表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

227/286

227、ホップ村 〜 侵入者

「なぜ、ワープができないのだ? 来たルートを戻るだけだ。来るときよりも容易なはずなのに…」


「全く、魔法が使えない」


「魔道具も反応しないぞ、いったいどうなっているんだ」



 いま、僕の目の前にいる石山への侵入者、最初の侵入者も含め6人が焦っている。奴らは武闘系に見えることから、赤の神の配下なのだと思う。



 僕は、いま、覚醒状態にある。この辺りには僕の闇が広がっている。そして、僕は覚醒時の戦闘力も見せている。戦闘力は隠すこともできるが、見せる方が効果があると思ったんだ。


 覚醒時に戦闘力を見せると、僕の闇は青く輝くみたいなんだ。この青って、氷のクリスタルの色なのかな?


「その色は、綿菓子の色じゃろな。ライトの色じゃ」


「ん? 氷の色ではなくですか?」


「氷には特に色はないのじゃ。何かの色が映り込むだけじゃ」


「へぇ」



 妖狐に化けた女神様は、あたりをくるりと見渡していた。そして、侵入者を睨み、とんでもないことを言いだした。


「おぬしら、ここでいっぺん死んでおくか?」


 そう言われて、6人は僕をチラッと見た。何? そんな、悪者を見るような顔をしないで。


「ティア様、何を…」


「こやつらは、いっぺん死ねば、操る神との繋がりが消えるのじゃ。そうすれば、自由になれるのじゃ」


「あ……なるほど」


「おい、化け猫! 俺達に、デルガンダ様を裏切れと言っているのか!」


「ふむ。デルガンダの星の奴らか…。しょぼいのじゃ」


「なっ? なんだと!」



 奴らは女神様の誘導尋問に引っかかったことにさえ、気づいていないようだ。デルガンダという神か。聞いたことないな…。


「ライト、デルガンダは、呪詛神じゃ。暗黒神とも呼ばれておる青の神じゃが、配下には脳筋が多いのじゃ。ジャックを隠居に追いやったのが、デルガンダの直臣じゃ」


「えっ? あの生きている呪詛の?」


「うむ」



 あのときの、初めて闇の浄化を使ったときのことを僕は思い出した。なんか、スカウトまがいのことを命令調で言われたんだっけ。


 黒く炭化した塊が、急にうねうねと生き物のように僕の左手に絡みつき、魔力を吸われたのは正直焦った。



「でも青の神なのに、武闘系の配下がつくなんて、すごいチカラがあるんですか」


「呪詛を埋め込まれたら、操り人形も同然じゃ。こやつらの身体の中を見ればわかるのじゃ」


「えっ…」


 僕は、近くのひとりを『見て』絶句してしまった。


(な、何? これ…)


 ジャックさんの呪詛は黒く炭化した塊だった。でも、彼の身体の中は…。他の人も『見て』みたが、同様だった。


「ひ、ひどい…」



 彼らの身体の中の、ありとあらゆる場所に黒い呪詛が絡みつくように入り込んでいた。頭の中にも、目にも耳にも…。


「これだけ入り込んでいると、切り取るわけにもいかぬ」


「確かに…」


「ジャックも、下手すれば、こうなるところだったのじゃ。タイガが気づくのが早かったから助かったのじゃ」


「じゃあ、いったん殺して蘇生しなければ自由になれないのですね」


「あー、デルガンダが気づいたみたいじゃ。そのために目や耳まで呪詛を張りめぐらせているのじゃろな。陰険な奴じゃ」



 この6人は、仕えたくて配下になっているわけではないのか。6人とも複雑な顔をしている。

 殺して蘇生するという言葉に、反発だけでなく、それにすがるような顔をしている奴もいた。



『おまえは何者だ?』


 頭の中に直接、重く低い声が響いた。


「誰も、返事をするでない。乗っ取られるのじゃ」


「えっ? みんな声が聞こえたんですか?」


 クライン様とルーシー様は、ふるふると頭を振っているが、他のこの場にいた全員は聞こえたようだ。


「チビっ子ふたりは、精霊の加護がかかっておるから、闇の誘惑は弾くのじゃ」


「えっ? もしかしてお菓子の家?」


「うむ。あの持ち主だから、ヲカシノの加護がかかっておる」



 すると突然、僕の目の前に、呼んでもいないのに彼が現れた。そして、すぐさまこの付近に、何かベールのようなものを張った。


「はぁ、ほんと、何やってんだよ」


「カース、どうしたの? 島に居たんじゃなかった?」


「危なっかしい主君と、危なっかしい猫を放っておけないだろ。全く、ほんとに何やってんだよ」


「ん? まだ何もやってないよ」


「呪詛神に、魅入られちまったらしいぞ」


「へ? 誰が?」


「ここのほぼ全員だ。それに殺しても侵入者は解放できねぇぞ。生死まで操られている」


「なんじゃと?」



 すると、近くに居た侵入者のひとりが、突然笑い出した。しかも笑い声なのに、重く低い声だ。人の口から出るような声ではない。


『幻術士か? よく気がついたな。だが、もう遅い。ふっふっ、そこから生きて出られると思うなよ』


「ほざいてろ、ボケ」


 カースは、何かの術をかけた。すると、重く低い声で話していた奴がパタッと倒れた。


「なめてんのか? 遠隔操作で、俺に勝てると思ってんじゃねぇぞ」


 すると、他の5人の様子もおかしくなった。重く低い声で何か言おうとしては次々とバタバタ倒れていった。


 だが、一方で、操られ始めたばかりの人達の顔に大きな黒い斑点が現れていた。今度は悪魔族を操り人形に仕立てる気か。


「おい、アレなんとかしろ。今なら普通に消せる」


「蘇生魔法?」


「あぁ、侵入者は、みんな動けねぇから、覚醒状態は解除できるぞ」


「ん? このままじゃダメ?」


「おまえバカだろ。闇の暴走中に蘇生魔法なんて使えるのかよ?」


「つ、使えないかな?」


「当たり前だろ。そんな状態で起爆剤なんて使えば、この石山、吹き飛ぶぞ」


「わ、わかった」


 僕は、目をつむって、スゥッと深呼吸した。再び目を開けると、目に映る景色は普通の色に戻っていた。


(よし、覚醒解除、完了)



 あ、みんなから闇が漏れている。いや、呪詛か。それなら、これを使おう。


 僕は剣に吸収されていた闇を左手に纏わせてから、剣を鞘におさめた。


 そして、スッと左手を彼らの方に向けた。僕の闇に吸い寄せられるように、悪魔族の人達からあふれた呪いの闇が、僕の方へと迫ってきた。


 僕の闇に触れた瞬間、僕は蘇生を唱えた。闇と闇がぶつかり絡まり合う中に、起爆剤として蘇生魔法をぶち込むことで、その属性が反転した。


 ピカッ!!


 強く白い光が僕の手から放たれた。そう、闇の反射、聖魔法の清浄の光だ。しかも、呪詛神の呪いの闇に僕の深き闇をぶつけたことから、今までにないほど、強烈な光だった。


(真っ白で何も見えない…)


 光がおさまり、少しずつ視界が戻ってきた。


 操られ始めた悪魔族の人達の、顔に現れた黒い斑点は、すっかり消え去っていた。



「おまえなー、いくら聖魔法でも、こんな狭い場所で、それはやりすぎだろうが。覚醒解除したんじゃないのかよ」


「ん? 解除したよ? 使った闇が呪詛神の呪いだったから、予想以上に強烈になっちゃったんだよ」


「はぁ……ったく。悪魔族は、闇寄りだぜ? 今の強すぎる聖魔法は、逆にダメージを与えてんぞ」


「えっ…」



 僕は慌ててゲージサーチをした。うん、バリアフル装備したチビっ子以外は、全員、体力がみんな黄色だ…。40%ちょっとって感じ。


 回復魔法を打とうとしたけど、よく見るとゲージは少しずつ改善していた。あー、清浄の光の回復効果か。



「みなさん、すみません。大丈夫ですか?」


「あ、あー、あぁ、大丈夫、だ。少し驚いたが」


「少しずつ、この光で回復すると思いますから…」


「そうだな。少しずつ楽になっていってるよ」



 カースは、再び何かベールのようなものをこの付近に張っていた。


「はぁ、ったく。思念妨害バリアまで消し去るとか、あり得ないんだけど…」


「このベール状の?」


「あぁ、外からの遠隔操作を妨害してる。あの6人が起きたら、あいつら経由でまた何かしてくるだろうがな」


「そっか。じゃあ、奴らが寝てる間に、彼らの中の呪詛を消せばいいんだね」


「は? そんなこと…」


「さっきより、かなり呪詛は減ったよ」


「塊になってるだけだろ? 呪詛は減らないぜ」


「なんか、出来そうな気がする」



 僕は、女神様をチラッと見た。


 すると、明後日の方向を向いてらっしゃる。うん、自信はないけど無理ではないってことね。


「ふむ、また切り刻むのか?」


「いえ、蘇生魔法で」


「妾は知らぬぞ。魔力切れを起こしても知らぬぞ」


 そういえば、ジャックさんの呪詛を取り出して消すときに、魔力切れで倒れたっけ。


 僕は、新作のブルームーン風味のダブルポーションを飲んだ。けっこう魔力が減っていたようだ。そういえば、さっきまでは少しふらつきを感じていた。


 女神様は僕の魔力残量が少ないってわかってたんだ。でもそれなら、魔力が減ってるって、普通に教えてくれたらいいのに。


(あまのじゃくだよね……リュックくんとそっくり)


『おい、オレは女神ほどひどくねーぞ』


(えっ! 聞いてたの? あはは)


 女神様も、何か言いたげなジト目をしていらっしゃる…。気づかないフリをしておこう。



「さてと、始めますか」


「切り刻むのじゃな?」


「いえ、切り刻みませんよ」


「あの、その侵入者を助けるのですか」


 悪魔族のひとりがそう口を挟んできた。確かに、侵入者を助ける行為だ。僕は、一瞬、返答に困った。


「逆に聞くが、おぬし、さっき乗っ取られておったが、そのまま操られて敵地に送り込まれたらどうするのじゃ」


「えっ? 俺はそんなことには…」


「逆らえぬ暗黒の呪詛神のチカラじゃ。操られたまま一生を、何百年も生きるのか?」


「そんなことになったら、俺は潔く死を選ぶ」


「生死さえ操られておったらどうするのじゃ」


「そ、それは…」


「敵地で、その呪いを解除しようとする者がいる一方で、侵入しただけなのに、その呪い解除を阻む者がいたらどうじゃ?」


「……それは、仕方ない」


「失望とともに、阻む相手に憎悪の念を抱かぬか? 操られて攻め込むのではなく、自らの意思で相手を滅ぼしたいと思うようにならぬか?」


「えっ……でも」



(なんだか、女神様が神様にみえる)


『いちおー、神じゃねーか?』


(あ、そ、そうだよね)


 また、ジト目で睨んでいらっしゃる。やばっ…。あれは、かなり怒ってる……フリだね。



 僕は、視線を感じて横を見ると、クライン様がまっすぐに、僕を見ていた。僕と目が合うと、少し戸惑っているような、不安そうな顔をしていた。


 何を戸惑っているのかはわからなかったが、僕は、小さな主君を励ますつもりで、うんと頷いた。すると、クライン様は、ニコニコと笑顔になった。


 そして、小さな主君は、皆が驚くようなことを言い出した。


「ライト、俺からの命令だ。侵入者全員を呪いから解放して、俺の配下にするぞ。できるよね」


「えっ、あ、はい。かしこまりました、クライン様」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ