッコミは入らなかった。
おそらく、念話で、僕が何者なのかを聞いたのだろう。
「ありがとう。助かった」
ふたりにお礼を言われ、僕は、いえいえと返す。そして、疑問に思ったことを聞いてみた。
「あ、あの、ギルドの守護者って?」
僕は、この隠居者達に聞いたつもりが、レオンさんが口を開く。
「坊や、ギルドは冒険者がいろんなミッションを受注するのはわかってるな?」
「あ、はい」
「中には、自分達の身の丈にあわないミッションを報酬目当てで受注するバカもいるんだ」
「え、あ、はい」
「それで遭難したり救援要請を出したり、っつう迷惑なやつらを、助けに行くのが、警備隊だったり、ギルドの守護者だったりするわけよ」
「えっと、ギルドの守護者っていう役職なんですか?」
「いや、最高ランク冒険者の使命だな。Lランク、つまりレジェンド冒険者には、遭難した冒険者の救援に行く義務があるんだよ」
「ってことは、4人とも、Lランクっすか!!」
「ん?知り合いじゃねーのか?ってか、そもそも、なんで坊やがここに来たんだ?」
(えっ…えーっと…どうしよう。何を言っちゃいけないかわからない…)
「あー、コイツは、俺と同郷なんや」
突然、タイガさんが話に入ってきた。
(よかった)
「えっ?タイガさんと同郷!にしては似てませんね」
「同じ国やけど、地域が違うからな。まぁ、ここにおる間は一応、俺がコイツの世話係を押し付けられたんや、うるさいオバはんにな」
(えっ?うるさいオバはんって…いいのかな、そんなこと言って…僕は知らないからね)
僕が、たぶんオロオロしていたんだと思う。
「坊や、記憶戻ったのか?もしかしてコワイ継母とかなのか?」
「え、いえ、あの…えーっと」
「くっくっ。まぁ、あのオバはんは、あれでもライトの母親がわりのつもりらしいからな。しっかし継母っておもろいな」
「あ、なんか、悪い…言いたくないことは話さなくていいからな。悪いな」
「あ、いえ」
(うわぁ、レオンさんに、僕が複雑な家庭環境だと思われてしまったような…)
で、結局、同郷のタイガさんが、回復役が必要ってことで、ちょうどタイガさんの店に買い物に来ていた僕を、タイガさんの相棒のジャックさんに護衛させて、ここに連れて来た。と説明され、皆はそれに納得したようだった。
(うん、まぁ、嘘ではないよね。隠し事はあるけど…)
その後、亡くなった冒険者を隊員さん達が燃やして埋葬していた。遺品は家族の元に返すが、亡骸は持ち帰らないらしい。
そして、みんなで山を降りることになった。転移陣が山のふもとにあるため、そこまでは歩いて山道を下るしかないらしい。
とにかく暑い!いや熱い!火山だから当然か。しかも途中、魔物がひっきりなしに襲ってくる。
僕は、そのたびに誰かの背に隠れた。霊体化と透明化を使おうとしたら、タイガさんに止められた。
「自分の足で歩かんと、体力、いつまでも残念なままやぞ!」
確かにおっしゃる通りだ…。
僕はその険しい道のりに何度も心が折れそうになりながらも、なんとか頑張った。
(僕は、守ってもらってばっかりだな…)
途中、少し道幅が狭くなっているところで弱い魔物がわらわらと湧いて、道をふさいでいる場所があった。新人っぽい隊員さんに混じって、僕も、奴らを道から退けようとした。
ニヤニヤしてるジャックさんから、予備用の軽い剣を借りて、奴らを斬り倒そうとした…が…
(なぜ、僕のまわりに寄ってくるんだ?)
奴らは僕を全く怖れず、むしろ逆に、獲物だと思われたのか、飛びかかってくる奴もいた。
(完敗だ…)
弱い魔物にもてあそばれる僕を、ジャックさんは爆笑し、隊員さん達は唖然とし、タイガさんは頭を抱えていた。
(暑いし、逃げまくって神経使うし、ダメだ、限界…)
もう無理だと倒れそうになったとき、突然、ひらけた場所に出た。
草木も生えない山だったけど、この山の中腹あたりには、人工的に作られたキャンプ場のような場所があった。その付近には、草花も水辺もあった。
「ライトが限界っぽいから、ここでいったん休憩するかー」
(た、助かった…)




