229、ホップ村 〜 あのポーションを売る
「おまえら、剣を抜いて何をする気だ?」
「侵入者を起こすなら、奴らが暴れたときに…」
「こいつらは武闘系だぞ? おまえらのようなガキが敵うわけないだろ。バカか?」
「ちょ、ちょっと、カース、言い方が…」
「おまえなー、魔族の国でそんなんじゃ、クラインの配下なんてやってられねぇぞ。ずっと、はったりスイッチいれとけ」
「あー、うーん…」
「剣を抜いていると、挑発してるとみなされるのじゃ。剣をしまうのじゃ」
「そんなこと言って、奴らが暴れたらどうするんだよ」
「おぬしら、青いのじゃ。さっき、こやつらはライトの暴走状態を見ていたのじゃ。ライトを見て逃げようとしておったのじゃ。目覚めて、今さらこんなバケモノに、刃向かうと思うのか?」
「あー……確かに、そう、ですね…」
悪魔族の若者達は、僕をチラッと見た後、なぜか顔をひきつらせるている者もいた。何か思い出したのか? なんだかなぁ…。
(まぁ、いいけど…)
「じゃあ、起こすぞ」
そう言うと、カースはパチンと指を鳴らした。6人は一斉に目を覚ました。訳がわからないという顔をしているが、僕を見てヒッと固まっている。
(それ、大げさでしょ。感じ悪い)
「目覚めて、身体の調子はどうだ?」
「お、おまえ……あれ? 俺はどうなったんだ?」
「なんかおかしい…。何をした!?」
「はぁ、なんだ? おまえらのその態度。全財産つぎ込んでも手に入らないようなものを与えてやったのに…」
「は? なにを…」
「気づかないか? おまえら、そんな脳筋だから、簡単に操られるんだよ」
「なっ…」
「おい、あの声が聞こえないぞ」
「確かに……このベールのようなバリアか?」
「まぁ確かに、これであの邪神の干渉は減らしたがな。おまえらが操られていた呪詛神の呪いは消えたぞ」
「えっ? まさか、呪詛を消してくれたのか?」
「俺にはそれは無理だ。俺の主君が消したんだよ。もうおまえ達は自由だ。感謝するんだな」
「まさか? ほんとに……そんなことが…」
「俺の主君は、この星の女神の番犬だ。今は、女神がサボって寝ているからその代行者か」
僕はカースがあれこれ話すのを、ヒヤヒヤしながら聞いていた。
話してはいけないことを話さないか、さらに女神様がブチ切れないか……僕はカースの一言一言にヒヤヒヤした。
「まぁ、この星の女神は、もともといつもサボっておるからの〜。じゃが、ペンラートよりはマシじゃろ?」
「ふっ、そうだな。俺は一応、この星の女神のことは一目置いているんだぜ」
「ほう、そうは見えぬのじゃ」
「幻術士は、隠すのは得意だからな」
だけど、カースは意外にも女神様を認めているという発言をした。当然、目の前の妖狐が女神様であることは、わかって言ってる。
プライドの高いカースがこう言うなんて、かなり、いや、めちゃくちゃ尊敬しているということだろう。
この二人のやり取りを、侵入者達もヒヤヒヤというかビクビクしながら聞いていたようだ。
カースのことは幻術士だとわかったが、妖狐は謎なままだから、様子をうかがっているのかな。
「あの、その少女が、呪いを消してくれたのか? いったい、何のために…」
「は? 妾は呪詛は嫌いじゃ。触るわけないのじゃ」
「俺の主君は、おまえらが怖がってるガキだよ」
「えっ…」
そう言うと彼らは僕を見て、顔をひきつらせつつ、首をかしげたりしている。
僕は、彼らの中では武闘系だと思われてしまったのかな。武闘系は回復魔法が得意なイメージはないもんね。
「僕が、貴方達の身体の中の呪詛を消しました。カースのフォローがあったからできたんですけどね」
「えっ…」
「意味がわからなくて不安なのでしょうが、心配する必要はないですよ。僕の主君から、貴方達を治してあげてと言われて、呪いを解除しただけですから」
「あなたの主君というのは…」
そう言うと、彼らは妖狐を見た。まぁ、当たりと言えば当たりだけど…。
「妾は、女神の猫じゃ。猫に配下はおらぬ」
「猫? えっ? この星の女神の?」
「いろいろな姿に化ける化け猫だ。俺の主君の主君は、ここの上のフロアにいる」
「悪魔族か……。まさか大魔王の配下なのか」
「こやつは、大魔王とは仲が悪いのじゃ。大魔王の孫が、こやつの主君じゃ」
「大魔王の孫……なるほどな。はぁ、俺達は、とんでもない場所に潜入させられたんだな。完全な捨て駒か」
呪詛が消えた彼らは、不安そうな表情のままだった。侵入者を助けようとするわけはない。何のために、解放されたのかわからず、戸惑っているようだ。
だが、自分達が、呪詛神から捨て駒のように使われたことから、ある意味いろいろ諦めたようだ。
開き直ることで、冷静を取り戻した奴もいたようだ。死を覚悟すると逆に落ち着くのだろうか。
「ささ、早く上に行くのじゃ。クラインが待っておるのじゃ」
「そうですね」
僕は、石山の若者達を見ると、案内を促されたと感じたらしい。無言で移動し始めた。
アルフレッドは、僕のことをあんなにカス扱いしていたのに、今は関わらないようにしようとするかのように、こちらを見ようともしない。
機嫌が悪そうだ。プライドの高い彼としては、いろいろと複雑なのかもしれない。
でも、この様子なら、再びクライン様に、騙されているだとか辛辣なことは言わないだろう。
「おぬしらも来るのじゃ」
妖狐にそう言われ、侵入者達は少し表情を固くしたが、その指示に素直に従っていた。僕の方をチラッと見る者も多い。
僕がなんだかバケモノ扱いというか、怖がられているのが、なんとも変な気分になった。
(なんだかなぁ…)
何もしてないのにいるだけで怖がられるって……リュックくんは魔人化してからは、こんな気分なんだろうか。居心地が悪い。
上の居住区へ移動すると、僕が見知った顔もあった。
クライン様に渡したポーションで、僕がハンスさんを救ったあのときのポーション屋だと思い出した人もいるようだ。
若者達とは違って、大人達は、僕への視線はあたたかく、優しかった。
「ポーション屋さん、久しぶりだな。助かったよ」
「いえいえ、よかったです。あ、魔ポーションは僕じゃなくて…」
「あぁ、魔ポーションは、ルーシーが仲良くしてもらってる友達からだと聞いているよ。その少女が、ティアちゃんかな」
「そうじゃ。妾がティアじゃ」
女神様は、いきなりティアちゃんと呼ばれて、なんだか嬉しそうだ。普通なら無礼な言い方だと思うんだけど、女神様が嬉しいならいいか。
ドーン!
相変わらず、攻撃は続いているようだ。幸いなことに、簡易バリアはまだ壊されていない。
だが、振動は抑えられず、地震のような揺れを感じた。
「まだ、攻撃がおさまらないんですね」
「もう何日もずっとだよ。激化したのはここ1日くらいなんだけどな」
「相手は、わかっているのですか」
「複数いるらしいな。少し前は、ドラゴンを襲撃していたんだが、ターゲットがここに移ったんだ」
僕は、なんだか少し違和感を感じた。襲撃していた? まるで自分が襲っているかのような…。
いち早く、カースが動いた。女神様もわかってるようだけど、知らんぷりをしている。
カースは、この居住区全体に、さっきとは違う色のベールをかけた。すると、僕にも、何人かの住人が変なオーラを放っていることが見えた。
悪魔族にも、それは見えたらしい。変なオーラを放っている人達は見えていないようだけど…。
「カース、これって…」
「変なのを出している奴は操られてる。術士が一人なら解除するが、数が多いし、俺と相性の悪い術士も絡んでるんだよ。おまえ、なんとかしろ」
「えっ? あー、媚薬つきのでいけるかな?」
「は? あー、まぁ、いいんじゃねぇか? 闇を使って、おまえが乗っ取ってもいいんだけど」
「そんなことしたら、ここの大人達にまで、僕、怖がられるじゃん」
「バカだろ、おまえ。はぁ、まぁ好きにしろ」
パタパタパタ
パタパタパタ
そこに、クライン様とルーシー様が、駆け寄ってきた。
「ライト、できたー?」
「はい、完了です。でも、ここにも操られている人達がいるみたいで…」
「うん、5〜6人いるって知ってるよー」
「クライン、オーラの放出、見えるか? 見えるようにしてみたんだが」
「ん? あ、うん、見えるよー。10人以上いるね、あれ? 操られてる人みんな出てる?」
「外からの干渉を見えるようにしたんだ。オーラ出てる全員、操られているぞ」
クライン様がキョロキョロしていると、オーラが見えない大人達が焦りだしたようだ。操られているという自覚のない人もいるようだ。
「クライン様、ちょっと危険なポーションがあるんですが、たぶん洗脳は解除できます」
「じゃあ、それを使う?」
「ただ、2〜3時間、副作用が出てしまうのです…。その間は、ちょっと隔離しておかないと…」
「うーん…」
すると、この場に転移渦の歪みが生じた。そして、そこから、大魔王様が配下を十数人連れて現れた。
一気に、この場にいた侵入者に緊張感が走った。
(うわぁ…。何しに来たわけ?)
「ライト、うまくやったらしいな。合格だ」
「それはどうも。あ、そうだ、メトロギウス様、ポーション買ってくれませんか」
「な? いきなりなんだ?」
「貴方に売ろうと思っていたんですよ。ちょうどこの場にも使うべき人達がいますしね」
僕は、カンパリソーダ風味の、媚薬つきポーションを1本渡した。大魔王様はラベルと説明書きを確認して、その顔を輝かせた。
「いくらだ?」
「査定に出してませんが、金貨10枚でいかがですか」
「ふぅむ、まぁ妥当な価格か。何本ある?」
「魔法袋には3,000本ほどありますよ」
「じゃあ、それ、すべてもらおう」
「そんなに大量の洗脳者がいるんですか」
「あぁ、それに他の種族に売られたくないしな」
「買い占めても、また作りますよ。あー、大魔王様も洗脳を使うのでしたっけ」
「チッ、うるさいな、ポーション屋」
また、転移渦ができ、そこから一人の男が現れた。
「金貨30,000枚をお持ちしました」
(早っ!)
「まさか、偽物じゃねぇだろうな」
「ペンラートの幻術士、おまえが居る前でそんなことができる奴はいるのか?」
僕は、金貨を受け取り、媚薬つきポーション3,000本を渡した。金貨の数を確認していると、向こうもポーションの数を確認しているようだ。
「媚薬効果を弱めるために、クリアポーションも必要ですか」
「そんなものはいらぬ。洗脳された罰だ。数時間苦しめばいい」
(うわぁ、冷酷だよね…)
大魔王様は、一緒に転移してきた配下にポーションを渡し、カースが見えるようにした洗脳された人全員に、媚薬つきポーションを飲ませていた。
飲んだ人達は、媚薬の効果に苦しんでいたが、配下のひとりが、彼らにオリのようなものを被せ、その場に拘束した。
一族なのに、そんな酷い扱いをすることに僕は驚いた。でも、クライン様に教えられたんだ。
「ライト、罰を受けるから、仲間でいられるんだよ。じゃないと、いじめられるからね」
「そうなんですね…」
(公開処罰……ということか…)




